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製糖およびその統合技術に関わる専門家たちの国際協会(IAPSIT)から知る世界の糖業界の方向性

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最終更新日:2018年9月10日

製糖およびその統合技術に関わる専門家たちの国際協会(IAPSIT)から知る
世界の糖業界の方向性〜第6回IAPSIT国際会議参加報告〜

2018年9月

ミトポンサトウキビ研究所(Mitr Phol Sugarcane Research Center) 渡邉 健太

【要約】

 世界トップクラスのサトウキビ生産国であるインド、タイ、中国からの参加者を中心に構成された第6回IAPSIT(International Association of Professionals in Sugar and Integrated Technologies)国際会議では、甘味資源作物の栽培、育種、機械化といった研究に加え、サトウキビおよび製糖副産物の高付加価値化に焦点を当てた発表が多く見られた。本会議は、サトウキビから砂糖を、副産物からエネルギーを、という従来の考え方を覆し、世界全体のサトウキビ産業が「砂糖+エネルギー+高付加価値製品の生産」へとシフトしていることを示唆するものであった。

はじめに

 2018年3月6〜9日にかけてタイ王国ウドンターニー県ウドンターニー市で第6回IAPSIT国際会議が開催された。IAPSITは、途上国における製糖業およびその関連産業の発展を目的として2004年に設立された非営利組織である。主な活動内容は、セミナー、ワークショップ、トレーニングプログラムの他、3年に一度開かれる国際会議がある(表1)。本部を中国広西チワン族自治区に、支部をインドのウッタルプラデシュ州に置くことからも分かるように、本会議の参加者の多くは中国、インド、そして開催国であるタイのメンバーで占められていたが、他にも台湾、ベトナムなどの近隣国や米国、豪州、また遠くはアフリカや中南米の国々など、計20カ国、400人が参加する会議となった(写真1写真2)。筆者の把握する限り、これまで開催されたIAPSITの国際会議やワークショップなどに関する報告は日本国内では皆無であり、また本会議でもおそらく唯一の日本人参加者であったことから、貴重な資料になり得ると考え、本会議の様子を報告する。

表1 これまでに開催されたIAPSIT国際会議に関する情報

写真1 会長による開会式のオープニングスピーチ

写真2 参加者の記念写真

1.第6回IAPSIT国際会議の概要

 本会議は、ウドンターニー空港の近くに位置するCharoen Hotelにおいて、次の内容で行われた。

3月5日:ウェルカムパーティー
   6日:開会式、基調講演1、口頭発表セッション1、4
   7日:基調講演2、3、口頭発表セッション1、2、3
   8日:基調講演4、口頭発表セッション1、ポスター発表、閉会式、フェアウェルディナー
   9日:ポストコングレスツアー

 本会議の発表課題は後述する四つのセッションから構成される。発表形態には口頭発表(98課題)とポスター発表(54課題)があり、口頭発表は、さらに先進的な研究課題を取り上げたLead papers(16課題)とその他の課題を扱うOral papers(82課題)に細分された。Lead papersの発表時間は質疑応答を含め20分間であったが、Oral papersは課題数が多かったこともあり、10分間と短めの発表となった。各日の始めに各研究分野を先導する研究者によって30分から1時間の基調講演も行われた(4課題)。発表に加え、農業機械メーカーや農業資材会社が自社製品を展示したり、研究施設による取り組みや成果を発表したりする展示ブースも設けられ、発表の合間には参加者同士が盛んに懇談する様子が見受けられた(写真3,4,5,6)。

写真3 ミトポンサトウキビ研究所のメンバー

写真4 自社製品を使用したお菓子の試食

写真5 トリンブル(Trimble)社の作物生育センサー「GreenSeekerハンドヘルド」(作物の栄養状態を迅速に判断することが可能)

写真6 リブリス(Rivulis)社の提供するかん水チューブ

2.基調講演

 本会議では四つの課題に対する基調講演が行われた(写真7)。オープニングセレモニーに続いて、まずはタイにおけるバイオテクノロジー分野の先駆者で、かつミトポンサトウキビ研究所の所長でもあるKlanarong Sriroth博士から今後の糖業界でのバイオテクノロジーの重要性について述べられた。

