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国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT)第28回サンパウロ大会報告(2)

躍動する世界のサトウキビ産業はイノベーションを目指す
国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT)第28回サンパウロ大会報告(2)

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最終更新日:2014年6月10日

躍動する世界のサトウキビ産業はイノベーションを目指す
国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT)第28回サンパウロ大会報告(2)

2014年6月

琉球大学農学部 上野正実およびチーム琉大

【要約】

 世界のサトウキビ研究・技術開発の動向をサンパウロ大会で目の当たりにした。サトウキビ産業は、かつての砂糖製造のみの状態からバイオエタノールおよびコージェネ発電による「砂糖+エネルギー産業」として脱皮しつつあり、新しく「バイオマス総合産業」の実現を目指して果敢にチャレンジしている。大会では、イノベーションをキーワードに新技術の紹介が相次ぎ、わが国の研究・技術開発の展開方向に大きな示唆を与えた。

はじめに

 本誌2014年1月号ではISSCTサンパウロ大会のプレコングレスツアーで垣間見たブラジルの先進技術を紹介した。この中には「わが国には先進技術があるのになぜ実用化できないのか?」といういら立ちもいくらか含まれていた。それはさて置いてここでは大会に話を移そう。今大会を通じて強く印象付けられたのは、「躍動する世界のサトウキビ産業」である。その中から主な研究開発の内容を紹介するとともに、これに関連してわが国の目指すべき方向についても述べてみたい。

1. ISSCT発表研究に見る研究開発の動向と傾向

(1)サンパウロ大会の概要

ア.ISSCT大会の開催地
  1月号で若干触れたが、大会は3年ごとに北半球と南半球で交互に開催される。近年では次の開催地で行われている。サンパウロ大会の次の第29回大会はタイのチェンマイ市で開催が予定されている。
 第25回大会  2005年1〜2月:グアテマラ市、グアテマラ
 第26回大会  2007年7〜8月:ダーバン市、南アフリカ
 第27回大会  2010年2月:ベラクルス市、メキシコ
 第28回大会  2013年6月:サンパウロ市、ブラジル
 第29回大会  2016年11月:チェンマイ市、タイ(予定)

イ.大会の日程、参加者、発表論文数など
 今回のサンパウロ大会は、ブラジル最大の都市サンパウロ市の南西部に位置するコンベンションセンターにおいて、次の日程と内容で行われた。
 2013年
 6月22日(日) ウエルカムパーティ
 6月23日(月) オープニングセレモニー、特別講演、口頭発表、ポスター発表、企業展示
 6月24日(火) 特別講演、口頭発表、ポスター発表、企業展示、夕食パーティ
 6月25日(水) 特別講演、口頭発表、ポスター発表、企業展示
 6月26日(木) 特別講演、口頭発表、ポスター発表、企業展示、フェアウエルパーティ

 事務局発表によると当初約2000名の登録を見込んでいたが、直前になってブラジル国内でのデモの激化・過激化が報道されるようになったため、数多くのキャンセルが出たようである。日本からは20名程度の参加があった。この中で、琉大関連は8名が参加した(チーム琉大)。発表論文数は、口頭発表198編、ポスター発表136編(プロシーディング収録144編)となっている。

  ISSCTに設置されている10分科会別に見ると、口頭およびポスターでそれぞれ、農務分野・農業工学(5編、7編)、農務分野・農学(42編、21編)、生物分野・育種(20編、27編)、生野分野・分子生物学(16編、8編)、生野分野・昆虫学(13編、23編)、生野分野・病理学(16編、9編)、工務分野・工学(27編、18編)、工務分野・製糖(15編、9編)、工務分野・副産物(21編、17編)、経営分野・経営と技術移転(10編、5編)となっている。これに加えて基調講演12編が発表された。これらの論文は、約1年前までに論文要旨を編集長に送り、専門委員の審査を経て、半年ほど前までに本論文を作成し、その中から専門委員の選択と査読を受けた後に、編集長が最終的に決定したものである。プロシーディングは、グアテマラ大会までは紙ベースであったが、ダーバン大会以降は電子ファイルの形で参加者に配布されている。さらに、約150の企業・団体がサトウキビ関連の機器などを展示した。大会のマスコットキャラクターは沖縄県糖業振興協会の「きび太」とそっくりだった。
 
 

