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【巻頭言】農業経験のある県知事として

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最終更新日:2013年6月25日

熊本県知事 蒲島郁夫(かばしま いくお)

蒲島 郁夫氏
蒲島 郁夫氏

生年月日:昭和22年(1947)1月28日
昭和40年(1965)県立鹿本高校卒業後、地元農協に勤務
   43年(1968)農業研修生として渡米
   49年(1974)米国ネブラスカ大学農学部卒業
   54年(1979)ハーバード大学大学院修了(経済学博士)
平成 9年(1997)筑波大学教授を経て東京大学法学部教授に就任
   20年(2008)熊本県知事(1期)
   24年(2012)熊本県知事(2期)
<主な著書>
・「イデオロギー」(東京大学出版会)2012.11
・「戦後政治の軌跡」(岩波書店)2004.6
・「逆境の中にこそ夢がある」(講談社)2008.2
・「Changing Politics in Japan」(コーネル大学出版会)2010.5

熊本県の農業

 熊本県は、阿蘇山をはじめとする山々から天草の美しい島々まで変化に富んだ地形にあり、温暖な気候と肥沃な土地、豊富な地下水に恵まれています。コメ、畜産、野菜、果樹などバランスの取れた生産構造が、農業県たる熊本の特徴であり強みであると考えています。 
 

夢の実現

私がこの熊本県の知事に就任してから、五年が経とうとしています。
 若い頃の私が持っていた夢は、阿蘇の草原で牧場主になること、そして政治家になることでした。
 地元の農協に就職した私は、牧場主になるという夢を追い、二十才で農業研修生としてアメリカに渡る機会を得ました。一年以上にわたる牧場での研修は、想像を超えた重労働の毎日でした。あれくらい厳しい農作業に従事した経験のある県知事は、他にいないのではないでしょうか。
 この研修プログラムの中で学問の楽しさに目覚めた私は、再渡米してネブラスカ大学の農学部で繁殖生理学を研究し、豚の精子の保存法について学会に論文も発表しました。そして、政治家になりたいというもう一つの夢から、ハーバード大学での政治学の勉強に転じました。「牧場主になる」という夢が私をアメリカに連れて行き、「政治家になる」という夢が私を政治学に導き、そして県知事になったわけです。

稼げる農業の実現に向けて

 私は、農業を県政の最重要分野として位置付けてきました。農業の大変さは、自分も身に染みてわかっているつもりです。農家一人ひとりがゆとりと豊かさを持ち、幸せを実感できるためには、まずは「稼げる農業」を実現することです。意欲ある経営者の所得が最大化するよう、品質や商品力の向上による「販売価格の上昇」、産地再編等による「安定した生産・出荷量の確保」、産地が一体となった「コスト縮減」という3つの要素を最適化することを、施策の基本に考えています。
 最近の特徴的な取組みをご紹介します。
 全国有数の食料供給基地である熊本県で生産される多様な農林水産物の中には、トマト、すいか、いちごをはじめ、あか牛、真鯛など「赤」をイメージさせるものが多数あります。「火の国」とも呼ばれる熊本県のイメージカラーの「赤」にちなみ、県産農林水産物やその加工品を「くまもと『赤』のブランド」として全国に発信し、県内外での認知度の向上を目指す取組みを始めたところです。
 また、全国一の農業用ハウスの加温面積(2,400ha)を持つ施設園芸と恵まれた森林資源の特性を活かして、加温機の燃料を木質バイオマスに転換し、未利用の林地残材等を原料とした木質燃料の供給体制を整えるとともに、発生する焼却灰も利用する、熊本型地域循環システムの構築に取り組んでいます。
 この他に、九州新幹線の全線開通に合わせ、沿線の遊休地化した田畑や休耕田に菜の花やレンゲを植え、観光客のおもてなしと美しい農村景観の形成を図る「イエロープロジェクト」、意欲ある若手農業者の経営力を高め地域のリーダーとしての能力を育てる、農業版松下政経塾とも言うべき「くまもと農業経営塾」などのユニークな取組を進めています。

口蹄疫、あか牛

 自分の農業に関する経験と知識が最も役に立ったのは、先年に隣県で発生した口蹄疫の時でした。口蹄疫の恐ろしさは、農学部で習ってよく知っていました。宮崎県で大変な思いで防疫される中、熊本県を全国の防波堤とするためにも、絶対に熊本県内では発生させないとの強い思いで、県境と県内で防疫に努めました。結果的に本県での発生がなかったことで、県の畜産のみならず、県経済全体への影響を食い止められたのではないかと思っています。
 熊本の畜産の中でも、最近は主に阿蘇地域で飼育される「あか牛」が注目を集めています。あか牛は熊本の在来品種ですが、丈夫でおとなしく、阿蘇の草原での放牧に適しています。その肉は、脂が少なめで赤身とのバランスがよく、うま味がたっぷり味わえることから、近年のヘルシー志向にもマッチして、価格が上がってきています。阿蘇の広大な草原であか牛が草をはむ風景は、熊本県を代表する観光資源の一つです。民間での需要拡大の取組みに加え、県しても、あか牛繁殖雌牛の導入支援による増頭対策や、草原での放牧条件の整備を進めています。

稼げる農業から次の展開へ〜ストーリー性のある農業振興

 農業は、農産物の生産にとどまらず、環境を守り地下水をはぐくみます。素晴らしい田園風景は人々の心を豊かにし、多くの観光客を惹きつける、可能性にあふれた産業だと確信しています。これからも「稼げる農業」の実現とともに、様々な分野と連携したストーリー性のある施策を展開し、農家のみなさんとともに幸せを実感できる「蒲島農政」を展開していきたいと考えています。
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