写真7 基調講演の様子

(1)糖業界におけるバイオテクノロジーの重要性

 講演ではまず、糖類摂取を抑えるため世界各地で糖類を含む飲料に対する課税の導入が進んでいることにより、砂糖が悪者扱いされ、糖業界が危機的な状況にあることについて触れられた。その上で、こうした糖業界をめぐる状況の変化を受けたことで、むしろ砂糖を一時的なストックとして利用し、ブタノール、オリゴ糖類、グルタミン酸などの高付加価値製品の製造に利用しようという考えが生まれていることが述べられた。同博士は解決策の一つとして、特に産業および食品業分野でのバイオテクノロジー利用の必要性を強調し、砂糖に加え、これまでコージェネレーション(熱電併給)に利用されていたバガスや、エタノール生産に用いられていた糖蜜といった副産物からより付加価値の高い製品を製造する必要があると述べた(図1)。最後に“How are you preventing your disruption(この危機的状況をいかにして防ぐか)?”と投げかけ、その鍵がバイオテクノロジーにあることを強く示唆し、講演を終えた。

図1 サトウキビおよび製糖副産物の新たな利用法

(2)バガスを原料としたキシロオリゴ糖類の生産

 2日目の始めにはWen-Chien Lee博士(National Chung Cheng University、台湾)がバガスを原料としたキシロオリゴ糖類の生産についての講演を行った。キシロオリゴ糖はプレバイオティクス(注)の一つであり、バガスに含まれるセルロースからエタノールを生成する際に、同じくバガスに含まれるヘミセルロースから生産することができる。プレバイオティクスは多様な効果を持ち、さまざまな分野で利用されているが、同博士は、特に400億円超の市場規模を持つ畜産・水産用飼料での利用を強調した(図2)。キシロオリゴ糖の生成にはバガスに由来するキシランの加水分解が必要である。キシランの加水分解には酸または酵素を用いる方法があるが、酵素法を用いると毒性の強い副産物の生成を抑制することができる。同博士は好アルカリ性細菌Bacillus haloduransが生産するキシラナーゼにより効率よくキシロオリゴ糖の生成が可能であることを報告した。

(注)有用微生物の増殖や活性を促進させることで、宿主に有利な影響を与え、その健康を改善する効果を持つ難消化性物質のこと。

図2 プレバイオティクスの主な効果と用途

(3)インドのサトウキビ栽培モデル

 次に、Rao博士(Global Canesugar Services、インド)がサトウキビ栽培モデルについての講演を行った。同氏はまず、世界のサトウキビ栽培モデルを大きく三つに分類し、インドにおけるOut grower model(小規模農家モデル)の紹介を行った(図3)。

 インドは年間3億トン以上ものサトウキビを生産する世界第2位のサトウキビ生産国で、6千万人の農家が生産に従事している。しかし、530もの工場が存在するため、1工場の持つ1()(じょう)当たりの面積は0.5〜2ヘクタールと非常に小規模であり、工場の1日当たりの圧搾能力もブラジルやタイと比較して小さい。サトウキビ作の機械利用はあまり進んでおらず、収穫作業も手刈りが中心で、かんがい設備が整っていない畑も多い。また、工場から農家への支払いが遅いため、次年度の投資が間に合わない農家も多いという。このような背景からインドではサトウキビ管理システムを導入し、品種選択や栽培計画をサポートしたり、栽培中のサトウキビをモニタリングし肥培管理や収穫作業を指示したりしている。

 次に同博士は、Block farming model(ブロック農業モデル)についての説明を行った。ブロック農業モデルとは、小規模農地を持つ農家が統合し、より規模の大きい農地を集団管理することで効率的に栽培を行う方法である。同モデルは、農地を大規模化することで生産コストが抑えられるだけでなく、機械やかんがい設備の導入、土壌分析や全地球測位システム(GPS)を使ったマッピングなど、使える技術が広がったり、融資を受けられるようになったりと多くのメリットがある。同博士はこれらの栽培モデルをザンビアやフィリピンなどの成功例を交えつつ紹介し、結論として、各地域の気候、地理、社会経済的条件を考慮した的確な栽培モデルを選択することが重要であると説いた。

