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〜基本的な機械操作の徹底を〜

サトウキビ栽培の機械利用について今思うこと
〜基本的な機械操作の徹底を〜

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最終更新日:2015年2月10日

サトウキビ栽培の機械利用について今思うこと
〜基本的な機械操作の徹底を〜

2015年2月

元鹿児島大学農学部教授 宮部 芳照

 サトウキビ栽培の機械化の在り方、問題点を探るため、2006〜2007年にかけて、種子島、沖永良部島、与論島など、南西諸島の機械化の現状について現地調査を行った。その結果は、既に本誌(宮部芳照:砂糖類情報2006年8月号2007年6月号)で報告した。その後、引き続きサトウキビ栽培機械の開発、普及の動向を見続けてきたが、ここでいま一度原点に立ち戻り、機械の効率的利活用の在り方について最近感じていることを述べたい。以下に、主な機械作業について具体的な事例を挙げ、その技術対策などに触れ、これが関係者の機械に対する効率的利活用と安全性向上の一助になれば幸いである。

基本的な機械操作技術の向上

作業の精度を高めよう

 サトウキビ栽培の土作り、植え付け、中耕・培土、除草、病害虫防除の徹底や株揃え、根切り排土などの適期(早期)株出し管理作業の重要性は以前から叫ばれており、その基本技術の励行が単収の向上につながることは既に周知された事実である。しかし、その一方で、それに対応した機械利用の面からの基本的な機械操作技術の徹底とその励行が増収につながることへの指導・啓発はいま一つ弱い。関係者は機械の基本的操作技術の重要性について、いま一度思いを新たにする必要がある。近年、各種のサトウキビ栽培機械の開発研究が行われ、機械化が飛躍的に進んだ今こそ、それぞれの機械に対応した基本的な操作技術の向上が重要である。これが作業効率の向上のみならず作業精度を高め、増収につながると同時に、農作業の安全性に大きく貢献することを再認識すべきである。

 以下に、各種機械作業を行う場合の具体的事例を挙げ、その中で特に注意すべき事項について述べる。

 まず、土作りにおける深耕作業では、奄美地域に広く分布する石灰岩土壌や粘板岩土壌など、乾燥による固結と粘着性の強い重粘土地帯においては、特に土壌の三要素であるほ場の通気性、透水性、保水性、あるいは三相分布(液相、気相、固相)について慎重に考慮した作業を行うことが重要である。深耕の狙いが主に天地返しによる乾土効果(病害虫防除や雑草・雑草種子埋設など)にあるのか、あるいは土壌の団粒構造の形成、透水性・通気性の改善にあるのかによって、深耕プラウや心土破砕作業機の犂先(すきさき)やチゼル(爪)の作用深さ、機体の進行スピードの調整がその効果に大きな影響を与えることに注意する必要がある。

 作用深さ30cm以上を目標にした耕深を採用する場合は、慎重な基本操作技術が要求され、特にハーベスタ収穫作業後の土壌踏圧解消のために、サブソイラなどを使用して心土破砕効果を高めるためには、作用深さと作業スピードの調整がことに重要である(作用深さ45〜60cmくらいまで)。この土壌踏圧解消は大きく増収につながる要因になる。さらに、深耕プラウ耕では作業スピードを増加させると、プラウによる土壌の反転および放擲(ほうてき)作用(機体後方へ投げ飛ばす)の影響が表れ、汎用プラウ耕の砕土ハロー効果と同様な作用をもたらすことにも注意する必要がある。

 また、一般に行われる作用深さ15〜20cm程度のロータリ耕においても、そのほ場の土壌条件に合った好ましい土塊の大きさを得るためには、ロータリの耕うんピッチ(注)を考慮した作業が重要になる。この耕うんピッチは土塊の細かさを表すいわゆる砕土率(土塊の大きさの程度を表す指標)に大きく影響するものであり、一般の耕うん作業においては耕うんピッチの大切さを知るとともに、土塊の大きさを念頭においた機械操作が必要である。

(注)耕うんピッチとは耕うん爪の回転数(rpm)に対するロータリの進行速度(cm/min)の比で表し、耕うん爪1回転当たりの耕うん進行距離(cm)のことである。
 
 
 根切り排土作業においては、萌芽性をより高めるために、収穫直後の地際での早期刈り揃えと排土が重要であるが、特に刈り株の切り口面の裂開による損傷を防止するには、切断刃の回転数とその作用高さおよび機械の進行スピードの調整に留意した作業が必要である。

