海外編

 VI 中国 




1. 一般経済の概況

 中国の経済は、96年から2000年までのデフレ時代を経て、昨今の経済成長率は8〜10%という水準を維持している。その要因としては、工業生産の拡大、海外からの投資拡大や国民生活水準の向上による消費の伸びなどが挙げられる。2005年の経済成長率は、前年に引き続いて中国政府が「科学的な発展観」に基づき投資と消費の関係を合理的に調整するとした、いわゆるマクロコントロール政策による景気の引き締めなどがあったものの、投資や貿易などに支えられ、前年並の10.2%と3年連続で10%台の最も高い伸びを示した。2005年の都市部登録失業率は、国有企業改革の影響などで上昇を続けた2003年までに比べ、好調な経済と雇用創出により、前年同の4.2%となった。

 なお、中国は世界最多の13億756万人の人口を有しているが、その約6割は農村部に住んでおり、都市部との貧富の格差が著しいのが実態である。最近は、都市部への大規模な人口流入による諸問題も表面化し始めている。

 2005年の消費者物価上昇率は、住宅、自動車、通信関連などの需要がおう盛であったものの、特に10月以降急増した鳥インフルエンザ発生などの影響で家きん肉製品や生鮮卵などの価格が下落したことなどから、前年を2.1ポイント下回る1.8%となった。

 貿易は、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟に伴い、関税品目の約7割の輸入関税が引き下げられたこと、為替相場の影響などから、2002年以降輸出、輸入とも大きく増加しており、2005年は輸出額、輸入額とも前年をそれぞれ28.4%、17.6%上回る大幅な伸びを示し、貿易収支は1,020億ドルの黒字となった。

表1 主要経済指標



2. 農・畜産業の概況

 中国は、日本の約26倍に当たる960万平方キロメートルの国土を有しており、そのうち耕地面積は9,656万ヘクタール(期首耕地面積に期間増減面積を加えて推計:2001年)であった(参考:中国国家統計局「中国統計年鑑2006」では、2005年の数値として、農業部発表の1億3千万ヘクタールと掲載)。

 一方、農業労働力(林業、牧畜、漁業を含む)は、農村人口が80年の8億1,096万人から2004年の9億4,901万人、農村労働力人口(農村部の労働人口)が80年の3億1,836万人から2005年の5億387万人と増加傾向が継続しているものの、90年代後半からの郷鎮企業の発展・拡大などによりその伸び率は鈍化している。

 また、農家経営規模を農業労働力(農村部の労働人口のうち農業従事者)1人当たり耕地面積と耕地利用率で見ると、農業労働力1人当たり耕地面積では、農業労働力人口が80年の2億9,808万人から2001年の3億2,451万人(2005年では2億9,976万人)と大幅に増加していることから80年の33.3アールから2001年の29.8アールへと減少している。

 農林牧漁業の総産出額および部門別の生産額の推移を見ると、総産出額は85年から95年の10年間で大幅な増加を見たが、95年以降は緩やかな増加で推移している。

 生産額の分野別構成比では、農産物は80年に全生産額の75.6%であったが、2005年では49.7%と低下し、畜産物が18.4%から33.7%、水産物が1.7%から10.2%へと増加しており、国民所得向上による消費構造の変化がうかがえる。

表2 耕地面積と農業労働力の推移



3. 畜産の動向 

(1)酪農・乳業

 中国の酪農は、古くは中国北部や西部居住の少数民族地域の遊牧民が、黄牛やヤクの乳を利用して乳製品に加工する自給自足型の農業であったが、改革開放政策が実施された以降、急速に発展している。また、経済発展に伴う生活水準の向上により、都市部を中心とした食生活の西洋化から牛乳の消費も拡大している。FAOによると2005年の中国の生乳生産量(牛のみ)は2,453万トン、世界第6位(全世界のシェア4.6%)となっており、生産拡大に向けて乳牛の改良や飼養管理、衛生管理、粗飼料確保、酪農家の集約化に加え、コールドチェーンなど流通体制の整備などを含め、今後に向けての課題も多い。



(1)政策

 国家評議会は89年、酪農・乳業を初めて国家経済の発展を推進するための重要な産業と位置付け、融資、技術、インフラ支援などの政策を確立した。国務院は97年、「全国栄養改善計画」により、酪農・乳業を重点的発展産業とするとともに、2000年には学童に対する飲用牛乳の摂取を促進し、牛乳・乳製品の消費拡大に資する「学童牛乳飲用計画」を実施した。その後も酪農・乳業企業が、重要な発展企業として援助されることが決定されるとともに、生乳生産基地の発展計画などが相次いで実施に移されている。

図1 乳牛飼養頭数と生乳生産量の推移


(2)生乳の生産動向

ア.飼養頭数
 乳用牛の飼養頭数は、近年一貫して増加傾向で推移しており、特に2003年は前年比30.0%増の893万頭、2004年は同24.0%増の1,108万頭とその伸びが著しく、2005年は伸び率が鈍化したものの、同9.8%増の1,216万頭となった。

