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喜界島におけるさとうきび機械化の現状と課題

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最終更新日:2016年7月11日

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喜界島におけるさとうきび機械化の現状と課題

2016年7月

元鹿児島大学農学部教授 宮部 芳照
 

【要約】

 喜界島は基盤整備、かんがい施設整備ともに高い整備率を示し、平たん地の多い地形を生かしたさとうきびの安定生産と生産性の高い園芸作物の導入・拡大に積極的に取り組んでいる。さとうきび作の機械化に関しては、高齢化、後継者不足が進む中で機械そのものに対する改良・開発についての農家からの要望をはじめ、規模拡大・農地集積の推進、機械の共同利用・稼働率向上・長寿命化、農作業時期の競合解消、機械化に対応した栽培体系、受委託作業の在り方など、取り組むべき課題は多岐にわたっている。今後、さとうきび作振興のためには、これらの課題を着実に解決し、低コスト化による生産性向上と収益性向上を図る以外にない。
 

はじめに

 今回のTPP大筋合意は、甘味資源作物には影響ないと言われているが、将来TPPがさとうきび産業にどのような影響を及ぼすのか、さとうきび農家の不安は大きい。そこで、今回は喜界島と徳之島を自分の足で歩いて、現地が抱えるさとうきびの機械化に関する問題点を探り、機械の技術的な面も含めて今後のさとうきび機械化体系の在り方や課題について検討した。

 まず、本稿では喜界島におけるさとうきび機械化の現状と課題について報告し、次号で徳之島を取り上げることとする。
 

1. 喜界島の農業の概要

 喜界島は、鹿児島市から南へ約380キロメートルに位置する周囲約49キロメートルの温暖な亜熱帯性気候で年間平均気温約22度、降水量約1850ミリメートルの概して平たんな隆起珊瑚礁からなる島である。干ばつの被害を受けやすい地形であるが、総貯水量180万立方メートルの地下ダムの完成により、その被害は減少しており、基盤整備も高い整備率になっている。

 人口は7154人、耕地面積約2250ヘクタール、総農家数682戸、総就農者数1456人であり、そのうちさとうきびは栽培農家数637戸、栽培面積約1706ヘクタールを占め、1戸当たりの栽培面積は約270アールと大きい。さとうきびの生産量は平成25/26年期は約8万トン、今期は若干回復して約8万3000トンを見込んでいるが、やや下振れ傾向が予想される。その他に肉用牛などの畜産業および日本一の生産量を誇る白ゴマ、トマト、カボチャなどの野菜やスプレーギク、タンカン、マンゴーなどの花()、果樹が複合した収益性の高い農業が行われている。
 
 

2. 機械化の現状と課題

(1)基盤整備およびかんがい施設の整備状況
 基盤整備は昭和40年代より始まり、現在は県営畑地帯総合整備事業により要整備量(2500ヘクタール)の約90%(2240ヘクタール)の整備率になっており、現在も整備が進められている。一筆の区画面積は30アールであり、さとうきび作の効率的な機械化推進のためにはやや狭い感がする。拡大可能な地形であれば、一筆50アール(125メートル×40メートル)程度が良く、再度、区画面積の検討が望まれる。

 かんがい施設の整備(スプリンクラー設置)は、計画面積(1860ヘクタール)の約91%(1690ヘクタール)が完了している。散水利用料金はさとうきび作で年間10アール当たり3000円(7〜9月期)、春植え・夏植え時期は土地改良区への申し込み制で散水可能である。また、園芸作物は同6000円で年間通して散水可能である。

 このように、喜界島は基盤整備とかんがい施設の整備が進んでおり、他島に比べて平たん地の多い地形を生かしてさとうきびの安定生産と生産性の高い園芸作物の導入・拡大に積極的に取り組んでいる。
 
 
(2)機械の改良・開発に関する要望と課題
 機械の改良や開発について、農家からの要望や課題は以下の通りである。

(1)アタッチメントの取り付け・取り外しに時間がかかり過ぎる。これはワンタッチヒッチアタッチメントやオート(クイック)ヒッチも市販されており、これらヒッチの使用により、ある程度着脱時間の短縮も可能である。しかし、同時にオペレータの着脱技術の向上が必要である。

