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ベトナムの伝統的な砂糖生産を訪ねて(その2)

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最終更新日:2017年6月9日

ベトナムの伝統的な砂糖生産を訪ねて(その2)
〜グラニュー糖から作る含蜜糖とサトウキビから作る含蜜糖〜

2017年6月

昭和女子大学国際文化研究所 客員研究員 荒尾 美代

【要約】

 ベトナム中部では、半円球状の含蜜糖「ドン・バ」が製造されていた。この含蜜糖を二つ合わせると球状になり、『和漢三才図会』が伝える「毬糖」か!?と、心躍った。  
 ドン・バは、サトウキビを「原料」にして分蜜という工程を経ないで製造されるものとこれまで思っていたが、18年ぶりにベトナム中部を再訪すると、グラニュー糖に糖蜜を加えて製造されるものも存在した。  
 また、現地の人々は、真っ黒のドン・バではなく、茶色や黄みがかったものを嗜好する傾向があることがうかがい知れた。
 前号から引き続き、ベトナムの伝統的な砂糖生産の18年前と「今」を報告する。今回は、分蜜されていない砂糖についてである。

1.『和漢三才図会』が伝える 「毬糖」か!?

 ベトナム中部はかつて交趾(こうち)と呼ばれていた。
 江戸時代、まだ日本で砂糖の国産化に成功していない頃、この交趾産の黒砂糖が一番質が良かったと、日本で初めての絵入り百科事典である『和漢三才図会』が伝えていることを前号で記した。

 この『和漢三才図会』には、砂糖の形状についての記述もある。「(タマナル)者ヲ毬-糖ト為」と、球状の砂糖があったことを伝えている(写真1)。

 18年前にベトナム中部を訪れた際に、クアンナム省のかつての国際貿易都市ホイアンの市場で半円球状の含蜜糖を見たとき、これこそ、『和漢三才図会』が伝える「毬糖」ではないか?と、心躍った。
 半円球状の黒砂糖を二つ合わせると球状になるからである!

写真1 『和漢三才図会』に記述が残る「毬糖」

2.半円球状の砂糖「ドン・バ」の製造法

 クアンナム省ホイアンから車で1時間ほどのクエソン村にて18年前に採録した、現地で「ドン・バ」と呼ばれる半円球状の分蜜しない砂糖の製造法を紹介しよう。

 伝統的な手工業的砂糖生産工房(以下「工房」という)のオーナーであるヌエン・ヴァン・トゥオングさんは、おじいさんの代からドン・バの製造を始めた。父親の代まで圧搾機の動力源は、牛を動力としていたが、現在はモーターを使用している。また、5年前に釜を三つから五つに増やした。

 この工房では、同氏が所有する圃場(ほじょう)()のサトウキビからドン・バを製造するだけではなく、近隣の農家に機材一式を貸し出して、ドン・バの製造が行われている。

 同氏によると、1999年は、2月中旬からドン・バの製造を始め、4月下旬に終わる予定とのことであった。  

[製造工程]
(1) モーターで圧搾機のローラーを約30分間回転させて、1回分(1鍋分)のサトウキビを圧搾する。
(2) 1列に五つの鍋が並んだ釜の一つ目の鍋に、サトウキビの搾り汁を入れて煮詰めていく。約10分すると一つ目の鍋が沸騰してくる。それを二つ目、三つ目、四つ目、五つ目の鍋に入れて約20分間加熱していく。
(3) 煮詰め上がった濃縮糖液を、三つの桶に分け入れ、3人がそれぞれの桶を抱え込むようにして、すり鉢にすりこ木を当てる要領で攪拌していく(写真2)。結晶が析出し、冷めるにしたがって粘度が増してくる。かき混ぜている時間は5分強だった。

写真2 濃縮糖液を攪拌して結晶を析出させる

(4) まだ熱くて流動性がある結晶が析出している濃縮糖液をステンレス製のボウルに入れていく(写真3)。

写真3 濃縮糖液をボウルに入れる(ボウルは44個並べられている。攪拌した濃縮糖液をボウルの八分目ほどまでまず入れていく。その後、冷えて粘度が増した底部の半固化状態になっている砂糖をその上に乗せるように流し込む)

