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種子島における地域農業マネジメントの課題

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最終更新日:2018年5月10日

種子島における地域農業マネジメントの課題
〜サトウキビおよびでん粉原料用かんしょを対象に〜

2018年5月

東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授 中嶋 康博

【要約】

 種子島はサトウキビとでん粉原料用かんしょの輪作体系が出来上がっている。しかし、今後、人口減少と高齢化によって、それらの経営と生産の存続が危ぶまれる事態が予想される。サトウキビでは、ハーベスタの利用や精脱施設の展開によって、将来の人手不足に備えた作業のアウトソーシングの準備が進みつつある。一方、かんしょについては課題が残っている。サトウキビおよびでん粉原料用かんしょの生産から加工までを持続するためには、地域農業マネジメントの構築が必要である。

はじめに

 種子島は、西之表市、中種子町、南種子町の1市2町からなる。外海離島ながら、県内では鹿児島市への定期便による時間距離が最も短い便利な島である。しかしながら、確実に人口減少、高齢化が進んでおり、国勢調査によれば平成17年の総人口は3万4143人、世帯数は1万4803世帯、高齢化率(注)は29.7%であったが、27年の総人口は2万9847人、世帯数は1万3836世帯、高齢化率は34.4%となっている。なお、高齢化率は、鹿児島県平均よりも5%、隣島の屋久島よりも3%高い。

 第一次産業は地域の基幹産業であり、就業者構成比(25年度)で22.2%(鹿児島県9.1%)、総生産額構成比で7.0%(同3.6%)となっている。その中心は農業であるが、過疎化、人口減少、高齢化の影響は避けられず、表1に示す通り、17年から27年の10年間で、販売農家数は24%、自給的農家数は27%減少した。また基幹的農業従事者も25%減少している。

(注)総人口に占める65歳以上人口の割合。

表1 種子島の農家と農地

 その一方で耕地面積はほぼ維持されている。表には示していないが、耕作放棄地面積は17年の525ヘクタールから27年の552ヘクタールと、5.1%増加している。しかし、全国ではこの10年間に耕作放棄地が9.7%増加していることからすると、健闘していると言えるだろう。3ヘクタール以上の規模の販売農家数が増えていることから、この階層が土地を引き受けていることが分かる。

  しかし今後、さらなる人口減少が進むと、地域農業の持続性に大きな問題が予想される。以下では、これまでの地域農業の実態を把握しつつ、今後の課題について検討する。

1.種子島の農業構造とその変化

 種子島における農業生産の実態を作付面積と産出額から把握した(表2)。その中核となるのは、米、かんしょ(青果用を除く)、サトウキビである。米は超早場米として全国的に有名である。かんしょ(青果用を除く)とサトウキビを合わせると、作付面積全体の62%、産出額全体の46%を占めていて(いずれも平成27年)、台風常襲地帯の種子島農業を支えてきた。それでも、26年や29年のように直撃されると台風被害を免れることはできない。

表2 種子島農業の生産状況

 種子島におけるサトウキビ生産について、50年前までさかのぼって推移を確認したのが図1である。サトウキビ農家数は昭和40〜50年にかけて大きく減少し、その後の昭和期に維持されるが、平成期に入って再び減少傾向となり、30年ほどの間に半分以下になった。一方、収穫面積は昭和40年ごろから平成元年にかけて25%ほど増加したが、平成に入って数年間でその増加分が失われてしまう。しかしその後、徐々に面積を伸ばすこととなるのだが、ここ数年再び漸減傾向にある。生産量は単収に大きく左右されている。収穫面積の増加もあって年間20万トン近くの生産量となる年もあったが、ここ数年は15万トンを割り込むこともある。

図1 種子島のサトウキビ生産の推移

 農家数が少なくなったにもかかわらず生産量を維持、向上できているのは、ハーベスタによる収穫作業が普及したからである。現在、種子島のハーベスタ収穫率は82.2%である。島内には、計97台(西之表市農業振興公社5台、種子島農業公社8台、個別受託経営体84台)のハーベスタが稼働している。株出し管理や春植えは収穫と作業が競合してしまうが、公社や受託経営体に収穫作業を委託すれば、農家は改植や肥培管理に集中することが可能となる。

