中国


 

1. 一般経済の概況

 中国の経済は、79年に始まった改革開放政策による計画経済体制から社会主義市場経済体制への移行および対外解放に伴う外資導入が奏功し、大きく成長した。89年には天安門事件により中国経済は大きく落ち込んだものの、改革開放政策の堅持により再び成長が加速され、現在も目覚ましい発展を続けている。2002年のGDPの成長率は、前年を0.7ポイント上回る8.0%と引き続き高い伸びを示した。また、2002年の名目国内総生産(GDP)は、米ドル換算で1兆2千ドルを超え、世界第6位となった。2002年の都市部登録失業率は、国有企業改革の影響などから前年を0.4ポイント上回る4.0%となった。

 なお、中国は世界最多の12億8,500万人の人口を有しているが、その6割は農村部に住んでおり、都市部との貧富の格差が著しいのが実態である。今後、都市部への大規模な人口流入による混乱も危惧されている

 2002年の消費者物価上昇率は、内需拡大策が採られているものの▲0.8%となった。

 貿易収支は、2001年12月の世界貿易機関(WTO)加盟に伴い、関税品目の約7割の輸入関税が引き下げられたことなどから、輸出、輸入とも前年をそれぞれ22.3%、21.2%と大幅な伸びを示し、304億ドルの黒字と4年ぶりに前年実績を上回った。

2. 農・畜産業の概況

 中国は、日本の約26倍に当たる960万平方キロメートルの国土を有しており、そのうち耕地面積は9,656万ヘクタール(期首耕地面積に期間増減面積を加えて推計)(2001年)であった。

 一方、農業労働力(林業、牧畜、漁業を含む)は、農村人口が80年の81,096万人から2002年の93,503万人、農村労働力人口が80年の31,840万人から2002年の48,527万人と増加傾向が継続しているものの、90年代後半からの郷鎮企業の発展・拡大などにより減少傾向となっている。

 また、農家経営規模を農業労働力1人当たり耕地面積と耕地利用率でみると、農業労働力1人当たり耕地面積では、農業労働力人口が80年29,808万人から2001年の32,451万人(2002年では31,991万人)と大幅に増加していることから80年の33.3アールから2001年の29.8アールへと減少している。

 農林牧漁業の総産出額および部門別の生産額の推移をみると、総産出額は85年から95年の10年間で大幅な増加を見たが、95年以降は緩やかな増加で推移している。

 生産額の分野別構成比では、農産物は80年に全生産額の75%であったが、2001年では55%と低下した一方、畜産物が18%から30%、水産物が2%から11%へとそれぞれ増加しており、所得向上による消費構造の変化がうかがえる。

3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

 中国の酪農は、古くは遊牧民が黄牛やヤクの乳を利用して乳製品に加工する自給型の農業であったが、改革開放政策が実施された以降、急速に発展している。また、経済発展に伴う生活水準の向上により、都市部を中心とした食生活の西洋化から牛乳の消費も拡大している。しかしながら、国連食糧農業機関(FAO)によると2002年の中国の生乳生産量は1,336万トン、世界第10位(全世界のシェア2.6%)となっており、世界一の12億8,500万人を抱える国の生産量としては、非常に低い水準となっている。また、生産拡大に向けて乳牛の改良や飼養管理、衛生問題、粗飼料確保に加え、コールドチェーンなどの流通体制の整備など今後に向けての課題も多い。

(1)政策

 国家評議会は89年、酪農・乳業を初めて国家経済の発展を推進するための重要な産業と位置づけ、融資、技術、インフラ支援などの政策を確立した。国務院は97年、「全国栄養改善計画」により、酪農・乳業を重点的発展産業とするとともに、2000年には学童に対する飲用牛乳の摂取を促進し、牛乳・乳製品の消費拡大に資する「学童牛乳飲用計画」を実施した。その後も酪農・乳業企業が、重要な発展企業として援助されることが決定されるとともに、生乳生産基地の発展計画などが相次いで実施に移されている。

(2)生乳の生産動向

ア.飼養頭数

 乳用牛の飼養頭数は、近年一貫して増加傾向で推移しているが、2000年は前年比10.4%増、2001年は15.8%増、2002年は21.4%増の687万頭とかなり大きく増加している。

 中国の乳用牛は、その3分の1程度がホルスタイン種などの純粋種、残りがホルスタインとの交雑種であると言われている。主要な乳牛は、中国黒白花種(輸入ホルスタイン雄牛と中国の黄色乳牛雌牛との交雑種)であるが、乳肉兼用種も飼養されていることから、乳牛の生産性は低く、中国の1頭当たり年平均生乳生産量は約3,200キログラムとされている。