(5) 三つの桶の底の方に残っている半固化状態の砂糖を一つの桶にまとめてから、先に入れたボウルの上に流しいれ、盛り付けるように形を整えていく。
(6) ボウルから取り出すと、半円球状のドン・バの出来上がりである(写真4)。

写真4 18年前のヌエン・ヴァン・トゥオングさん(固まったドン・バをボウルから外しているところ)

 この工程を1日平均20回行う。1工程では、半円球状のドン・バが平均44個製造することができるが、地元の仲買人に販売する場合は二つを重ねて円球状にして売るため、商品点数は22点となる。同氏は、このドン・バを1点(半円球状のドン・バが2個)当たり6000ドン(48円〈1993年3月TTS相場の平均値:1ドン=0.008円〉)で販売していた。

3.ドン・バの等級

 出来上がるドン・バの色は、(1)サトウキビそのものの質(2)石灰の量とそれを加える技術(3)サトウキビの搾り汁に含まれる水分の量−によるという。
 そして、ドン・バの値段は、その色によって三つの等級に分けられるという。

 最も低い等級の色は黒色で、1点5000ドン(40円)である。同氏のドン・バのランクでもある中位等級の色は茶色で、先に述べたように1点6000ドン(48円)である。最上位のドン・バは黄みがかり、1点8000ドン(64円)と中位等級の約1.3倍の高値で取引される。同氏はまだ最上位のドン・バを製造したことはないが、作り方は難しくないと言っていた。

4.現代におけるドン・バ製造

 あれから18年後の2017年3月1日、トゥオングさんを訪ねた(写真5)。トゥオングさんの家族も私のことを覚えていてくれた。

写真5 2017年再訪した際にお会いしたヌエン・ヴァン・トゥオングさんご一家

 62歳になっていたトゥオングさんは、5年前にドン・バの製造を止めたという。理由は、若者の多くが集落を離れ、都市部へ移り住んでしまったことにより、労力を要するドン・バの製造を補助する人材が確保できなくなったからという。そこで同氏は作業が比較的簡単なピーナツオイル作りに切り替えており、収入は、ドン・バを製造していた5年前と変わらないという。

 そこで、なおも残るドン・バを探し求め、クアンナム省ホイアン市にあるホイアン市場を訪ねた。18年ぶりに訪れたホイアン市場は、建て替えられきれいになっていた。砂糖は、穀物売り場にあり、そこには、近代的な工場(以下「ミル」という)で生産されたグラニュー糖が並んでいた。白色のほか、うっすらと茶色いもの、そして、驚いたのは、オレンジ色に着色されたグラニュー糖があったことだ(写真6)。いずれも値段は、1袋500グラム入りで9000ドン(45円〈2017年2月末日TTS相場:1ドン=0.005円〉)である。

 半円球状のドン・バもあった(写真7)。黒・茶色、そしてオレンジ色のグラニュー糖から作られたドン・バもあった。オレンジ色と黄色の中間色のような色目である(写真8)。1個当たり約650グラムで1万5000ドン(75円)である。この時ホイアン市場に入荷されていたドン・バは、ホイアン市があるクアンナム省地域で製造されたものだということを市場関係者から教えてもらったので、早速ドン・バを製造している工房を訪ねた。
 

写真6 ベトナム中部クアンナム省ホイアン市ホイアン市場(オレンジ色に着色されたグラニュー糖もある)

写真7 ホイアン市場で売られていたドン・バ(これも、グラニュー糖を「材料」にして作られたドン・バだという)

写真8 オレンジ色のグラニュー糖から作られたドン・バ

(1)グラニュー糖が主材料のドン・バ

 トラン・タイ・トゥエ(53)さんの工房は、グラニュー糖を材料にして製造しており、サトウキビを圧搾する機械や工程が不要なため、鍋が一つの釜があるだけだった(写真9)。しかしながら、年間70トンのグラニュー糖を使ってドン・バを製造するという同氏の工房は、グラニュー糖の大袋が積まれた、「加工所」というのが似つかわしい佇まいだった(写真10)。

