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南ドイツ畑作地域における大型農業機械の効率的運用

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最終更新日:2017年9月11日

南ドイツ畑作地域における大型農業機械の効率的運用

2017年9月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター
大規模畑作研究領域 主任研究員 若林 勝史

【要約】

 北海道畑作とほぼ同規模にある南ドイツの畑作地域では、農産物価格の低下による所得率の低下や規模拡大による機械投資の負担増大が課題化する中で、大型機械を効率的に運用するさまざまな取り組みが進められている。近年は、ICT農業技術を活用したトランスボーダーファーミングといった新たな取り組みも始まっており、機械の効率的運用とコスト低減が図られている。

はじめに

 大規模専業的な農業経営を展開する北海道畑作地域においても、少子高齢化の影響などから農家数の減少が進行し、その農地の引き受け手となる担い手農家の経営規模は拡大の一途をたどっている。近年は、慣行機械体系の限界規模とされた50ヘクタールを超える経営も数多く見られるようになり、広大な農地を効率的に作業・管理するために、海外製の大型トラクタや大型収穫機、さらには全球測位衛星システム(GNSS)による自動操舵システムなどの情報通信技術(ICT)を活用した農業技術の導入が急速に進んでいる。こうした大型農業機械・ICT農業技術の導入は、作業能率の面で大きな効果をもたらしているが、一方で機械に見合った稼働率を確保できないことでコストの増大を招くことが懸念されている。今後、急激な規模拡大が予想される中で、省力化と機械コストの低減を両立させることは北海道畑作の一つの課題であり、そのためにも地域で大型農業機械の効率的運用方策を確立していくことが求められる。

 この点に関わって、過去に同様の課題を抱えてきた欧州の畑作地域、特に南ドイツでは今日までに農業機械運用の効率化に向け、地域ぐるみでさまざまな取り組みを構築し、機械コストの低減を図ってきている。本稿では、そうした南ドイツ畑作地域における大型農業機械の運用に関わる現地事例について紹介する。

1.南ドイツ畑作地域の農業

 2016年6月に南ドイツ(バイエルン州、バーデン・ビュルテンベルク州)を訪問し、大型農業機械の運用に関わるエトレーベン、ウルゼンハイム、リートハウゼンの事例調査を行った(図1)。

図1 調査事例地域の位置

 表1は、南ドイツと北海道畑作の代表地域の一つである十勝地域の農業構造を比較したものである。2010年時点の平均経営面積は、十勝地域の37.4ヘクタールに対し、南ドイツは約32ヘクタール、また50ヘクタール以上の割合はいずれも20%前後と非常に類似した経営規模にある。一方で作付け構成を見ると、南ドイツは麦類や油脂用種が多くを占めており、根菜類を含む十勝地域の輪作体系と比べると非常に省力的な作付け構成となっている。そのため、後の事例地域で見るように、南ドイツでは兼業農家でも数十ヘクタール規模の畑作経営が成立している点が北海道畑作とは異なる点である。

 またドイツでは、これまでにEU共通農業政策の下での単一市場形成や、その後の価格支持政策の廃止などによって、農産物価格の下落や著しい離農に直面してきた。それにより既存の経営は規模拡大を迫られ、機械化一貫体系の導入や、その大型化が進められたが、その投資負担は経営を圧迫することにもつながったため、南ドイツでは早くから大型機械の稼働率向上と低コスト化を図るための効率的な運用体系を模索・構築してきた。

表1 南ドイツと十勝地域の農業構造(2010年)

2.農地集約化による農業機械の効率的運用−エトレーベン

 エトレーベンは、農家数11戸、耕地面積625ヘクタールの地域である。エトレーベンに限らず南ドイツの多くの地域は、圃場(ほじょう)整備が十分でなく、非常に狭隘(きょうあい)な圃場が多い状況にある。エトレーベンの平均圃場区画は1.13ヘクタールで、大型機械の作業能率を阻害する要因となっていた。そのため農家個々に借地の交換や合筆を行ってきたが、既存の区画は不均一で等価に交換できるケースが限られているため、農地の集約化はなかなか進まず、2000年時点の作付け区画は373区画、1区画当たり平均1.68ヘクタール程度への拡大にとどまっていた。

 そこで農業機械の効率的運用を図るために、2000年に地域の農家11戸が自主的に集まり、郡の農業アドバイザーやITコンサルタントを交えながら、効率的な農地の集約化方策について検討した。そして、新たな方策として、GNSSや地理情報システム(GIS)などICT農業技術を活用して既存の圃場区画にとらわれずに区画を再設定することで農地の集約化を実施することした。既存の区画にとらわれないこと、またGISを利用することで、区画整理後の各農家の農地面積は区画整理前と比較してわずか1%未満の差にとどめることが可能となった。それにより、多くの農地で合意形成・集約化が図られ、結果として集約化後の平均区画を5.76ヘクタールにまで拡大することができた(図2)。さらに注目すべきは、こうした検討・集約化を2000年の春から開始し、翌年の植え付けまでのわずか1年間で実施した点である。農家全員が地域の課題について話し合い、皆が合意できる方法を模索することで、非常に短期間で機械の効率的運用に向けた環境整備を可能にした。

