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スマート農業の実現に向けた取り組みの現状と今後の展望

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最終更新日:2018年7月10日

スマート農業の実現に向けた取り組みの現状と今後の展望

2018年7月

農林水産省 大臣官房政策課 技術政策室 技術企画班 課長補佐 角張 徹

はじめに

 わが国の農業をめぐる高齢化や新規就農者の不足などの厳しい状況の下で、農林水産業の競争力を強化し、農業を魅力ある産業とするとともに、担い手の意欲と能力を存分に発揮できる環境を創出していくためには、農業技術においても、省力化・軽労化や精密化などの方向を目指していくことが重要となっている。

 こうした中、他産業ではロボット技術やICT(情報通信技術)などの活用が進み、これらの技術革新が競争力の強化につながっている。農林水産省では、農業における技術革新の大きな柱の一つとして、ロボット技術やICTなどの先端技術を活用した「スマート農業」の実現に向けて取り組んでいる。

1.スマート農業が目指す将来像

 農林水産省では、ロボット技術やICTといった先端技術を活用して超省力・高品質生産などを可能にする新たな農業を「スマート農業」として位置付けており、経済界などの協力を得て研究会を立ち上げ、スマート農業が目指す将来像の方向性を次の五つに整理している(図1)。

図1 スマート農業の将来像

(1) 超省力・大規模生産を実現
 トラクターなどの農業機械の自動走行の実現により、規模限界を打破

(2) 作物の能力を最大限に発揮
 センシング技術や過去のデータを活用した、きめ細やかな栽培(精密農業)により、従来にない多収・高品質生産を実現

(3) きつい作業、危険な作業から解放
 収穫物の積み下ろしなど重労働をアシストスーツにより軽労化、負担の大きな畦畔(けいはん)などの除草作業を自動化

(4) 誰もが取り組みやすい農業を実現
 農機の運転アシスト装置、栽培ノウハウのデータ化などにより、経験の少ない労働者でも対処可能な環境を実現

(5) 消費者・実需者に安心と信頼を提供
 生産情報のクラウドシステムによる提供などにより、産地と消費者・実需者を直結

 これらの将来像を実現していくためには、技術的課題を段階的にクリアしていき、研究開発で終わることなく、農業の現場に着実に実装していくことが必要である。農林水産省では、農業者のニーズを踏まえ、例えば「導入しやすい価格の除草ロボットの開発」など、コストなどの明確な開発目標に基づき、技術を実際に活用する農業者が研究開発チームに加わって、現場実装を視野に入れた技術開発を進めている。また、実用化された新技術の普及・導入に向けた支援、先進技術が導入できる環境づくりにも取り組み始めている(図2)。

図2 スマート農業の推進に向けたさまざまな取り組み

2.農機の自動走行技術

 ロボット技術を活用した取り組みの中で進展しているのが、将来像の「(1)超省力・大規模生産を実現」の農業機械の自動走行技術である。現在は、衛星から送られた位置情報を活用して自動走行するトラクターなどが開発され、農業者の監視の下で無人走行させる技術が実用化されつつある。この技術が実現することで、1人で耕運、()(しゅ)・施肥などの複数工程を同時に行えるなど、限られた作期の中で1人当たりの作業可能な面積が拡大し、経営の大規模化に貢献すると期待される。この自動走行技術については、政府全体としても方向性が示されており、2016年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」には、2018年までに()(じょう)内での農機の自動走行システムを市販化▽2020年までには遠隔監視で無人システムを実現−が明記されており、達成に向けた取り組みが進められている。

 実用化に向けて安全性の確保が最大の課題であることから、農林水産省では2017年3月に、圃場内や圃場周辺から監視しながらロボット農機を無人で自動走行させる方法を対象として、メーカーや利用者などが順守すべき項目をまとめた「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」を策定・公表し、自動走行技術の現場実装に向けた環境整備を進めている。2017年6月には一部の農業機械メーカーで自動走行トラクターの試験販売が開始されており、農業における自動走行技術は実現しつつある(図3)。

図3 ロボット農機による自動走行技術の実現に向けた取り組み

 また、既存の農機に設置して直進走行を自動化する運転アシスト装置が、北海道の畑作地帯を中心に急速に普及している。この装置によって、例えば大区画の長い直線作業も正確に行えるようになり、作業能率の向上、肥料散布の重なりが少なくなることによる資材コストの低減などの効果に加え、非熟練者でも熟練者と同等の作業が行えるなどの利点もある。最近では、運転アシスト機能を備えたトラクターや田植機なども市販化されており、多くの農家に役立つ技術となりつつある。さらに、日本版GPS(全地球測位システム)とも呼ばれる準天頂衛星システム「みちびき」による高精度測位のサービスが2018年11月から開始される予定であり、今後、自動走行や運転アシストの技術はもっと身近になるものと期待される。

3.データに基づく農業の実現に向けて

 農業へのICT活用としては、例えば作業履歴を簡単に記録・管理できるシステム、気温などの環境情報や圃場の水位などを常時スマートフォンやタブレットで確認できるシステム、また、最近ではドローンで作物の生育状態を診断するサービスなど、さまざまなICTサービスが提供されている。これらの技術を活用して営農管理や人材育成などに取り組む事例が生まれつつあるが、ICTの活用に向けて解決すべき課題は多く残されている。現状の課題としては、さまざまなICTサービスが生まれているものの、相互連携がなく、データやサービスは個々で完結していること▽行政や研究機関の公的データはバラバラに存在し、ICTで活用できないデータが多いことーなどが挙げられる(図4)。

図4 農業ICTの現状と課題

 このような状況の打開に向けて、ICTベンダーやメーカーの壁を越えたデータの連携や共有、公的データの提供などを可能にする「農業データ連携基盤」(通称:WAGRI)の構築が進められている(図5)。この取り組みによって、バラバラだった多くのデータが統合・分析できるようになり、農作物の収穫量や品質の向上、戦略的な経営判断が可能になるほか、データを活用した新たな農業ICTサービスの開発も可能になる(図6)。

図5 農業データ連携基盤の機能と構造

図6 農業データ連携基盤への期待(イメージ)

 この取り組みは内閣府の研究開発事業を活用し、研究コンソーシアム(研究責任者:慶應義塾大学環境情報学部 神成淳司教授)で行われており、大学、ICTベンダー、農業機械メーカー、研究機関、農業者・農業者団体など多様な主体が参画している。クラウド上に「農業データ連携基盤」を構築し、2017年12月からプロトタイプ(試験段階)の運用が開始された。プロトタイプ運用開始に先立って、2017年8月には、産学官のさまざまな分野からの参画を得るための「農業データ連携基盤協議会」(参照: https://wagri.net/)が設立され、活動を開始しており、協議会会員数は2018年5月10日時点で170団体となっている。農業データ連携基盤は、2019年4月をめどにサービスの本格提供を開始する予定としており、新しい取り組みが拡大し、農業の担い手がデータを使って生産性の向上や経営改善に挑戦できる環境が生み出されることが期待されている。

おわりに

 農林水産省としてスマート農業の推進を打ち出してから約4年が経過し、研究開発などの成果が徐々に生産現場に広まりつつあるものの、まだ地域間での取り組みの差や、作物ごとで導入できる技術の差など、克服しなければならない課題も多い。一方で、先端技術の導入により人手不足や生産性向上などの課題を克服したいとする農業現場の期待も高まっている。スマート農業が、わが国の農業が抱えている課題の克服に貢献できるよう、引き続き皆様のご理解、ご協力をいただきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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