写真9 グラニュー糖からドン・バを作る工房は、鍋も一つで小ぢんまりしていた

写真10 後ろに積まれた白い袋が、ミルで作られたグラニュー糖の袋

 27サオ(sào、9720平方メートル〈1サオ=360平方メートル(注1)〉)の田畑を所有するトゥエさんによると、ドン・バは38年前から製造を始めたという。当初は、サトウキビを圧搾して製造していたが、気候の変化とサトウキビ栽培の収入が低かったことから、15年前からミルで生産された白いグラニュー糖を使うようになったという。

 1回当たりグラニュー糖35キログラム、パームシュガー5キログラム(写真11)、水10キログラムに、購入した糖蜜(写真12)を加えて製造する。ベトナム南部から仕入れたパームシュガーの塊と糖蜜を加えることによって、パームシュガーが味に風味を、そして糖蜜が着色と味の決め手となり、茶色いドン・バが製造される。

 ベトナム南部ではパームの木からも砂糖が作られている。パームシュガー(注2)はサトウキビと違って独特の風味があり、私は好んでいる。ドン・バの売値は1個約850グラムで1万1500ドン(58円)だという。

(注1)1サオは、メートル換算で470平方メートルとする地域もある。
(注2)ヤシ糖ともいう。

写真11 ベトナム南部から入手したパームシュガーを少し混ぜる

写真12 ベトナム南部から購入した糖蜜(これを混ぜることによって茶色くなる)

(2)今なお残るサトウキビを原料としたドン・バ

 一方、ホイアン市場の関係者から、クアンナム省内陸部の山中にあるBinh Yen村では、今もサトウキビの搾り汁からドン・バを製造しているという情報を得た。ホイアン市から車で内陸側に向かって約2時間、曲がりくねる山道を走り、いくつかの山を越えたところにその地はあった。

 オーナーのヴァン・リーさんは、14年前に圧搾機や釜を購入してドン・バの製造を始めた。当初は、2サオ(720平方メートル)の土地からサトウキビの栽培を開始したが、集落を離れた農家からサトウキビ畑を購入するなどして、現在は20サオ(7200平方メートル)の土地で栽培している。

 ドン・バの製造は11月から12月の2カ月間に、1日平均10回行い、合計200個を製造する。売値は、1個(800グラム)当たり2万5000ドン(125円)である。

 年間の売上は約8000万ドン(40万円)で、経費を控除した手取り収入は4000万ドン(20万円)である。なお、14年前までの年収は500万〜1000万ドン(2万5000〜5万円)の間であったという。
 ドン・バの製造に必要な圧搾機と釜は、自宅から少し離れたサトウキビ畑の真ん中にあった(写真1314)。

写真13 工房の全様

写真14 鍋は五つで、右手側がたき口である

 刈り取りが終わった畑にはすでにサトウキビが植え付けられていて、茎の節から伸びた新芽が10センチから30センチくらいまで成長していた。工房にある圧搾機は、ローラーが六つで3個ずつを縦に配し、その間にサトウキビの茎を差し込むという初めて見る構造だった(写真1516)。サトウキビの茎が接する圧搾面が長くとれ、6メートルはありそうな長い茎を差し込むには、効率が良さそうなのは想像がつく。ローラーの高さは50センチもなく、土台、脚部を含めてもコンパクトな設計である。

 この辺りの地域では、ミルで生産されたグラニュー糖を材料にしてドン・バを製造する人はいないという。在庫としてわずかに残されていたドン・バは、ずっしりと重かった(写真17)。

 

写真15 リーさんのサトウキビ畑

写真16 圧搾機

写真17 サトウキビから作られたドン・バを手にするリーさんと奥様

おわりに

 この18年という歳月の間に、ドン・バの製造を止めた人、新たに始めた人、「加工品」のドン・バの製造に切り替えた人と、三者三様の歩みがあった。

 クアンナム省の山間の村で1軒、サトウキビの搾り汁を煮つめて作る含蜜糖ドン・バが存在したことは、「伝統」の底力を見たような気がする。

 一方で、「加工品」となったドン・バも、「伝統」の継承の上に成立している商品であることは言うまでもない。見た目は同じ。(1)サトウキビを「原料」にして作る半球状のドン・バ(2)グラニュー糖を「材料」にして作る半球状のドン・バ−違うストーリーのドン・バは、最初は別物に感じたが、「伝統」の味は同じだった。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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