図1 乳牛飼養頭数と生産量の推移
資料:中国農業年鑑2003年

イ.生乳生産量

 生乳生産は、牛乳の栄養知識の普及などによる消費拡大に刺激されて増加している。生乳生産量は、98年の663万トンから2002年の1,300万トンと約2倍に増加し、年平均伸び率も18%増となっている。

ウ.地域別生産動向

 生乳生産は、そのほとんどが中国北東部で行われており、農業地域および放牧地域で全体の半分を占めている。2002年の主産地の生乳生産量は黒龍江2,358千トン(全国シェア18.1%)、内蒙古1,652千トン(同12.7%)、河北1,369千トン(同10.5%)山東903千トン(同6.9%)などとなっている。なお、飼養頭数の最も多い地域である放牧地帯の内蒙古および新彊は飼養頭数シェア35.2%、生乳生産シェア20.0%となっている。

 また、北京、天津、上海などの大中都市郊外でも生産が行われており、生産量はそれぞれ551千トン、336千トン、280千トンとなっており、近年急速に増加している。この要因としては、生産規模や飼養管理水準が高いことに加え、これら地域で飼養される輸入乳用牛の能力も高いことが挙げられる。

(3)牛乳・乳製品の需給動向

ア.飲用乳

 2002年の飲用乳消費量は、前年比26.7%増の1,298万トンとなった。中国における牛乳・乳製品の消費量は近年、生活水準の向上に伴う食生活の多様化や牛乳・乳製品の栄養価値の普及、啓もうなどの消費拡大対策の奏功から、大都市における牛乳・乳製品の消費は近年大幅に増加している。しかしながら、農村部における消費量は、食文化の伝統などから依然として非常に少ないものとなっている。1人当たり飲用乳消費量は、98年と2002年を比較すると、5.3キログラムから10.2キログラムと2倍に増加した。しかし、都市部では15.72キログラムに対し、農村部では1.19キログラム(乳製品を含む。)と13倍の格差がある。

図2 1人当たり牛乳乳製品の消費量の推移
資料:中国統計局


イ.乳製品

 乳製品の生産は、粉乳が主体となっており、チーズ、バターはほとんど生産されていない。2002年の全粉乳および脱脂粉乳の生産量は、飲用仕向けの増加によりそれぞれ57万7千トン(前年比5.4%減)、7万2千トン(同2.9%増)となった。

 2002年の全粉乳および脱脂粉乳の輸入量は、WTO加盟に伴い粉乳の関税率が25%から13.8〜17.0%へ引き下げられたことから、それぞれ7万7千トン(同87.8%増)、3万5千トン(94.4%増)となった。輸入国はNZ、豪州、米国などからであるが、NZ、豪州の2国で全体の約9割を占めている。輸入乳製品は、品質面で国産より優位であること、また、国内で生産されないチーズなどの品目もあるため、北京、上海、広州などの大都市部での需要が高くなっている。

(2)肉牛・牛肉産業

 中国の肉牛生産の歴史は新しく、90年代に入りそれまでの役畜の飼養から本格的な牛肉生産への取り組みが始められた。FAOによると2002年の中国の牛肉生産量は548万トン、米国、ブラジルに次ぐ世界第3位(全世界のシェア9.4%)となっている。しかし、北京、四川、上海、広東の4大系統の中国料理においてその食材として牛肉が利用されることは余りなく、肉類の消費の中で牛肉は最も低いものであった。また、従前は、牛肉のほとんどが役畜の老廃牛由来のものであったが、近年の肉牛改良に伴う肉質向上や所得向上により、生産、消費とも増加している。しかし、牛肉の消費量は世界的にみれば非常に低い水準となっている。

(1)牛の飼養動向

 2002年の牛飼養頭数(乳牛を除く)は、1億2,398万頭と前年を1.1%上回った。牛のうち約1億頭が黄牛(水牛およびヤクを除く在来種)と呼ばれる役肉兼用型で、全国の約4分の3を占めている。このため、純粋種が少なく交雑種がほとんどのため、改良面での制約が大きく、枝肉重量も少ないのが現状である。2002年の平均枝肉重量は、132.8キログラムであった。黄牛のうち秦川牛、南陽牛、魯西牛、晋南牛を肉用優良品種とされており、これらは、主に中央平原地帯で飼養されている。

 牛の飼養頭数を地域別に見ると、伝統的な放牧地帯である西部地帯(内蒙古、甘粛、新彊、青海、チベット)に加え、中央平原地帯(河南、河北、山東、安徽など)、北東地帯(黒龍江、吉林、遼寧)の3地帯で全体の7割以上を占めている。

