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新規水溶性食物繊維素材「難消化性グルカン」の特性と用途

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最終更新日:2017年5月10日

新規水溶性食物繊維素材「難消化性グルカン」の特性と用途

2017年5月

日本食品化工株式会社 研究所研究三課 研究員 平井 宏和

【要約】

 難消化性グルカン(商品名:フィットファイバー#80)は、グルコースシラップを原料に活性炭共存下で加熱して得られる新たな水溶性食物繊維素材である。難消化性グルカンは食物繊維強化用途のみならず、味質や色、物性、ハンドリング性に優れ、さまざまな生理機能を併せ持つ低カロリー素材として幅広い食品への活用が期待される。

はじめに

 グルコースをはじめとする各種単糖やオリゴ糖は、酸触媒下で加熱すると多糖化(重合)することが従来知られていた。難消化性グルカンは従来の酸触媒の代わりに、古くからアミノ酸工業や製糖工業において脱臭・脱色の目的で工業的に大量に使用されてきた活性炭を反応触媒とすることで得られる新たな水溶性食物繊維である。本稿では、水溶性食物繊維「難消化性グルカン」(商品名:フィットファイバー#80)について紹介する。

1.難消化性グルカン(フィットファイバー#80)とは

 難消化性グルカンは、グルコースシラップを活性炭存在下で常圧または減圧条件で加熱縮合して得られるグルコースポリマーの内、消化抵抗性を示す食物繊維画分である1)。フィットファイバー#80は難消化性グルカン含有シラップであり、活性炭存在下でグルコースシラップを加熱する工程以外は、一般的な水あめと同様の工程(ろ過、脱色、脱臭、脱塩および濃縮)を経て製造される。

 フィットファイバー#80の重量平均分子量は約2000であり、食物繊維含量は酵素−HPLC法(AOAC2001.03)にて測定すると無水物換算で約80%であることが確認されている(製品規格値は75%以上)。図1に食物繊維画分である難消化性グルカンの推定構造を示す。NMR分析、メチル化分析により、難消化性グルカンはα,βのいずれのグルコシド結合も含み、1,6-結合を主とし、1,2-、1,3-ならびに1,4-結合を有する多分岐多糖であることが確認されている1)。さまざまな結合様式がランダムに存在する構造が消化酵素による加水分解抵抗性を高め、食物繊維として機能する要因である。
図1 難消化性グルカンの推定構造

 フィットファイバー#80を用いたAmes試験、ラットに対する単回経口投与毒性試験および90日反復投与毒性試験では、いずれも異常は認められていない。一般的に難消化性の糖質は多量に摂取した際に一過性の下痢を生じることが知られているが、フィットファイバー#80の下痢に対する最大無作用量は体重キログラム当たり0.9グラム(無水物換算)以上であり、糖アルコールや難消化吸収性オリゴ糖より許容値が高い2)。これらの安全性データは毒性学・栄養学・臨床薬理学の学識経験者によって厳密に審査され、2016年に米国食品医薬品局(FDA)の定めるSelf-Affirmed GRASGenerally Recognized As Safe:一般に安全と認められる食品)を取得した。

2.フィットファイバー#80の諸性質

 フィットファイバー#80は淡黄色のシラップである。その粘度は水あめと同程度で、水への溶解性が高い。甘味度は砂糖の10分の1程度であり、酸触媒を使用しないことから酸味やエグ味のないスッキリした自然な味質が特長である。フィットファイバー#80は酸性条件下やアミノ酸共存下において100度以上の加熱を受けても着色などの変化を受けにくい安定性の高い素材であることが確認されている。

3.難消化性グルカンの消化管内動態およびエネルギー値

 フィットファイバー#80から単離した難消化性グルカンを健常人が摂取したときの血糖応答および呼気中水素ガス排出量を確認した。図2に難消化性グルカンまたはグルコースを30グラム摂取したときの血糖応答を示した。グルコースを摂取した場合、血糖値は摂取30分後にピークを迎え、摂取90分後には摂取前と同程度にまで戻る。一方、難消化性グルカンを摂取した場合、血糖値に大きな変動は認められなかった。食物繊維やオリゴ糖などの難消化性成分は、大腸内で腸内細菌により発酵を受けると副産物として水素ガスが産生される。産生された水素ガスは呼気中に排出されるため、呼気中の水素ガス量の変化は大腸内での腸内細菌による発酵の指標となる。フラクトオリゴ糖(FOS)は小腸で消化吸収されず、大腸において腸内細菌により完全に発酵されることが知られている。腸内細菌の発酵産物をヒトが吸収して得られるエネルギーは1グラム当たり2キロカロリーであるため、FOSのエネルギーは同2キロカロリーとされている。図2に難消化性グルカンまたはFOSを5グラム摂取し、その後14時間で排出された呼気中の水素ガス量を示した。難消化性グルカンを摂取した場合、呼気中に水素ガスはほとんど検出されなかった。以上の消化管内動態から難消化性グルカンのエネルギーは同0キロカロリーであることが確認された3)。フィットファイバー#80は難消化性グルカンを固形分当たり75%以上含むが、残りの約25%は同4キロカロリーの糖質である。そのため、フィットファイバー#80のカロリーは固形分当たり同1キロカロリーである4)
図2 難消化性グルカン摂取後の血糖応答(左)および呼気中の水素ガス量(右)4)

4.難消化性グルカンの生理機能

 一般的に、食物繊維には糖質代謝改善、排便改善効果(整腸効果)、プレバイオティクス効果、ミネラル吸収促進などさまざまな生理機能のあることが知られている。ここでは食物繊維としての難消化性グルカンの生理機能について紹介する。