(2)今大会のスローガンは「イノベーション」

 ISSCT大会では、大会ごとに目指す方向を特徴づけるスローガンが用いられる。印象に残っているのは、2005年のグアテマラ大会の“Reengineering”で、「砂糖産業から再生可能なバイオマス産業へ」が取り上げられた(上野・赤地:2005)。当時、不調にあえぐ世界の糖業界は、従来の産業形態からサトウキビバイオマスを利用したバイオ燃料と、コージェネによって再生可能エネルギーを生産するエネルギー工場への脱皮を目指していた。今までの産業構造を見直し、新しい発想でこれまでとは異なる形態を再構築することによって、新たな可能性と未来を切り開くものである。これは、その後のサトウキビ産業界の潮流を決定づけ、現在につながっている。サンパウロ大会の発表内容は次のような特徴を持っている。

  • 砂糖+エネルギー(バイオエタノール+コージェネ)産業形態は完全に定着した。
  • これに加えて環境と食料にも配慮した「エネルギー+食料+持続可能性(環境)」産業への展開が新しい形態として目指される。
  • 言い換えると、バイオマスのエネルギー利用から「バイオマスリファイナリ」すなわちサトウキビの総合利用システムへ向けた研究開発が活発化している。グアテマラでの「砂糖産業から再生可能なバイオマス産業へ」が実現されつつある。
  • 予想以上に新技術の導入が進んでおり、世界の進化の速さに驚かされる。1月号でも述べたように、かつて日本で研究していたような技術が実用化されている。
  • 地球温暖化・気候変動に関する研究が増えており、この問題に対する世界の認識は高まっている。
  • 品種改良などに巨大企業が参入している。


 これらを踏まえてサンパウロ大会で掲げられたスローガンは「イノベーション」である。より安定した環境配慮型サトウキビ産業を確立するために、サトウキビのバイオマスリファイナリの確立が目指されている。それには、既存技術を一新した技術開発すなわちイノベーションが必要であるという共通認識が形成されている。具体例としては次のような研究発表が印象に残ったが、この他にもイノベーションにつながる研究活動は多い。
 

  • 第2世代バイオ燃料(バイオエタノール、ブタノール)に関する研究
  • 砂糖・エネルギー・資材生産およびエネルギー消費などバイオマスリファイナリに関する研究
  • バガス・トラッシュの新しい利用技術に関する研究
  • サトウキビほ場からの温室効果ガスの排出;施肥、グリーン収穫(トラッシュブランケット)との関係
  • 持続可能性に関する研究
  • バイオチャー、熱分解ガス化・オイル化などに関する研究
  • 精密農業・農業計測、生育シミュレーションに関する研究

(3)基調講演

 イノベーションに関連する基調講演があった。まずは、ブラジルのサンパウロ大学のG.Souza教授より、「FAPESPのバイエネルギープログラムBIOEN:バイオ基盤社会のための科学」が発表された。“FAPESP”はサンパウロ州の科学振興基金で、“BIOEN”は、バイオマス基盤社会を築くために、「エネルギーセキュリティ」「持続可能な発展」「環境保全」「食料セキュリティ」を確保するプロジェクトである。そのための研究開発、遺伝的多様性と分子育種による増収、窒素肥料の利用、細胞壁の構造とそれを分解する酵母の開発、工学的方法による細胞壁の破壊、第2世代バイオ燃料、持続可能性と環境影響などブラジルの先進研究開発が紹介された。ブラジルの民間企業からは現場レベルでの新技術導入の動向が紹介された。“International Sugar Journal”の編集長A.Chudasama氏は、サトウキビ増産のイノベーションにおいて、生産資材やエネルギーなどと並んで知識(Knowledge)が重要なインプットとなることを、ビートやサトウキビ単収の国際比較、推移などを通じて解説した。ルネッサンス時代には産業革命時代とほぼ同じレベルの知識や技術があったが、一点の知識が足りなかったために産業革命に至らなかった例を引いていた。研究サイトと生産現場に見られる単収の差および頭打ちになっている単収を改善するために、知識や情報を伝えるシステムの有無による違いについても述べている。面白いのは情報(Information)と知識(Knowledge)の関係を整理した次の公式である。読者の皆さん、違いがわかりますか?

