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令和元年度さとうきび研究成果発表会の開催について

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最終更新日:2019年9月4日

2019年7月

鹿児島事務所 米元 健太

 7月17日(水)、鹿児島市の鹿児島県農業共済会館において、公益社団法人鹿児島県糖業振興協会(以下「糖業振興協会」という。)の主催により令和元年度さとうきび研究成果発表会(以下「発表会」という。)が開催された。
 発表会は、毎年、生産技術の向上などを図ることを目的として、県内のさとうきび研究者や各地域の優良生産者などが、研究成果や地域での取組みを発表し、情報を共有する場とされている。 発表会は、今年で第54回を迎え、当日は製糖企業、学識経験者、行政、農業団体など産官学のさとうきび関係者約130名が出席した。

 冒頭、糖業振興協会を代表して、鹿児島県農政部特産作物対策監の光村 徹 氏からあいさつがあり、関係者への謝辞を述べた後、「平成30年産は、収穫面積が29年産を下回る9400ヘクタール(前年比96%)となったことに加え、生産量は台風24号等の被害を受け、史上最低から2番目の45万3000トン(同86%)に落ち込んだ。品質については、平均買入糖度は前年産こそ上回ったものの、基準糖度を下回る13.08度にとどまり、生産者および製糖会社にとって非常に厳しい年となった。当協会としては、昨年9月末の台風被害を受けて、さとうきび増産基金を発動し、生産者支援として、次年度に向けた収量確保及び土作りの取組みを実施すると共に、製糖工場支援としては、種子島及び喜界島において製糖設備の機能強化に向けた支援を行っている。一方、明るい話題としては、本年1月の当協会の臨時試験研究会で熊毛地域向けの奨励品種候補として、品種登録出願中の「はるのおうぎ」(KY10-1380)を選定した。この品種は、茎数が多く、萌芽性に優れており、高単収が期待できるほか、根張りも良く、ハーベスタの適性も良好と見込まれる。現在、国の種苗管理センターで増殖中であり、今後の生産性向上に繋がるものとみられ、来月の県の奨励品種選定委員会を開催して、県の奨励品種として選定される予定となっている。令和元年産の生産状況については、現在のところ気象による影響も少なく、期待をしているところだが、当協会としては、さとうきび生産者が安心し意欲をもって生産に取組めるように、関係機関と一体となって取組んでまいりたい」と、直近の生産動向の報告とともに、元年産の豊作に向けた期待を述べた。

1.研究成果等の発表

 試験研究に係る以下の3課題の発表が行われ、平成30年産さとうきびの不作を受けて、熊毛、奄美両地域におけるさとうきびの品質・生産の安定化に向けて、現在行われている試験研究の内容および進捗状況、今後の方向性などが示された。

・熊毛地域向け新品種「KY10-1380」の特性
(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 種子島研究拠点 主任研究員 服部 太一朗 氏)
・サトウキビほ場のメイチュウ類の被害と影響が考えられる要因
(鹿児島県農業開発総合センター大島支場 病害虫研究室長 林川 修二 氏)
・夏植え多収な「Ni27」の品種特性を活かした栽培技術の開発
(同センター徳之島支場 作物研究室 研究専門員 西原 悟 氏)

2.シンポジウム

 「基本技術の適期実践と管理作業受委託体制の確立により生産安定」をテーマとし、各島のさとうきび増産計画における共通課題となっている農作業受託組織の育成や省力化を図りながらの経営規模の拡大に向けて、種子島と沖永良部の取組みについて事例発表があった。

・機械化省力栽培の取組によるさとうきび経営面積の拡大
 (知名町さとうきび生産者 神崎 兼三 氏)
 ※平成30年度さとうきび生産改善共励会(農家の部)の鹿児島県知事受賞農家

・TOPS3000の活動報告と今後の取組について
 (TOPS3000 中種子支部会長 鎌田 恵 氏)


  沖永良部島の知名町のさとうきび生産者の神崎 兼三 氏からは、トラクター、ハーベスタに加え、ビレットプランター等の機械を導入し、自ら耕耘から収穫までを一元的に実施している様子が報告された。また、収穫作業を受託するにあたり機械化により省力化が図れたものの、受託面積の拡大にはやはり限界がある現状に加え、今まで見られなかった雑草が見られるといった課題の言及もあった。最後に、今後の農業経営の方向としては、土づくりや肥培管理、株出管理について、機械化を進めながら効率的に実施して単収の向上に繋げ、機械化一貫体系のモデルを構築したいとのことであった。
 続いて、種子島のTOPS3000 中種子支部会長 鎌田 恵 氏からは、平成27年に規模拡大意向の担い手生産者組織として発足したTOPS3000の現状について言及があり、発足して4年である程度の規模拡大は進んできたものの、親が子に土地をゆずらないケースも散見されることから、目標の規模に達していない状況が報告された。こうした中、中種子支部では、中種子町が所有する全茎式プランターを使った受託作業を開始して、町内の面積拡大に繋げている旨の説明があったほか、南種子町では、低コスト・省力化への取組として、トラッシュ除去過程で排出される梢頭部のみを利用した栽培試験の様子等が紹介され、新しい作付方法を模索する様子も報告された。
 なお、事例発表後は、各島における管理作業の受委託体制の確認や、機械の導入に係る問題点等について、報告者と出席者との間で意見交換が行われた。
 最後に、鹿児島県農業共済組合連合会から、さとうきび共済及び平成31年1月から始まった収入保険について、両制度の仕組みなどについて説明がなされた。
 
 今回の発表会においては、平成29年産に続いて30年産も厳しい年となったことから、安定的な生産に向けた管理作業等の徹底に加え、機械化を通じた省力化による規模拡大に重点をおいた発表や意見が多く見られた。今回の発表内容が速やかに現場に普及し、さとうきび増産の一助となることを期待したい。
熱心に研究成果発表を聞く出席者
熱心に研究成果発表を聞く出席者
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農畜産業振興機構 地方事務所 (担当:鹿児島事務所)
Tel:099-226-4731