(2)雨天時でも収穫が可能なより軽量化したハーベスタの開発。ほ場条件にもよるが、降雨量が1日当たり10ミリメートル程度、あるいはこれ以下でも2〜3日雨が続くと、特にハーベスタの足回りや泥による株の踏み付けが著しく、株出し萌芽に大きな影響を及ぼす。既存機種は軽いもので3〜4トンであるが、これを2トンぐらいまでに軽量化できないか。

(3)刈り取り能力をさらにアップした小型高性能ハーベスタの開発。現在のハーベスタでは10アール当たりの単収が9トン以上になると、ハーベスタの細断・脱葉部へ供給される蔗葉茎の増加によるトラッシュの選別不良や過大な刈り取り負荷により、やや刈り取り困難な機種が多い。

(4)現在、最も普及している全茎式プランタによる植え付け作業の中で、採苗作業はほとんどが人力であり、多くの時間を要している(植え付け作業のみで1時間当たり約15アール、刈り取りなどの採苗を含めた植え付け作業で1日当たり約10アールの作業能率である)。しかし、ハカマ付きの植え付けでも発芽率はあまり低下せず、初期生育がやや遅れる程度で回復する。しかも、全茎式プランタは機械本体の機構・構造が簡単であるなどの点で推奨する農家が多い。今後、規模拡大によって人力確保が困難になった場合、全茎式プランタを含む植え付け機械化体系については検討が必要である。

(5)植え付け作業ではビレットプランタの導入が進んでいるが、深植えできない点や苗本数・施肥量が多い点、さらにハーベスタ採苗作業は選別に時間がかかる点(約300キログラムで1時間)などの改良。

(6)半自動型2芽苗プランタによる植え付け作業では、補助者による苗の投入作業(苗箱から苗をつかみ出し植え溝に苗を投入)を機械化した全自動型2芽苗プランタへの改良。

(7)既存の株出し管理機よりも小型化した株揃え、根切り、施肥、施薬を一工程で行う、コンパクトな管理機の開発。

(8)噴霧口の高さが3メートル程度の機体高を有する防除機械の開発。

(9)今後はICT(情報通信システム技術)、ロボット技術などの先端技術を取り入れた機械の開発・導入など、スマート農業も視野に入れた技術開発も考える必要がある。
 
 
(3)機械の稼働時間および作業能率
ア.トラクタ作業
 稼働時間および作業能率はトラクタの馬力、ほ場区画・形状、土壌条件、対象作物、作付け規模などで大きく変動するが、平均的な稲作農家の場合、年間の平均実稼働時間が200〜400時間前後とすると、喜界島におけるトラクタ作業では同200〜330時間であり、全国的な平均実稼働時間とほぼ同程度と言える。

 一方、作業能率は、例えば一般的な水田・畑作において65馬力クラスのトラクタを使用した場合、耕うん作業(ロータリ、耕幅2.4メートル)で1時間当たり0.33ヘクタール、心土破砕作業(プラソイラ、2本ナイフ)で同0.41ヘクタール、砕土整地作業(ハロー、2.6メートル幅)で同0.9ヘクタール、中耕・培土作業(リッジャなどの管理機械)で同0.43ヘクタールなどであり、平均作業能率は同0.52ヘクタールである。これに対して、喜界島における同クラスのトラクタ作業で深耕、耕うん、中耕・培土、管理作業に使用した場合の平均作業能率は同0.2〜0.3ヘクタールであり、特に土壌条件などの差が大きく影響していることが考えられ、約2分の1程度とかなり低い値である。

イ.ハーベスタ作業
 喜界島のハーベスタによる収穫面積率は約90%を占め、県全体の収穫面積率と同程度である。稼働時間および作業能率はハーベスタの馬力、ほ場区画・形状、生育状況、単収などに大きく左右されるが、喜界島の場合、ハーベスタの年間の平均実稼働時間は条件の悪いほ場で300時間前後、条件の良いほ場で500〜700時間であり、かなり差がある。これは品種、ほ場区画・形状の他にさとうきびの倒伏状態、雑草繁茂程度などの生育状況が大きく影響している。これを一般的な稲作農家の場合と比較してみると、もちろん作物形状、作業能率、収穫期間などの違いにより単純に比較できないが、全国の平均的な米麦用コンバイン(2メートル刈り幅)の年間の平均実稼働時間50〜80時間から見ると、ケーンハーベスタの平均実稼働時間は、特に収穫期間、作物形状などの違いにより大幅に長い。