図3 世界の主要なサトウキビ栽培モデル

(4)バイオマスリファイナリとサトウキビの高付加価値化

 Narenda Mohan博士(National Sugar Institute、インド)はサトウキビから生産される砂糖に加え、バガスや糖蜜といった製糖過程で生じる副産物などこれまで最終産物と見なされてきたものをどのように高付加価値化、多様化、変換できるかを研究し、これまで砂糖に依存してきたインドのサトウキビ産業に新たな市場を開拓する必要があることを述べた。こういった考えに基づき、サトウキビに由来するバイオマスを余すことなく利用し、電力、エタノール、堆肥や化学製品といった二次産物を生産するシステムをバイオマスリファイナリと言う1)。インドでは、売電やエタノール生産を行っている工場が比較的少ないことから、同博士は、特にバイオ電力とバイオエタノールを合わせたグリーンエネルギーに焦点を当て、これらをインドで利用した場合の潜在的な収益などについて発表した。インドは世界第2位のサトウキビ生産国ではあるが、サトウキビ生産自体、またその利用法についても課題は多く残されている。

3.発表セッション

(1)セッション1:Sugar crops & protection technologies, mechanization of farms(甘味資源作物の生産・防除技術および機械化)

 Lead papers 5課題、Oral papers 38課題、ポスター 35課題

【概要】
・重要病害虫の防除法、実態調査
・生物農薬の開発、利用
・干ばつ対策(点滴かんがい、畝の形状変化、ケイ素施用、ポリマー)
・施肥(有機肥料、バイオ肥料)および土壌改良材
・植え付け方法(一芽苗、発芽苗の利用、不耕起栽培)
・間作によるサトウキビ収量および収益の向上
・代替作物(てん菜、スイートソルガム)
・各国のサトウキビ栽培

 セッション1における発表課題の中では、病害虫防除(口頭発表17課題、ポスター発表14課題)、特にサトウキビ白葉病(注)とメイチュウ類に関する発表が多かった。

(注)ファイトプラズマ病の一種。感染すると、どの生育ステージであっても葉が白化する現象を経て最終的に茎の枯死に至る。

ア.サトウキビ白葉病
 サトウキビ白葉病は、タイにおける最重要病害として位置付けられている。単収減少および株出し栽培制限の最大の要因であり、本病による国内サトウキビ産業での損失額は年間30億円にも上る。現在有効な抵抗性品種は見つかっておらず、また近隣諸国へも感染が拡大しているため非常に深刻な病気である2)。ミトポンサトウキビ研究所からは、肉眼による病徴観察とPCR法による分析結果を照合することで、外見では症状が確認されていない()(びょう)株がかなり存在すること、さらに発病株率は、降水量の低い地域や砂質土壌の分布する地域など、植物に水ストレスがかかりやすい状況で高くなることが報告された。その他、内生窒素固定細菌を接種することで媒介虫であるヨコバイの摂食およびファイトプラズマの感染が抑制される研究報告やしゃ苗(サトウキビの苗)を加熱したテトラサイクリン系抗生物質で処理した研究など防除に関する発表も見られた。このようにさまざまな方向から防除法が検討されていることを見ても、本病がタイで最重要病害であることが分かる。

イ.メイチュウ類
 中国やインドではメイチュウ類による被害が深刻である。被害発生時期や部位などの違いにより多くの種類が確認されているが、これらの発生状況は地域によって異なる。メイチュウ類による被害株率は中国全土で15%とも言われ、防除コストや被害による収量減でかなりの経済的な損失となっている。中国国内でサトウキビへの影響を網羅的に調査した結果によると、メイチュウ類の被害株率が15%以下では収量への大きな影響は見られないことから、この値を目安として防除を実施する必要があることが報告されている。

