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フランスおよびオランダの砂糖産業の動向

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最終更新日:2017年4月10日

フランスおよびオランダの砂糖産業の動向
〜EUの砂糖生産割当廃止の影響を中心に〜

2017年4月

調査情報部 丸吉 裕子 
根岸 淑恵

【要約】

 2017年9月末の砂糖の生産割当廃止後の増産に向けて、EU域内最大のてん菜糖生産国であるフランスでは、政府主導の砂糖産業振興目標が示され、業界一体となった取り組みが進められている。一方、域内第5位の生産国であるオランダでは、生産者組合を母体とする製糖企業の経営多角化や持続可能な砂糖生産の取り組みなどにより、実需者ニーズに応える生産体制が整備されてきている。両国の砂糖産業の動向は国際砂糖需給にどのような影響を与えるか注目される。

はじめに

 フランスは、政府による砂糖産業の振興や世界有数規模の製糖企業による効率的な砂糖生産の推進などにより、EU域内最大のてん菜糖生産国としての地位を築いている(表1)。また、域内第5位の生産国であるオランダは、てん菜糖生産を1企業2工場に集約し、経営多角化や持続可能な砂糖生産に取り組んでいる。両国は、2006年および2013年のEU砂糖政策の改革を踏まえ、このような生産体制を背景に、2017年9月末の砂糖の生産割当廃止後の増産を目指してきた(表2)。

 本稿では、両国の砂糖需給や製糖企業の動向などを、201612月にオランダで行った現地調査などに基づき紹介する。
 
断りが無い限り、本稿中の年度はフランスおよびオランダの砂糖年度(10月〜翌9月)であり、砂糖の数量は粗糖換算である。為替レートは1ユーロ=120円(2017年2月末日TTS相場:120.48円)を使用した。
 

表1 EU主要国のてん菜糖生産動向(2014/15年度)

表2 EU主要国の生産割当数量の推移

1.フランスの砂糖産業の動向

(1)てん菜生産の概要
 フランスは、日本の約1.5倍の国土面積で、農用地が半分を占めている。てん菜は、ロワール盆地から北の北部地域と北東部や中部地域の一部で生産されている(図1)。
 


 てん菜は、3〜4月ごろに圃場(ほじょう)に直接()(しゅ)、10月〜翌1月ごろに収穫が行われる。収穫作業は、ハーベスタを自ら所有して、あるいは、複数の生産者で共同利用して行う者もあれば、業者へ委託する者もいる。

 
EUの砂糖政策の2006年改革(注)(以下「2006年改革」という)に伴う生産割当数量の削減により、てん菜生産段階でも集約化が進み、生産者数は2005年の2万9900戸から2013年の2万3920戸へ約2割減少した(表3)。一方、1戸当たりの栽培面積は増加し、100ヘクタール以上の栽培面積を有する生産者の割合は、同期間に51.5%から62.0%に増加した。

 

(注)2005年のWTOの裁定により、輸出量を1374000トンに制限されたことなどから、EU域内の砂糖の生産割当を2009/10年度までに600万トン削減することを目標に行われた改革。この改革以降、生産割当数量を超過した砂糖については、一定の要件を満たさないと余剰課徴金が課せられることとなったほか、生産割当を放棄する製糖企業に対し再構築助成金が支払われたこともあり、てん菜糖生産の集約化が進んだ。砂糖の生産割当は、2017年9月末に廃止されることとなっている。詳細は、丸吉裕子、根岸淑恵「英国の砂糖産業の動向〜EUの砂糖生産割当廃止の影響を中心に〜」『砂糖類・でん粉情報』(2017年3月号)を参照されたい。

表3 フランスの規模別てん菜生産者数

(2)てん菜生産の動向
 2006年改革に伴い、2007/08年度から2008/09年度にかけて製糖工場を5工場閉鎖して、集約化するなどの対応がとられ、てん菜栽培面積は、2008/09年度には34万9000ヘクタールへ抑制された。2009/10年度以降は37万〜39万ヘクタールで推移し、2014/15年度は40万5000ヘクタールとなった(図2)。

