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中国の酪農・乳業事情

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最終更新日:2015年7月6日

調査情報部 木下 瞬

はじめに

 中国の牛乳・乳製品の消費動向は、2008年の育児用粉乳のメラミン混入事件を契機に変化が生じています。この事件以降、消費者は、牛乳・乳製品の安全性や品質を重視するようになり、購入量を減らす一方で、単価の高い製品を選択したため支出額は増加しています(図1)。また、消費者は国産品に対する不信感を高め、輸入品を求めるようになりました。

図1 都市部の1人当たりの牛乳・乳製品家計消費及び支出額の推移
図1 都市部の1人当たりの牛乳・乳製品家計消費及び支出額の推移

粉乳の輸入状況

 中国では生乳(搾ったままの乳)が不足しており、多くの乳製品を輸入するようになりました。特に最近では粉乳を中心に輸入が増加しています。粉乳は、常温による輸送が可能で管理も容易なため、乳製品貿易に占める割合も高くなっています。
 粉乳は生乳を原料とし、水分を取り除いたものです。主な用途は、水で戻して還元乳として乳飲料などに使われるほか、ヨーグルトや育児用粉乳、アイスクリーム、製菓、製パン用など、さまざまな食品の原料となります。
 2 0 1 4 年の粉乳輸入量は 92 万t(前年比8・2%増)と、増加傾向にあります( 図2)。2013年は国内の生乳不足を受けて、粉乳輸入量は急増しました。その後、2014年に入ってからはロシアの禁輸措置の影響で、行き場を失った欧州産粉乳が中国向けに振り替えられるなどで、輸入量はさらに増えることとなりました。しかし、2014年後半からは一定の在庫水準に達したことなどから、輸入需要に一服感が生じています。
 最大の輸入先は、2008年に中国と自由貿易協定(FTA)を締結したニュージーランド(NZ)で、輸入量全体の8割を占めます。FTA締結以降、NZからは他国に比べて、低い関税率で輸入できるため、急速にシェアを伸ばしてきました。

スーパーのヨーグルト売り場(北京市内)
スーパーのヨーグルト売り場(北京市内)

図2 全粉乳および脱脂粉乳の輸入量の推移
図2 全粉乳および脱脂粉乳の輸入量の推移

図3 生乳の農業出荷価格の推移
図3 生乳の農業出荷価格の推移

国内生乳生産への影響

 最近では、乳製品の国際相場が下落しており、中国の国産生乳より輸入粉乳を使う方が安上がりになってきました。このため、中国の乳業メーカーは国産生乳の使用割合を減らしていて、酪農家から買い取る生乳を買い叩いたり、取引を中止したりする動きも広まっています。
 生乳の農場出荷価格(乳価)は、2014年 2月の1kg当たり4・3 元( 86 円)をピークに下落し、2015年5月は同3・4元( 68 円)と、一年間で 20 円程度下落しました(図3)。これにより、酪農家の経営環境は悪化し、一部では生乳を農地に廃棄したり、乳用牛を淘汰して廃業する事態が起こっています。
 このような中、中国政府は、乳業メーカーに対して国産生乳の使用割合の向上を働きかけていますが、目立った改善は見られず、小規模を中心に経営を中止する酪農家が相次いでいます。

おわりに

 中国は国際貿易を進めており、今年はオーストラリアとのFTA締結が見込まれています。このまま安価な乳製品の輸入が増えれば、国内の酪農家はさらに厳しい環境にさらされることになるでしょう。一方で、大手乳業メーカーや外資系企業などが国内の生乳生産に参入し、酪農先進国並みの技術を導入しつつ、国際競争力を高める動きも見られます。
 今や同国の牛乳・乳製品の需給動向は、国際相場にも大きな影響を与えており、世界的にも注目されています。

大手乳業メーカー、蒙牛の大規模農場(内蒙古自治区)
大手乳業メーカー、蒙牛の大規模農場(内蒙古自治区)

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196