 一方、作業能率は米麦用コンバインの場合、平均で1時間当たり0.43ヘクタールであり、これも単純に比較できないが、参考に見ると、喜界島における平均的ケーンハーベスタの作業能率は同0.05〜0.08ヘクタールであり、特に作物形状、ほ場区画・形状、土壌条件などの差により約9分の1〜5分の1と低いことが分かる。

ウ.その他の機械作業
 喜界島における株出し管理機の平均作業能率は1時間当たり0.2〜0.3ヘクタールであり、一般的な畑作用中間管理機の同0.1〜0.3ヘクタールと同程度であると言える。

 また、ブームスプレーヤ(散布幅4.2メートル)による防除作業では、平均作業能率は同0.5ヘクタールであり、これは水田・畑作防除作業の同0.4〜0.7ヘクタールと同程度である。

 全茎式プランタ(1畦用)の場合は、植え付け作業のみで平均作業能率は同0.09〜0.2ヘクタールであり、これは一般駆動型移植機の同0.1〜0.2ヘクタールと同程度である。なお、ビレットプランタ使用の場合は、ハーベスタ採苗作業で慣行の2倍程度の苗数(2芽苗)の確保が必要になり、採苗・調苗作業の省力化が急務である。
 
 
(4)機械費
 一般に全算入生産費に占める10アール当たりの資材費の割合は対象作物、作付け規模などによって大きく異なるが、わが国の平均的な稲作農家の場合、全算入生産費のうち、主要3資材費である機械費、肥料費、農薬費の占める割合は約30%である。その内訳は機械費が約20%、肥料費と農薬費が約10%を占めていると言われている。

 喜界島におけるさとうきび作の場合、耕うんから中間管理、収穫作業までの各種機械(トラクタ、プラソイラ、プランタ、株出し管理機、防除機、ハーベスタなど)にかかる機械費(償却費や燃料費、修理費などの維持管理費を含む)が全算入生産費(機械費、肥料費、農薬費、種苗費、労働費、運賃など)に占める割合は約30〜40%である。これは一般の稲作機械費が約20%であるのに対して、単純な比較はできないとは言え、約1.5〜2.0倍高い。なお、機械の修理費に年間平均20〜50万円かけている農家が多い。中には同100万円前後かけている農家や故障予防のためのメンテナンスに同10〜20万円かけている農家もある(一般に部品代が高い。例えば、ハーベスタコンベア部のベアリングなど市販の約3倍の値段である)。

 これらの機械費の低減は全生産費の削減にとって大きな要素になるものであり、そのためには機械の保守管理を含めた長寿命化の問題、機械の共同利用による稼働率の向上、機械リースの在り方、さらには機械本体の製造コスト削減など、今後解決されるべき重要課題が多い。

(5)受委託作業
 受託作業面積が全作業面積の中で約3割を占める農家・組織が多い。また、個人農家あるいは組織構成員の持つ作業面積も増えつつあり、自らのほ場の収穫作業にも追われる状態で管理作業の遅れが出ているのが現状である。受託農家・組織の作業負担は大きく、今後さらに受託面積を増やす状況にないところが多い。

 収穫、株出し管理、春植え時期の競合やオペレータ不足が原因で受託作業の遅れが出ているところがある。オペレータの育成は急務である。

 受託作業で多岐にわたる作業、例えば耕うん、心土破砕、植え付け、株出し管理、収穫作業などをそれぞれ分担を決めて作業を行う、いわゆる受託作業の分業化は適期作業を進める上で欠かすことができない。特に、収穫作業と株出し管理および植え付け作業の分業化は管理作業の遅れを防ぎ、受託作業の効率化と機械の作業効率を高める上で非常に有効である。

 受託作業を行えば行うほど赤字になるという農家・組織もある。これは受託作業料金設定の仕方や作業計画の策定にも問題がある。

 今後、担い手・後継者不足、高齢化が進む中で、受託作業料金設定の適正化や受託作業の分業化を含む受委託作業制度の見直しは是非必要であり、さとうきび作の振興のためには受託作業組織は必要不可欠なものであり、その育成はますます重要な施策である。また、経営が安定した健全な受託作業組織を育成するためには、年間を通して行うことのできる多角的な業務を創出することも必要である。