 生産量も、おおむね栽培面積に合わせて変動しているが、天候に恵まれた2011/12年度と2014/15年度は、1ヘクタール当たりの収量がそれぞれ96.8トン、92.8トンとなり、3700万トン台となった。

 
ただし、2015/16年度は夏に異例の猛暑に見舞われたことから、生産量は3370万トン(前年度比10.4%減)と、かなり減少したとみられる。
 

図2 フランスのてん菜生産実績

(3)砂糖生産の動向
 フランスで生産されるてん菜は、てん菜糖生産のほか、エタノール生産にも仕向けられている。てん菜糖の生産量(白糖換算)は、てん菜の生産量などに伴い変動するが、2014/15年度は458万トンと、生産割当数量の344万トンを114万トン上回った。

 2015/16年度は、てん菜生産量の減少に伴い減少するものの、生産割当の最終年となる2016/17年度のてん菜糖の生産量は424万トン(前年度比5.6%増)と見込まれている。国内では精製糖も生産されているが、精製糖の生産量を含む同年度の砂糖生産量は、474万トン(同3.7%増)に増加すると予測されている(図3)。なお、精製糖の原料は、同国の海外県(インド洋のレユニオン、カリブ海のグアドループおよびマルティニク)やEU域外から輸入された甘しゃ粗糖である。

図3 フランスの砂糖生産量の推移

 砂糖産業は、2000年に4社が合併したCristal Union社、2003年にUnion SDA社とUnion BS社が合併したTereos社をはじめ、集約化が進んでおり、5社が25工場でてん菜糖を生産し、このうち1社は1工場で精製糖も生産している(表4)。

表4 フランスの工場別製糖能力(2013/14年度)

(4)砂糖の需給をめぐる情勢
 砂糖の需給を見ると、消費量は近年、240万〜280万トンで推移している(表5)。砂糖調査情報センター(CEDUS)によると、消費量に占める直接消費用の割合が減少傾向にある一方で、食品産業用の割合は増加しており、2015/16年度には6割を占めた(図4)。食品産業用のうち、「炭酸飲料」が14.8%と最も多く、次いで、「チョコレート、ココアパウダー」(14.0%)、「加糖ヨーグルト、プリン、カスタードデザート」(9.6%)の順となっている(2014年)。なお、政府は2012年、肥満問題解決のため、糖類を含む飲料(乳飲料などを除く)への課税を開始した。これにより、2015年には飲料1リットル当たり0.075ユーロ(9円)が課税されている。

 輸入量は、減少傾向で推移している。EU域外からは主に粗糖を輸入しており、輸入先国は、アフリカ・カリブ・大洋州(ACP)諸国やブラジルなどである。EU域内からは主に白糖を輸入しており、輸入先国は、ドイツやスペインなどである。

 





 

 輸出量は、加盟国の増加によるEU市場の拡大などにより、近年は200万トン程度で推移している。白糖輸出先は、EU域外では北アフリカや中東などであり、EU域内では、イタリアや英国などである。砂糖を含む主な加工食品の輸出動向は表6の通りで、その7〜9割がEU域内に輸出されており、砂糖のみならず砂糖を含む加工食品についても、域内での競争力が高いと言える。

表6 フランスの砂糖を含む主な加工食品の輸出動向

(5)エタノールの需給などをめぐる情勢
 エタノール生産量は、2005/06年度の88万キロリットルから2014/15年度には2倍強の198万キロリットルに増加しており、EU域内最大のエタノール生産国となっている(表7)。原料別では、てん菜由来のエタノールが最も多い。2015年時点でエタノール工場は16カ所あり、このうち、てん菜を原料とする工場は9カ所である。政府はエタノールの生産を促すため、バイオエタノールの生産量に応じたメーカー対象の減税措置を講じている。減税額は段階的に引き上げられており、2016年は100リットル当たり64.12ユーロ(7694円)であった。

