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ばれいしょでん粉の特性とその加工および利用技術

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年6月]

【話題】

王子コーンスターチ株式会社
第三営業部部長 末吉 誠


1.はじめに

 ばれいしょでん粉およびその加工でん粉は世界的に食品、工業用途で広く応用されており、特に日本、韓国、中国ならびに欧州各国では古くから利用されている。
  わが国における加工でん粉の用途別市場規模からみると、諸外国同様、製紙業界を中心とした工業用途が最も大きいことは周知のことである。一方、食品用途においては、加工でん粉11品目について食品添加物として指定する動きが進んでおり、指定後は市場環境にも一定の変化が予想されることから、本稿では食品用加工ばれいしょでん粉の利用技術を中心に述べたい。


2.法令の改正

 平成19でん粉年度から新しいでん粉制度が導入され、でん粉に関連する法令が大幅
に改正されたが、でん粉誘導体など化学的処
理により機能を付加したでん粉に関連する法令についても、現在改正が検討されている。
  化学的に処理を行ったでん粉は、食品用の場合、2品目を除き輸入されたもののみが流通している。
  現在検討されている法令の改正は、化学的に処理された加工でん粉11種類を諸外国同様「食品添加物」として指定するものであり、これによりこれまで輸入に頼るしかなかったこれら加工でん粉を国内で製造することが可能になる。
  また、加工でん粉市場の環境が変わり、食品業界、特に加工食品業界における国産ばれいしょ加工でん粉需要が増加することが期待される。


3.ばれいしょでん粉の特性

 食品業界で利用されている各種のでん粉およびその加工でん粉は多種あるが、その中で天然(未加工)ばれいしょでん粉には以下のような特性があり、これらの特性を活かして表1に示すような加工食品に利用されている。

①高い粘性を有する。
②糊液透明性に優れている。
③糊化温度が低い(糊化しやすい)。
④適度の曳糸(えいし)性を有する。
⑤無味・無臭に近い。


表1.天然ばれいしょでん粉の主な用途

 一方、その他多くの加工食品においてはまだ十分に活用されていない現状もある。その要因としては、以下のような点が挙げられる。

①高温殺菌、酸性下での加熱、高速かく拌(強せん断力)などの製造条件下で粘度が安定しない。
②塩類の影響で粘度が変化する。
③保存中に糊液が白濁するなど老化現象を示し、これが加工食品の品質に影響する。
④用途によっては曳糸性が食感を悪くする。

 これらの性質を改善し、広く加工食品に利用できることを目的として開発されたのが加工でん粉、特にでん粉誘導体である。


4.でん粉の加工方法とばれいしょ加工でん粉の特性

 でん粉の加工方法の概要を図1に示した。これらは、加工食品の多岐にわたる要求品質に応えるために単独あるいは複数の方法を組み合わされて応用される。加工ばれいしょでん粉も例外ではなく、上述の短所とも言うべき性質を改善し、多くの加工食品へ応用できるようになる。図2に代表的な加工ばれいしょでん粉の粘度を示す。


図1 加工でん粉の加工方法

図2 加工ばれいしょでん粉粘度図(1)

 各加工方法の概要は、以下のとおりである。


(1) 粘度安定化処理(架橋処理)
  でん粉分子に架橋構造を導入することで分子構造が強固になる。これによって熱、酸、せん断力などの粘度不安定化要因に対する抵抗力を与えることができる。この処理程度によって糊化は抑制されるものの、缶詰・レトルト食品、高温・強かく拌下で加熱される食品、ドレッシングなどpHの低い加工食品に安定した粘度を付与することができる。


(2) 安定化処理(対老化安定性)
  アセチル基、リン酸基、ヒドロキシプロピル基などの官能基をでん粉分子の水酸基に導入・付加することで老化しにくい機能を有するようになる。その結果加工食品に冷凍・冷蔵耐性を付与し安定した品質を保つことが可能になる。
  またこの処理は、前述の架橋処理とは逆に糊化を促進するため、加工食品に滑らかな食感を付与することにもなる。


(3) 乳化特性の付与
  無水オクテニルコハク酸エステル化処理によって、各種乳化剤ほどではないものの、でん粉に一定の乳化特性を付与することができる。これを活かして他の乳化剤との併用あるいは単独使用で油脂分を含む調味料あるいはドレッシングなどに応用することができる。