 Knowledge – Information = 1
 Knowledge + Information = 1+
 Information – Knowledge = 0

 フロリダ大学のR.Gilbert教授は、イノベーションに必要な研究費に関して、米国の州立大学の財源確保に対する取り組みを紹介した。設立後150年間における社会貢献、研究成果の社会還元などの推移を示し、最近では大学の収入が公的資金から民間資金や競争的資金へと重点が移りつつあることが紹介された。さらに、1月号でも紹介したCTC(Canavieira Technology Centre)からは、研究開発の成果は生産者に還元されているがそれをどう評価するかという観点から、民間部門における研究開発の課題が挙げられた。現在、イノベーションがもたらす増収と付加価値化による利益の増加分を享受するのは生産者と工場に限られている。これを研究開発部門にも分配する仕組みが、研究開発の持続性を確保する意味でも重要である。これとともに、新しく開発された技術や品種など知的財産の保護にも取り組む必要性が強調された。

(4)バイオマスリファイナリ研究

 「リファイナリ」とは、元来、石油の精製において、原油から各種の燃料とともにプラスチックや化学繊維などを総合的に製造するシステムを意味する。これに倣って、あるバイオマスから燃料だけでなくさまざまな資材を製造して総合的に利用するシステムを「バイオマスリファイナリ」と呼ぶ。エネルギー利用は最も収益の低い利用法であるために、それだけでは経済的に成立しにくい。ブラジルのバイオエタノールはスケールメリットで事業が成り立っているが、わが国では困難である。従って、まず付加価値の高い利用を行い、次にそれよりも価値の低い利用に順次移行し、最終的にエネルギーとして利用する「カスケード利用」が望ましい。

 これまでは、サトウキビの搾汁液もしくは糖蜜からバイオエタノールを製造するエネルギー利用が中心であった。最近では、バガスやトラッシュから第2世代バイオエタノールを製造する研究開発が進められている。わが国では、食料と競合しない稲わらなどセルロースからのエタノール製造に関する研究が進められている。この時、セルロースを構成する糖の結合を切断する前処理工程が必要である。そのためにさまざまな技術が開発されているが、ブラジルでは製糖工場の蒸気を利用した爆砕処理が中心技術のようである。この糖化工程では通常のC6糖(グルコース)に加えてC5糖(キシロース)が生成される。後者は従来の酵母では発酵しないので特殊な酵母の開発が行われている。稲わらなどの利用ではその収集が大きな問題になるが、バガスは工場で発生するのでサトウキビバイオマスの優位性は高い。

 アサヒグループホールディングスからは、従来の方法と順序を変えて、純糖率の低い搾汁液で還元糖をまずエタノール発酵させてから砂糖を回収する技術が発表され(小原:2013)、大きな関心を集めていた。エタノールよりエネルギー価値の高いブタノールの製造などが取り組まれている。まだ開発途上にあるのが、バガスなどの急速熱分解による液体燃料(Biomass To Liquid)の製造である。バイオエタノールのような微生物を利用する変換に比べて時間を大幅に短縮できるが、この技術が実現するまでにはまだ時間を要する。バイオマスリファイナリはバイオマスを余すところなく使い切ることである。これに関連して、エタノール蒸留廃液ビナスの液肥利用、フィルターケーキの利用と廃棄物ゼロのシステムが構築されつつある。さらに、フィルターケーキや表皮からワックスを抽出する研究、オリゴ糖、パルプ、バイオマスプラスチックなどバイオマスリファイナリにつながるさまざまな研究が報告された。

 話がややそれるが、ISSCT大会から1カ月ほど経った8月上旬にタイのバンコック市で「第10回Biomass-Asia Workshop」が開催された。そのメインテーマも「バイオマスリファイナリ」であった。バイオマスの利用は年々活発になっているが、それが環境や社会に与える影響を評価しつつ、個別利用技術から総合利用システムへと研究開発の重点がシフトしつつある。そのためには「イノベーション」が不可欠である。

(5)地球温暖化関連研究

 今大会のもうひとつの特徴は、地球温暖化現象もしくは気候変動に関連する発表が多いことである。サトウキビ産業が再生可能エネルギーを志向した時から、この問題に直接係っている訳であるが、その動機は環境よりもむしろ経済にウエイトがあった。一方、バイオエタノールの製造過程などで発生するビナスのような廃棄物の処理は不可避的に環境問題につながってくる。その次の段階では、サトウキビ産業が温暖化に与える影響の評価と対策に関する研究へと展開する。現在はその入り口にあると思われる。