 また、輸出量は2005年の34万キロリットルから2014年には約3倍の99万キロリットルに増加しており、エタノール輸出国としての地位も高めている。

 
なお、2015年にエネルギー転換およびグリーン成長に関する法律が成立し、バイオプラスチック市場の発展に向けて大きく前進した。同法では、2030年までに再生可能エネルギーの割合を40%に引き上げる目標が定められたほか、2017年1月から果物、野菜類などの包装をバイオ由来で堆肥化可能なものとすることが義務付けられた。

 
このような動きを受け、Cristal Union社は2016年、イタリアのBio-on社と提携し、7000万ユーロ(84億円)を投じ、てん菜の副産物を利用したバイオプラスチック工場を建設し、年間5000トンのバイオプラスチックを生産する計画を発表した。
 

表7 フランスの原料別エタノール生産量の推移

(6)EUの砂糖政策の影響
 フランスの砂糖政策は、EUの砂糖政策に基づき実施されている。EUの砂糖政策については、前掲の「英国の砂糖産業の動向〜EUの砂糖生産割当廃止の影響を中心に〜」を参照されたい。

ア.生産割当
 砂糖の生産割当数量を見ると、2006年改革後の2006/07年度は、前年度から35万1695トンが追加で割り当てられたため、412万686トンに増加した(表2)。2008/09年度以降は343万7031トンに削減されたことを受けて、5工場が閉鎖した。なお、2015/16年度の企業別生産割当割合は、最大の製糖企業であるTereos社が40.4%、Cristal Union社が35.0%となっている(図5)。

図5 フランスの企業別生産割当割合(2015/16年度)

イ.てん菜取引価格の支払い
 てん菜生産者は、製糖企業とてん菜取引契約を締結した上で、てん菜を出荷し、代金を受け取るが、てん菜取引契約に当たっては、まず、てん菜生産者組合(CGB)、全国製糖業者組合(SNFS)、全国てん菜収穫処理協同組合連合会(FCB)の3者による専門職間協定(注1)が締結されていなければならない。同協定は、てん菜の品質やビートパルプの扱いに関する条件、紛争処理手続きなどが盛り込まれており、フランス農業省の承認を経て発効する。てん菜の取引条件は、生産割当廃止後も引き続き同協定に定められることとなっており、2016年7月に署名された次期協定は、生産割当制度の廃止後3年間の2017/18年度から2019/20年度を対象期間としている。

 フランスのてん菜取引価格は、生産割当制度の下では、欧州委員会がEUの砂糖政策に基づき設定する生産割当内の最低取引価格(基準糖度16度)を基準に定められてきた。企業によって利益や配当を加えることもあり、支払額は異なるが、2014/15年度で見ると、てん菜最低取引価格は1トン当たり25.4ユーロ(3048円)に対し、Tereos社は0.64ユーロ(76.8円)を上乗せして、26.04ユーロ(3124.8円)であった(注2)。 2017/18年度以降は、各製糖企業がてん菜取引価格を設定することとなっている。

(注1)専門職間協定は、砂糖生産専門職連携委員会(CIPS)によって取りまとめられてきたが、2017/18年度以降、CIPSはてん菜・砂糖専門職連携協会(AIBS)という組織に再編される 。
(注2)専門職間協定に基づき、2009/10年度以降は、砂糖の市場価格がEUの参考砂糖価格(2006年改革により、それまで砂糖の最低価格の役割を果たしていた介入価格に代わり、域内砂糖需給の均衡を保つための基準価格として、導入された指標価格。1トン当たり404ユーロ)を50ユーロ上回る場合、市場価格と454ユーロの差額部分の4割相当がてん菜最低取引価格に上乗せされることとなっていた。


ウ.政府による砂糖産業の振興に係る目標設定と概要
 政府は、同国の砂糖産業は生産割当廃止後も競争力を維持できるとした上で、国際市場への輸出拡大を期待している。

 このため、政府は2013年、砂糖産業の2025年までの重点目標として、(1)生産コスト削減(てん菜の品種改良、農作業の効率化、栽培面積の拡大、工場稼働日数の延長、製糖効率の向上)(2)EU域内外での市場拡大(3)エタノール生産の継続による生産の多様化(4)研究および技術革新のための体制強化(5)市場の変動に則した適正なてん菜取引契約の締結−を掲げた。