(1)整腸効果

 排便回数が週3〜5回である男女70人を対象に難消化性グルカンを2週間連続摂取した時の整腸効果について、プラセボを対照とした無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した。難消化性グルカン5グラムまたは対照素材5グラム(デキストリン)を1日1回2週間摂取させた。その結果、難消化性グルカンを摂取した場合、排便日数および排便量は増加し、排便回数は対照素材摂取時と比較して有意に増加した(図3)。他にも、ラットを用いた検討ではプレバイオティクス効果やふん便水分量の増加が確認されており、ヒトにおいても同様の効果が発揮されると推察している。
図3 整腸効果:排便回数(左)、排便日数(中央)、排便量(右)の変化量

(2)食後の血糖上昇抑制効果

 食後の血糖値が上昇しやすい男女62人を対象に、食後の血糖上昇抑制効果について、無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験を実施した。被験者は負荷食品と難消化性グルカン5グラムまたは対照素材(デキストリン)5グラムを同時摂取した。摂取前、摂取後に血糖値を測定した結果、難消化性グルカン摂取時は対照素材摂取時と比較して摂取60分後、90分後の血糖値が有意に低かった(図4)。また、難消化性グルカン摂取時の血糖値濃度時間曲線下面積(AUC)についても対照と比較して有意に低い値を示した5)
図4 難消化性グルカン同時摂取時の食後血糖値

5.難消化性グルカン(フィットファイバー#80)の利用研究

(1)食物繊維強化用途

 日本では、食品表示基準に規定された量を配合することで、栄養強調表示を行うことができる。食物繊維の場合は、食品100グラム中に3グラム以上で含む旨(「含有」「入り」など)が、食品100グラム中に6グラム以上で多く含む旨(「高含有」「たっぷり」など)が最終製品に表記できる(飲料の場合は100ミリリットル当たりそれぞれ1.5グラム以上、3グラム以上)。フィットファイバー#80は低甘味で自然な味質であるため、配合量を増やし食物繊維含量を増加させた場合でも、基の食品素材の味質を損なうことがない。本素材の使用のみで強調表示に対応する製品設計が可能であるのはもちろんのこと、食物繊維を含む製品に上記基準を満たすまでフィットファイバー#80を加えて強調表示をする、といったアプローチも可能である。

(2)高甘味度甘味料との併用

 近年の健康意識の向上に伴い低糖質食品が多く流通しているが、同分野にも難消化性グルカンは活用できる。食品表示基準において炭水化物の食物繊維を除いた成分が「糖質」と区分されている。フィットファイバー#80は無水物換算で75%以上が食物繊維であるため、約25%しか糖質を含んでいない。仮に食品中に使用している砂糖、水あめ、異性化糖といった糖質を本素材に全量置き換えた場合、糖質は4分の1となり、カロリーを低減することができる。一方、フィットファイバー#80は低甘味のため、本素材で砂糖などを置き換えた場合、甘味の調整が必要となる場合もある。最終製品に容易に甘味を付与できる素材として高甘味度甘味料が代表的であるが、フィットファイバー#80はステビア、スクラロースまたはアセスルファムカリウムといった高甘味度甘味料と併用したとき、甘味の増強やボディ感アップといった効果があることを確認している (図5)。
図5 高甘味度甘味料と併用時の甘味イメージ

(3)物性改良用途

 フィットファイバー#80の粘性はデキストリンに近く、そのため食品や飲料へのコク・ボディ感付与が期待できる。野菜ジュースへフィットファイバー#80を添加した場合、デキストリン同様にボディ感を付与できることを確認している。加えて、多分岐構造のフィットファイバー#80は、らせん構造を有するデキストリンと比較して味や香り成分を包接しにくい(図6)。つまり野菜やフルーツの味や香りをマスキングせず、野菜ジュースの味に厚みを持たせることができる。また、フィットファイバー#80はデキストリンや既存の水溶性食物繊維よりも油脂の乳化安定効果が高く、乳化直後の油脂粒子の状態がきめ細かいことを確認している。アイスクリームに添加すると乳味感の増強、和風ドレッシングに添加すると油感、しょうゆ感の増強が期待できる。

 このほかにも、生理機能を追及した機能性食品への配合が考えられる。前述したように、難消化性グルカンには整腸効果や食後の血糖上昇抑制効果が確認されている。2015年4月より施行された機能性表示食品制度に対しては、届出書類作成の支援など積極的にサポートする体制を整えている。また、新たな生理機能の解明についても積極的に取り組み、食物繊維素材の可能性を追求していく予定である。
図6 デキストリンおよびフィットファイバー#80の溶液中におけるイメージ

おわりに

 難消化性グルカンは、酸触媒や抽出法で得られる既存の食物繊維素材に比べて、風味や色、食品加工におけるハンドリング性のみならず、価格面でも優れた食物繊維素材である。食物繊維にはさまざまな生理機能が確認されており、その有効性が認識され始めているものの、成人男女共に1日当たりの摂取量が5〜7グラムも不足しているのが実態である6)。難消化性グルカンは、食物繊維の不足を補うと同時に美味しさを提供する素材として、人々の食生活と健康の維持・増進に貢献できると期待している。

参考文献

1N. Hamaguchi et al2015)『Journal of Applied Glycoscience62, pp7-13

2H. Bito et al2016)『The Journal of Toxicological Sciences411,pp33-44

3S. Nakamura et al2016)『Nutrition & Metabolism13

4)一般社団法人 食物繊維学会「ルミナコイド素材のエネルギー評価の考え方と難消化性グルカン」『難消化性グルカン組成物ならびに還元難消化性グルカン組成物のエネルギー評価結果』(2016年9月7日)

5H. Hirai et al 2016)『Jpn Pharmacol Ther in Japanese)』4410, pp1455-1462

6)厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2015年版)

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