(6)規模拡大および農地集積
 規模拡大および農地集積を図ることは高齢化、後継者不足に対応し、さらにはTPPの将来を視野に入れて、超低コスト化による生産性向上と収益性向上を図る上では避けて通れない施策である。同時に農地の規模拡大と大区画化に対応できる高性能な機械化の推進は将来の一方向として是非必要である。

 現状を見ると、一筆当たりの面積が狭く、また点在農地が多いために移動距離が長く、作業効率の低い農家がある。例えば、耕作区画230筆を持ち、外国製大型ハーベスタを導入した作業体系をとっているが、ハーベスタの年間の実稼働面積は約20ヘクタール弱であり、導入機種としての性能が十分発揮できていない。

 規模拡大および農地集積は離農する生産者の受け皿として、また機械の稼働率向上のためにも必要であるが、同時に意欲ある担い手の育成も進めなければならない。農地集積は先祖代々引き継いできた土地に対する農家の強い思いもあり、なかなか進まないのも現実である。これらの施策を積極的に推進するためには農業委員会、農地中間管理機構の果たす役割はますます大きいと言える。将来は100ヘクタール規模の農業生産法人を作ることを視野に入れることも夢ではない。極端ではあるが、例えば喜界島全島で数法人くらいの大規模経営体を考えることも必要ではないかと思う。

 以上、大規模化志向の組織育成のみを述べてきたが、全てを大規模組織のみで担うわけにいかないのも現実である。また、国の施策も大規模化の方向を目指しているが、一方では、現在脈々と続いている小・中規模の家族経営農家も存在している。営農形態や農地状況もいろいろ存在している中で、これらの経営体が地域活動の中核を担っている例も少なくない。従って、これらの小・中規模経営体の作業技術体系を支える施策の推進も車の両輪として必要であることを忘れてはならない。
 
 
(7)機械の共同利用
 ハーベスタによる共同作業はかなりの地区で進んでいるが、その他の作業についてはあまり進んでいない。作業時期、機械の使用時期の重複やオペレータ不足などにより思うように進まないのが現状である。

 共同作業に関して、集落間あるいは集落内の農家同士の話し合いがほとんど行われないところが多い。特に、共同防除作業を必要とする集落などでは、機械の共同利用と農家同士の共同作業に関する意識の向上と情報交換が必要である。

 生産性の低い小規模農家同士が可能な範囲で、例えば半径3〜4キロメートル範囲の集落単位で共同体を作り、共同育苗作業やかんがい施設、各種機械類の共同利用・共同作業を行うことは生産性の向上を図る上で是非必要である。さらに、一定規模以上の農地を管理保有する共同体に対しては行政の支援も考える必要がある。

 共同利用・共同作業によって生まれた余剰労働力は他の農作物などに向けた栽培体系を工夫し、収益性の向上と経営安定につなげることが必要である。

 機械の共同利用と稼働率の大幅な向上のためには、極端とはいえ、例えば島内の作業で稼働に余裕の出たハーベスタなどの各種機械類をフェリーで他島へ運び、そこで稼働させる施策など考えられないだろうか。

(8)土作り
 土作りの基本は土壌の物理性、化学性、生物性を改善して総合的な地力増強を図ることである。特に堆肥などの有機資材の連用は欠かせない。

 土壌の物理性改善のためには、特に深耕、心土破砕(深度40〜50センチメートル程度)、土壌の反転作業は欠かせない作業である。また、プラソイラによる心土破砕耕に土壌の反転効果があると考えている農家があるが、プラソイラ耕は表土や心土の土壌中の空隙率を高める効果はあるものの反転効果はほとんどない。土壌の反転効果を高めるためにはプラウ耕による天地返しが必要である。