 さらに、政府は2015年、競争力を高めるには産業全体の総合戦略が必要であるとして、具体的な勧告を行った。その主な内容は、以下の通りである。この勧告に法的拘束力はないが、体制強化に向けた砂糖産業の利害関係者の共通戦略として位置付けられている。

・実需者との関係強化:製糖企業は、農工商分野の中小・中堅企業との関係を強化し、エタノールなど非食品向けに砂糖を使用する産業と一体となって、販路の維持、確保に努める。さらに、食品産業における国産糖の販売シェアを拡大するとともに、国産糖を使用した加工製品の輸出により収益を拡大すべく、実需者を含めた幅広い契約の枠組みが構築されるべきである。
・輸出と物流の体制強化:製糖企業とその団体であるSNFSは、関係機関の支援を得ながら、輸出拡大を目指す国へのアクセス条件を評価するとともに、砂糖輸出向け物流インフラの状況を調査すべきである。
・技術革新と環境保護:公的研究機関や民間企業との連携により、ビートパルプ、エネルギーおよび水利用に関する課題などの研究が継続されるべきである。また、第2世代エタノールの研究も推進すべきである。

 なお、てん菜の生産振興としては2012年から、2023年までの実用化を目指した高品質なてん菜の育種プログラム(AKER)が実施されている。AKERは、1ヘクタール当たりのてん菜の収量を4%引き上げることを目標とし、政府が500万ユーロ(6億円)、てん菜技術研究所(ITB)が280万ユーロ(3億3600万円)、てん菜原種メーカーであるFlorimond Desprez社が1000万ユーロ(12億円)をそれぞれ拠出している。

 また、政府は、特に被害が深刻化している萎黄病の対策として、現在普及しているネオニコチノイド系薬剤処理済種子の利用に代わる対策の研究を振興している(注)

(注)EUでは、萎黄病ウイルスの殺菌剤であるネオニコチノイド系薬剤の圃場での散布は、ミツバチ類に与える影響が懸念されるとして制限されている。同剤で処理された種子の利用は、実態上制限されていないが、域内では同様に懸念する声がある。

エ.企業の動き(Tereos社)
(ア)製糖能力の段階的な増強

 生産者組合が経営する国内最大の製糖企業であるTereos社は、生産割当廃止後の2017/18年度に平均工場稼働日数を130日に延ばし、てん菜糖の生産量を1800万トンに増やすことを計画している。

 同社はこの計画の達成のため、てん菜搬入工程を簡素化し、2014年には、Artenay工場で、新規契約生産者120人(2000ヘクタール相当)のてん菜の搬入に向けて設備を増強した。また、同年、国内の全製糖工場でエネルギー消費量を15%、二酸化炭素排出量を19%それぞれ削減するため、2017年までに総額1億5000万ユーロ(180億円)を投じ、主力燃料をガスに切り替えるなどのプロジェクトを発表している。

 一方、3工場にエタノール原料用の糖みつタンクを新設する計画も有しており、より柔軟な砂糖とエタノールの生産体制の構築を進めている。

(イ)販売・輸出体制の強化
 同社は、EU域内企業の買収で強固な流通網を築くとともに、輸出体制を整えてきた。

 例えば、イタリアには20年前から参入しており、スペインではACOR社と提携したことで、同国第2位の製糖企業となっている。2015年には、英国のNapier Brown社を買収して英国内での販売シェアを25%に伸ばしたほか、輸出企業のTereos Commodities社を設立し 、中東やアフリカ地域を中心に20万トンの砂糖を輸出している 。

2.オランダの砂糖産業の動向

(1)てん菜生産の概要
 オランダは、九州とほぼ同じ大きさの国土面積で、農用地が45%を占める。てん菜は、おおむね国土全域で生産されているが、主に北部と南部の海岸付近、ドイツやベルギーとの国境付近が盛んである(図6)。

