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作業受託の中核的担い手である有限会社グリーンいとまんの取り組み

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最終更新日:2016年4月11日

作業受託の中核的担い手である有限会社グリーンいとまんの取り組み

2016年4月

那覇事務所 青木 敬太 
和田 綾子

【要約】

 沖縄県糸満市の有限会社グリーンいとまんは、さとうきび収穫を作業受託の主とする中核的担い手であり、収穫以外の期間で は、農産物の輸送や野菜作の作業を請け負うことにより経営の安定化を図っている。また、種苗確保が困難な農家に対して種苗を供給するなど、糸満市のさとう きび生産の省力化・効率化に貢献している。

はじめに

 近年、生産者の高齢化などにより、機械化によるさとうきび栽培の省力化・効率化が求められており、機械化を担う作業受託組織の役割が重要となっている。一方で、作業受託組織は、 1)収穫時期に作業が集中すること、 2)天候の影響により単収の増減が大きいこと、 3)機械の維持管理にコストが掛かることなどから経営が不安定な状況にあり、経営の安定化が課題となっている。
 さらに、沖縄本島南部は、ほ場が狭く点在していることから、大きな区画で一つのほ場が広がる離島と比べ、機械作業効率の悪さがあって、収穫作業を請け負う受託組織がなかなか育たない状況にある。
 こうした中、沖縄県糸満市の有限会社グリーンいとまん(以下「グリーンいとまん」という)は、収穫以外の期間に、農産物の輸送や野菜の作業を請け負うことにより経営を安定化し、さとうきび収穫を主とする作業受託の中核的担い手として、糸満市のさとうきび生産の省力化・効率化に貢献している。
 本稿では、グリーンいとまんの取り組みを紹介する。

1. 糸満市の農業の概況

 糸満市は県庁所在地である那覇市から約12キロメートルの距離に位置する(図1)。糸満市の位置する沖縄本島は、亜熱帯海洋性気候に属し、年平均気温は22〜23度で、年較差が小さいため、四季の変化があまり見られない。また、夏季になると30度を越える日も多く、加えて湿度 も80%以上になるため熱帯並みのかなり蒸し暑い日が続く。降水量は年間2000ミリメートル前後と多いが、年によっては降水量が少なく干ばつに悩まされることもある地域である。
 
 糸満市の耕地面積は1570ヘクタールで、作付面積はさとうきびが最も多く、次いで牧草、小菊、にんじん、レタスなどが上位を占めている。農業産出額で見ると畜産が1位となっており、次いで野菜、花き、さとうきびを含む工芸農作物の順となっている(図2)。販売農家数は825戸でそのうちさとうきびを含む工芸農作物が526戸を占めている。
 

2. 糸満市におけるさとうきび生産

 地域別のさとうきび農家の経営規模別農家割合を見ると、宮古島や八重山地方では30アール未満の小規模農家は全体の1割程度であるのに対し、糸満市を含む沖縄本島南部は5割を超えており小規模な生産者が多い地域と言える(表1)。これは、那覇市をはじめとする沖縄本島南部の都市化が進んでいるためである。また、兼業農家も多く、さとうきび生産に十分な時間をかけられず、離島と比べれば、単収は低い状況である。
 
 収穫作業の機械化についても、一つ一つのほ場が狭いことに加え、ほ場が点在していることから、ハーベスタのほ場間の移動に時 間がかかり、作業の効率が悪く、離島と比べると進んでいない。宮古島や八重山地方の機械収穫率は23年産以降急激に伸び、26年産では50%を超えているのに対し、沖縄本島南部では28.8%にとどまっている(図3)。
 

3. グリーンいとまんの概要

(1)法人の設立
 平成4年、糸満市内の6農協の合併に伴い、さとうきびの収穫作業の受託を目的にグリーンいとまんの前身である糸満市農業機械銀行が設立された。設立以降、同銀行は農協の一部門として収穫作業を受託してきたが、業務が集中する収穫期以外に業務がなく、雇用を維持するだけの収入の確保が困難であった。業務を多角化し、収穫作業以外のさまざまな業務を請け負い組織を維持するために、7年に同銀行を解散し、グリーンいとまんが設立された。
(2)経営の概況
 グリーンいとまんの主な業務は、さとうきびおよび野菜に係る作業の受託、さとうきび生産、農産物の輸送である。

