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てん菜の直播栽培における盛土による風害対策について

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最終更新日:2018年12月10日

てん菜の直播栽培における盛土による風害対策について

2018年12月

北海道糖業株式会社 農務部農事技術課 藤井 寛

【要約】

 風害の軽減対策として、深耕爪で畝間土壌を盛り上げることで被害を軽減できることが確認されている1)。現在この技術は、一部の生産者においてカルチベータに小板(盛土板)を取り付けて施工する形で普及されており、その有効性の検証が進められている2)。2016年から2018年までの3カ年、合計14カ所の生産者()(じょう)で盛土板による風害軽減対策試験を実施した結果、風害が発生した圃場において被害が軽減される事例が見られた。

はじめに

 北海道のてん菜における直播(ちょくはん)栽培の面積は近年増加傾向にあり、2017年は全道のてん菜作付面積の23.7%が直播栽培となっている(図1)。直播栽培の生産性安定には風害や霜害、酸性障害、クラスト害など春先の初期生育障害への対策が重要であり、生産現場では各種対策が講じられている。今回報告する風害についても毎年発生があるわけではないが、近年では2016年に全道で2000ヘクタールを超える直播栽培への被害が発生するなど、初期生育障害の一つとして大きな問題となっている。

図1 2008年〜2017年 全道てん菜作付面積と直播面積の推移(数値は直播面積の割合を表す)

 現在の風害軽減対策は、北海道の指導参考事項となっている被覆作物(麦類)の利用▽てん菜作付け後の畝間への深耕爪カルチベータ(注)施工により畝間に5.0センチメートル程度の盛土を形成する方法▽砕土率の低減と整地作業時の鎮圧強化−などがある1)。しかし、砕土率の低減と整地作業時の鎮圧強化は普及しつつあるが、被覆作物の利用や盛土形成は手間が掛かることや施工方法が難しいことなどから十分な普及となっていないと推測される。

 一方、更別(さらべつ)村の農業者が小板(以下「盛土板」という)を取り付けたカルチ爪(以下「盛土改良カルチ」という)を自作し、()(しゅ)後の畝間へ施工することにより畝間に盛土を形成し風害対策を実施していた(写真123)。現在この対策は一部の生産者において播種後に施工する風害対策として更別村などを中心に普及し始めている。また根本ら(2017年)2)の観測結果は、圃場(畝間)に形成される凹凸により地表面の摩擦が増えることが風害を軽減していることを示唆している(図2)。

写真1 盛土板

写真2 カルチ爪に装着した盛土板

写真3 盛土改良カルチ施工時の状況

図2 盛土改良カルチ施工による風害軽減イメージ

 本方法はより安定的に盛土を形成できると考えられたため、筆者らは盛土板を更別村の農業者より提供を受け、2016年から2018年までの3カ年、合計14カ所の現地てん菜圃場で盛土改良カルチによる風害軽減対策について試験を実施した。

(注)カルチベータは作物の中耕、除草、土寄せなどに用いる農機具。カルチベータによる作業のことをカルチという。

1.調査方法

1) 盛土板使用者へのアンケート調査により、盛土板の使用感や風害発生時の被害程度の差について調査を行った。

2) 調査圃場については、2016年は2圃場、2017年は6圃場、2018年は6圃場で実施した。圃場の土質は低地土が4圃場、火山性土が10圃場、圃場の傾斜については横傾斜が1圃場、縦傾斜が3圃場、傾斜無しが10圃場であった(表1)。

3) 使用機材は2016年および2017年については幅10センチメートル、高さ18センチメートルの規格の盛土板を使用した。2018年については幅を狭くした幅7センチメートル、高さ18センチメートルのものを使用した。また風害の見られた2016年本別町では被害程度調査を各調査地点5.0メートル×2カ所について行った。風害調査基準は写真4表2に示した。

表1 試験実施場所一覧

写真4 風害調査基準

表2 風害調査基準

2.結果および考察

1) 2016年の本別町、千歳市、2018年の(くん)(ねっ)()町の3圃場で風害が発生した(表1)。
2) 2016年本別町調査事例について   
 播種日が4月27日、施工日が5月1日、風害発生日は5月8日(最大瞬間風速18.9m/s)であった。施工方法については、風上に無処理区を設け、以降5畝施工、3畝無施工を繰り返し施工した(図3)。被害程度調査の結果、無施工であった(1)および(3)と比較して(2)および(4)の甚被害株率が少ない傾向であった。また風下のについては無施工区であったにもかかわらず甚被害株率が少なく、(5)より風上の施工の効果で風が弱まったことが示唆された(表3)。

図3 2018年本別町風害発生状況

表3 風害被害調査結果((1)〜(5)は図3の風害被害状況調査地点)

3) 2016年千歳市調査事例について(写真5)   
 播種日が5月14日、施工日が5月15日、風害発生日は5月16日(最大瞬間風速25.7m/s)であった。圃場全面に施工を行い5月16日に観察した結果、隣接したばれいしょ圃場に比べ土壌飛散が少なかった。また当該てん菜圃場では風上で種子露出の被害があったものの、補植は7.0ヘクタールのうち10アールと比較的少なかった(てん菜生産者の所感)。

写真5 盛土改良カルチ施工後の様子(千歳市)

4) 2018年訓子府町調査事例について   
 播種日は4月24日、施工日が4月25日、風害発生日は4月26日〜30日(最大瞬間風速19.2m/s)であった。隣接した無施工の圃場では畝が崩れていたが、施工圃場では畝の形状を維持していた(写真6)。

5) その他、試験を実施した生産者などからの意見では、発芽個体に土塊がかぶってしまう事による枯死が見られた、施工速度が速いと播種床に土塊がかぶってしまう(写真7)ため施工速度が制限される(3〜4km/h)などの意見があった。

写真6 風害発生後の盛土改良カルチ施工圃場(左)と隣接した無施工圃場(右)

写真7 播種床にかぶった土塊

おわりに

 盛土板による風害軽減試験を実施した結果、風害が発生した圃場ではその効果が認められた。しかし施工に当たっては、播種床への土塊移動が問題であり、また施工作業の高速化や効率化が求められているため、盛土板形状、施工方法などについてはさらに検討が必要である。このため今後も現地実証を続けながら普及を図りたい。

謝辞
 本調査では更別村の吉田氏より盛土板の提供を始め種々のアドバイスをいただいた。

参考文献
1)地方独立行政法人北海道立総合研究機構農業研究本部十勝農業試験場(2010)「てんさい直播栽培における風害の発生要因と軽減対策」『北海道農業試験会議(成績会議)資料 平成21年度』
2)根本学、鮫島良次、松島大、石井岳浩(2017)「盛土による風害・霜害軽減効果の物理的解明に向けて」『日本農業気象学会北海道支部2017年大会講演要旨集』pp.B29-30
3)北海道糖業株式会社(2018)『SugarBeet No.103』p.11
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272