 上記の病害虫に限らず、重要病害の防除にはMetarhizium属、Beauveria属、Trichoderma属などの昆虫病原糸状菌、卵寄生バチのTrichogramma属を利用した生物的防除法▽収穫後の圃場を冠水するといった物理的防除法▽植え付けを通常より遅らせるといった耕種的防除法−の重要性が強調され、いわゆる総合防除の考えが普遍的に広まっていることがうかがえた。その他、現在タイでは国の政策によって水田からサトウキビ畑への転換が推し進められていることから、水田転換畑をサトウキビ栽培に利用することによる害虫のリスクを調査した報告もあった。

  応用的な研究がほとんどであったが、中には品種別の窒素固定能や茎伸長に関連する酵素活性、組織培養苗の光独立栄養性に関する発表など基礎研究も数例見られた。また、研究とはやや言い難いが、各国のサトウキビ栽培様式に関する発表が見受けられたのも本会議の特徴と言えるだろう。インドのKaranjeet Singh氏は自身の栽培するサトウキビを写真紹介したが、その圧倒的なボリュームには驚かざるを得なかった(写真8,9,10,11)。

写真8  Singh氏の栽培するサトウキビ

写真9 迫力のあるサトウキビ

写真10 サトウキビ畑に立つSingh氏

写真11 長さ9.5mのサトウキビ

(2)セッション2:Sugar crops improvement, breeding and biotechnology(甘味資源作物の改良、育種およびバイオテクノロジー)

 Lead papers 2課題、Oral papers 17課題、ポスター 13課題

 【概要】
 ・各国の育種の方向性、育種プログラムの紹介
 ・各国、各地域で育成された新品種の諸特性
 ・野生種育種素材を用いた種間雑種、属間雑種の作出
 ・DNAマーカーの利用
 ・糖蓄積やプロリン合成、発病に関連する遺伝子解析
 ・病原菌、酵母、内生窒素固定細菌の遺伝子解析

ア.DNAマーカーによる育種
 米国農務省(USDA)からはDNAマーカーを用いた育種について、分子遺伝学の専門家であるYong-Bao Pan博士がこれまで行ってきた取り組みを発表した。サトウキビ野生種Saccharum spontaneumは、多分げつ性、高バイオマスまたは病害虫抵抗性やストレス耐性の付与を目的として以前より種間交雑に用いられてきたが、有害雑草となる可能性がある▽自家受粉が生じやすい▽種子親として用いた場合、雑種の特定に信頼性の高いDNAマーカーが必要−といった理由から1990年代までは花粉親としてしか利用されていなかった。USDAでは、S. spontaneumの花のうち裂開したものや未成熟なものを取り除き、穂を45度の湯に10分間(または50度の湯に5分間)浸した後、交配に利用する▽得られた雑種のスクリーニングにはDNAマーカーを使用し、両親のDNAとの相同性を確認する−といった作業を行うことでS. spontaneumの種子親としての利用を可能とした。こうして得られた雑種と経済品種との戻し交配を繰り返すことで、S. spontaneumの細胞質を有し、多分げつ性かつ高品質、そして病害虫に強い有望系統の作出に成功した。

 また、どの国でも育種分野でのDNAマーカーの利用が進んでおり、マーカーを用いた品種・系統の判別、病害虫抵抗性や干ばつ耐性の評価などが積極的に行われていた。

イ.エネルギーケーン
 インドでは、エタノールやコージェネレーションなどサトウキビ由来のグリーンエネルギーの利用を推し進めるため、エネルギーケーンの作出に力を入れており、野生種S. spontaneumを用いた種間交雑や近縁種のErianthus属(特にE. arundinaceus)を用いた属間交雑が現在盛んに行われている。エネルギーケーンは、タイプ1(繊維含量20%以下、糖含量15%以上で圧搾液からのエタノール生産を主な目的とする)とタイプ2(繊維含量20%以上、糖含量15%以下でコージェネレーション利用およびバガス由来のエタノール生産を主な目的とする)に分類される。有望系統の中には繊維含量が30%以上のものや、単収が1ヘクタール当たり280トン近くに達するものも存在した(表2)。