 具体的には、サトウキビほ場からの温室効果ガスすなわちCO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、N2O(一酸化二窒素)の排出量の評価に関する研究が目立った。これらのガスはその順に温室効果作用が大きい。サトウキビほ場の有機物や肥料成分に対して、微生物の活動や化学反応で発生するもので、水分や温度などが影響を与える。農地からの温室効果ガス排出および物質循環に関する研究は、環境分野ではポピュラーである。サトウキビの栽培面積を考慮すると、このような研究が行われるのは当然かもしれないが、ブラジルをはじめ多くの国々で取り組まれているのは驚きであった。収穫後にほ場に残留した大量のトラッシュを回収して、コージェネやバイオエタノールの原料として利用する動きに関連して、トラッシュの回収が温室効果ガスの排出に与える影響も研究されていた。温暖化に伴うCO2濃度と気温の上昇がサトウキビの生育に与える影響の評価がブラジルその他の国々で行われている。これは成長モデルを用いて予想される将来の気象環境に合わせてシミュレーションを行うものである。南アフリカ、ブラジル、豪州の研究者たちが協力して、このような研究を世界規模で実施している報告もあった。サトウキビの世界では、このような研究形態は時々見受けられる。

 今大会およびブラジルで強く感じたことは、「世界は日本以上に温暖化問題に真剣に取り組んでいる」ということだ。サンパウロ大学を訪問した時にも温暖化の話が出てきた。降雨パターンの変化によって、かつての高級コーヒー産地で品質低下が起こり、産地の移動が始まっているそうである。日本でも、本州ではリンゴが育たなくなるとか、米の品質が低下しているなどの話は出てくる。しかしながら、「災害列島」であるわが国では、異常気象ばかりに目が行き、ゆっくりとした長期的な変化には気付きにくいのかもしれない。温暖化に対する知識は高く、警鐘を鳴らすマスコミや文化人は多いにも関わらず、身をもって感じるインパクトまでには至っていない。気付いたときには手遅れということにもなりかねない。大会期間中、季節外れの雨が続いたが、これも気候変動の現れであろうか?

2. 「チーム琉大」の発表

 チーム琉大では次の7編、うち口頭発表3編、ポスター発表4編の研究発表を行った。タイトルや概要は次のとおりである。これらの論文はプロシーディングに収録してある。

(1)口頭発表

ア.Eizo Tairaほか4名「Non-destructive quality measurement system for cane stalks using a portable NIR instrument(携帯型NIR(近赤外分光法)装置によるサトウキビ茎の非破壊品質計測システム)」
 持ち運びできる小型NIR装置を用いて、ほ場での立毛中のサトウキビ茎の糖度や内部成分(N、P、Kなど)を茎を傷つけずに測定する検量線を開発し、その精度の評価と成長に伴う成分値のモニターを行った。

イ.Yoshiaki Shinzatoほか2名「Performance of sugarcane harvesters in Okinawa(沖縄におけるサトウキビ収穫機の性能)」
 狭小で土壌水分の高い悪条件下で小型ハーベスタの作業性能を測定し、株出栽培への影響を中型機と比較して評価を行った。

ウ.Yuriko Miyahiraほか3名「Development of a rapid measurement system for process control using Near Infrared Spectroscopy(製糖工程管理のための近赤外分光法による迅速測定システムの開発)」
 製糖工程の合理的管理システムを構築するために、最初汁、シラップ、白下をサンプリングしてNIRで迅速に計測するシステムを開発し、その精度の評価を行った。

(2)ポスター発表

ア.Kenta Watanabeほか6名「Effects of potassium fertilizers on sugarcane sucrose content in Japan(日本におけるサトウキビショ糖含量に与えるカリウム肥料の効果)」
 茎中に含まれるカリウム含量が高ければ糖度が低下する傾向は品質取引データで広く確認してきたが、カリウム肥料の種類によってその効果が異なることを明らかにした。

イ.Liya Sunほか3名「A model of yield and sugar content of sugarcane and its application to harvest optimization(収量・糖含量モデルとその収穫最適化への利用)」
 サトウキビの成長を作型や植え付け時期などをパラメータとしてモデル化し、その応用として遺伝的アルゴリズム(GA)を用いて収穫順序の最適化を行った。

ウ.Yoshikazu Kondoほか4名「Novel application of bagasse char for production of freshwater from seawater by solar energy vaporisation(太陽エネルギー蒸発法による海水からの飲料淡水の製造)」
 バガス炭を利用して太陽熱を高効率で集熱するシステムを利用し、海水から飲料水を製造する技術を開発した。

エ.Kikuchi Kohほか4名「Reduction in total sugarcane production in Okinawa: A case study on Ishigaki Island(沖縄におけるサトウキビの減産−石垣島のケーススタディ−)」
 沖縄においてサトウキビが減産するメカニズムを、石垣島を対象に地力の低下との関係で捉え、畜産との資源循環型農業システムの構築が必要なことを示した。
 

