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【トップインタビュー】酪農が盛んな千葉県で循環型酪農に取り組むとともに、自家製乳製品の製造販売による6次産業化を実現〜千葉県いすみ市の高秀牧場〜

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最終更新日:2018年11月7日

(有)高秀牧場 代表取締役 高橋 憲二(たかはしけんじ) 氏 に聞く

 千葉県の房総半島南東部に位置するいすみ市で耕畜連携による水田飼料作物の利用を通じた循環型酪農に取り組むとともに、自家製の生乳を使ったチーズやジェラートなどの製造販売も行う有限会社高秀牧場の高橋代表取締役にお話を伺いました。
正面

酪農を始められたきっかけを教えてください。

 昭和39 年に私の父が、八千代市内で酪農を始めました。私も酪農をやりたいと言っていたので、昭和58 年に父が私のために牧場用地を購入したのが当牧場の始まりです。当時、私は高校生だったので、のちに実家の牧場を継いだ兄が4年程経営し、昭和63 年から私が引き継いでいます。
 乳用牛飼養頭数は130頭。そのうち、経産牛(※1)が90 頭、育成牛(※1)が40 頭です。年間の生乳生産量は900tで私と妻、息子が牧場を担当し、その他に5名のスタッフがおります。チーズ工房は現在1名ですが、ミルク工房は私の娘を含めて8名が働いています。

(※1)経産牛とは、搾乳するために子牛を生ませた雌の牛のこと。育成牛とは、ここでは(将来、経産牛として搾乳するために育てている) 雌の子牛のこと。
 

循環型酪農のシステムについて教えてください。

えがみ
 牛のふん尿を牧場で処理して、堆肥(たいひ)を生産します。堆肥は自社が所有する畑のほか、地域の水田で牛の飼料の生産に使われます。当牧場では、自社の畑で生産したトウモロコシサイレージ、イタリアンライグラス(※2)に加え、地域の稲作農家から供給されるWCS(※2)、飼料用米などを牛に与えています。
 WCSは約30 名の稲作農家と契約し、今年は約50 ha を作付けしてもらっています。飼料用米は11 名の農家に30 ha 作付けしてもらっています。
 配合飼料は1kg当たり50 〜 60 円しますが、飼料用米は現在、交付金による支援もあって同じく20 円で購入できるというメリットがあります。やはり、瑞穂の国といわれる、日本の風土には米作りが合っているし、牛の栄養バランスも考えればお米はすごくいい餌だと思います。

(※2)サイレージとは、作物をサイロ等で発酵させた家畜飼料、イタリアンライグラスとは、寒地型の牧草種のこと。WCSは、牛の飼料用にする稲の茎葉をモミごと収穫(ホールクロップ)し、乳酸発酵(サイレージ)させたもの。
 

耕畜連携による循環型酪農を始めたきっかけは何ですか。

子豚
 20 年程前、地域の5軒の酪農家の間で、ふん尿処理の課題を解決しない限り酪農を継続できないとの議論をしました。糞尿の臭気は近隣からの苦情もあり、ご近所と上手く付き合っていくために、何か貢献できることはないかと考えました。この地域は稲作地帯なので、いいお米作りに貢献できれば稲作農家の所得向上につながり、地域に受け入れてもらえると考え、牛の尿を液肥に使用したブランド米づくりを手掛けました。これにより、万喜米(まんきまい)というブランド米を販売することに成功したのです。結果、今までより1俵当たり2000円も高く売れるようになり、稲作農家の信頼を得たことで耕畜連携が始まったのです。
 

ミルク工房も来場客が増えてきているようですね。

えがみ
 ミルク工房では、地域の農産品を取り入れたジェラートなどを製造販売しています。ミルク工房は娘を経営者として独立させ、原料となる牛乳を当牧場が売っています。ミルク工房の売り上げは、開設して2年で右肩あがりで伸びてきています。 

