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【トップインタビュー】地域のリーダーとなる農業経営者を育てる 〜東京 品川にある日本農業経営大学校 第1期生を輩出して〜

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最終更新日:2015年9月2日

日本農業経営大学校 校長 堀口健治 氏に聞く

現在、農業の後継者不足が課題となっている一方、農業に関心を持っている若者も増えています。そこで、将来の農業経営者の育成を目的に2年前に開校された農業経営大学校の校長である堀口健治氏に同校での教育内容などについてお話を伺いました。

貴校は、平成25年4月に開校されたわけですが、開校の理念について教えてください。

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 日本の農業は、担い手減少と高齢化の進行という厳しい状況です。
 それでも私驚いたんですが、ある農業法人の昨年の求人に約4000人もの応募があったそうです。また、平成 26 年度の農業白書では、都市に住む人の農山漁村への定住願望調査結果を述べていますが、定住したい人の割合は増加し、特に 20 代男性の割合が高くなっています。農と食に関心のある人は増えているようです。
 このような状況の中、事業仕分けで農業者大学校が廃止になった後を受けて、(一社)アグリフューチャージャパンという組織が主体となり、民の力で、就農希望者に幅広い教育を2年間で行う当校を作ったということが、開校の経緯です。

貴校は、農業力の他に、経営力、社会力、人間力といったさまざまな資質を養うことを目指されています。どのような問題意識でこの教育方針を設けられたのですか。

 農業は地域を離れては成り立たないので、就農して農業経営者になった時には同時に農村地域のリーダーにもなって欲しい。当校は就農者を育てるわけですから、農業力は当然として、経営力や社会力、人間力など総合力を育むことを目指しています。
 天皇杯(注)を受賞された横田修一さんは、茨城県で先進的大規模稲作経営をされています。経営規模は当時 88 ha でしたが、通常 30 ha に1セットは必要なコンバインと田植え機を、1セットのみでこの面積を賄っています。色々な品種で田植えの期間を延ばせば1セットで賄うことができますが、問題は水利です。多くの地域は、用水に余裕がないので、集落ごとに田植え時期を決め、順次その時期をずらしていくという形で水の使い方を合理的に決めています。横田さんがなぜ1セットで出来るのかというと、地域における水利慣行や自分の経営の位置など集落の社会学を勉強して、地域との折り合いをうまく付けたためだと思います。これが社会力、地域と個人経営との共存の一例といえると思います。
 本校の学生には社会人経験者もいますし、高卒や大卒など19歳から30歳台半ばまで年代や性別もさまざまです。当然、今までの経験で得意な分野も異なっており、2年間の寮生活の中で、多様な人材に触れ、切磋琢磨することを期待しています。

就農するには技術が必要ですが、作物の肥培管理とか家畜の飼養管理といった技術的なことは教えていらっしゃるのですか。

 当校に農場はありませんが、農業力の科目は結構あります。しかし、あなたは園芸や畜産コースだからこの科目を2年間学びなさい、という風にはしていません。農業の基礎や技術の学び方は学ぶけれども、それ以上のものは各自で学ぶ方法を勉強します。
 その一つが、1年次に4ヵ月間行う農業実習です。実習先は、2年後の進路を考えて、学生が自分で決めます。これはと思うような先進的な農業経営者や法人を自分で選び、交渉して、現場で学ぶのです。
 また、当校に入学するためには、農業のある程度の経験を必要としています。高校の卒業生が入学を希望した場合は、合格後、農業法人や先進的な農家で1年間農業を経験してもらってから入学しています。

2年次には企業実習がありますが、どのような企業に行かれていますか。

 2年次に3ヵ月間の企業実習を行っていますが、派遣先は実に多様ですね。スーパーとか生協で流通の実態を勉強したいという希望は多いです。スーパーの店頭に立ち、農産物や加工品を販売し、自分たちが生産したものがどのような形で、どんな価格で販売され、消費者はどういう反応をするのか、流通企業は何を基準に産地を選ぶのか、といったことを学ぶことができる貴重な経験だと思います。その他の実習先では、商社や広告会社、食品メーカー等があります。
 実習先は、自分で探してきて各自で交渉します。もちろん我々も応援しますし、まとまれば当校と企業の間で契約を結びます。引き受ける企業では、業務や営業、財務、人事管理部門など幅広い部門に配置していただいています。学生はこのインターンシップによりいろいろな部門で勉強して、ひと回り大きくなって帰ってきます。