 また、ハーベスタ収穫調製作業においては作型、収量、雑草の繁茂程度、倒伏状態によって刈り取りスピードを調整することが重要な操作技術の一つになる。同時に夾(きょう)雑物の混入状態に大きく影響を与える風選ブロア(軸流ファンまたはシロッコファン)や脱葉ローラ(搬送ローラ兼用)の速度可変機種では、立毛状態によって選別部の回転速度の適確な調整を行い、収穫茎のトラッシュ率の低減や飛散・落下などのほ場ロス、圧砕・裂開などの損傷茎の発生をできるだけ抑える操作努力が必要である。さらに原料茎ロスを最小限に抑える地際刈り取りのためには、進行中のベースカッタの作用高さの正確な調整が必要であり、これは刈り取りロスを少なくするために特に重要な操作技術である。また、減収につながる稚茎の刈り取り防止技術の向上も避けて通れない。

 以上で述べた各種作業はもちろん、その他中間管理作業にもそれぞれにポイントを抑えた機械操作技術が必要であり、その向上と励行はオペレーター自身にとってはもちろんのこと、サトウキビ作関係者に課せられた啓発課題である。

機械のほ場作業効率を高めよう

 農業機械が自ら持つ作業能力を十分に発揮しているかどうかを判断する指標としてほ場作業効率(注)という考え方がある。この値が低いと機械の持つ能力を十分に発揮していない作業を行っているということになる。オペレーターの熟練度、作業方法、機械の調整時間、苗・肥料などの補給時間、ほ場区画の整備状況などにこの値は大きく影響されるものである。

 一般に農業機械のほ場作業効率は、もちろん作業の違いによって差があるが、熟練度の高いオペレーターによる作業の場合、プラウ耕、ロータリ耕で75〜90%、ディスクハロー耕で77〜90%、グレンドリル作業で70〜85%、施肥機作業で60〜75%、コンバイン作業で70〜80%台とされている。

 これに対してサトウキビ栽培機械のほ場作業効率は、鹿児島県農業開発総合センターのデータによると、全茎式プランタ50〜60%、心土破砕耕70〜80%、中耕培土80〜90%、ハーベスタ40〜70%台であり、中耕培土を除いて一般対象作物(稲、麦、豆類)に比べてかなり低い。もちろん、土性、対象作物の性状などの違いによる影響も大きいが、ほ場作業効率を高めるためには、

  1.  事前に機械類の点検、整備・調整をしておくこと
  2.  ほ場区画に合った適切な作業方法(例えば、往復法、一方向法、内回り・外回り法など)をとり、機械の複合化を含めて作業工程をできるだけ少なくすること
  3. 作業中の旋回・移動時間、反復時間を少なくして有効な直進作業を増加させること、特にハーベスタ作業では、ほ場進入口や枕地の作物群の処理を事前に丁寧にしておくこと
  4. 堆肥散布作業やプランタ作業の場合は堆肥や蔗苗の補給が効率良くできる場所をあらかじめ設定しておき、それら資材の補給時間のロスを少なくすること、ハーベスタ収穫茎収納袋の集積場所は作業の段取りをよく考えて適切な場所を設定しておくことにより損失作業量をできるだけ削減すること
  5.  オペレーターの機械操作の熟練度をより一層向上させること

が重要である。これらのことによってサトウキビ栽培機械のほ場作業効率は十分にアップできる余地があると考える。特に、2、3の作業方法は土壌の踏圧防止にも大きく影響する。

(注)ほ場作業効率(Field Efficiency)とは、機械自らが本来持っている理論的な作業量(a/hr)に対して実際にほ場内でどの程度の作業量をこなすかという実作業量(a/hr)との割合で示す値である。
 
 

機械の保守点検整備の徹底

 以前、南西諸島のサトウキビ栽培地帯を現地調査した際、保守管理が行き届かず、泥まみれのままさびついた使い捨ての状態で倉庫内に放置されている農機具に出合った時、残念な思いをした覚えがある。機械は生き物である。どれをとっても高価な機械器具である。各種機械に定められている始業点検・終業点検をそれぞれ励行し、丁寧に思いやりを持って使用すれば寿命も延びる。作業終了後は泥や夾雑物などを丁寧に取り除き、特に回転部などのグリスアップすべき箇所は確実に処置しておくことが必要である。機械を気持ちよく、良好な状態で作業するためには日頃のメンテナンスが欠かせない。

 一般に農業機械の耐用年数は7年とされているが、近年、行政においても耐用年数を経過したハーベスタの機能向上(長寿命化)対策が講じられており、大いに推進すべき施策である。保守点検整備の励行は機械を所有し使用する者の義務であり、これがより機械の寿命を延ばすと同時に作業の安全性にも大きくつながることを再認識すべきである。