表2 インドで作出されたエネルギーケーンの諸特性

 ミトポンサトウキビ研究所からは、タイにおける今後の育種の方向性について発表があった。高収量かつ高品質で国内全土に比較的よく適応するKhon Kaen 3が依然としてタイの主力品種であり、ミトポングループ所有の畑の約8割がこの品種で占められている。しかしながら、白葉病に対して感受性があるといったデメリットもあるため、このような単一の品種構成からできるだけ早く脱却するとともに、高繊維含量、干ばつ・かん水適応性、機械収穫適応性などの特徴を備えた新たな品種の育成が望まれている。

(3)セッション3 :Sugarcane harvesting, processing, value addition and stewardship of environment(サトウキビの収穫、加工、高付加価値化および環境管理)

 Lead papers 5課題、Oral papers 20課題、ポスター 5課題

 【概要】
 ・バガスの高付加価値利用(バイオ洗剤、バイオポリマー、ナノファイバー、食物繊維、抗菌素材)
 ・有用成分を抽出するための前処理方法の検討
 ・サトウキビに含まれるフェノール類
 ・収穫作業の機械化
 ・品質評価への近赤外線(NIR)分光法の利用(糖蜜中糖含量の測定、携帯型NIR分光分析装置の精度、焼けキビへの利用可能性)
 ・工場へ搬入される原料中のマンニトール、デンプン量の調査

ア.バガスの有効利用について
 基調講演を行ったMohan博士は、ここでもバイオマスリファイナリの概念について説明した上で、特にバガスの有効利用についての重要性を強調した。バガスは主にセルロース(32〜44%)、ヘミセルロース(22〜24%)、リグニン(20〜22%)から構成される。セルロースはパルプ(製紙原料)およびバイオエタノール生産に、ヘミセルロースはその主成分であるキシランからキシロースおよびキシロオリゴ糖の生産に、リグニンは抗酸化および抗菌作用を有す製品の製造にそれぞれ利用することができるが、それ以外にも付加価値の高いさまざまな製品が試作されている。同博士は、界面活性剤の親水基部分をバガス由来のヘミセルロースで代替したバイオ洗剤の製造について発表した(図4)。

図4 Mohan博士の試験したバイオ洗剤の洗浄能力

 また、ミトポンサトウキビ研究所からは成形機を用いてバガスおよびアクリル酸から生成されるバイオポリマーについて発表があった(図5)。従来の化学ポリマーと比較し、 易分解性で環境に優しいことから土壌の保水性向上を目的とした農業分野での利用が期待される。

 また、バガスを利用した新製品の紹介だけでなく、脱リグニン化を効率的に行う方法など前処理法に注目した発表も多かった。このように従来のコージェネレーション利用にとらわれず、バガスから高付加価値製品を製造する試みは今後ますます盛んになっていくものと思われる。

図5 吸水前後のバガス原料ポリマー

イ.バガス以外の副産物の有効利用について
 フィルターケーキから得られるワックスは、血中脂質やコレステロールを低下させる効果などを持つ脂肪族アルコールや高級脂肪酸といった有用成分を含んでいる。本会議では、これらの成分を分離・抽出する際に必要なステップの一つであるけん化を効率的に行う方法が発表された。また、サトウキビに含まれるフラボノイドなど抗酸化作用を持つフェノール類の研究についても現在盛んに行われているが、本会議ではサトウキビや製糖過程で生じる副産物のフェノール類の含有量を明らかにした発表や、バガスからのフェノール類の抽出法を検討した発表が見られた。

 また、本セッションでは手刈りから機械収穫へと移行する際に注意すべき事項や機械化を有効に進めるための考えなどが発表された。タイや中国では毎年1億トン以上もの膨大な量のサトウキビが生産されているにもかかわらず、いまだに収穫は手刈り中心で、機械収穫率は15%程度にとどまっていることから、収穫作業の機械化が大きな課題となっている3)。琉球大学で学位を取得し、現在タイ東北部のコンケン大学の准教授を務めるKhwantri Saengpratchatanarug博士からは原料の積載量を自動でモニタリングできるセンサーを取り付けたハーベスタについての発表があった。日本同様、小規模農家の多いタイで、今後機械収穫が進んだ場合に本システムを用いれば、持ち主の異なる農地を跨いでハーベスタを稼働させることができるため、より効率的な機械収穫が可能となるという興味深い研究内容であった。