 従業員は12人で全員が常時雇用である。この他、さとうきびの収穫期には、さらに3人を臨時雇用する。常時雇用の従業員の割り振りは、生産・受託部門5人、輸送部門6人、事務1人の体制であるが、輸送部門の従業員も、さとうきびの収穫期は生産・受託部門に携わっており、両部門間の従業員の割り振りは臨機応変に対応できるような体制を整えている。ハーベスタのオペレータは2人体制で、1人は従業員で10年のキャリア、もう1人は 機械作業に慣れている畜産農家を毎年臨時に雇用している。

 法人設立以降、業務拡大に伴い、段階的に機械を導入してきた。現在は、ハーベスタの他、トラクタなどを保有しており、収穫から管理作業までを一体的に受託できる体制を整えている(表2)。ハーベスタのうち1台は平成26年に更新したばかりである。
 
(3)さとうきびに係る作業受託
 グリーンいとまんは収穫作業を中心に、耕起、砕土、畦立て、植え付けなどのほぼすべての管理作業を受託し、糸満市の作業受託の中核的な担い手として地域のさとうきび生産の効率化に貢献している。

 近年の受託面積は40ヘクタールほどで推移している(表3)。収穫作業申込開始日には申し込みの列ができ、ほぼ一日でいっぱいになるというが、収穫期に作業できる日数が限られることから、受託面積の拡大は難しい状況である。
 
 作業受託に係る料金は、収穫作業がさとうきび1トン当たり、その他の管理作業は1坪当たりで設定している。収穫作業については、トラッシュが多い畑については別途追加料金を取ることも検討したが、農家の利用のしやすさを考え、単一の料金体系のみとしている。その他の作業につい ても燃料価格の上昇分などを転嫁し、採算の合う料金体系としたいところであるが、農家の手取りを考えると、料金の引き上げも難しい。他業務との相互扶助により可能な限りの経営努力をした上でも、収穫作業の料金は離島の約2倍になっているというが、前述のような生産条件の差を反映しているものとみられる。
 
(4)種苗確保が困難な農家に対する種苗の供給
 グリーンいとまんは、自社の専用ほ場(30アール)で採苗しており、自社のさとうきび生産に利用する他、希望する農家に種苗を供給している。種苗の供給と植え付け作業をセットで受託することにより、種苗を用意できない農家を支え、農地の維持に貢献している。

 また、農家へ提供する苗が足りないときは自社で利用予定の苗を回したり、製糖工場から回してもらうなどして手当てをしている。苗を作り過ぎても翌年に持ち越せないので、生産量の調整が難しいものの、グリーンいとまんが用意する種苗を使った植え付けプランの申込者は増加しているという。

 さらに、植え付けについて苗の準備方法により、料金体系を3段階に設定し、農家が申し込みやすいように工夫している(表 4)。1つ目は一番安価であるが、農家が苗を自分で準備し、植え付け作業はグリーンいとまんが行うもの。2つ目は、農家の種苗ほからグリーンいとまんが刈り取って植え付け作業を行うもの。3つ目は、グリーンいとまんが用意する種苗を使って、植え付け作業を行うもの。近年の作業受託の申し込み状況を見ると、兼業農家の増加から苗を自分で準備できる農家が減ってきており、3つ目の申し込みが増加している。
 
 

4. 経営の安定化に向けた取り組み

 受託組織の課題として、収穫期の3カ月という限られた期間では1年間の経営を維持するだけの収入を得ることが困難で雇用を維持することが難しいことが挙げられる。一方で、作業の効率化や経費削減につながる技術水準の維持のためには、継続的な雇用の確保が重要である。グリーンい とまんでは、「技術を教えても同じ作業員が毎年来てくれるとは限らない。通年の雇用の受け皿がないと、他産業へ人材が流出してしまう」という考えの下、収穫期以外には、農作業以外の作業も受託し、通年雇用を維持している。

