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ばれいしょでん粉の副産物であるポテトたんぱく質の利用実態(2)

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最終更新日:2010年3月6日

ばれいしょでん粉の副産物であるポテトたんぱく質の利用実態(2)
〜ポテトペプチドの健康機能性および食品への利用特性〜

[2008年9月]

【調査報告】

財団法人十勝圏振興機構 研究開発課 課長 大庭 潔


1.はじめに

 前報においてポテトペプチドの生産方法、さらには、得られたポテトペプチドの特性、健康機能性の一部について紹介した。本報では、前報で紹介できなかった、さらなる健康機能性について紹介するとともに、ポテトペプチドの応用例を含めた様々な特性および今後の展望について紹介する。


2.ポテトペプチドの健康機能性


(1)ラットに対するガラクトサミン(GalN)注1)誘発肝毒性に対する抑制効果1)

方法
  ポテトペプチドの肝毒性に対する抑制効果の有効性について検討をした。使用したポテトペプチドは、前報において紹介した調製方法により得られたものである。ラットはFischer344雄ラット8週齢を用いた。食餌は、AIN93Gを基本食として、実験には以下の4種類を設け、比較を行った処理方法などを表1に示した。投与期間は2週間とした。
  2週間後、ラットにGalNを1キログラム当たり400ミリグラムの割合で腹腔内に注射し、その22時間後、肝臓および盲腸を採取した。


表1 食餌構成別試験群
注:試験期間は2週間

(注1)ガラクトサミン
ガラクトサミンは肝障害を引き起こす物質として動物実験によく利用される。

結果
  (1)摂取量、体重増加量および肝臓重量には4群間で差は認められなかった。しかし、盲腸重量ではGalN投与ポテトペプチド投与群(G-PP、以下同)が最も大きい値を示し、さらに盲腸pHではG-PPで最も低い値を示した。血清中の肝毒性指標酵素であるアラニンアミノトランスフェラーザ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)および乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の活性について図1に示した。 


図1 ポテトペプチド投与によるGalN 誘導肝毒性発症ラットの血清ALT、AST、LDH への影響
CN:基本食群(カゼイン)
G-CN:対照群
G-PP:ガラクトサミン投与ポテトペプチド投与群
G-SP:ガラクトサミン投与大豆ペプチド投与群

 血清ALT、ASTおよびLDH活性は基本食群(CN、以下同)に対してGalNを投与した3群ともに有意に増加していた。しかしながら、ALTおよびAST活性では対照群(G-CN、以下同)に対してG-PPおよびGalN投与大豆ペプチド群(G-SP、以下同)で有意に低下しており、特にG-PPでは最も低い値を示した。血清LDHではG-CNに対してG-SPは増加していたが、G-PPでは有意に低下していた。


 (2)次に抗酸化能を持つ肝臓還元型グルタチオン濃度(GSH)および過酸化脂質(TBARS)濃度への影響について図2に示した。


図2 ポテトペプチド投与によるGalN誘導肝毒性発症ラットの肝臓グルタチオン濃度及びTBARSへの影響
CN:基本食群(カゼイン)
G-CN:対照群
G-PP:ガラクトサミン投与ポテトペプチド投与群
G-SP:ガラクトサミン投与大豆ペプチド投与群
GSH:還元型グルタチオン
TBARS:過酸化脂質

  肝臓中グルタチオンは通常生体内において酸化防止をするための抗酸化能を有しているが、GalNのような毒性を有する物質が生体内に侵入した場合、この抗酸化能(すなわち還元型グルタチオン濃度)が減少する。これにより生体内に悪影響を及ぼす過酸化脂質(TBARS)が肝臓内に蓄積をする。そこで、この抗酸化能に対する影響についてポテトペプチドを投与することにより検討を行った。その結果、肝臓中グルタチオン濃度ではCNに対してGalNを投与した3群は有意に低下していたが、その中でG-PPはG-CNに対して有意に増加していた。また、過酸化脂質(TBARS)濃度ではG-CNで増加しているのに対してG-PPおよびG-SPで有意に低下していた。すなわち、ポテトペプチド投与によるグルタチオン濃度の増加は肝臓中の抗酸化能を回復させることにより、過酸化脂質の蓄積を抑制しているということがわかった。


