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台湾のでん粉生産の状況

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最終更新日:2018年9月10日

台湾のでん粉生産の状況

2018年9月

調査情報部

【要約】

 台湾では、原料を輸入しコーンスターチなどの天然でん粉を製造しており、タピオカでん粉は一部日本へも輸出されている。需要が緩やかな減少傾向にある中、天然でん粉は原材料の高騰などにより東南アジアでの製造にシフトする動きもある一方、需要が高まるとみられる機能性に特化した化工でん粉の製品開発・製造を進めている企業の動向に注目が集まっている。

はじめに

 台湾において、でん粉を使用した商品といえば、日本でも人気があるタピオカドリンク(珍珠茶)が有名である(写真1)。これは、キャッサバから作られる粒状のタピオカでん粉(タピオカパール)を使用したものである。また、台湾の伝統的な料理である肉圓(バーワン)には、肉などの餡を包む皮にぷるぷるとした食感を出すため、かんしょでん粉が使用されることが多い(写真2)。このように、台湾では、でん粉はさまざまな食品に使用されており、消費者にとって身近な存在である。さらに、毎年度、少量ではあるが日本向けに化工でん粉をはじめとする、さまざまなでん粉が輸出されている。
 そこで、本稿では台湾のでん粉生産の動向について紹介する。

写真1 タピオカドリンク(珍珠?茶)

写真2 肉圓(バーワン)

1.でん粉原料用作物、でん粉などの需給動向

(1)でん粉原料用作物、でん粉の生産および消費

 台湾では、でん粉の原料となり得る農産物として、かんしょ、トウモロコシ、ばれいしょなどの生産を行っており、2007年から2016年の10年間において、これら農産物の生産量は増加傾向で推移している(図1)。しかしながら、でん粉向けに使用されている台湾産の農産物はかんしょのみで、トウモロコシやキャッサバといったでん粉原料用作物は輸入され、台湾ででん粉の生産が行われている。

 かんしょでん粉の生産は、かんしょの主要生産地域である中部などの小規模な工場で行われている。タピオカでん粉については、以前は原料のキャッサバが南部で生産されていたものの、東南アジアの安価なキャッサバおよびタピオカでん粉の輸入により、キャッサバ生産は大幅に縮小した。現在、タピオカでん粉の生産は、キャッサバの主産地であるタイやマレーシアの工場に委託されており、台湾での生産量は非常に限定的である。
 


 

  このように、台湾のでん粉生産は非常に限定的であり、多くは製品となった状態での輸入に頼っている。こうした状況から、でん粉生産量に関する統計が存在せず、でん粉の消費に関する統計も公表されていない。なお、でん粉消費量の調査を行っている財団法人中華穀類食品工業技術研究所によると、近年の天然でん粉に対する需要は横ばいであるという。

(2)でん粉および糖化製品の輸出入

 前述のとおり、台湾はでん粉生産が限定的であるため、でん粉の多くを輸入に頼っている。でん粉の輸入量の推移を見ると、毎年45万〜50万トンを安定的に輸入しており、約7割がタイやベトナムからのタピオカでん粉である(図2)。タピオカでん粉は、天然でん粉のままタピオカドリンクなどの食品用となるほか、化工でん粉の原料としても使用されることが多いと考えられる。ある化工でん粉販売業者によると、同社で取り扱う化工でん粉の原料の大部分は、タイ産のタピオカでん粉であり、他の原料由来のものはごくわずかとのことである。その主な理由は、安価であるためであるが、現在、タイ産やベトナム産のタピオカでん粉輸出価格は、供給量の不足などから急上昇しているため、今後の輸入量に影響を与える可能性がある。

図2 台湾のでん粉輸入量の推移

 一方、輸出量を見ると、ここ数年減少傾向で推移していたが、2017年は前年をかなり上回る1万780トンとなった(図3)。このうち、7割以上が化工でん粉となっており、輸入したタピオカでん粉から生産した化工でん粉を輸出する形態が主であると推察される。

 台湾の天然でん粉の輸出量は、2008年から2017年の10年間で約4分の3になった。2017年の天然でん粉の主な輸出先は、小麦でん粉で香港(1070トン)、コーンスターチでフィリピン(134トン)、ばれいしょでん粉でモザンビーク(14トン)、タピオカでん粉でカナダ(113トン)となった。日本向け輸出量は、タピオカでん粉が7トン、その他のでん粉が15トンの計22トンであった()。また、化工でん粉は主にインドネシアやマレーシアへ輸出されており、日本へは500トン程度が輸出されている。

図3 台湾のでん粉輸出量の推移

表 台湾産でん粉などの日本向け輸出の推移

 糖化製品の輸出量は、2008〜2017年の10年間で5.9倍となった。これは、果糖など(注)の大幅な増加によるものであり、2017年には全体の7割弱を占めている。糖化製品の主な輸出先は、米国、中国、ベトナム、マレーシア、香港である。2017年の日本向け輸出は、48トンと全体の0.3%に過ぎない(図4)。

