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てん菜品種の直播栽培適性について

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最終更新日:2016年11月10日

てん菜品種の直播栽培適性について

2016年11月

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部
北見農業試験場 地域技術グループ 研究主査 池谷 聡

【要約】

 直播栽培に適する品種特性とは何かを考察するために、多収品種と高糖分品種を直播と移植で栽培し、収量性を比較した。その結果、移植栽培と直播栽培では両品種の収量反応が異なることが明らかになった。さらにこの収量反応の違いの原因を、生育中の根中糖分と根重の上昇の経過を検討することで考察した。

はじめに

 近年、てん菜の栽培面積のうち直播栽培の割合が全道的に少しずつ増加している(図1)。特に2010年以降、上川地域、後志地域や主産地の十勝地域で直播率が大きく伸びている。一方、もう一つの主産地のオホーツク地域では、まだそれほど伸びが大きくないものの、市町村ごとに見ると直播率が40%を超えているところがかなり存在している(図2)。これらのことから、全道的に直播栽培の重要性が以前よりもかなり増大してきていると考えられる。
図1 各地域の直播率の推移
図2 オホーツク、十勝地域の直播率ごとの市町村数
 これまで直播栽培の研究では、栽培技術については地方独立行政法人 北海道立総合研究機構(以下「道総研」という)による「てんさい直播栽培技術体系」(平成12年北海道指導参考事項)をはじめとする数多くの試験が行われ成果が発表されている。一方、てん菜品種の直播適性についての試験・研究報告は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター(以下「北農研」という)による「テンサイの直播、移植栽培における形質発現の比較と一代雑種育種法」(北海道農研研報2010)の他いくつかあるが、栽培技術の研究に比べてかなり少ない。

 北農研の上記の報告は、育種学的なアプローチで雑種集団を解析して、直播栽培品種の育種方向を示したものだが、個別品種の生育上の特性の差異と直播栽培適性との関係は考察されていない。本稿では、このことについて、いくつか知見が得られたので紹介する。

 品種特性のうち出芽期の特性と生育上の特性が、直播栽培に影響を与えると考えられる。出芽期の特性では、播種(はしゅ)後の出芽期までの期間の長短や、苗立枯病に対する抵抗性などが考えられる。また生育上の特性では、根部肥大の早遅や根中糖分の高低などが考えられる。今回はこれらのうち、生育上の特性について検討する。そのために、直播栽培と移植栽培で生育上の特性の異なる品種を栽培して、収量反応を比較した。

1.供試材料および方法

(1)供試材料

 2008年に北海道農作物優良品種に認定された多収の「リッカ」と、2010年に認定された高糖分の「アマホマレ」を供試した。「リッカ」は、根中糖分が低いが根重が多収のため、糖量が多くなる品種である。一方「アマホマレ」は、根重はそれほど多収ではないが高糖分であるため、「リッカ」ほどではないが糖量が多くなる品種である。移植栽培での優良品種認定時の成績では、収量特性は「アマホマレ」を100%とすると「リッカ」の根重が110%、根中糖分が96%、糖量が105%であった。

(2)方法

 調査は2013年から2015年の3カ年行った。調査場所は道総研北見農業試験場(以下「北見農試」という)試験()場で、栽植密度は10アール当たり7003株(畦間×株間=60.0×23.8センチメートル)である。移植栽培では播種を3月20日前後に、移植は5月の初めに行った。直播栽培の播種は5月の初めに行った。その他は北見農試標準耕種法に従った。

 5月から9月まで、毎月20日前後に各10株3反復を収穫し、経時的に根重と根中糖分の経過を調査した(根中糖分は8月以降)。また10月20日前後に、各36株3反復を収穫し、最終的な収量調査を行った。

2.結果および考察

(1)移植栽培と直播栽培の収量反応の比較

 最終的な収量調査の結果は、3カ年平均で以下の通りであった。

 移植栽培では、「アマホマレ」比で「リッカ」は根重がかなり多収で、根中糖分が低く、糖量がやや多かった。これらの値は、上記の優良品種認定時の成績の傾向に近かった(表1)。
表1 移植栽培での収量(2013〜2015年平均)
 一方、直播栽培では、「アマホマレ」比で「リッカ」の根重は103%であり、移植栽培の109%からかなり差が縮小した(表2)。しかし、根中糖分は移植栽培と同様「アマホマレ」より低かった。また糖量は移植栽培でのやや多収傾向から、「アマホマレ」並みからやや少収傾向となった。
 以上のように、移植栽培と直播栽培で収量反応が異なった。
表2 直播栽培での収量(2013〜2015年平均)