3. ISSCTに学ぶわれわれの目指すべき方向

 世界のサトウキビ産業は躍動している。それだけでは飽き足らず、次のステージに向かって猛烈に動いている。この感覚は以前の大会で受けたものとは全く異なっていた。これまで、日本のサトウキビ産業は規模こそ小さいが技術的には先行しているという余裕めいたものがどこかにあった。それが粉々に打ち砕かれ、追い越されて置いてけぼりを食ったような感じを受けた。サトウキビ産業の基盤はブラジルとわが国では全く異なるものの、この状況を当たり前のものとしては、済まされないものを含んでいる。わが国のサトウキビ産業は「内憂外患」が年々深まっている。外患はTPP(環太平洋経済パートナーシップ)で、それに劣らないのが、高齢化などによる生産構造の弱体化という内憂である。これらを克服するイノベーションにつながる優れた技術力を何としても維持・向上させる必要がある。

 日本全体で見ればサトウキビは微小な産業であるが、それに関わっている島々では経済だけでなく社会システムとして大きな役割を果たしている。これを守っていくには「どうしても守らなければならない」という社会的状況を形成することが最も効果的である。そのために必要となるのが、サトウキビ生産の高効率化、バイオマスリファイナリの構築、およびそれを支えるイノベーションである。同様なことが例えば本誌においても述べられている(杉本:2013)。チーム琉大では、バイオマスリファイナリシステムを「バイオ・エコアイランド構想」として提示してきた(上野:2004)が、まさしくこの方向がサトウキビを守り、島を救うと考える。バイオ・エコアイランド構想では「美しく元気な地域社会の構築」をうたっている。技術的にもシステム的にも世界の先端を行くバイオ・エコアイランド構築の中心となるのがサトウキビである。これは、優れた技術を世界的に展開するビジネスの開拓という非常に大きな効果を産み出す。

 しかしながら、サトウキビだけを見ていてはイノベーションにはつながらない。周囲にあるさまざまな技術に注意を払い、それらを効果的に吸収・再構成するアイデアが重要である。アイデアがあれば、わが国には優れた多くの産業分野、科学技術、さらには企業や研究機関がそろっている。諸外国に比べてはるかに有利な環境に恵まれていると言える。ただし、この環境を生かすには、一定規模のサトウキビ産業が成立している必要がある。常にサトウキビに触っていないと良いアイデアは浮かばない。

 内ではバイオマスリファイナリによる高度な循環型社会を作り上げていくとともに、外にはそれらをベースに技術ビジネスや技術外交を展開する。南西諸島全域を「研究フィールド」とする構想である。これによって、地域でも国内でもさらには海外でも、日本のサトウキビ産業はどうしても必要と言われる環境を整えることができる。そこまで大きく構えなくても、1月号で紹介したプランタのように現時点でも海外に展開できるサトウキビ関連技術は少なくない。われわれは外国で必要とされる多くの優れた技術を持っている。これをビジネス化する意欲がなく、またそれに必要なシステムや情報もなく、生かしきれていないところに問題がある。逆に言うと、これを実現するには根本的な意識改革とシステム改革が必要である。安倍政権の「攻めの農業」につながるのではなかろうか?イノベーションはまさしくこの認識から始まる。

むすび

 ISSCT大会は決して固いだけの学会ではない。どちらかと言えばお祭りと言っていいかもしれない。非常にフレンドリーな雰囲気で行事が進んでいく。Sugar peopleは甘いのである。しかしその中には豊富な情報が含まれている。この大会の圧巻は、中日の夕食会で披露されたサンバ隊の踊りである。強烈なリズムに合わせて踊る魅力的なダンサーにつられて参加者たちも踊りの輪に加わり大いに盛り上がった。まさしくサトウキビ産業は踊っていた。これはイノベーションに向けての戦闘開始を告げているように思えた。われわれはカチャーシーでも踊りますか?

参考文献
上野正実・赤地徹(2005)「グアテマラの糖業事情と国際甘蔗糖技術者会議第25回大会の概要(2)」『砂糖類情報』(2005年7月号).(独)農畜産業振興機構
小原聡(2013)「砂糖の生産性を飛躍的に高めるバイオエタノール生産技術〜逆転生産プロセス〜」『砂糖類・でん粉情報』(2013年6月号).(独)農畜産業振興機構
杉本明(2013)「サトウキビ産業の進む道〜南西諸島の現在と将来に向けて〜」『砂糖類・でん粉情報』(2013年9月号).(独)農畜産業振興機構
上野正実(2004)「さとうきびのバイオマス利用による産業構造の強化と環境保全」『砂糖類情報』(2004年11月号).(独)農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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