(注)台湾国際貿易局の統計で、その他の果糖および果糖水(関税番号17026000006)に分類されているもの。

図4 台湾の糖化製品の輸出量の推移

コラム 毒でん粉事件後の台湾でん粉の安全性確保

 2013年に台湾で発生した「毒でん粉事件」は、台湾全土で問題となった。これは、日本の厚生労働省に相当する行政院衛生署の調べにより、工業用として使用される無水マレイン酸を含んだでん粉(無水マレイン酸で変性されたでん粉)が、肉団子や点心などの食品へ利用されていることが判明し、でん粉を用いた食品が大量に回収・廃棄された。無水マレイン酸は通常、食品の包装用紙などに使用されるが、でん粉に加えて変性させると、食品にもちもちとした食感を与えることができる。無水マレイン酸の急性毒性は低く、少量の摂取であれば、ただちに健康被害を生じるものではないとされているものの、大量に摂取した場合、腎臓機能に障害を及ぼす可能性がある。

 これを受け、行政院衛生署は食品衛生管理法を強化した。「食品添加物の規格、適用範囲、適用および制限に関する基準」によって、食品に使用できる21種類の化工でん粉を明らかにし、無水マレイン酸変性の食品への使用は、同法に違反することとなった。さらに、同法によって食品用のでん粉を製造する企業は安全性の証明書の発行が、でん粉を含む食品を販売する業者はその証明書を消費者が見える場所に掲示することが義務とされ、でん粉の供給元は追跡可能でなければならないとされた。

 ※日本でも無水マレイン酸およびマレイン酸は、食品添加物として指定されていないため、これらの使用は食品衛生法に抵触する。

2.でん粉および糖化製品の生産動向

(1)でん粉および糖化製品製造企業の概況

 台湾のでん粉関係者への聞き取りなどによると、台湾の主要なでん粉および糖化製品の製造企業は2018年3月時点で8社である。内訳は、天然でん粉製造企業4社(うち専業2社)、化工でん粉製造企業2社(いずれも専業)、糖化製品製造企業4社(うち専業2社)となっており、天然でん粉から糖化製品まで製造を行う企業は2社に限定される(図5)。工場の分布は、図6の通りである。

図5 台湾の主なでん粉および糖化製品製造企業

図6 主要でん粉製造企業の立地

 各社の種類別生産量やシェアを見ると、天然でん粉では台榮産業股有限公司と谷王食品工業股彬有限公司、化工でん粉では至茂企業股有限公司と玉成澱粉企業股有限公司、糖化製品では台榮産業股有限公司と環泰企業股彬有限公司の生産量が多い(図7)。

図7 でん粉および糖化製品の企業別製造シェア

 生産される天然でん粉は、コーンスターチが過半を占め、次いで小麦でん粉、かんしょでん粉の順とみられる。また、化工でん粉は、工業用が6割弱を占め、食品用よりも多くなっている。化工でん粉の原料としては、前述のとおり、タピオカでん粉が最も多いと考えられる。糖化製品は、異性化糖を中心に、水あめ、オリゴ糖、果糖などが生産されている。

 このように、台湾では、小規模ではあるが、さまざまなでん粉や糖化製品を生産している。ここでは、これら企業のいくつかを紹介する。

(2)各でん粉製造企業の動向

ア.台榮産業股有限公司 (英名:TAI ROUN PRODUCTS CO., LTD.)
 台榮産業股有限公司は日系企業の技術協力の下、1969年に設立され、畜産・水産用飼料の製造工場を台湾南部の高雄市に建設した。その後、1990年にコーンスターチおよび糖化製品の製造工場を雲林県に建設し、現在も生産を行っている。

 2016年の同社の製品別売上割合は、飼料(33%)が最も多く、次いで糖化製品(24%)、コーンスターチ(20%)などとなっている。雲林工場の年間製造能力は、コーンスターチが5万トン、糖化製品が7万5000トンとなっており、近年の製造量は、両製品を合わせて7万〜8万トン台で推移している(図8)。

 同社は、天然でん粉から糖化製品まで製造する台湾でも数少ない企業である。このうち、コーンスターチは台湾最大、糖化製品は第2位の生産量となっている。なお、同社で製造されるコーンスターチは主に食品向けであり、多くは加工食品に使用される。

図8 台榮産業股?有限公司の種類別でん粉生産量の推移

写真3 雲林工場の外観

写真4 コーンスターチ保管用のサイロを8基所有

写真5 出荷前のコーンスターチ保管倉庫

写真6 工場内の様子

イ.谷王食品工業股彬有限公司
(英名:KU WANG FOOD INDUSTRY CO., LTD.)

 谷王食品工業股彬有限公司は、台湾で数少ない小麦でん粉の製造企業であり、1979年に設立された。原料の小麦は全量北米からの輸入であり、食品・非食品用途向けの小麦でん粉を年間約2万2000トン製造している。なお、香港、東南アジア向けにわずかに輸出しているものの、ほとんどを台湾内向けに販売している。

ウ.至茂企業股有限公司
(英名:ZIH MAO ENTERPRISE CO.,LTD.)