 種子島におけるサトウキビ生産の特徴として、県内他産地と比較すると、糖度が高くならないこと、歩留まりの低いことが指摘できる(表3)。糖度が上がらないのは産地が生産上不利な高緯度に位置しているからで、その対策として植え付け時および株出し管理時にマルチを利用し、できるだけ地温を高めるなどの努力をしている。糖度が高くないために歩留まりも低くなっている。そのために製糖の製造効率が低くなるのだが、それ以上の悪化を懸念して、島内の唯一の工場である新光糖業株式会社(以下「新光糖業」という)はクリーンケーン(注1)での搬入を義務付けている。ハーベスタで収穫したサトウキビの梢頭部などの(きょう)(ざつ)物(トラッシュ)を除くために、()(じょう)での手作業や、島内の集荷拠点に設けられた精脱施設(注2)での作業をしてから工場に搬入するようになっている。

(注1)夾雑物(原料茎以外の梢頭部や枯葉、雑草など)を含まない原料茎。
(注2)収穫したサトウキビを原料茎とトラッシュに選別する中間処理施設。

表3 サトウキビの品質取引実施状況(平成28年産)

 でん粉原料用かんしょはサトウキビの輪作作物としても生産される。表2の作付面積や産出額の動きからも明らかなように、全体的にはかんしょ生産は減少している。平成20年に種子島での総生産量は4万9493トンで、そのうちでん粉原料用に3万9340トン(シェア80%)、焼酎用に7961トン(同16%)、青果用に2192トン(同4%)が仕向けられていたが、27年の総生産量は3万9399トンで、そのうちでん粉原料用に2万6492トン(同67%)、焼酎用に1846トン(同5%)、青果用に1万1061トン(同28%)が仕向けられている。焼酎ブームは過去のものとなり、最近の青果用へのシフトは安納芋のブランド化の成功による。

2.甘味資源作物の経営実態

 農家は、サトウキビとでん粉原料用かんしょを組み合わせて輪作しながら、より高い収益を目指して営農計画を立てている。鹿児島県熊毛支庁作成の経営管理指導指標(平成27年)を基に、サトウキビの作型(春植え、夏植え、株出し)とかんしょ(でん粉原料用、青果用)の経営内容の比較をした(図2)。

 サトウキビとでん粉原料用かんしょの収入には、交付金も含まれている。安納芋は交付金がないが、単価が1キログラム当たり260円であるために、収益が飛び抜けて高くなっている。ただし、全ての等級を平均した単価はその半分程度という情報もあり、サトウキビとの差はもう少し小さい可能性もある。ただ、いずれにしても、安納芋で高い収益を得るには、サトウキビに比べて7〜10倍の労働時間が必要である。

 でん粉原料用かんしょとサトウキビの株出しとを比較してみると、面積当たり農業所得や所得率は同程度の水準だが、でん粉原料用かんしょは面積当たりの労働時間が長い。一方、サトウキビの春植えと夏植えは、でん粉原料用かんしょと比べて労働時間の面で有利だが、農業所得や所得率がかなり低くなっている。これは物財費や作業委託料などのウエートが大きいからである。

図2 経営指標の作目間の比較

 作型によって月ごとの労働時間のパターンは異なってくる。「経営管理指導指標」で示されている月ごとの労働時間は図3の通りである。4月から5月にかけてかんしょの採苗・植え付けのための労働ピークがあり、サトウキビの春植え、夏植え、株出しの作業と競合する。そのために農家の中には夏植えの改植時期をずらし、秋植えとして対応する場合がある。労働時間の割には収益が高くないということになると、でん粉原料用かんしょの栽培を少なくすることになる。

図3 作型別に見た月別労働時間

3.高齢化と今後の農業労働

 表1で示した通り、農業労働の高齢化と担い手不足のために、基幹的農業従事者数が確実に減少してきている。サトウキビ生産を対象に、高齢化の現状と今後の見通しを検討してみよう。