(2)根中糖分と根重の経過

 次に、最終的な収量反応の違いがどのような原因で生じるのかを考察するために、生育中の根中糖分と根重の上昇の経過を検討した。

 根中糖分は、直播栽培では播種が1カ月以上遅いため、移植栽培に比べて生育がかなり遅れるので、根中糖分の上昇も遅れて、最終的には移植栽培より低くなるのではないかと予想された。しかし実際、8月には両品種とも直播栽培が移植栽培より低いものの、その後、急激に上昇して移植栽培に近づき、最終的にはほぼ移植栽培と等しくなった(図3)。そのため、移植栽培での根中糖分の品種間差がほぼ維持された。なお、移植栽培と直播栽培の比較で最終的な根中糖分が等しくなるという知見は、以前の研究からも得られている(Heurerら1980年、高橋ら2003年)。
図3 根中糖分経過の比較(2013〜2015年平均)
 根重は、移植栽培では「リッカ」は最後まで上昇したのに対し、「アマホマレ」は9月以降伸びが止まり停滞した(図4)。一方、直播栽培では、生育が1カ月程度遅れるため、移植栽培の9月以降のような「アマホマレ」の停滞が見られなかった。このため、移植栽培で見られた最終的な根重の差が直播栽培ではかなり縮小した。 
図4 根重経過の比較(2013〜2015年平均)
 以上のことから、収量反応の違いの原因として以下のことが考えられる。

 ア.直播栽培では、生育期間が短くなるにもかかわらず、根中糖分が移植栽培並みとなるため、「リッカ」に対する「アマホマレ」の高糖分特性が維持される。

 イ.移植栽培では、「アマホマレ」の根重の伸びが最後に停滞するが、「リッカ」は伸び続けるため、この差が根重の差になる。一方、直播栽培では、生育が1カ月程度遅れるので「アマホマレ」の停滞は起こらず、根重の差はかなり縮小する。

(3)移植栽培での根重の伸びの停滞について

 根重の伸びの停滞が「アマホマレ」だけに見られる特殊な特性なのかどうかを検討するため、北見農試で調査している4品種について、移植栽培での8月以降の根重の経過と6月から8月の茎葉重の経過を図5に示した。4品種のうち「モノホマレ」と「アーベント」でも「アマホマレ」と似た根重の停滞が見られた。また、これらの3品種は根重の停滞が見られなかった「リッカ」と比較して6月から8月までの茎葉重の伸びが大きく、地上部の生育が「リッカ」より早い傾向があった。このことから根重の停滞は早晩生に関係していると考えられる。
図5 移植栽培での根重と茎葉重の経過(北見農試2010〜2015年平均)

(4)まとめ

 以上のことから、直播栽培に適する生育上の特性として、まず高糖分であることが挙げられる。移植栽培でも直播栽培でも根中糖分はほぼ維持されるため、高糖分の方が有利と考えられる。また根重の上昇が早いことも重要である。「アマホマレ」のように生育が前倒しになる品種は直播栽培では有利であると考えられる。

 今後は、年次を重ねて再現性を調査するとともに、さらに多くの品種で移植栽培と直播栽培の反応性を調査する必要があろう。また、他の生育上の特性で直播栽培に影響を与えるものはないかの検討も必要であろう。さらに、今回は触れなかったが、出芽期の特性も検討する必要がある。

 以上の検討を行った上で、品種特性が移植栽培と直播栽培での収量に異なった影響を与えるのであれば、今後直播栽培の増加が見込まれる中で、優良品種選定に直播栽培試験を加えるかどうかの検討や、直播栽培に適性の高い品種を導入することの検討が必要となってくると考えられる。
<主な参考文献>
1.大潟直樹、高橋宙之、田口和憲、岡崎和之“テンサイの直播,移植栽培における形質発現の比較と一代雑種育種法”北海道農研研報.192,33-41(2010)
2.山崎敬之、山田誠司、西田忠志“テンサイ新品種「リッカ」の特性”北海道立総合研究機構農試集報.97, 53-57(2013)
3.岡崎和之.“てんさい新品種「北海98号」”北農.77,189(2010)(「アマホマレ」の論文)
4.高橋宙之、大潟直樹、田口和憲、岡崎和之、中司啓二“異なる栽培様式におけるてん菜育成一代雑種の生育および諸特性”日本育種学会・作物学会北海道談話会会報. 45,35-36(2003)
5.T.Heurer and D. Oney“Transplanted versus direct-seeded sugarbeets.”J. of the Am. Soc.Sugar Beet Technol. 20,503-516(1980)
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