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EUの牛肉消費状況 〜和牛の輸出拡大を見据えて〜

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最終更新日:2015年3月4日

調査情報部 中野 貴史

1 はじめに

政府は、農林水産物・食品の輸出拡大を目標に掲げる中で、和牛などを主要品目と位置づけており、農林水産省ではこれら農畜産物の輸出促進に取り組んでいます。そこで、和牛の主要輸出先として注目されるEUについて、主要牛肉消費国であるフランス、英国、ドイツの牛肉消費・販売の概況とともに和牛の輸出拡大の可能性について考察してみました。

2 EUの牛肉消費状況等

フランス・パリの精肉店で販売されていた神戸牛 「価格は応相談」と表示
フランス・パリの精肉店で販売されていた神戸牛 「価格は応相談」と表示
(1)主要国の牛肉消費の動向
EU(28カ国)の牛肉消費量は756万t(2013年)と、世界最大の牛肉消費国である米国の1161万t、2位ブラジルの788万tに次ぐ牛肉消費地域となっています。また、フランス、イタリア、英国、ドイツの4カ国で、EU牛肉消費量全体の4分の3を占めています。このうち、各国の富裕層が数多く集まり、文化的・経済的に影響力の強いパリ、ロンドンを有するフランスと英国、そしてEU経済をけん引するドイツが、和牛の主要輸出市場とみられています。なお、EUの1人当たり年間牛肉消費量は14.9kgですが、国別ではフランスが同23.7kg、英国同15.7kg、ドイツ同13.5kgと、世界の2大牛肉消費国(米国:同37.0kg、ブラジル:同39.1kg)には及びませんが、日本(同9.0kg)の1.5〜2.6倍の牛肉を消費しています。(2011年FAO)
「Harrods」デパート牛肉売り場の天井からつりさげられたWAGYUの解説
「Harrods」デパート牛肉売り場の天井からつりさげられたWAGYUの解説
(2)主要国の牛肉販売動向
一般的な傾向として、食肉専門店であるお肉屋さん≠ェ徐々に減少しており、核家族化や共働き世帯の増加により、消費者は、牛肉などをスーパーマーケットなどで購入する割合が増えているようです。また、調理に時間をかけないよう、単純に焼いたり温めたりするだけで提供できる牛肉製品も増えています。

一方で、高品質な牛肉については、これらに関心のある消費者の根強い需要を背景に、食肉専門店での取扱いが幅を利かせています。フランスの高級住宅が連なるパリ16区の精肉店では、WAGYUと称する豪州産牛肉やスペイン産銘柄牛の熟成(ドライエイジング)肉が販売され、部位や品質により値段は異なりますが、同店で販売される他の高級牛肉の3〜5倍の価格となっていました。
そこに日本の神戸牛も販売されており、価格は表示されていなかったものの、店長に聞くと外国産WAGYUの価格を大きく上回るとのことでした。英国ロンドン市内の老舗高級デパート「Harrods」では、牛肉売場(対面販売)で日本の神戸牛、また、WAGYUと称する豪州産やチリ産の牛肉が販売されています。これらは、その他の高級牛肉に比べ2〜4倍の価格となっています。

ここには、和牛の解説が天井から吊り下げられており、「和牛もしくは神戸ビーフは、世界で突出した牛肉であり、血統書付きのこの牛は独特の飼養哲学で育てられ、卓越した軟らかさと脂肪交雑がある。」と紹介されています。
英国の最高級デパートでこのように和牛が紹介されているのは嬉しいことですが、和牛とWAGYUと称する豪州産牛肉などとの違いが正しく消費者に伝わっているのかと問われれば疑問は残ります。

3 EUでの和牛販売

EUでは、これらWAGYUと称する豪州やチリ産牛肉が先行して高級牛肉市場の開拓を進めていたことから、WAGYUの名称と特徴(肉質が軟らかい霜降り肉)は広く知られており、高級牛肉としての地位を既に獲得しています。
このため、日本の和牛は、これらを凌ぐ品質や味を誇れることから、「本物の和牛」としてロンドンやパリなどを中心に徐々にEUの牛肉市場に浸透しています。ただし、豪州産やチリ産の牛肉に比べて倍近い値段で販売されるケースもあるため、より値頃感のある売価を追究するとともにこの価格差をどのように受け容れてもらうかが、今後の和牛輸出拡大の課題ともされています。
図

4 おわりに

EUの和牛輸出は、主に富裕層を対象に、ロースなどの高級部位を中心に輸出を伸ばしていくとみられます。一方、政府の輸出戦略では、和牛は高級部位のみならず多様な部位を輸出することとしています。
EUの牛肉市場では、一般的に赤身の多い牛肉を好む傾向が強いとされることから、今後は、ももなどの部位の需要も高まることが予想されます。EUは牛肉の成熟市場であり、長い牛肉文化を擁するので、すき焼きやしゃぶしゃぶ等の日本食としての和牛の楽しみ方の紹介と合わせて、それぞれの地に根ざした食文化をとり入れた、新たな和牛の楽しみ方も工夫していく必要がありそうです。

日本の和牛の美味しさを世界の多くの人々に味わってもらえるよう、当機構では、引き続き和牛の輸出拡大に向けた活動に協力してまいります。

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