 全島的に化学肥料のみを施用する農家が多く、堆肥の施用が少ない。一部に緑肥として、クロタラリアのすき込みが行われているが非常に少ない。緑肥作物(マメ科含む)の投入は雑草抑制、連作障害、表土の流出防止および土壌の物理性改善に必要であり、単収向上に大きく影響する。特に、新植時の堆肥の散布やハカマのすき込み、夏植え前の緑肥作物の栽培は地力増強対策に効果が大きい。また、最近、クロタラリアより葉面積が小さく、害虫被害の少ないセスバニアの栽培に移行してきているが、フレール型モアーによる裁断やプラウによるすき込み作業で効果を高められる。

 農家に対する堆肥の購入助成は今後も積極的に進めるべきであり、堆肥センターを活用した農家の土作りに対する意識の向上が必要である。いまだ、従来の施肥体系による過剰な化学肥料の施用が一部に見られる。植え溝、株元散布などの部分施肥や有機物、緩効性肥料の使用と施肥量の低減によって、環境に配慮した土作りを進めるべきである。

 トラクタやハーベスタによる土壌踏圧の解消のための深耕、心土破砕やPH分析による土壌改良、かん水意識の啓発、雑草防除、適期管理作業の励行などは土作りと単収向上に大きく影響することを再認識すべきである。
 
 
(9)小型機械化作業体系
ア.ミニドラム脱葉機体系
 荒木集落の事例では、ミニドラム脱葉機を中心にした作業体系の下、夫婦2人の家族労働で約150トンのさとうきびを刈り取り、脱葉処理、搬出しており、これ以上の量は受託組織に委託している。ミニドラム脱葉機の作業能率は1日・1人当たり約4トンであり、トラッシュ率は約1〜2%で作業精度も高い。作業手順は1日目に約3.0〜3.5トンのさとうきびをあらかじめ人力で刈り倒しておき、2日目にミニドラム脱葉機で蔗葉処理して搬出する。問題点は労働強度の高い刈り倒し作業の機械化であり、従来から要望の強い小型刈り倒し機械の開発が是非必要である。このような体系の下で、家族経営の小規模(夫婦2人ぐらいの)農家ではミニドラム脱葉機体系が成り立つことを実証している。
 
 
イ.ベビー脱葉機体系
 嘉()(どん)集落の事例では、ベビー脱葉機を中心にした作業体系の下、家族労働(夫婦2人)で刈り倒し作業を含めて1.5日で1人当たり約3〜4トンのさとうきびを脱葉処理、搬出している。約1.5へクタールの収穫面積の約2分の1をベビー脱葉機で処理し、残りは受託組織に委託している。また、脱葉ブラシの磨耗交換を1シーズン2回程度行っているが、1ヘクタール程度の収穫面積ではベビー脱葉機で十分対応している。

 今後は現在使用している多くのハーベスタが更新時期を迎えることになるが、ハーベスタによる収穫作業体系とミニドラム脱葉機などの小型機械による収穫作業体系の二極化が進むものと考えられる。
 
 
(10)その他
ア.機械のメンテナンスと複合化
 機械の長寿命化を図るためには始業点検、終業点検の励行はもとより、日頃のメンテナンスの重要性を再認識すべきである。また、交換部品の迅速供給体制の整備は適期作業の推進のためには欠かすことができない。

 機械の複合化については、耕うん、植え付けと中間管理作業(中耕・培土、施肥、除草、防除)機械の複合化や株出し管理作業(株揃え、根切り、排土、施肥、施薬)機械の複合化が必要であり、しかも、より高性能でコンパクトな機種の開発が強く望まれる。

イ.機械化体系に対応した品種、栽培法など
 機械の稼働率向上のために、収穫期間が大幅に拡大可能な品種や耐倒伏性、易刈り倒し性、易脱葉性などの機械化作業に適応した品種の開発と機械化体系に対応した培土、植え付け深さ、栽培時期の分散化などを含む栽培法の工夫・開発が切に望まれる。

ウ.耕畜連携の実践
 伊()(さね)()地区の栄常光氏はさとうきび生産組合の代表を兼ねながら個人としてもさとうきび12.8ヘクタールの栽培と繁殖雌牛30頭、育成牛2頭、子牛19頭を飼育している。特に、自家製堆肥を活用した土作りにこだわった典型的な耕畜連携農業を実践している。農業機械類は80馬力級トラクタ2台、30〜50馬力級3台をはじめロータリ、プラソイラ、堆肥散布機、株出し管理機、ハーベスタの他に、ヘイレーキ、ヘイベーラなどの牧草用機械を使用している。今後は、さらなる規模拡大を視野に入れ、島内外の青少年の環境教育にも力を入れながら耕畜連携農家として、また地域のリーダーとして活躍している。
 