(4)セッション4 :Sugar-energy matrix in developing countries: sustainability issues, marketing, national policies and integrated industries(開発途上国における砂糖エネルギー生産基盤:持続可能性問題、市場取引、国政および統合産業)

Lead papers 4課題、Oral papers 7課題、ポスター 1課題

 【概要】
 ・各国の糖業事情
 ・サトウキビの生産性および収益性向上に関する研究
 ・各国におけるバイオ製品および製造産業の現状

 参加者の多かったインド、タイに加え、キューバ、スリランカ、ベトナムなどのサトウキビ・砂糖生産および副産物利用、バイオ製品製造についての現状が報告され、今後の方向性について話し合いがなされた。タイ甘しゃ糖技術者会議会長兼本会議の会長も務めるKitti Choonhawong氏からは、タイのサトウキビ産業は世界的に見ても競争力の高いところに位置するものの、サトウキビおよび砂糖の生産効率のさらなる向上が必要であり、そのためには高収量かつ高品質な品種の育成が必要不可欠であることが述べられた。

 また、インドの地方部ではサトウキビは精製糖のみならずグル(gur)やカンサリ(khandsaari)という伝統的な砂糖の生産に使われる他4)、搾ってジュースとして飲む、そのままかじる、礼拝に用いるなど多くの用途がある。これらに加え、副産物を利用した産業を活性化させることで地域経済の発展に大きく貢献できることが述べられた。他にも、重量に加えて品質も考慮した価格制度の重要性を説いた発表や、農家が携帯電話で利用することができるサトウキビ研究情報システムの評価に関する発表など、インドから多くの発表が見られた。

4.ポストコングレスツアー
〜エラワンシュガーグループ訪問〜

 最終日の9日には、会議会場からバスで2時間ほどのノンブアランプー県ナクラン郡にあるエラワンシュガーグループ(Erawan Sugar Group)を訪問した。参加者は企業紹介ビデオを視聴し昼食を取った後、工場または研究所の2グループに分かれ見学した。

(1)エラワンシュガーグループの概要

 エラワンシュガーグループは、国内および国外への砂糖供給を目的として2007/08年期に製糖を開始した。現在では1シーズン当たり400万トンのサトウキビを圧搾し、粗糖、グラニュー糖、粉砂糖など計45万トンの砂糖を製造している。当初8000トンだった工場の1日当たり圧搾能力は、2008/09年期には2万トンに、2011/12年期には2万7000トンに拡大し、現在では圧搾ラインを一つ追加し、1日当たり圧搾能力は計3万8000トンとなっている(写真12)。製糖工場建設と同時期に、工場への電力供給および地方配電公社へ売電を行うための発電プラントも設立され、現在の1時間当たり発電量は72メガワットとなっている(写真13)。また、製糖、発電以外にも製糖時の副産物(バガス、糖蜜、フィルターケーキ)の販売やパーティクルボード(注)、ウッドチップ、ウッドペレットの製造も行っている。

(注)木材や植物繊維質の小片を板状に成形したもの。

写真12 原料搬入中のトラック

写真13 バガスを利用したバイオ電力工場の管理室

(2)エラワンシュガー研究所の概要

 エラワンシュガー研究所は、主に以下の項目の達成を目的として2014年に40ヘクタールほどの敷地を利用して設立された。

 ・サトウキビに関する研究開発
 ・サトウキビ生産に適した肥料の開発
 ・農家のトレーニングおよび知識移転
 ・サトウキビ学習センターの設立

 研究所では経済品種だけでなくこの地域に適した独自の品種を育成し、農家への普及を試みている (図6写真14)。他の取り組みとしては、主に白葉病まん延防止の対策として、組織培養により病原菌フリーの苗を生産し、農家へ配布したり、研究用に使用したりしている(写真15)。また、フィルターケーキの中にメイチュウ類の天敵となるハサミムシを混入させた土壌改良材などの製造も行っている(写真16)。

 研究所は、単収向上のため農家に土壌改良材を1ヘクタール当たり12トン投入することを推奨している。さらに労働力削減と生産性向上のため、機械の貸し出しも行っており、農家は整地、植え付け、肥培管理、収穫などそれぞれのステージに応じた機械を利用することができる。
 