 (3)肝毒性を抑制する要因を調べることを目的に盲腸内における細菌叢に対する影響を検討した。すなわち、盲腸内における細菌叢が良好な発酵をすることにより、それらから生産される短鎖脂肪酸(酸類)によりGalNの毒性が軽減されることから、ポテトペプチドを投与した時の盲腸内の細菌叢、さらには生産される短鎖脂肪酸について検討を行った。
  ポテトペプチド投与によるGalN誘導肝毒性発症ラットの盲腸内細菌叢については表2に示した。


表2 ポテトペプチド投与によるガラクトサミン(GalN)誘導肝毒性発症ラットの盲腸内細菌叢への影響
Log10 CFU of bacteria/wet g cecum
それぞれのデータは平均値±標準偏差で表した。
データ間の有意差検定はstudent's t-試験、Duncan の多重検定にて行い、p<0.05を有意とした。
異なる文字間に有意差あり
CN:基本食群、G-CN:対照群、G-PP:ガラクトサミン投与ポテトペプチド投与群、
G-SP:ガラフトサミン投与大豆ペプチド投与群

  一般嫌気性菌(Anaerobe)はすべてのGalN投与を行った3群においてCNに比べ有意に増加していた。しかし、ビィフィズス菌(Bifidobacterium)についてはG-SPで最も低い値を示し、G-PPで最も高い値を示した。乳酸菌(Lactobacillus)についてはG-PPおよびG-SPでCNおよびG-CNに比べ有意に増加しており、G-SPで最も増加していた。次に、ポテトペプチド投与によるGalN誘導肝毒性発症ラットの盲腸内短鎖脂肪酸について表3に示した。酢酸濃度はCNおよびG-PPでG-CNおよびG-SPと比べて有意に増加していた。プロピオン酸および酪酸濃度はG-PPで他の3群に比べ有意に増加していた。総短鎖脂肪酸濃度はG-PPで他のGalN投与群より有意に増加していた。

 以上の結果より、G-PPはGalN誘発の肝毒性に対して血清中の肝毒性指標酵素(ALT、ASTおよびLDH)を有意に低下する効果がみられた。
  次に(2)の実験結果から、ポテトペプチド投与によりグルタチオン濃度が増加し肝臓中の抗酸化能が回復することにより過酸化脂質の蓄積が抑制されると可能性があると考察した。
  また、ポテトペプチドの摂食はGalN投与群において腸内細菌叢を改善しているが、特に乳酸菌においてその効果が顕著であった。その結果、ポテトペプチドの摂食により腸内で酸発酵が活発(酢酸および酪酸の増加)になり、GalNの毒性を軽減した可能性が示唆された。

表3 ポテトペプチド投与によるガラクトサミン(GalN)誘導肝毒性発症ラットの盲腸内短鎖脂肪酸への影響
それぞれのデータは平均値±標準偏差で表した。
データ間の有意差検定はstudent's t-試験、Duncan の多重検定にて行い、p<0.05を有意とした。
異なる文字間に有意差あり
CN:基本食群、G-CN:対照群、G-PP:ガラクトサミン投与ポテトペプチド投与群、
G-SP:ガラフトサミン投与大豆ペプチド投与群

(2)健康機能性としての発展

 これまで述べてきたように、ポテトペプチドはラットに対して脂質代謝改善効果および肝毒性抑制効果があることが明らかとなった。また、その他にもDNAマイクロアレイ分析(注2)による網羅的な解析を行った結果2)、ポテトペプチドを投与することにより乳酸分解、糖新生に係わる遺伝子発現が上昇していることで、疲労回復効果の可能性を見出している注3)。このように、ポテトペプチドには他のペプチドにはみられない多面的な健康機能性を有する可能性が見出され、今後、ヒトレベルでの臨床医学的な視点から健康機能性に対する科学的な検証を行うことにより、栄養機能食品、さらには特定保健用食品および特別用途食品へと発展の可能性を拓くものと考える。