 てん菜は3〜4月ごろに圃場に直接播種、9月〜翌1月ごろに収穫が行われる。また、てん菜は、冬小麦、ばれいしょ、タマネギなどとの輪作体系に組み込まれるのが一般的である。南部のロッテルダムにおけるてん菜栽培期間の天候は北海道の帯広と類似している(図7)。

 





 


 播種は6条仕様の播種機での直播が一般的であるが、区画整備された大規模な圃場では、12条仕様も導入されている。4〜5割程度の生産者が播種機を所有し自ら作業するが、残りは受託組織が作業している。播種時期や圃場条件などにもよるが、畝幅50センチメートル程度、株間1823センチメートルで、1ヘクタール当たり7万〜9万株を基本とした播種が推奨されている。

 
なお、オランダの農用地の1割が風害を受けており、てん菜生産地では、特に南東部と北東部の泥炭地域と砂地地域が被害を受けやすく、砂地地域では、凹型の加圧ローラーやV字型になった二つの加圧ローラーが付いた播種機の利用が推奨されている。一般的な風害対策としては、播種床の表面を粗い塊状にして十分な有機物を上層部にとどめる方法や、耕起後の速やかな播種を指導している。このほかの風害対策として、(1)てん菜と並列に大麦を播種する方法(注1)(2)牛ふん堆肥の散布(注2)(3)裁断したセルロース紙による被覆(注3)−などを推奨している。

 
収穫は、地区ごとの受託業者や共同利用組織が自走式6条仕様ハーベスタを用いて行うのが一般的である(写真1)。一部では、9条または12条仕様も導入されている。

(注1)1ヘクタール当たり6080キログラムの大麦の種子を、てん菜を播種した列から2.5センチメートルに離して播種し、大麦の高さが15センチメートル程度に成長したら、除草剤で大麦を除草する方法が一般的。この対策に要する経費は、1ヘクタール当たり4665ユーロ(55207800円)。
(注2)1ヘクタール当たり1015トンの牛ふん堆肥をてん菜の播種直後に散布。てん菜の発芽を阻害しないよう、均等な散布と圃場の水分量への注意が求められる。北東部およびテッセル島で特例的に許可されている。
(注3)セルロース紙は、堆肥として用いることができる素材として国内で流通しており、てん菜の播種直後と発芽後に、1ヘクタール当たりおよそ12.5トンを投与する。この対策に要する経費は、1トン当たり15ユーロ(1800円)。

 

写真1 自走式6条仕様ハーベスタ(容量20トン)

 2006年改革に伴う生産割当数量の削減により、てん菜生産段階でも集約化が進み、生産者数は2005年の1万3170戸から2013年の8320戸へ約4割減少した(表8)。一方、1戸当たりの栽培面積は増加し、100ヘクタール以上の栽培面積を有する生産者の割合は、同期間に8.4%から14.9%に増加した。国内の製糖企業はSuiker Unie社1社となっており、同社によれば、最も大規模な生産者のてん菜生産量は年間8万トンの一方、最も小規模な者は年間30トンと、依然、生産者の経営規模には大きな差が見られるとのことだった。

表8 オランダの規模別てん菜生産者数

(2)てん菜生産の動向
 てん菜収穫面積は、2006年改革後、7万ヘクタール台で推移していた(図8)。しかしながら、2014/15年度と2015/16年度は、過年度に割当数量を超過して先食いしていた生産割当への対応のため、6万ヘクタール未満に抑制された。

 生産量は、天候の影響などにより増減はあるものの、おおむね収穫面積に合わせて横ばいで推移してきた。2013/14年度は1ヘクタール当たり91トンと単収が高水準であったことなどから、生産量は682万トンと増加したが、その後、収穫面積とともに生産量も減少している。

 
生産割当の最終年となる2016/17年度は、収穫面積は7万ヘクタール(前年度比20.0%増)、生産量は560万トン(同17.0%増)と、大幅な増加が見込まれている。
 