機械の安全作業の徹底

 依然として農業機械作業によるけが、死亡事故はいっこうに減少しない。特にサトウキビ栽培作業では、トラクタやハーベスタ作業による事故は重傷につながるケースが多い。サトウキビ栽培においても農作業者の高齢化、女性化が大きな事故原因の一つになっているが、それぞれの機械が持つ特有の基本的な操作技術を理解することなく、つい安易な機械操作をしてしまうところにも大きな原因がある。

 例えば、土作り作業で心土破砕耕をサブソイラなどで行う場合、まず土性の違いによって作業機に合ったトラクタの容量とその足回り(ホイール、セミクローラ、クローラなど)の選択が重要である。トラクタと作業機全体の安定性およびけん引負荷を考慮したトラクタと作業機のマッチングに注意する必要がある。

 また、回転運動機構を持つ機械の場合、例えば、株揃え機では切断刃などの回転部への巻き込み、精脱装置では搬送選別コンベア回転部への巻き込みに特に注意する必要がある。植え付け作業では全茎式プランタのチョッピングカッタ部、従来の2芽苗プランタやビレットプランタでは苗繰り出し部の回転部への苗詰まりを解消しようとする際に事故が多発する。作動中の回転部へは絶対に手を入れてはいけない。
 
 ハーベスタ収穫作業の場合は、ハーベスタの分草・引き起こしらせん型回転ドラム、フィード・引き込み搬送ローラ、上下回転ローラや株元切断部のベースカッタ刃への夾雑物の巻き付きを解消しようとする際に事故が発生する。これらの作業はエンジン回転中には絶対に行ってはならない行為であり、また、巻き込まれやすい服装は避けるべきである。さらに、ハーベスタ収穫作業では組み作業の場合が多く、補助者の位置確認を常に行いながら作業すべきである。特に、旋回移動で後退する際の後方確認は絶対に怠ってはならない。

 農業機械による事故は機械構造の理解不足、基本操作技術の未熟さ、作業者の思い込み、見間違い、操作慣れや寝不足、体調不良、疲労などの多くの要因が複合して起こるものであり、特にヒューマンエラー(人間の過失)によることが多いことも改めて考える必要がある。また、事故に至らなかった「ヒヤリ・ハット」事例を全ての関係者が共有することも事故防止に大きくつながる。一方、メーカーサイドにおいても、従前から機械の安全性に重点を置いた研究開発が進められてきているが、今後、さらに増加する高齢者、女性がより安心、安全に操作できる機械の開発により一層力を入れていただきたい。

 次に、今後のサトウキビ栽培の省力化で残された主な課題は調苗・採苗作業である。採苗専用機械は1993〜1995年にかけて開発が始められたが、その後、開発研究が停滞したこともあり、その成果をみていないのが現状である。精脱装置の利用などを含むハーベスタ採苗作業を前提とした場合でも、健全芽子率の高い蔗苗栽培技術の確立、不良蔗苗の発芽調整技術およびプランタ植え付け技術の向上は欠かせない研究課題である。同時に採苗専用機械の開発研究は試験研究機関、メーカーにとって急務の課題であり、高性能で安全な機械の開発が待たれる。

 また、2005年当初に開発された梢頭部回収機については、ハブ生息地域や特に梢頭部の有効利用の面からその利用価値は高いものと思われ、利用システムを早急に検討して普及に移すべき機械であると考える。
 
 最後にここで、もう一度述べておきたいことは、サトウキビ栽培において機械化作業体系がほぼ確立されてきた今こそ、機械の計画的な導入とその効率的利活用の重要性を再認識すべきであろう。また、土作り作業から収穫調製作業までの各種機械の操作技術の向上とその忠実な励行は栽培管理技術の励行とともに増収に大きくつながり、これがまた安全作業につながることを強調しておきたい。

 なお、掲載した機械装置の写真は鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場主任研究員 馬門克明氏よりご提供いただいた。ここに記して感謝申し上げる。

(プロフィール)
宮部芳照 (みやべ よしてる)
昭和41年 北海道大学大学院農学研究科農業工学修了。元鹿児島大学農学部教授。農学博士。専門分野は農業機械学、農業システム工学、農作業学。日本農作業学会九州支部長、生産管理学会評議員、?甘味資源振興会理事、鹿児島県さとうきび機械化委員会委員長、NPO法人ネイチャリングプロジェクト理事、鹿児島県さとうきび生産振興対策委員会相談役などを歴任。長くさとうきび栽培の機械化に携わってきた。現在は鹿児島有機農業技術支援センター非常勤講師、植物水耕栽培真奉会技術顧問。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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