消費者コーナー 「食」の安全・安心や食育に関する情報、料理レシピなど

ホーム > 消費者コーナー > 広報誌 > 【レポート】ニュージーランドの酪農・乳業

【レポート】ニュージーランドの酪農・乳業

印刷ページ

最終更新日:2019年1月9日

 ニュージーランド(以下「NZ」という。)は、全粉乳(生乳から水分を除去して粉末状にしたもの)とバターの世界最大の輸出国です。生乳生産量は、世界全体の生乳生産量の3%程度であるものの、国内の人口が480万人と少ないことから、生産された牛乳・乳製品の95 %を輸出しているため、世界有数の乳製品輸出国となっています。日本にとっても、バター、脱脂粉乳およびチーズの主要な輸入先国です。そこで今回は、NZの牛乳・乳製品の輸出動向について紹介します。
 

放牧を中心とした生乳生産

 NZでは、温暖で降水量に恵まれた自然条件を生かし、草地を最大限に利用した放牧を中心に生乳生産が行われています。そのため、一般的に8月(早春) に搾さく乳にゅうを開始し、10 〜 12 月(初夏)にかけて生乳生産のピークを迎えます。その後、翌年5月(冬)にはほとんどの牛が乾かん乳にゅう(搾乳を停止すること)となり、次の分娩に備えます。
生乳生産量は、国際的な乳製品需要の増加などに伴い増加傾向で推移してきました。
 

レポ1-1

中国向け輸出需要の 増加に伴い生産を拡大

  NZの牛乳・乳製品輸出額は、長期的にはおおむね増加して推移しています。2014/15 年度(注)以降は、牛乳・乳製品の輸出量はおおむね横ばいで推移しましたが、輸出額は、その時々の乳製品国際取引価格の動向に左右されており、2017/1 8年度は、主要な乳製品の国際取引価格が上昇したことに伴い増加しました。

(注)7月〜翌6月で1つの年度とする。

  次に乳製品輸出量の推移をみると、2017/18年度は、10 年前と比べすべての品目で増加していますが、中でも最大の輸出品目である全粉乳は、中国の経済発展に伴う需要の増加により、2倍以上と特に伸びが大きくなっています。これは、生乳生産量の増加分とほぼ等しい伸びとなっています。2007年時点では、全粉乳輸出量のうち、中国向け輸出量が全体に占める割合は7%程度でしたが、2017年は35 %程度を占めています。その他、脱脂粉乳、バター、液状乳、育児用調製粉乳など、多くの乳製品輸出において、中国が最大の輸出先国となっています。なお、チーズは、日本向け輸出量が全体の19 % 程度を占めており、最大の輸出先国となっています。
 

レポ1-2

生乳生産量の大幅な 拡大は困難

  NZは、中国向けを中心とした牛乳・乳製品輸出需要の増加を背景に、生乳生産量の拡大を図ってきましたが、2 014/15年度以降の生乳生産量は、減少またはおおむね横ばいで推移しています。その主な理由は、土地の制約および環境問題です。前述のとおりNZの酪農は放牧で行われており、乳用牛の飼養頭数を拡大するためには放牧地の拡大が必要です。しかし、NZ の人口は2018年6月時点では489万人と、2000年時点から100万人増加する一方、農業用地は都市化の進展などにより減少しています。さらに、土地の利用は、酪農経営、肉用牛・羊経営、園芸作物、森林などさまざまな産業で競合しています。これまでは、酪農における収益性の向上に伴い、肉用牛・羊経営などからの転換により酪農向けの農地を拡大させてきましたが、今後は、環境規制により河川付近での牛の飼養が制限されたり、都市化の進展により農地の減少が見込まれたりすることなどから、酪農向けの農地の拡大は難しいと言われています。また、すべての牛に十分な牧草を与えるためにはこれ以上飼養頭数を増やすことができないため、規模拡大も見込めません。これらの理由から、乳用牛飼養頭数の増加は難しく、生乳生産量の大幅な増加も見込めないと言われています。
 
 

熱帯種

TPP 11 協定発効後

  日本とNZを含む11 カ国が参加する環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(以下「TPP 11 協定」という)が、2018年12 月30 日に発効しました。これに伴い、NZはTPP 11 協定に参加する国々の市場への新たな参入条件を獲得することになり、関税削減・撤廃によるコストの低減や輸出拡大が期待されていますが、その一方で、生乳生産量の大幅な増加は見込めず、供給余力は限られています。こうした状況の下、日本は、乳製品の輸入において、中国や東南アジアと競合関係にありますが、それらの国では経済発展に伴う需要増加・購買力向上が見込まれ、日本が買い負けする時代が来る可能性も否定できません。そのため、日本における牛乳・乳製品の安定供給を今後とも確保していくためには、日本国内における酪農生産基盤の維持・拡大が重要であることが改めて強く認識されます
 
前のページ         次のページ
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196