 なお、中国の人口増加により、耕作適地は換金性の高い耕種作物が作付けされるため、粗飼料生産費の上昇を招いている。これに加えて野草地などの放牧地が不足しているため、過放牧となり土壌流出などの環境問題も発生しており、牛飼養頭数の大幅な拡大を阻害する要因となっている。

図3 肉用牛飼養頭数の推移
資料:中国農業年鑑2003年



(2)牛肉の需要動向

 2002年の牛肉生産量は、前年を6.5%上回る584万6千トンとなった。生産量は、98年の480万トンから21%増加し、年平均伸び率も5.1%となっている。

 1人当たり牛肉消費量は、経済成長による需要の伸びから98年と2002年を比較すると、3.8キログラムから4.6キログラムと増加し、年平均伸び率は4.7%となった。

 2002年の牛肉輸入量は、WTO加盟に伴う関税率の引き下げから3万2千トンと前年を60%上回った。主な輸入先は米国、豪州、NZとなっており、輸入牛肉は、国産と比較して高品質なため、大都市の高級ホテル用として供給されている。

 2002年の牛肉輸出量は、香港の需要減から4万3千トンと前年を28%下回った。中国からの牛肉輸出は主に香港、ロシア、中近東向けに行われている。

(3)養豚・豚肉産業

 豚肉は、食肉全体の消費量の3分の2を占めており、歴史的にも最もよく食べられているものの一つである。FAOによると2002年の中国の豚肉生産量は4,437万トンと世界第1位であり、そのシェアは、全世界の約半分を占めている。しかしながら、と畜頭数と飼養頭数との割合をみると、欧米諸国では1.5倍以上となっているのに対し、1.2倍と近年生産性は向上しているものの、依然として欧米水準には達していない。また、生活水準の向上に伴う、国民の赤肉志向により、脂肪の多い中国在来種と赤肉の多い外来種との交雑による品質改善が取り組まれている。

(1)豚の飼養動向

 2002年の豚飼養頭数は、4億6292万頭と前年を1.2%上回った。従来から農家の副業として2〜5頭程度の豚を飼養し、有機肥料としてたい肥利用が行われている。近年は大規模な専業経営の養豚農場も都市近郊を中心に増加しているものの、小規模な副業経営が、出荷頭数に占めるシェアで4分の3と依然として豚肉生産において重要な地位を占めている。

図4 豚飼養頭数と生産量の推移
資料:中国農業年鑑2003年



(2)豚肉の需給動向

 2002年の豚肉生産量は、前年を3.4%上回る4,326万6千トンとなった。生産量は、90年から95年にかけて58%増加したが、近年は安定的に推移している。2002年の豚の飼養頭数を地域別に見ると、中央平原地帯である四川5,376万頭(シェア11.6%)、湖南3,909万頭(同8.4%)、河南3,800万頭(同8.2%)、山東2,883万頭(同6.2%)、河北2,614万頭(同5.0%)、湖北2,108万頭(同4.6%)などどなっており、6省で全体の45%を占めている。

 1人当たり豚肉消費量は、経済成長による需要の伸びから98年と2002年を比較すると、31.0キログラムから33.6キログラムと増加し、年平均伸び率は2.0%となった。

 2002年の豚肉輸入量は、14万5千トンと前年を54.3%上回った。主な輸入先は米国、カナダ、デンマークとなっており、主として大都市の高級ホテル、レストラン用として供給されている。

 2002年の豚肉輸出量は、21万6千トンと前年を55.4%上回った。中国からの牛肉輸出は主にロシア、香港、シンガポール、北朝鮮など近隣諸国向けに行われている。また、香港向けを主体として生体輸出も2002年で約19万頭行われている。

(4)家きん肉産業

 中国の養鶏は、70年末の農政改革を契機として大きく発展し、豚肉に次ぐ食肉として消費されるとともに、輸出産業としても位置づけされるようになっている。FAOによると2002年の中国の家きん肉生産量は1,326万トンと米国に次いで世界第2位であり、そのシェアは、全世界の18%を占めている。これは、国内のみならず海外資本を導入したインテグレーションによる契約生産により海外の優良品種や生産技術の導入などに伴う生産性の向上が大きく寄与している。

(1)家きん肉の生産動向

 2002年の家きん飼養羽数は、47億4,000万羽と前年を3.1%下回った。養鶏産業はインテグレーションによる急成長から、98年以降供給過剰に陥り、価格は低迷したため、輸入鶏(ブロイラー)から国内需要の高い、中国人の好みに合う風味や歯ごたえのある在来鶏、いわゆる地鶏への生産転換が国内向けに行われている。在来鶏と輸入鶏との交配による品種改良も盛んに行われており、鶏肉生産の約半分がこの改良種により行われている。2002年の家きんの飼養羽数を地域別にみると、山東12億6,353万羽(シェア15.2%)、広東9億6,614万羽(同11.6%)、江蘇6億486万羽(同7.3%)などどなっており、都市部に比較的近い3省で全体の3分の1を占めている。2002年の家きん肉生産量は、前年比3.0%増の955万8千トンとなった。