図2 エトレーベンにおける集約化の例

3.機械共同利用による農業機械の効率的運用−ウルゼンハイム

 ウルゼンハイムの農家数は現在21戸で、平均規模は約21ヘクタールである。専業農家は養豚と畑作の複合経営を行い、畑作のみの経営は兼業農家がほとんどである。1990年代のEU共通農業政策における支持価格の引き下げ以降、農家数減少と規模拡大が進行する中で、農家の間では規模拡大に伴って増える機械投資が課題として認識されるようになった。同時に、地域では1988年に広域的な多畦ビートハーベスタの共同利用が始まり、1995年にスプレーヤの共同利用を経験したことで、他の汎用的な機械についても共同利用の可能性がありうると考え、1997年に10戸の農家で機械利用組合(ウルゼンハイムGbR)を設立し、トラクタや耕起・整地機械、播種(はしゅ)機など汎用機械の共同利用を開始した。

 この利用組合は、その運営面においていくつかの特徴を有している。第一に、地域全員が参画する組織ではなく、機械を利用したい農家だけ、目的を同じにする農家だけが参画する機能的な組織であるという点である。第二に、組織の収支バランスを維持するために計画期間の5年間は途中での参画・脱退を認めないルールを設定している。さらに、第三の特徴として機械の購入では、各構成農家の長期的な作付け計画を積み上げて、精緻な年間利用計画を作成し、必要な機械の仕様や台数などの投資計画を策定する(図3)。そして第四に、構成農家は自らの組織として主体的に組織の運営に関わることとし、全員がいずれかの機械の管理責任者となって日々のメンテナンスを行うほか、利用計画や投資計画についても構成員皆で協議し、全員が合意できた場合にのみ実行することとしている。

図3 ウルゼンハイムGbRにおけるトラクタ年間運行計画

 こうした運営によって利用組合は安定的に維持され、構成農家は大きな効果を得ることが可能となっている。ある構成農家の例では、20年間の間に経営規模を42ヘクタールから152ヘクタールにまで拡大したが、トラクタ台数は2台のまま、作業機は14台から4台にまで削減している。そして、利用料金を含めた面積当たり機械費は、機械の稼働率向上によって従来の8割程度にまで削減している(表2)。

表2 機械利用組合の効果(A構成農家の例)

4.トランスボーダーファーミングよる農業機械の効率的運用−リートハウゼン

 リートハウゼンは農家数14戸の地域で、農地は約600ヘクタールに約1400筆の圃場が存在している。機械の効率的運用の観点から2000年に12戸の農家で組合(リートハウゼンGbR)を立ち上げ、農機メーカーなどからの技術的アドバイスも得ながら、トランスボーダーファーミングを開始した。

 リートハウゼンで実施するトランスボーダーファーミングとは、エトレーベンのような農地集約化と、ウルゼンハイムのような機械共同利用、さらに構成農家による共同作業によって、機械の効率的運用を目指す取り組みである。ただし、完全な協業経営とは異なり、構成農家は畑作専業や養豚との複合経営などそれぞれが独自の経営を行っており、互いに共通する作物についてのみ、隣接する圃場を一つの大区画圃場とみなして作業を行う。

 構成農家の経営はあくまで独立しているため、組合に機械や労働を拠出する一方、所有農地の面積やそこでの稼働時間に応じてその料金・労賃差額を支払う(または受け取る)。また、収益に関しては、公平性を期するために、GNSSや収量モニターといった最新のICT農業技術を活用して所有農地に応じた収量を推計し、地力差を考慮した分配が行われている(図4図5)。また、組合の運営については、他の地域の取り組みと同様に、構成農家自らが主体的に関与し、精緻な計画策定や細かな実績記録と四半期ごとの収支計算、案分計算が行われている。そして、組合の運営状況について逐次全員で共有し、皆が納得する運営を心掛けることで、構成農家間の利害衝突を回避している。

図4 リートハウゼンにおけるトランスボーダーファーミングの仕組み

図5 リートハウゼンにおける圃場大区画と収量モニタリング

 リートハウゼンではこの取り組みによって、1)農地の交換なしに大区画化を実現し、2)機械を共同利用することによって稼働率向上と機械費削減を実現している。さらに、3)大区画化によって枕地や旋回が減少し、踏圧軽減によって良好な生育環境を確保できること、また、4)作物や作業ごとにそれを得意とする農家が一括して作業することで、適切な管理が可能となり、組合全体として収量向上が図られている。

おわりに

 南ドイツでは規模拡大によって増大する機械コスト削減のために、農業機械をあくまで生産手段の一つとして捉え、機械の稼働率向上と過剰な投資を抑制するためのさまざまな対応策を模索・構築してきている。そして、それら取り組みは、最新のICT農業技術も取り入れた非常に緻密な計画・評価に基づく合理的側面と、同じ目的を持つ農家が連携して取り組むことのメリットを十分に認識し、常に皆が納得・合意できる組織づくりを心掛ける共同体的側面の絶妙なバランスによって成り立っていた。

 北海道の畑作地域では労働力不足が深刻化する中で、規模拡大に対応するための高性能・大型農業機械の導入が模索されているが、導入に際しては、それら機械をいかに運用するかが重要な課題となっており、一部地域ではこうしたドイツの取り組みを注目する動きも見られる。農業構造や環境の違いもあることから、南ドイツのモデルをそのまま北海道に適用することは難しいと考えられるが、南ドイツの事例がそうであったように、さまざまな取り組みの仕組みや考え方を参考にしながら、地域の皆で議論・合意形成を図り、地域の特質に合った運用体制を構築していくことが重要である。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03‐3583‐9272



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