 

3. 製糖工場の操業状況など

(1)原料の集荷状況
 操業期間は平成27年12月15日〜28年3月30日までを予定している。原料の集荷状況は順調である。26/27年期の集荷量(圧搾)は約6万4400トン、1日当たり圧搾量は約820トンである。なお、1日当たりの原料処理量を確実にするためには、特に雨天時のハーベスタ収穫が容易な機種の改良・開発が強く望まれる。

(2)製糖歩留まり
 分蜜糖(製品)の歩留まりは過去5年間にわたり約12%台で推移し、平成26/27年期は11.85%であった。

(3)製糖機械・施設
 ほとんどの製糖機械・施設が稼動を始めて約50年以上を経過し老朽化が進んでいる。更新に向けた早急な対応が必要である。同時に機械・施設の研究開発、技術革新が望まれる。

(4)新製糖技術
 新製糖技術と言われる、いわゆる「逆転生産プロセス」については、品質と製糖歩留まりの関係、繊維質が製糖工程に及ぼす影響など、今後の実験結果を見守る。

(5)精脱葉処理施設
 公益財団法人喜界農業開発組合が事業実施主体になり、現在、チョップドケーンを1時間当たり25トンの能力で処理し、36人で8時間3交代制で作業している。装置の老朽化が進み、機械修理にかかる経費の増加などで運営が厳しくなってきている。
 
 

おわりに

 今回は、一日半の短い現地調査であったが、喜界島は基盤整備、かんがい施設整備ともに高い整備率を示し、さとうきびを中心とした生産性の高い園芸作物の導入・拡大に向けた努力が行われていた。その中で、特に指摘しておきたいことをここに列挙すると、(1)さとうきび単収が全島的に低いこと(約4トン程度)。これには主に気象要因、病害虫発生、適期作業の遅れなどが考えられるが、農業の基本である「土作り」に対する取り組みの弱さが、特に感じられた。(2)機械化体系に対応した栽培法の工夫・推進が必要である。例えば、奄美地方においては「夏植え+株出し体系」を推進することにより、収穫、株出し管理、春植えの作業時期の競合を避けることが可能である。これは労働力の分散、機械の稼働率向上につながる。(3)異常気象、病害虫に強く、収穫時期の拡大が大幅に狙える品種の開発を切に望む。(4)高齢化、後継者不足が進む中で、意欲ある担い手農家の育成および作業受託組織の育成(作業効率が高く、しかも年間を通して安定した経営が可能な受託作業制度・組織の創出)は不可欠である。また、受託作業の分業化による適期管理作業の徹底を図ることが必要である。(5)規模拡大、農地集積を進めることによって、機械稼働率のさらなる向上と生産性向上を図るべきである。(6)地域の形態によっては集落営農を進め、共同作業と機械・施設の共同利用を積極的に推進する必要がある。(7)各種機械のメンテナンスの励行が機械修理費の低減につながり、これが機械コストの削減に大きく影響することを再度認識する必要がある。

 以上、将来のTPPを視野にさとうきび農業の振興のためには、超低コスト化による生産性向上と収益性向上を図る以外にない。国の施策も大規模化や担い手育成による生産性向上と攻めの農業を前面に打ち出しているが、島の産業を支えるさとうきび農業は稲作農業などとは違って、依って立つ農業的、社会的基盤が大きく異なり同一視することはできない。また、農業の効率化、大規模化を追求する姿勢はもちろん必要であるが、同時に現存する小・中規模経営体への支援も忘れてはならない。さとうきび農業は産業政策の面からだけでなく、地域政策の観点から見た施策も重要であることを強調しておきたい。

 今後はTPPの対応にとどまらず、将来を見据えた農業の「形」を変えるくらいの大胆な発想に基づく施策が求められる。今までの延長線上にさとうきび農業の未来はないのは確かである。

 今回の調査に当たり、喜界島町役場の柳卓也氏、鹿児島大学農学部の柏木純孝技官をはじめ関係者の皆さまにお世話になりました。ここに記して感謝申し上げる。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713