(2)鶏肉の需給動向

 鶏肉輸出は、近年その数量を大幅に伸ばしてきたが、2001年後半以降、家畜衛生や飼養管理という困難な問題に直面している。すなわち、鳥インフルエンザ、ニューカッスル病の発生に加え、コロピドールなどの抗生物質の残留問題などにより、EUや日本において中国産鶏肉などの輸入一時停止措置が講じられた。このため、2002年の鶏肉輸出量は、前年を10.4%下回る43万8千トンとなった。なお、鶏肉の輸出量は、生産量の約5%を占めるにすぎない。

(3)ブロイラーの価格動向

 2001年のブロイラーのと体卸売価格は、生産量の増加などにより、前年比2.6%安のキログラム当たり7.51人民元となったが、2002年はこれに加え輸出量が減少したことから前年比2.7%安のキログラム当たり7.31人民元となった。また、ブロイラーのと体小売価格は前年を3.9%下回るキログラム当たり9.32人民元となった。

図5 家きん肉需給と価格の推移
資料:中国農業年鑑2003年、通関統計、中国農業省調べ

 


2002年は中国のWTO加盟元年

中国のWTO加盟

 中国は1986年7月にガットへの加盟申請を行って以来15年を経過した、2001年11月11日、世界貿易機関(WTO)は、ドーハ閣僚会議において中国のWTO加盟を承認し同年12月11日WTOは、中国のWTO加盟を発効した。これにより約13億人の巨大なマーケットがWTOとういう共通のルールの下、国際的な経済関係に加盟を果たした。

 概要は次の通り

○国家貿易・指定貿易

・国家貿易企業の輸入品購入活動につきWTOとの整合性を確保するとともに、輸出品価格について十分な情報開示を行う。

・指定事業体のみに貿易権を付与する制度は、3年間で段階的に自由化。

○関税

・段階的に譲許関税率を引き下げ。

○関税割当

・透明性、予見性、統一性、公平性、無差別性を確保し、WTOと整合的に運用。

○非関税措置

・WTO上非整合な非関税措置を導入・適用しない。

・指定された現行措置を段階的に撤廃

○補助金

・加盟時に、補助金協定3条(禁止補助金)に該当するすべての補助金を撤廃。

○貿易関連投資措置(TRIM)

・加盟時までに協定上不整合な措置を撤廃。

・輸入・投資の許可・割当の運用上、ローカル・コンテント要求(国産品を一定比率以上、使用することを義務づける。)、輸出入均衡要求(原材料や資本財の輸入は輸出実績に見合った金額や数量までしか認めない)、輸出要求などを条件としない。

○農業関係については

(1)農産品に対するいかなる輸出補助金も、維持又は導入しない。

(2)削減などが求められない国内助成(補助金)の上限は生産総額の8.5%(注、農業協定上、先進国は5%、途上国は10%)が定められた。

農業分野におけるメリット・デメリット

 農業分野はWTO加盟後、農産物輸入が急増し、国内の農産物生産が減少するとされている。短期的にも農業雇用のさらなる悪化、農家所得が低下するとされWTOによるメリットの享受の少ないセクターとされている。

対応を迫られる飼料業界

 農業部の監修する情報誌上では、WTO加盟により、さらに競争激化が見込まれる飼料業界における飼料企業の対応戦略が掲載されている。

その主なものは次の通りである。

1 自らの優位性を明確に認識した上で、ターゲットとする顧客、市場を特定し、これらに合わせた製造や販売などに関する戦略を練り、これを実行すること。

2 畜産農家の飼養規模に応じた営業活動の展開や、特定地域の市場への特化などにより、販売ルートの拡充を行うこと。

3 飼料製品のブランド化により、他社製品との差別化を図り、安定的な顧客を確保すること。

4 飼料会社が川上(穀物生産者)および川下(畜産農家)の経営体と垂直的な調整を図り、経営のリスクを低減すること。なお、「計画は全体で、採算は個々に」という原則を維持すること。

5 飼料生産コストに占める飼料原料の占める割合は8割から9割に達することから、これをいかに引き下げるかということが重要となる。飼料原料を購入する際は、入札などを実施するほか、より廉価な原料の開発または調達を行うことも必要である。

6 上記の戦略の実施主体となり、競争力のある飼料業界を支えられる人材の育成を図るため、飼料会社、取次販売店および畜産農家のそれぞれに必須かつ効果的な研修を行うこと。


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