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さとうきび生産における経営の安定化に向けた取り組み

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最終更新日:2016年1月8日

さとうきび生産における経営の安定化に向けた取り組み

2016年1月

調査情報部

【要約】

 平成27年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会では、「さとうきび生産における経営の安定化」をテーマに、鹿児島県と沖縄県の生産者代表や行政関係者などによるパネルディスカッションが実施された。パネリストからは、地域の実情を踏まえた支援組織の活用による省力化・機械化や、複合経営による経営の安定化の事例などが紹介され、会場の参加者を含めて活発な意見交換が行われた。

はじめに

 当機構は毎年度、鹿児島県と沖縄県の基幹作物であるさとうきびをめぐる課題の解決に向けた、関係者の意見交換と具体的方策の検討を目的に、さとうきび・甘蔗糖関係検討会を開催している。

 第14回となる今年度は、「さとうきび生産における経営の安定化」をテーマに、鹿児島県と沖縄県のさとうきび生産者、生産者団体、国内産糖製造事業者、研究者、行政などの関係者約230名の参加を得て、10月22、23日に、当機構那覇事務所の主催により沖縄県那覇市で開催した。

 初日は、東京大学大学院総合文化研究科の永田淳嗣准教授による基調講演の後、「さとうきび生産における経営の安定化」をテーマにパネルディスカッションを行った。この他、農林水産省政策統括官付地域作物課から砂糖をめぐる現状と課題について、当機構鹿児島事務所から品目別経営安定対策の取り組みについて、それぞれ報告した。また、沖縄県農業研究センターなどの研究機関からは、さとうきび育種などに関する研究成果を発表した。

 2日目は、沖縄県農業研究センター、農業生産法人野原ファーム、さとうきび生産者など、沖縄本島南部のさとうきび生産現場や試験研究機関などを視察した。

 パネルディスカッションでは、各地域のさとうきび生産者2名、行政関係者2名の計4名のパネリストが、「支援組織の活用による省力化・機械化」および「複合経営による経営の安定化」について報告した後、生産者代表による意見交換が行われた()。

 鹿児島県農政部農産園芸課の厚ケP技術主幹からは、補助事業を活用した機械導入やハーベスタの機能向上など、支援組織の活用による省力化の取り組みなどについて、沖縄県農林水産部糖業農産課の安田班長からは、他品目との複合経営による経営の安定化に向けた取り組みなどについて、報告が行われた。

 本稿では、パネルディスカッションでの報告などを基に、各生産者の経営の安定化の取り組みについて紹介する。
 

1.支援組織の活用による省力化・機械化

(1)生産者の取り組み
〜徳之島 仲洋志郎さん〜

 西阿木名(にしあぎな)さとうきび生産組合(以下「生産組合」という)は、西阿木名集落のさとうきび生産者の高齢化により、結い体制(相互扶助)の維持が困難となったため、平成13年に仲さんの父によって設立された。現在は、仲さん、父、従業員の3人で植え付け、中耕、除草剤散布、収穫、株揃えを受託しており、平成26年産の受託面積は64ヘクタールである。生産組合は高齢者のニーズに応え、前述の管理作業を受託している。さらに、生産組合の構成員は全員ハーベスタなどの農機操縦が可能であり、機械を駆使して、適期に効率的な作業を実施している。

 仲さんは作業受託をする一方で、さとうきび22.5ヘクタール、ばれいしょ3ヘクタールの作付け、肉用子牛生産も行っており、自身の経営では、スライドモアを利用し、畑回りの除草を行うなど大型機械を利用した作業の省力化や緑肥と堆肥を利用した土づくりに取り組んでいる。また、島内の若手生産者を中心とした営農集団である、徳之島さとうきび新ジャンプ会の副会長も務めており、「地域の若手生産者と連携し、技術情報などの共有化を図ることで、自分だけでなく、地域全体の単収向上と面積拡大につなげたい」と話し、特に高齢の生産者からの委託は可能な限り引き受けたいと考えている。
 
(2)各地域の生産者代表による意見交換
 仲さんからの報告を受け、支援組織の活用による省力化・機械化に向けて取り組んでいる事例や課題について、各生産者代表より報告があった。

 喜界島の伊地知清隆さんは、集落の高齢化が進み、唯一の若手である自分に委託作業が増えていく中で、個人で対応するのに限界を感じ、平成26年、受託組織を設立し、新たにハーベスタを1台導入した。伊地知さんは、設立当初に苦労した点として、資金繰りを挙げた。受託組織としての課題は、受託戸数が少ないことであると考えている。伊地知さんは「今後、受託戸数を増やし、地域の中心となるような組織を目指したい」と意気込みを語った。

 沖永良部島の池幸次郎さんは、地域の高齢者から「農地を手放したくないため、植え付けと管理作業を委託したい」との声が増えていると指摘した。こうした中、池さんは平成27年、新たに受託組織を立ち上げ、防除、除草、肥料散布などの作業の受託を開始した。池さんは「今後は、構成員とのつながりを深め、知恵や情報を共有し、さらなる受託面積の拡大につなげたい」と話す。

 沖縄本島南部の新垣恒明さんからは、管理作業受託のニーズの高まりから、作業受託組織の重要性が増している地域内の現状について報告があった。特に、プランターでの植え付けが年々増えており、欠株防止のため、事前に準備した一芽苗を植え付けるなど、受託作業の工夫について紹介があった。

 与論島の町繁一さんは、さとうきびほ場の約7割が一筆当たり10アール以下と小規模であるため、ハーベスタでの収穫が難しいという地域特有の課題を紹介した。さらに、現在はハーベスタでの収穫作業を受託しているが、今後労働力が確保できれば、育苗作業も受託し、さとうきび生産者の維持に努めたいとした。

