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時間栄養学から見た糖質代謝と食育

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最終更新日:2013年10月10日

時間栄養学から見た糖質代謝と食育

2013年10月

県立広島大学 名誉教授 加藤 秀夫

1.肝臓グリコーゲンの多彩なはたらき

 摂取した糖質は、腸管で消化吸収され門脈を経由してまず肝臓に、そして筋肉を中心とした全身に速やかに輸送される。糖質は、各組織でエネルギー源として利用されるが、その大部分は、肝臓と筋肉に多糖質のグリコーゲンとして貯えられる。肝臓グリコーゲンは、血糖を常に一定に保ちながら、空腹時における糖質の供給源としての役割を果たしている。

 脳の主なエネルギー源はグルコースで、摂食時や空腹時でも、常に、脳へはグルコースが速やかに補給される。疲労やストレスが蓄積すると、和菓子などの甘い物(砂糖)が欲しくなるだろう。この感覚は、疲労やストレスで脳が疲れて、エネルギー源である糖質が不足しているからである。脳は体重の約2パーセントの重さであるが、エネルギー消費量は全身の20パーセントにもなる大食いの器官である。糖質は脳にとって良質のエネルギー源であり、欠かすことのできない重要な栄養素である。からだの糖質量を示す血糖が低下すると、脳での利用も減少する。したがって、血糖は、空腹時でも一定の濃度に保たれていなければならない。食べ物を摂取していない間や就寝中でも脳は活動しているので、血糖を維持するために、肝臓に貯蔵されたグリコーゲンを利用してグルコースを再生する必要がある。

 また、肝臓はアルブミンや様々なタンパク質の合成、脂肪酸や中性脂肪の合成と分解、コレステロールの合成、胆汁の生成などの機能がある。その代謝機能を維持するためにも、肝臓グリコーゲンは不可欠である。肝臓は体外から入ってきた薬や有害物質、アミノ酸代謝などで生じた有毒なアンモニアから無毒な尿素を合成して、腎臓から排出させる。このような解毒機能も、肝臓グリコーゲンが不足すると低下する。

2.肝臓グリコーゲンと砂糖摂取

 ガラクトースやフルクトースも肝臓でグルコースに変換され、グリコーゲンとして蓄えられる。砂糖は、グルコースとフルクトースからなる2糖類であるが、他の糖と違って、肝臓グリコーゲンの合成を高める働きがある。

 空腹や運動によって減少した肝臓グリコーゲンは、グリコーゲンの基質であるグルコースおよび2糖類のマルトースを投与しても低値のままであるが、砂糖の投与により、肝臓グリコーゲンの合成が上昇する。砂糖の構成単糖類であるグルコースとフルクトースを1:1の割合で混合した糖質を経口投与すると、砂糖ほどではないが、肝臓グリコーゲンは、グルコースやマルトースよりも有意に高い合成力を示した。肝臓グリコーゲンの合成には、グルコースとフルクトースの組み合わせ、さらに2糖類の形状で摂取することが栄養生理的に重要であると考えられる。

3.食事(糖質)摂取と摂食タイミング

 肝臓グリコーゲンは睡眠時でも消費されるので、朝食によって速やかに増加させることが大事である。1日3回の食事で朝食が重視される主な理由は、生体リズムの形成に深く関係がある。時々刻々と自然環境の日内変化に適応するために、体温、エネルギー代謝、ホルモン分泌は、日内リズムを形成しながら、日常の学習力や運動力にも影響を与えている。体内時計に支配されている副腎皮質ホルモンは、エネルギー代謝と密接に関係し、口からの食事摂取と摂食周期によって維持されている。規則正しい食生活は、この副腎皮質ホルモンのリズム形成に関係している。この血中副腎皮質ホルモンは朝にピークを示し、燃料切れのからだにエネルギー産生を促し、直ちに朝食を摂れば、脳にエネルギーが補給され、心身の活動力が高まる。逆に、夕方の時刻には副腎皮質ホルモンの働きが低下しているので、エネルギーを作ろうとする働きも弱くなる。

 また、肝臓に局在する脂質分解に関係する遺伝子量のリズムは朝にピークを示し、脂肪合成に関連する遺伝子量のリズムは活動期の後半にピークを示した。このことから、夕食の摂り過ぎは余分な栄養素が脂肪合成に傾き、結果的には肥満につながる。つまり、朝食をしっかり食べて、夕食を控えめにすることは時間栄養学的には健康の秘訣となる。ただし、非活動期の夜食はグリコーゲンの合成能に影響を与える。ラットに朝・昼・夕のうち、夕食を通常より4時間遅らせた非活動期に摂取させると、朝・昼・夕の活動期に規則正しく摂取させた群に比べて筋肉、肝臓ともにグリコーゲン量が減少した(図1、図2)。
 
 さらに、子供たちが健全に成長発育するためには、昼食も大事にしなければならない。子供たちの体を作る上で大切な働きを担っている血中成長ホルモンの分泌は、朝の運動では減少するが、夕方の運動では増加する。この、夕方の運動において、成長ホルモンが分泌され、望ましいパフォーマンスを発揮するためには、時間栄養学的に糖質、タンパク質、カルシウム、ビタミン類などを昼食に摂取することが重要である。

 小学生に活動量を測る機器をつけてもらい、月曜日から金曜日の活動量を比べてみると、休み明けの月曜日の活動量が低く、水曜日に最も高い活動量となった(図3)。これは活動の週周リズムに配慮した給食が、子供たちの健康管理にプラス効果があったと考えられる。
 

4.時間栄養学と食育

 広島県県北地域の小・中学生を対象に行った調査では、年齢と共に就寝時刻が遅くなる傾向がみられ、さらに、就寝時刻が遅い児童生徒ほど朝食の欠食率が高くなった。このことから、小・中学校のより早い時期に、朝食の大切さを理解し、朝食を食べる習慣を定着させることは、生涯の健康に不可欠であると言えよう。


共著:
県立広島大学大学院総合学術研究科 苧坂 枝織
東北女子大学家政学部 助手 山田 和歌子、花田 玲子、齋藤 望

(プロフィール)
加藤 秀夫(かとう ひでお)
  昭和45年、徳島大学医学部栄養学科卒業。九州大学大学院農学研究科修士課程および大阪大学大学院医学研究科博士課程を修了。医学博士。愛媛大学医学部助手、県立広島大学教授を経て、県立広島大学名誉教授および東北女子大学学部長に就任。専門は、生体リズム科学、スポーツ生化学、臨床栄養学、時間栄養学。日本栄養改善学会の副理事長などを務める。
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