 具体的には、通年の業務としてJAおきなわで取り扱う農産物や肥料、飼料などの農業資材の輸送を受託している。野菜の場合、域内の4カ所の集荷場を回り、沖縄県中央卸売市場へ輸送している。農業資材の場合、JAから各農家への個別配送まで対応している。

 また、糸満市の特産であるレタスの生産では、レタスマルチャーを用いてほ場にマルチを張る作業も受託している。
 

5. 受託作業の効率化に向けた取り組み

(1)作業計画の策定
 グリーンいとまんの渡慶次(とけし)常務取締役は、「さとうきびの収穫期間は限られており、効率的な作業を行うには、事前の計画が重要である」と話し、製糖開始の一カ月程前から作業地図の作成に取り掛かっている。作業地図の作成工程では、まず申し込みのあったほ場を地図に落とし込む。その後、なるべく近隣のほ場を効率的に回れるようにスケ ジュールを組む。最後に、地図を基に実際にほ場を見回りながら作業順序を確認していく。この地図の作成には手間暇がかかるが、効率的な作業には欠かせない。雨天時にはトラッシュは多くなるが、小型ハーベスタなので作業を中断することはなく、ほぼ計画通りに進めることができるという。
 
(2)他組織との協力
 ハーベスタの普及に伴い、ハーベスタを所有する組織が協力して、効率的な作業を実施するための調整機関が必要になってきた。そこで、 平成26年には、JAおきなわ糸満支店営農課が事務局となり、グリーンいとまんを含むハーベスタ所有組織を構成員とする「糸満市さとうきびハーベスタ収穫運営委員会」が立ち上げられ、同年には第1回オペレータ会議が執り行われたところであり、隣接する地域の収穫作業については地域の枠にこだわらず、作業効率を優先した収穫スケジュールを作成することができるようになった。
(3)事務作業の効率化
 受託の事務作業は、作業日誌作成など煩雑なものが多く、受託組織の共通する課題である。グリーンいとまんは平成26年、沖縄県南部農業改良普及センターが開発した農作業受委託マッチングシステムを導入し作業の効率化を図っている。このシステムは、JAおきなわが収集したさとうきびほ場のデータを活用したもので、作業を実施したほ場のデータをシステムから取り込むことで、作業日誌作成のためのデータ入力作業の一部が省略できるという。現在は作業料金の計算は手計算で行っているが、システムを改良していくことで伝票の発行ができるようになり、さらなる事務作業の効率化につながるこ とが期待されている。

6. 今後の目標

 受託組織の現状について、渡慶次常務取締役は、「収穫作業だけで収益を確保することは難しく、機械の更新、資金繰りも簡単にはいかない。このような環境では、収穫作業以外の業務を兼業できる組織であれば良いが、そうでない組織は、JAや行政のサポートがないと経営を維持するこ とは難しいのではないか」と話す。

 今後の目標について、「農家の申し出にはできるだけ対応できるようにしたい。例えば、種苗確保が困難な農家の需要が多いとき は、自己所有ほ場については、さとうきび生産よりも種苗の供給に重きを置いて利用したい。また、発芽も良く、補植の手間が省け、株もよく立つ農林22号を育苗しているが、今後は農家に人気のある農林27号も増やしていきたい。このように農家の需要に対応することで、10年後、20年後も変わらず、この地域に貢献していきたい」と力強く語った。

おわりに

 沖縄本島南部のさとうきび生産の振興のためには、機械作業を担う受託組織が欠かせないが、その地域性から収穫作業のみの受託組織の経営維持は困難である。受託組織の経営維持には、地域の各農家がほ場管理にしっかり取り組み、さとうきびの単収を向上させることが不可欠であり、今後はより一層関係者全員が一丸となってさとうきび生産を盛り上げていくことが大切であると思われる。

 最後にお忙しい中、本取材に当たりご協力いただいた関係者の皆さまに感謝申し上げます。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713