 

  また、同エリア内でKhwantri博士率いるコンケン大学農業機械学研究室が出展するブースの見学も行うことができた。マルチスペクトルカメラを搭載したドローンを利用することで植生指標となるNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)や高さ情報を示すDSM(Digital Surface Model)というパラメーターを算出し、サトウキビの収量および品質予測が可能となる(写真17)。琉球大学農産施設工学研究室の平良英三准教授との共同研究である携帯型NIR分光分析装置は、立毛茎の品質評価を迅速に行うことができ、Khwantri博士は平良准教授の開発したモデルの検出器部分を改造し、新たなプログラムと校正モデルを加えることで、タイに適した仕様へと改良することに成功した(写真18)。今年度中にはさらに小型のものが完成する予定とのことである。

写真17 マルチスペクトルカメラ搭載ドローンと参加者に説明を行うKhwantri博士

写真18 携帯型NIR分光分析装置

おわりに

 本会議を通じて最も印象的だったことは、基調講演やセッション3で見られたように、サトウキビや副産物の利用方法に対する考え方が大きく変わってきているということだ。今の世界のサトウキビ産業は「持続可能性」や「バイオマスリファイナリ」という壁を十分にクリアしつつあると思うが、これらに加え「高付加価値化」という言葉が本会議のキーワードとなっていたと思われる。これは、サトウキビからより価値のあるものをつくるという考えが世界的なトレンドになってきている表れと言える。一口に高付加価値製品と言っても、農業資材、食品、日用品、医薬品などその応用範囲は限りなく広く、高付加価値製品の製造をめぐっては、今後さまざまな研究開発で行われることとなるだろう。そして、それは繊維含量やバイオマス収量といったパラメーターが今後ますます重要視されることにも表れているように、サトウキビを収量や糖度のみで評価してきた従来の栽培や育種の方向性をも大きく変えることになる。このような考え方は、世界と比べその規模は全く異なるものの、これからの日本のサトウキビ産業の将来を考える上でも重要となるのではないだろうか。

 また、発表者の多くがインド、タイ、中国で占められていたため必然的にローカルな内容の発表も多々見受けられたが、その反面、世界第2〜4位のサトウキビ生産国の糖業事情や研究開発について詳しく知れたことは、今後世界のサトウキビ産業の動向を考えるうえで非常に有益であった。筆者はこれまでIAPSITの存在すら知らなかったが、今回この国際会議に初めて参加し、彼らと交流する機会を得られたことに感謝している。

 なお、IAPSITは甘味資源作物および関連産業に関する論文を扱ったSugar Techという国際雑誌を年6回発行しており、会議の中で特に興味深い発表については雑誌への掲載が優遇されるなど、できるだけ多くのメンバーの参加を促す努力をしている。次回のIAPSIT国際会議は2021年ベトナムでの開催を予定しているようだ。本報告書がIAPSITについて知るきっかけを与え、次回国際会議での日本人参加者が1人でも多く増えるよう願っている。

【参考文献】
1)上野正実およびチーム琉大(2014)「躍動する世界のサトウキビ産業はイノベーションを目指す 国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT)第28回サンパウロ大会報告(2)」『砂糖類・でん粉情報』(2014年6月号)独立行政法人農畜産業振興機構
2)安藤象太郎、小堀陽一、寺島義文(2015)「東北タイでのサトウキビの多用途利用に向けて」『砂糖類・でん粉情報』(2015年10月号)独立行政法人農畜産業振興機構
3)
()()拓生、上野正実、川満芳信、孫麗亜(2018)「機械化の迫る中国から見るサトウキビ品種と機械化の関係 〜品種の機械化適応性とは〜」『砂糖類・でん粉情報』(2018年8月号)独立行政法人農畜産業振興機構
4)荒尾美代(2013)「内外の伝統的な砂糖製造法(19)〜インドの薄茶色の砂糖〈カンサリとラワ〉〜」『砂糖類・でん粉情報』(2013年1月号)独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
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Tel:03-3583-9272



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