 北大東島の與儀實善さんは、オペレーター不足を指摘した。現在は地域の人材をオペレーターとして育成しているが、それでも作業量に追い付かないため、今後は、沖縄本島へも依頼せざるを得なくなるという。ただし、その場合、住宅を確保しなければならないと述べた。

 奄美大島の南利郎さんは、受託組織の立ち上げ、ハーベスタや大型トラクターの導入などを、奄美市が中心となって行っているため、非常によい循環ができていると、市の作業受託体制を紹介した。

 伊是名島の末吉満さんは、「平成22年ごろのイネヨトウの大量発生により、生産量が7000トンにまで減少したことを受けて、さとうきび振興会を設立し、植え付けの共同化を進めている。生産量は年々回復しているが、今後は、効率的な作業体制を確立し、生産量2万トンを目指したい」と述べた。

2.複合経営による経営の安定化

(1)生産者の取り組み
〜沖縄本島中部 山内武光さん〜

 山内さんは、もともと県外で畜産業を営んでいたが、平成18年に沖縄県に戻り、平成20年から読谷村でさとうきびとかんしょの複合経営を行っている。経営面積は5.3ヘクタールで、27年産はさとうきびを2.7ヘクタール、かんしょを2.6ヘクタール栽培している。山内さんと臨時雇用の2人で作業をしており、さとうきびとかんしょの収入の比率は、さとうきび4割、かんしょ6割となっている。

 かんしょを選択した理由は、読谷村に紅いものペースト工場があったことから、輸送コスト面で有利であると考えたからである。かんしょの連作障害を防ぐため、輪作作物としてさとうきびを選択した。さとうきびとかんしょは、管理作業で使用する機械が共通しているので、効率的であることも理由の一つであった。

 輪作体系は、さとうきび(春植えまたは夏植え)→さとうきび(株出し1回)→かんしょ(2年)と、約2年ごとに交互に作付けしている。繁忙期は、さとうきびの収穫、植え付け、株出し管理、かんしょの植え付けを行う1月から4月である。さとうきびの収穫作業、株出し管理を2月までに終え、3月から4月にかけてかんしょを植え付けるのが理想的だという。

 また、収益の確保を考えた場合、ある程度の規模が必要となるが、その場合、作業を軽減するため、相当の投資をして機械を導入しなければならない。それを考えると、現状の規模が適切だと考え、山内さんは、今後もさとうきびとかんしょで経営を維持するために、現在の規模を維持していく意向である。
 
(2)各地域の生産者代表による意見交換
 山内さんからの報告を受け、複合経営による経営の安定化に取り組んでいる事例や課題について、各生産者代表より報告があった。

 現在、家族4人で、さとうきびと肉用牛の複合経営を行っている宮古島の砂川明寛さんは、労働力不足に対応するため、収穫は全てハーベスタ、植え付けの一部は全茎式プランターを利用し、機械化一貫体制による省力化の工夫を紹介した。

 種子島の古田洋美さんは、さとうきび、でん粉原料用かんしょ、肉用牛の複合経営を行っており、さとうきびの梢頭部をサイレージ化して、肉用牛に年間を通じて給与することで、飼料コストの低減につなげている。

 南大東島の山城興安さんは、島内で過去にバーンタイプハーベスタを利用し、事前にさとうきびを焼いた収穫方法を行っていたことで、土地が痩せてしまったことに触れた。さとうきびとの輪作として選択したカボチャの栽培には、土づくりが大切だと言われており、良い土づくりを心掛けてカボチャ生産を3年ほど行い、土地が安定してきた頃にさとうきびを植え付けることで、単収10〜12トンを目標としていると、昔の良い状態に戻すための取り組みを紹介した。

 石垣島の次呂久栄重さんは、さとうきびとパイナップルの複合経営を行っており、両作物とも干ばつと台風に強く、収穫時期がそれぞれ異なることで年間を通じて、安定的に収入を得られると述べた。
 

3.経営の安定化に向けて

 パネルディスカッションを受けて、永田准教授から以下の3点の講評があった。

 第一に、現在は高齢の生産者向けに、ハーベスタを中心にした作業受託を行うことが多いが、今後は、高齢の生産者だけではなく、兼業農家や複合経営などが、さとうきびで所得を確保できるようなモデルを確立しなければ、おそらく次の世代に現在の作業受託の形態が引き継がれていかないのではないかとした。単に労働力のために作業受託をするのではなく、結果として単収の向上や収益の増加といった形で生産者に還元することが大切であるとした。

 第二に、受託組織が、通年で仕事をつくることが重要であるとした。労働力が不足する繁忙期のみ雇用しようとしても、地域社会ではなかなか労働力が集まらない。そこで、さとうきび収穫期にはオペレーターとして作業を行ないつつ、他の時期には、野菜など他品目の生産を行うことで、通年で労働力を確保することなどが必要であると述べた。

 第三に、複合経営の役割については、しっかりと所得を確保できるさとうきび作を経営戦略に組み込むことが非常に重要であるとした。例えば新規参入の場合、いきなり大規模農業を実践することは難しく、少しずつ規模を拡大させていくことが多い。その際に、複合経営という形でさとうきび作を一つの基盤とし、そこからさまざまなことに挑戦し、ステップアップして畜産などで大規模に展開していく、というやり方もあるとした。

おわりに

 鹿児島県と沖縄県の各地域では、経営の安定化に向けて多様な取り組みが展開されているところである。地理的な制約で日常的な交流が少ないさとうきび関係者が一堂に会し、各地域の取り組み事例の情報共有を図ることにより、経営の安定化のための新たな展開を期待したい。

 検討会の開催に当たって、ご協力いただいた関係者の皆さまには、改めてお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713