(4) α化
  α化処理は、糊化・乾燥・粉砕を一連の工程で行い、水分10〜15パーセント以下の粉末状にするもので、これによって加熱工程のない、またあってもでん粉が十分に糊化しない加熱工程で作られる加工食品に利用できる冷水膨潤タイプのでん粉を生成することができる。
  以下に紹介するように、α化を行う設備によって異なる特性を持つα化でん粉をつくることができる。

①ドラムドライヤー
 多くのα化でん粉がこの装置でつくられている。α化後の粉砕工程を調整することで、異なる粒度のでん粉をつくることができる。
②エクストルーダー
 でん粉を加圧・押出しによりα化するが、ドラムドライヤー同様粒度の異なるでん粉をつくることができる。また、α化時に高温、強いせん断力が加わるため、処理前の粘性が失われ低粘度のでん粉がつくられる。
③スプレードライヤー
 この装置でつくられるα化でん粉は、技術面・コスト面からごく少ないが、スムースな食感と早い粘性出現が特長である。これは前述の装置と比較してマイルドなα化が行われるためである。


(5) その他の加工法
  高濃度で利用でき、フィルム特性を付与するための処理として「酸化」、「酸変性」、「デキストリン化」などがある。
  以上が加工方法の概要で、ばれいしょでん粉をはじめ他のでん粉にも応用され、特有の機能を付与することができる。
  ばれいしょでん粉についてはこれら以外にも特有の加工技術がある。
  ばれいしょでん粉には写真1のように15〜100ミクロン(μ)という幅広い粒径の粒子が混在し、これは他のでん粉と異なる点の一つである。ばれいしょでん粉中に存在している大粒子は、用途によっては短所ともなる曳糸性の原因とも考えられている。この大粒子を天然のばれいしょでん粉から除くと、曳糸性が少ない切れの良い糊液特性が生まれる。この大粒子を除いた天然ばれいしょでん粉を原料として図1の処理を行うことにより、さらに異なる付加価値をつけることが可能となり、ばれいしょでん粉の用途として応用できる加工食品の幅を広げることができると考えられる。また、用途によっては他の天然でん粉を原料とした加工でん粉と同様の特性を発揮できることもある。これは粒子の大きさに幅があるばれいしょでん粉であればこそ可能な加工方法である。図3および写真2にばれいしょでん粉から大粒子を除いて加工したでん粉の粘度と糊液の特性を示した。


図3 加工ばれいしょでん粉粘度図(2)

写真1 ばれいしょでん粉顕微鏡写真

天然ばれいしょでん粉
大粒子を除いた加工ばれいしょでん粉
写真2 ばれいしょ加工でん粉糊液特性

5.加工ばれいしょでん粉の利用

 加工食品の多様化に伴う要求品質の高度化に対し、加工ばれいしょでん粉は、他の加工でん粉同様増粘安定剤としての機能のみならず品質改良剤、食感改良剤としての機能を有し、広く応用できると考えられる。加工により粘性など天然のばれいしょでん粉の持つ特性をコントロールし、さらに加工食品に要求されるさまざまな特性を付加することができる。
  表2は加工ばれいしょでん粉の特性を活かして利用できる加工食品の一例である。
  応用目的、でん粉に期待される機能、最終加工食品に求められる物性と保存条件などを理解し、加えてその加工食品の製造条件などを考慮したうえで、多様なばれいしょ加工でん粉群から用途に適したでん粉を選ぶことが、加工食品を製造するうえで重要である。


表2.加工ばれいしょでん粉の主な用途

6.おわりに

 加工食品への天然でん粉ならびに加工でん粉の応用は、これまで製造する側とこれを応用する側の共同作業で進歩してきたが、今後もこの体系は変わらないものと考える。
  さらに冒頭で述べたように、加工でん粉に関連する法令の改正に伴う市場環境の変化は、加工でん粉市場において輸入品から国産品へのシフトを生む可能性があり、加工でん粉およびその用途の開発を加速することになると考えられる。こういった流れの中でばれいしょでん粉は最も注目されるでん粉であるといえる。

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