6次産業化を始めたきっかけや、苦労されている点を教えてください。

 牧場の方で良い人材が確保できず人手不足に悩んだ時期もありました。どうしたら良いだろうと考えた時に、新しい牛舎を建てることも考えましたが、私のやりたい酪農は、規模拡大よりも中身を充実させることだったので、牛乳を加工して販売し、消費者と交流をしながら付加価値を高めていけば、きっと良い人材が来るという気がしたのです。それで最初にチーズ工房をスタートさせたのです。
 たまたまチーズ職人となることを志望する優秀な人材が、牧場スタッフの求人に応募してくれたのが契機となり、彼にチーズ作りをさせるために工房をオープンしたのが、軌道に乗っていきました。
 でもやはり、結構リスクはありますよね。オープンした時には、チーズ販売は私と妻でやっていましたが、牛の管理が行き届かなくなって、牛乳の生産を落としてしまいました。だから、外国で就職していた娘に帰ってきてもらいました。牛に精いっぱい神経と体力を注いでいたものを、他のことを始めると、中途半端になってしまう。皆が6次産業化できるかというと、けっしてそうではないと思います。でも、可能性は秘めています。
 

6次産業化を継続していくためには他に何が必要でしょうか。

環境
 チーズは、国際コンクールでの受賞もあり、おかげ様で製造量が追い付かない程の売れ行きです。あえて製造量は増やしていません。売れるからといって利益に走ると、職人さんは製造に追われます。チーズ作りが好きで来てくれている職人さんは、新しい商品を企画して作ることが面白いはずで、本人が楽しくないのに良いチーズはできないでしょう。楽しみながら工夫を考える余裕は残したいと思います。
 牛を飼うことも同じですが、楽しくやってるときには、とても効率が上がりますね。新しいことをやってみたいと思った時、普段やっていることを効率よくしないと、そこには辿りつけない。楽しく仕事するということを一番大事にして、職人さん達には、売り上げや利益は求めないから楽しくやりなさいとだけ言っています。
 

御社が目指す今後の方向性については、いかがでしょう。

 今、飼料用米作りに対する交付金の効果もあって、耕作放棄地を復田して米を作る傾向があります。これが継続されれば耕作放棄地も解消されるし、稲作農家の所得向上にもつながる一方で、畜産農家は飼料用米を安価な値段で購入出来るので経営コストが下がる。更に日本の風土、景観も守れるわけです。ふん尿処理まで含めて地域と連携でき、足腰の強い畜産経営が可能となる。この地域では稲作農家と畜産農家のいずれも、お互いを欠くことができない存在です。消費者の方は、やはり外国産の飼料に頼らないで牛を飼うことに挑戦していると話すと、応援してくれます。国産の飼料で生産した牛乳を商品化できないかと言われるのですが、そのような牛乳だけをパック詰めにして、ブランド化して販売するのは極めて大変です。しかし、将来手がけていきたいと思っています。
 海外から餌を仕入れ、それを家畜に食べさせて食肉や牛乳を生産して、餌をまた海外から仕入れる。そのような一方通行ではなく、家畜が食べた後のふん尿を土に戻して、また作物を作って食べさせるという循環が望ましいのではないでしょうか。
 
養豚場

有限会社高秀牧場 代表取締役 高橋憲二 氏

昭和58年  酪農学園大学酪農学部酪農学科入学
昭和60年  カナダ オンタリオ州 ローマンデール牧場研修
平成 2年  (有)高秀牧場設立 代表取締役就任
平成12年  (有)アイデナエンタープライズ設立  代表取締役就任
平成19年  千葉北部酪農農業協同組合 常務理事就任
平成24年  高秀牧場チーズ工房オープン
平成28年  千葉県乳牛改良同志会会長就任、ミルク工房オープン(ジェラート・カフェ)

〈賞歴〉
平成11、15、26、29年  千葉県乳牛共進会 農林水産大臣賞
平成12年          青年農業者グループ活動コンクールN HK会長賞(アイデナエンタープライズ)
平成16年          第34回 日本農業賞
平成27年          フランス国際チーズコンクール スーパーゴールド賞
平成28年          ジャパンチーズアワード 金賞・銀賞・外国人審査賞
                 全国優良畜産経営管理技術発表会 最優秀賞
 
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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