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【第一線から】ハーベスターは“ゆがふ(世果報)”の夢を見るか?〜沖縄本島のさとうきび作りを守りたい〜

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最終更新日:2016年5月11日

ゆがふ

 去る平成27年9月1日、沖縄本島にあった2つの製糖工場、翔南製糖と球陽製糖が合併し、島で唯一となる「ゆがふ製糖」が誕生。今回、沖縄本島の製糖会社と生産者にお話をお聞きすることができました。
 さとうきびは、今では肉用牛にわずかに抜かれたものの、本土復帰した昭和47年以来、長らく県の農業産出額の第1位を占めてきた沖縄を代表する作物です。
 さとうきびの生産のピークは復帰前に遡るキューバ危機後の昭和39年で、沖縄本島だけで140万tを超え、6つの製糖工場が操業していました。しかし、沖縄本島ではその後、宅地開発が進んだことなどにより、離島に比べて著しくさとうきび生産が減り、昭和45年に13765haあった収穫面積も平成25年には2986ha、収穫量は14万tまで減少しました。
 さとうきびの収穫は重労働であるため高齢者には負担が大きく、手刈りからハーベスターによる機械刈りへの移行も進んでいます。
 台風に倒されても、太陽の光を浴びて再び成長を始める強靭な生命力を宿すさとうきび。収穫後の株から収穫する「株出し」が可能な沖縄の気候。これらを踏まえて名づけられた「ゆがふ製糖」の「ゆがふ」とは、古い沖縄の言葉で、世界の幸せやすばらしい、という意味を表し、豊年や五穀豊穣の願いが込められているのです。

◆沖縄本島唯一となった工場が目指すもの

沖縄の糖業の歴史を語る知念社長

出来たばかりの砂糖(甘しゃ糖)

ゆがふ製糖の煙突「さとうきびは沖縄の宝」の文字

 ゆがふ製糖の知念宏彦社長はどんな経営を目指しておられるのでしょう。
 「戦争と占領で道路などインフラも十分でなかった沖縄で、復興の原動力となったのはさとうきび。昭和50年に開催された沖縄国際海洋博覧会以降は宅地開発が進んで畑が減少しました。生産者の高齢化も進んでおり、この流れは変えられません。さとうきびは、収穫し時間が経つと糖度が下がることから、工場の操業計画にあわせて収穫する必要があります。また、収穫時期には株出管理や春植えの作業があります。今回の合併で操業日数が年間70日から100日に延びることから今まで以上にこれら作業を行えるようになり、10a当たり6tは生産できます。それにより工場の操業も維持されることとなります。沖縄本島は修学旅行など観光客も多い。ここでしかできないさとうきび刈り体験など観光産業ともタイアップしていきたい」。目の前でさとうきびが圧搾され砂糖ができていく光景は、人工の物にはない自然の魅力が感じられます。
 「製糖過程でできる三番糖はビターで味わいがあるんです。それを使った商品開発にもチャレンジしたい」。知念社長の力強い言葉からは、製糖工場の火は守り抜くという意気込みが伝わってきます。
 訪問を終え、工場からそびえる煙突を仰ぎ見ると、そこには次のスローガンが目に入りました。『さとうきびは沖縄の宝』

◆若い生産者の夢

ハーベスター

 南城市の新垣智也さんは、収穫作業などを請け負う傍ら、自らも農作物を生産する「大農ファーム」の若い経営者です。  
 沖縄本島のさとうきび生産者の大半は兼業農家で、知念社長も新垣さんにご自分の畑の植え付けを委託しておられます。  
 夕方、黙々と収穫作業に精を出す新垣さんにお会いすると、ハーベスターを自在に乗りこなす姿から意外な言葉が聞かれました。
 「ハーベスターでの作業は傾斜がきついと苦労しますね。本当はトラクーで畑の手入れをしている方が性に合っているんです。そしてできれば自分で作る畑を増やしていきたい」。農作業で知り合った高齢の生産者からさとうきび作りを頼まれることもあるそうで、耕作地は4haまで増え、作業受託も19haまで増えました。単収向上のため野菜との輪作による土壌改良にも取り組んでいます。
 近くの工場がなくなって不安はないでしょうか。
 「原料のさとうきびが減っているからしょうがないね。でも工場の操業日数が長くなれば自分の畑の世話ができてありがたい。人がうらやむ立派なさとうきびを育てるのが夢なんです。そして同じ気持ちが周りにも広がっていけばいい」。そんな新垣さんにとってさとうきびとは何か、と尋ねると、
 「じいさんの代から傍で見てきたからね。国の宝だね」と、無邪気に笑い、講演会でのいつもの締め言葉を教えてくれました。
『もう一度輝け!ちゅらきび!』と。

(注)ちゅらとは「美ら」と書き、「美しい」という意味の沖縄言葉です

◆沖縄の原風景と未来像

新垣さん

 雨風に翻弄されてもたくましく成長する姿に励まされ、連綿と営まれてきた沖縄本島のさとうきび作り。今は高齢化の波が押し寄せています。お二人の言葉からは、機械化にも対応して、沖縄本島の美らきびの風景を守り続けようとする気概が伺えました。
 近い将来、気軽にさとうきび刈り体験や三番糖の味見ができる日が来るかもしれません。皆さんも沖縄を訪れた際には、ゆがふ製糖の煙突をご覧になり、沖縄本島のさとうきび作りに思いを馳せてはいかがでしょう。alicはそんな生産者や製糖工場を応援しています。
(特産業務部)

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