 新光糖業に出荷する経営体の経営主の年齢を5歳区切りの年齢階層で把握し、それぞれの階層の経営体数を平成19年、24年、29年(19年と24年は実際に出荷した戸数で、29年は出荷前の申込数)の3カ年について確認した。そして、この3カ年の実績を基に、34年(29年の5年後)の年齢階層別戸数を予測した。例えば50〜54歳の階層については、19年の45〜49歳の戸数に対する24年の50〜54歳の戸数の倍率と、24年の45〜49歳の戸数に対する29年の50〜54歳の戸数の倍率とを求め、両者の平均値を29年の45〜49歳の戸数に乗ずることで求めた。34年の予測値も含めて年齢階層別の戸数をグラフ化したのが図4である。

 これはこれまでの推移を基に、将来継続する経営体の数を単純に予測したものである。経営継承が成功して存続した経営体もあるし、経営主が高齢化してそのままリタイヤしてしまったものもあるだろう。後者が増えていくと、経営体は急速に減少することになる。19年の経営体数は2565、24年は2349、29年は1762であった。34年は1414になると予測されたが、減少数はやや控えめであり、実際にはもっと減少するのではないかと思われる。

 経営体が少なくなる中で耕作面積を維持しようとすれば、規模を拡大すると同時に雇用労働を増やさなければならない。しかし今後も人口減少が続き、遠隔地では人手不足がますます深刻になってくるであろう。農作業にピークがあっても、これからは季節労働を雇うことで対応することは難しいことが予想される。

図4 経営主の年齢層別に見たサトウキビ経営体数

 雇用が難しければ、機械化を進めなければならないが、それほど規模の大きくない個別の経営体で対応することは難しいであろう。サトウキビの場合、地域でハーベスタを用意して、収穫作業の受委託を進めてきた。このようなコントラクターによる作業のアウトソーシングの仕組みを拡充させることは一つの方策であろう。

 収穫後のトラッシュ除去作業への対応のために、地域として精脱施設の建設を展開しているが、これも作業の一部をアウトソーシングする例である。現在、島内には14カ所の精脱施設が稼働していて、搬入量の約7割をカバーしている(注)。製糖事業者が工場内でトラッシュ除去作業を一括して行うことも考えられる。しかし、ほとんどの工場では搬入時に混雑現象が起きていて、きちんとしたトラッシュ除去を行うことは無理であろう。この問題に対処するには、現在取り組んでいるように、地域内の集荷ポイントを効率的に利用してトラッシュ除去作業をする方が合理的であろう。もちろん、トラッシュを除去せずに製糖作業を行うこともあり得るが、それは製造効率を著しく下げることになる。もちろん精脱施設の建設と運営のコストも検討しなければならない。集荷拠点の選定では、各経営体からの運搬コストに配慮しつつ、施設運転上の規模の経済性が発揮されるようにすべきであろう。

写真 島内にある精脱施設の一つ(中種子町)

 サトウキビについては、将来の労働不足に対応すべく、地域としてのアウトソーシング体制の取り組みが始まっている訳だが、でん粉原料用かんしょについての検討は十分に行われていないようである。しかし経営者は、サトウキビとでん粉原料用かんしょの輪作を組み合わせて作付け計画を立てる。かんしょ部門の収支と労働が不利になれば、おのずと生産は縮小していくであろう。このことはでん粉工場の稼働率に影響して、将来的には今の工場数を維持できなくなるかもしれない。その結果、各経営体は遠い工場に原料を運搬しなければならなくなり、でん粉原料用かんしょの経営がさらに不利になっていく恐れがある。

 将来の労働不足を前提としながら、甘味資源作物について生産から加工までを視野に入れた、システム全体の持続性に配慮した地域農業マネジメントを構想する時期がやって来たことを最後に指摘しておきたい。

【謝辞】
 最後に、本稿の執筆に当たり、ご多忙の中、調査にご協力いただいた鹿児島県熊毛支庁、公益社団法人西之表市農業振興公社、新光糖業株式会社、市丸産業株式会社、JA種子屋久西之表支所の皆様および生産者の戸川博文様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

(注)種子島における精脱施設については、「種子島のトラッシュ率低下・耕畜連携に向けた取組について」『砂糖類情報』(2008年6月号)および「サトウキビの生産から出荷まで幅広く手掛ける株式会社南種子精脱葉〜平成27年度サトウキビ生産改善共励会最優秀賞受賞〜」『砂糖類・でん粉情報』(2017年12月号)を参照されたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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