図8 オランダのてん菜生産実績

(3)砂糖生産の動向
 オランダで生産されるてん菜は、フランス同様、てん菜糖生産のほか、エタノール生産にも仕向けられている。てん菜糖の生産量は、てん菜の生産量によって変動しており、生産割当を恒常的に超過する年が続いていたが、中でも2014/15年度は122万トンと、生産割当数量を41万8000トン上回った(図9)。これは、てん菜の収穫面積は減少したものの、春先に十分な日照時間と降雨に恵まれて早期に播種が完了し、生育も順調で収穫前の天候にも恵まれたことから、製糖歩留りが大幅に向上したことなどによる。2015/16年度のてん菜糖の生産量は、てん菜生産量と同様に、従前に比べて大幅に減少するものの、生産割当の最終年となる2016/17年度はてん菜生産量と同様に増加し、Royal Cosan(注)の2017年2月の発表によれば、93万4000トン(前年度比18.2%増)となった。

(注)Royal Cosanは、砂糖関連のSuiker Unie社のほか、ばれいしょ加工のAviko社、チコリからイヌリンを精製するSensus社、果物や野菜の加工製品を製造するSVZ社などの企業を所有している。なお、「Royal」の称号は、製品を王室に献上する組織の中から100年以上の歴史を有する組織などに与えられる。

図9 オランダのてん菜糖生産量の推移

 オランダの製糖企業は、てん菜生産者が株主で、生産者組合であるRoyal Cosanが経営するSuiker Unie社1社のみで、2工場でてん菜糖を生産している。2016/17年度は109日間稼働し、搬入されたてん菜の平均根中糖度は、17.05%であった。

 また、同社は、このほか2工場でシロップや着色糖を生産しており、ドイツ北東部でも、2009年にDanisco Sugar社から買収した1工場でてん菜糖を生産している。

 なお、同社は、生産割当によって生産を制限されていたてん菜糖のほかに、輸入甘しゃ粗糖を原料に、年間18万トン程度の精製糖も生産・販売してきたが、生産割当廃止後は、精製糖の生産を縮小し、てん菜糖の生産を拡大する予定である。

(4)砂糖の需給をめぐる情勢
 砂糖の需給を見ると、消費量は90万トン台で推移している(表9)。なお、Suiker Unie社によると、同社の販売仕向けは、直接消費用が1割で、Royal Cosanのグループ企業での使用を含む業務用が9割を占めている。同社の砂糖は、「Van Gilse」というブランドで流通しており、菓子向けの着色糖などが幅広く製造、販売されている(表10写真2)。

 輸入量については、年度によって増減があるが、近年は3040万トン程度の水準である。EU域外の主な粗糖輸入先国は、ジンバブエやジャマイカといったACP諸国である。

 
輸出量については、近年は40万〜50万トンで推移している。主な輸出先は、近隣の英国やベルギー、ルクセンブルクおよびイタリアである。
 

表9 オランダの砂糖需給

表10 オランダの砂糖小売価格

写真2 お菓子などへの使用例(右)が記載された多様な小売製品(左)

(5)EUの砂糖政策の影響
 オランダの砂糖政策は、EUの砂糖政策に基づき実施されているのみであり、砂糖産業に対するオランダ固有の直接的な支援はない。

ア.生産割当
 砂糖の生産割当数量を見ると、2006年改革以降、段階的に追加で割り当てられたため、2007/08年度には93万1435トンに増加した(表2)。しかしながら、2008/09年度以降は80万4888トンに削減されたことから、Suiker Unie社は2007年、CSM社の製糖部門を買収し、国内の製糖企業は1社に集約された。

イ.てん菜取引価格の支払い
 オランダのてん菜取引においては、欧州委員会が設定する生産割当内の最低取引価格水準(2009/10年度以降は1トン当たり26.5ユーロ〈3180円〉、基準糖度16度)に、Royal Cosanの収益が上乗せされててん菜生産者に支払われてきた(表11)。

 
生産割当廃止後の2017/18年度については、基準糖度が17度に、てん菜最低取引価格が1トン当たり32.5ユーロ(3900円)に、それぞれ引き上げられる予定である。これは、高品質なてん菜の受け入れを増やすとともに、生産者に対し、ばれいしょなどの他作物からてん菜への転作を促すためとしている。