この春18名の方が卒業されたとのことですが、卒業生を送り出したお気持ちと、卒業生の進路などについて教えてください。

 卒業生は、農業法人への就農、親元就農、自分で農地を手当てしての新規就農と、この3つの形を実践してくれました。意欲あふれる卒業生の成功を祈るばかりです。
 将来的には親元就農を考えていても、現時点では色々な経験を学ぶとか技術を学びたいと法人に就農する例もありました。また、都会出身者の新規就農で、土地などの手当てが難しい場合は、いったん法人に就農して独立を目指すという例も多いです。法人の中には、経営幹部としてずっと雇用するのではなく、本人の意欲があれば、独立させてその後も一緒に仕事するという考え方のところも結構ありますから、私たち新規就農を応援する者としては大変ありがたいです。
 また、卒業生のうち3名が女性でした。その中の1人は、仙台の稲作農家の娘さんですが、新たに自分名義で農地を借りて酒米を作り、地元の醸造屋さんに依頼して、妹さんと共同の姉妹ブランドの日本酒を作るという構想です。計画は現在進行中ですが、今後の活躍が楽しみです。今後は、女性が農業経営者になる事例が増えてくるでしょう。

就農する作目は何が多いのでしょうか。

 初期投資が比較的小さい野菜と果樹が多いです。稲作の場合は農地が大きくないと採算が合いませんからね。酪農希望者は初期投資が大きいという問題があります。北海道では、酪農をやめた法人全体を(公財)北海道農業公社が買い上げ、要件を満たした新規就農者に長期にリースする仕組みができ上がっていて、これを利用して就農する人が多いようです。都府県でも同様の仕組みがあれば、新規就農のハードルも下がると思います。

新規に就農する場合、農地を取得しなければなりませんが、それは難しいのでしょうか。

 農村地域も新規就農者を受け入れる姿勢に変わってきています。各地の農業委員会も、新規就農者に積極的に農地を斡旋したり、市町村も町営住宅を貸し出したりする事例が多く見られます。
 3月に卒業した学生の例ですと、彼は大阪出身ですが、兵庫県に就農しました。就農場所は、祖父母の出身地で多少の関係はあるのですが、農地はなかった。在学中に、そこへ何度も通って、特に地元の区長さんの信頼を得て、じゃぁ卒業して就農するならばその時に農地を貸してあげようと、皆さんがまとめてくれたのです。卒業して、斡旋してくれた農家に住み、140aの農地を借りて、機械は借家にあったものを無償でもらったそうです。彼の場合は、在学中に何度もその土地に行ったことや当校で2 年間勉強し卒業したことで地元の信頼を得て、農民として出発できたわけです。

就学に必要な費用は、年に授業料60万円、寮費100万円でよいのですか。

 授業料と寮費は1年間で約160万円ですが、この他に交通費とか昼食代、実習費等は別に必要です。そこで、学生の大半は青年就農給付金の準備型を受給(年間150万円、最長2年間)しています。給付金を受けるには、卒業後に法人就農を含めて就農の要件があるので、学生たちは当校に入学後、在学中の2年間の環境と2年後の設計を踏まえて、各自の判断で応募しています。

卒業後の学生さんについて、フォローアップは行っておられるのでしょうか。

 当校では、卒業生の就農を見守るフォローアップを行っています。先程の兵庫県で新規就農した場合は、青年就農給付金の経営開始型の給付(年間最大150万円、最長5 年間)を申請しています。それでもまだまだ現時点では収入が見込めないため、地域の方の応援を受け、この秋からは集落のライスセンターのスタッフに雇用されます。また、稲作の機械がありますから地域の法人が請け負っていた作業委託の一部を彼のために分けてもらえるようです。
 このような例を含めフォローアップしていくことで、様々な事例や成果を蓄積して未来の卒業生に繋げていければと考えています。さらに、同窓会の設立も計画されていますので、私たちも応援していきたい。卒業生が生産した食材を寮の食堂に納めることなども始まっており、今後が楽しみです。

将来の農業経営者育成の活動をここまでやってこられて、手ごたえはいかがですか。今後の課題としてどのようなものがありますか。

 創意工夫と意欲のある卒業生が就農しており、手ごたえは十分です。マスコミ関係者から「授業料も青年就農給付金でほぼ賄えて、内容も興味深く、先生も著名な方が多いので、入学希望者も多いのでは」との感想を頂きました。また、卒業生はよく頑張って就農する道を開拓し、本校の開校理念が間違っていないことを証明してくれました。ただ、当校の存在は、まだまだ知られていないと感じています。
 若い人を中心に食と農に関心が高まる中、農家の後継者はもちろん、都会に住んでいて農業とか食に関心のある人にもこういう道があるということを、是非、知って応募いただきたい。これからも、夢を持って入学してくる学生を、全力で支援していきたいと思います。

日本農業経営大学校 校長 堀口健治 氏

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昭和17年生まれ
昭和40年3月  早稲田大学第1政治経済学部政治学科卒業
昭和43年4月  東京大学大学院農学系研究科博士課程中退
昭和43年〜平成3年  鹿児島大学、東京農業大学、勤務を経て、
平成3年4月   早稲田大学政治経済学部教授
 その後、同学部学部長、同大学常任理事、副総長を歴任され、
平成25年3月  同大学定年退職
平成14年〜16年    日本農業経済学会会長
〜現在       早稲田大学政治経済学術院名誉教授
平成27年3月   日本農業経営大学校 校長に就任

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