 至茂企業股有限公司は、1988年の設立以降、台湾南部の2カ所の化工でん粉工場で製造を行っている。設立当初は製紙向けの化工でん粉が主であったが、1995年から食品加工業者向けのでん粉の販売も開始した。現在、化粧品事業部や機能性食品事業部を有し、年間1万5000〜2万トンの化工でん粉を製造している。また、自社の生化学研究所で研究開発を行いながら、商品開発を進めている。製造量の約30%を東アジアや東南アジアへ輸出している。

エ.環泰企業股彬有限公司
(英名:TAIWAN FRUCTOSE CO.,LTD.)

 日系企業の技術支援の下、当初「新和美果糖股有限公司」として設立され、社名変更した環泰企業股彬有限公司は、糖化製品専門の製造企業である。設立当初は1日75トンの高果糖シロップと麦芽糖を製造していたが、1995年にオリゴ糖、1997年に高濃縮麦芽シロップの製造を開始した。現在、台湾の大手飲料・食品メーカーと取引を行っている。

 台湾に各8万トンの年間製造能力がある工場が2カ所あるほか、マレーシア、タイにそれぞれ2カ所、フィリピンに3カ所の製造工場がある。

オ.薯寶國際有限公司
(英名:ABUNDANT STATES STARCH MANUFACTURING FACTORY)

 薯寶國際有限公司は、かんしょの産地である嘉義市の工場で、地元の原料を用いたかんしょでん粉を50年以上生産している。原料にはかんしょのみを用いて、伝統的な方法で乾燥処理を行っており、風味の良さや自然な色、優れた粘度を持つ製品を製造している。台湾内を主要なマーケットとしている。

カ.玉成澱粉企業股有限公司
(英名:YU CHENG STARCH ENTERPRISE CO., LTD.)

 玉成澱粉企業股有限公司は、1975年に設立され、主要な食品用化工でん粉製造企業となっている。1990年に貿易部門を新設し、東南アジアや欧州向けに化工でん粉の輸出を行っている。なお、現在の主力製品は加工食品の増粘剤として用いられるキャッサバ由来の酢酸でん粉(starch acetate)および酸化でん粉(oxidized starch)である。

(3)最近のでん粉消費動向

 台湾では、食品安全への意識の高まりや健康志向から、天然素材にこだわる食品が注目を集める傾向にある。これは、天然でん粉を使った食品にも当てはまる。例えば、ばれいしょでん粉を使った伝統的な冷菓「粉(フングイ)」(写真7)は、もともと白や黄色の一口サイズのゼリーのようなものに黒蜜やシャーベットを添えて食べられていたが、最近では赤、黄、青、黒色のカラフルなゼリー状のスイーツとしてSNSを通じて注目を集め、若者の間で流行している(写真8)。また、かんしょでん粉やタピオカでん粉の他に、難消化性でん粉(人の胃や小腸で分解されず大腸へ到達するでん粉)であるバナナ由来のでん粉(写真9)は、ダイエット効果があるとされ、ヨーグルトや飲料に溶かして摂取する粉末やバナナでん粉を混ぜたクッキーなどが販売されている。さらには、こんにゃくパウダーと化工でん粉などを混ぜてペースト状にしたすり身をボール状に成形したものが、鍋や麺料理のフィッシュボール(魚丸)の代わりのビーガン(ベジタリアンの一種)向け食品として消費されている。

 食品以外にも、消費者の環境意識の高まりを受け、植物由来であり、かつ生成過程で二酸化炭素を排出しないということから、でん粉由来の樹脂の製造開発が進んでいる。 

 また、クリーンラベル(添加物を含まず、消費者に分かりやすく食品成分を表示する)が注目されつつある中、でん粉においても化学的変性ではなく物理的な化工のみを行った商品開発に力を入れる企業もある。

写真7 伝統的な粉?(フングイ)

写真8 カラフルな粉?(フングイ)

写真9 バナナ由来のでん粉のパッケージ

おわりに

 台湾のでん粉需要は、10年間にわたってほぼ横ばいで推移している。例外的に、タピオカでん粉から製造されるタピオカパールは、台湾市場が成熟する一方、海外需要の高まりから、一部のメーカーや商社で輸出に注力する動きがみられる。一方、台湾も高齢社会を迎え、さらに2021〜2025年を頂点として人口減少に転じるとみられていることから、天然でん粉の需要は中長期的には減少すると思われる。

 このような状況の中、「毒でん粉事件」後の行政の規制強化により、化工でん粉への消費者への信頼が回復したこともあり、でん粉業界は、加工食品や機能性食品における化工でん粉需要を見込み、さまざまな機能性に特化した化工でん粉の製品開発・製造を進めている。こうした動きが、でん粉需要に影響を与えるか、注目していきたい。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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