 
なお、てん菜搬入時に生産者は立ち会わず、収穫作業の受託業者が納入証明書を持参し、計量と品質検査が行われ、搬入数量が確認される(写真3)。搬入数量が契約数量の15%未満または10%超過となった場合、取引価格が減額されることとなっている。

表11 生産割当制度下におけるオランダのてん菜取引価格の推移

写真3 てん菜の搬入

ウ.企業の動き(Suiker Unie社)
 Suiker Unie社は、生産者組合Royal Cosan の製糖部門を担う企業として、1908年に設立された。てん菜からの価値の創造を理念に活動し、組合員かつ株主である8000人強のてん菜生産者へ利益を還元している。収益が上がるほど生産者へ支払うてん菜取引価格が高くなることから、同社は製糖事業のほか、糖みつからのエタノール生産や飼料向けビートパルプの販売、バイオプラスチックなどバイオマス製品の研究開発などにより、経営の多角化を図っている。

(ア)生産割当廃止後の見通し
 同社は、前述の通りてん菜最低取引価格の引き上げを行うことで、主に既存の生産者の収穫面積が拡大し、生産割当廃止後のてん菜収穫面積は、2017/18年度に8万4500ヘクタール、2018/19年度に8万8000ヘクタールへ拡大すると見込んでいる。

(イ)製糖能力の段階的な増強
 同社は2013年以降、総額2億ユーロ(240億円)をかけて、製糖工場設備の増強を行った。2013年には、Dinteloord工場に二つ目のシックジュースタンクを完成させ、タンク内のシロップを原料とした製糖期間の延長を実現し、需要への柔軟な対応を可能にしている(写真4)。このため、2015/16年度は5月まで製糖を続けることができた。
 2017年以降も同工場で、三つ目のシックジュースタンクの増設やてん菜洗浄設備の新設が予定されている。

 


(ウ)輸出拡大と物流の合理化
 2016年12月の聞き取りによると、同社は輸出先国の中でも、恒常的に消費量が生産量を上回り需要が見込まれる英国とイタリアへの輸出をさらに拡大したいとしていたが、英国については、EU離脱の動きが注目される。また、今後はEU域外への輸出も、需要の見込まれる北アフリカや中近東を中心に、拡大したいとしている。英国の輸出企業であるED&F Man社とのジョイントベンチャー企業であるlimako社に数百万ユーロを投じ、北部のエムスハーゲンに所在するシュガーターミナルを中核として、生産割当廃止後に増産が見込まれる砂糖の輸出体制の強化を進めている。

 なお、国内向け小売製品の物流についても、運送業者と提携し、コンピュータ管理による新たな倉庫・配送センターをDinteloord工場の近隣に整備し、合理化を図っている。

(エ)持続可能な砂糖生産に向けた取り組み
 同社は、てん菜の茎葉部や根端部およびビートパルプなどを発酵してバイオガスを発生させ、工場内に循環して利用できる体制を整え、エネルギー消費量の削減や二酸化炭素排出量の抑制に取り組んでいる。同社は国内最大のバイオガス生産企業であり、一般家庭向けの供給も行っている。また、工場内の電力はバイオガスを主力燃料とした自家発電で賄っている。

 同社は、このような循環型生産の取り組みなどが評価され、コカ・コーラ社により、同社へ砂糖を供給する全世界の企業の中から、2年連続で最優秀企業として表彰されている。また、ネスレ社、ユニリーバ社、ダノン社が共同設立したthe Sustainable Agriculture Initiative(SAI)にも、持続可能な農業と食品製造のサプライチェーンを構築する最高水準の食品製造企業として格付けされている。

コラム 合理的製糖研究所(IRS)の取り組み

 オランダの合理的製糖研究所(IRS)は、1930年の設立以降、持続的なてん菜生産の実現と生産者の収益性向上を目的に、主に生産者組合Royal Cosanの出資を基に運営され、てん菜の栽培方法の研究や普及などを行っている。圃場の土壌分析、天候条件を基にした出芽日予測システムの提供や機械部品の検査など、生産者の栽培技術向上のための多岐にわたる取り組みを実施している。Suiker Unie社などと共同で、「ビートアフタヌーン」と呼ばれる生産者向けの研究成果発表会や機械を操縦するオペレーター向けの研修なども行っている。このうち、優良品種の選抜と持続可能なてん菜生産に向けた病害虫対策を紹介する。