(注2)DNA マイクロアレイ分析
DNA マイクロアレイとは、スライドガラスなどの基板上にDNA(デオキシリボ核酸)断片を固定化した上で、相補的なDNA 鎖同士で塩基対を形成する原理を利用して数多くの遺伝子を検出する分析法。一回の分析で数千の遺伝子を解析することができる。

(注3)運動などによる筋肉痛などの疲労感の症状は、過剰の乳酸が筋肉中に蓄積することにより生じる。通常、乳酸は生体内におけるTCA サイクルと呼ばれる代謝系により糖(グルコース)に代謝されていくが、過剰の乳酸が生成されることによりその代謝系が追い付かなくなり乳酸が蓄積してしまう。ポテトペプチドの投与は、この乳酸を分解する酵素および糖を生成する酵素が増加することにより、先のTCA サイクルが活発に動くために、乳酸の蓄積が少なく疲労回復効果が期待される。


3.加工食品におけるポテトペプチドの用途

 ポテトペプチドの用途としては、これまで述べてきた健康機能性の他にも様々な用途が考えられる。その中の一つとして加工食品における品質向上効果が期待される。具体的には表4に示されているように大きく三つの分野にわたった様々な食品への利用可能性が考えられる。特に、発酵系食品、すなわち漬物、製パンなどでの発酵時における品質向上(膨化効果向上)さらには発酵時間の短縮などの効果がある。

 また、窒素含有量が高いことから食品にコク味、風味を付与する効果がある。応用例としては、レトルト食品、スープ、スナック類、コロッケおよびカレーなどの風味を高める効果がある。これまで、調味料というのはアミノ酸が主体となり、うま味が第一に考えられていた。しかし、食生活の多様化が広がる中、味に対しても多様性が求められるようになり単一の味覚だけでなく、深みのある味覚が求められようになってきている。それらニーズに対応する上でもこのポテトペプチドは今後さらに大きな役割を果たすことが期待される。


表4 ポテトペプチドの用途

4.第一次産業由来副産物の高度利用

 ポテトペプチドのような副産物からの高付加価値物質抽出モデルというものは、これからの農業が日本で生き残る上からも欠かせないモデルケースであると考える。日本はありとあらゆる食料が安価に海外から入ってきており、手に入らないものはないといわれている。しかし、安全・安心の観点から自国での食料の調達が叫ばれるようになってきた現在、経済性を重視する点と自給率向上の相反するバランスの中で、新しい産業を確立させることはいかにして自給率を向上させるかといった観点からも非常に重要であり、これからの第一次産業の生き残りを示す一つの道筋であると考える。

  北海道における多くの地域は農畜水産物に係わる第一次産業を主体とした産業構造となっている。従って、そこから発生する多くの副産物などは多岐にわたっており、それらを処理するための労力、コストに関しては地域においても大きな負担となってきている。よってこれら副産物などの有効的な利活用はこれからの北海道にとっても非常に重要な課題である。
  ここ数年、様々な大学・公設研究機関および企業による第一次産業由来副産物の有効利用に関して新たな切り口から工業的利用を行うための取組みが徐々にではあるが始まってきている。今後、特定の研究分野に限らず広範囲にわたっての横断的な取組が産学官連携のもとさらに促進されることにより、地域経済の活性化、雇用の促進、ひいては原料となる農畜水産物の拡大、すなわち第一次産業の競争力の向上にもつながることを期待している。


参考文献

1) Ohba et al. Hepatoprotective Effects of Potato Peptide Against D-Galactosamine-Induced Liver Injury in Rats, Food Science and Biotechnology, in press (2008).
2) 文部科学省都市エリア産学官連携促進事業「十勝エリア平成17年度共同研究成果報告書」

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