1.優良品種の選抜
 IRSは、国内で近年発生している主な病害(そう根病、根腐病、葉腐病、黒根病、褐斑病、テンサイシストセンチュウなど)への抵抗性を有する品種の普及を第一目標としている。なお、オランダで普及する全てのてん菜品種は、そう根病に対する一定の抵抗性を有している。また、ほぼ全ての生産地域でテンサイシストセンチュウの発生があるが、抵抗性品種の普及を進めることで、常態化している南部の海岸沿いなどの粘土質土壌の地域や西海岸中央部の干拓地も含めててん菜栽培が可能となっている。

 IRSは、少なくとも3年間の試験を行い、既存品種の上位四つの品種と比べ、収量、糖分、耐病性が総合的に優れていることを条件に、毎年12月、品種リストとともに生育調査結果を公表している。生産者は、これに基づき次年度用の種子について適切な品種を選ぶことができる。なお、2016年12月現在の品種リストで推奨されている品種の原種メーカーは、ドイツのKWS Saat A.G.社、Strube GmbH & Co. KG社、ベルギーのSESVanderHave N.V./S.A.社、米国のBetaseed GmbH社であり、製糖企業のSuiker Unie社が一元的に種子を生産者へ配布している。

 種子の主な流れは、(1)原々種メーカー→(2)原種メーカー→(3)採種メーカー→(4)コーティング加工メーカー(発芽促進剤や病害虫防止剤でコーティングを行い、種子の大きさを均一にする〈写真〉)→(5)Suiker Unie社(生産用種子の配布)→(6)生産者となっている。
 


 

2.持続可能なてん菜生産に向けた病害虫対策
 IRSは、薬剤の使用量を抑制し、環境負荷の低減とコスト削減を両立する病害虫対策を研究し、生産者へ普及している。

 一般的な病害虫対策として、(1)土壌分析や圃場観察を踏まえた適切な抵抗性品種の導入(2)早期の播種による被害の抑制(3)てん菜圃場の多様な生態系(害虫の天敵や送粉昆虫を含む)の保護に努めた適切な殺虫剤や殺菌剤の選択および散布(4)葉物野菜と根菜の交互栽培や緑肥(マメ科やアブラナ科など)を取り入れた、4年周期(砂地の圃場にあっては6年周期)での輪作−といった取り組みを推奨している(表)。また、汚染地域で使用した器具類の消毒や作物残渣の処分の徹底も指導している。

 なお、オランダでは2015年2月から、農薬モニターシステムが導入されている。同システムは、従来のてん菜栽培前に提出する農薬計画とは異なり、栽培期間中の圃場観察が求められ、栽培終了から2カ月以内に報告書を提出する必要がある。同報告書は、土壌や病害虫被害の状況、使用した資材の種類と環境負荷軽減のために講じた措置などを年度ごとに記録する様式となっており、その導入により、生産者も自らの対策を評価できるようになった。

 

おわりに

 EU域内の主要砂糖生産国は、2017年9月末の生産割当廃止後の増産に向けた取り組みを進めている。
 このうち、最大のてん菜糖生産国であるフランスでは、政府主導の砂糖産業振興目標が示され、さらなる製糖コストの抑制と実需者を含めた業界全体の体制強化を通じ、EU最大の砂糖産業としての地位の維持と国際市場への輸出拡大が図られている。

 一方、第5位の生産国であるオランダでは、てん菜生産者と製糖企業が一体となって、製糖企業の経営多角化や持続可能な砂糖生産の取り組みが進められ、世界的な大手実需者のニーズに応える生産体制が整備されてきている。
 両国の砂糖産業の動向がEU域内のみならず世界の砂糖需給に与える影響について、今後も注目していきたい。

写真5 Suiker Unie社 Dinteloord工場

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