表3 乳用牛飼養頭数の推移

 中国の乳用牛は、一般に3分の2がホルスタイン種およびその交雑牛などで、3分の1程度がシンメンタール種、在来牛である黄牛タイプの三河牛種・草原紅牛種などの純粋種であるといわれている。これらのうち主要な乳用牛は、黄牛雌牛とホルスタイン雄牛の交雑種に、さらにホルスタイン雄牛を累進交配して作出された中国黒白花牛(Chinese Black and White)と呼ばれる品種で、中国では85年以降、ホルスタイン種の血統が87.5%以上のもの(=ホルスタイン雄牛を三代以上交配したもの)を中国ホルスタインと呼んでいる。しかし、乳牛の改良や飼養管理技術などが、先進国に比べてまだ遅れていることや、乳肉兼用種も飼養されていることなどから、乳牛の生産性はまだ低く、中国の1頭当たり年平均生乳生産量は約3,500〜4,200キログラムとされている。


イ.生乳生産量
 生乳生産は、牛乳の栄養知識の普及などによる消費拡大に刺激されて増加している。生乳生産量は、98年以降一貫して増加傾向で推移しており、特に2003年が前年比34.4%増、2004年が同29.5%増、2005年が同21.8%増となっており、2002年の生乳生産量1,300万トンに対し、2005年は2,753万トンとわずか3年間で倍増した。

表4 牛乳需給の推移

ウ.地域別生産動向
 生乳生産は、その多くが中国東北部から華北、西北部など主に北方地域で行われている。2005年の主産地の生乳生産量は、内蒙古自治区691万トン(全国シェア25.1%)、黒龍江省440万トン(同16.0%)、河北省340万トン(同12.4%)山東省187万トン(同6.8%)、新彊ウイグル自治区152万トン(同5.5%)などとなっており、上位3省・自治区で53.5%と中国の生乳生産量の過半を占める。

 なお、飼養頭数の最も多い地域である放牧地帯の内蒙古自治区(乳牛飼養頭数269万頭、全国シェア22.1%)および新彊ウイグル自治区(同215万頭、17.7%)は飼養頭数シェア39.8%、生乳生産シェア30.6%となっているが、特に内蒙古自治区の生乳生産量は、前年を38.8%上回り、2003年に黒龍江省を抜いて以降、全国第1位の座を揺るぎないものとしている。

 また、北京(64万2千万トン)、天津(63万4千トン)、上海(23万8千トン)などの大・中都市郊外でも生産が行われており、生産規模や飼養管理水準の高さに加え、能力の高い輸入乳用牛の導入などもあり、近年急速な成長を見せている。



(3)牛乳・乳製品の需給動向

ア.消費動向
 2005年の牛乳消費量(乳製品向けを含む)は、前年比21.8%増の2,750万トンとなった。中国における牛乳・乳製品の消費量は近年、生活水準の向上に伴う食生活の多様化や牛乳・乳製品の栄養価値の普及、啓もうなどの消費拡大対策の奏功から、大都市における消費が大幅に増加している。

 2005年の都市部における1人当たり牛乳・乳製品消費量は、小売価格の上昇や、これまでの急激な需要の伸びの落ち着きなどもあり、前年比1.8%減の24.79キログラムとなった。このうち牛乳(中国で鮮乳・純牛乳などと呼ばれているもので、日本の統計上は、牛乳や加工乳、乳飲料など「飲用牛乳等」と分類されているもの)の1人当たり消費量は、同4.8%減の17.92キログラムとなり、5年前の2000年と比較すると1.8倍となった。

 一方、農村部における消費量は、年を追うごとに徐々に増加しており、2005年の1人当たり牛乳・乳製品の消費量は、同44.4%増の2.86キログラムとなり、5年前の2000年と比較すると2.7倍にまで増加した。しかし、たんぱく源を食肉、卵、水産物に求め、牛乳・乳製品に対するなじみが薄いという食文化の伝統や所得面の理由などから、絶対量としては依然として少ないものとなっている。


図2 1人当たり牛乳・乳製品の消費量の推移
表5 1人当たり牛乳・乳製品の消費量の推移

イ.乳製品需給
 乳製品の生産は、かつては粉乳が主体であったが、近年はヨーグルトの生産・消費の伸びが著しく、その生産量はすでに粉乳を上回り、液状乳(7割弱はUHT乳=日本で言うLL乳)の約15%を占めるに至っている。

 しかし、乳幼児向けおよび中高齢者向けを中心に、粉乳が主要な乳製品の1つであることには変わりがなく、チーズ、バターの生産・消費はまだこれからという段階である。

 2005年の粉乳生産量は、乳幼児向けや中高齢者向けの消費が堅調であったことなどから、全粉乳は前年比10.3%増の91万8千トンとなったが、牛乳やヨーグルト消費へのシフトなどもあり、脱脂粉乳は同11.8%減の6万トンとなった。

 全粉乳および脱脂粉乳の輸入量は、WTO加盟に伴い粉乳の関税率が引き下げられたことから、年々増加する傾向にあったが、全粉乳生産の増加や脱脂粉乳需要の低下などを反映し、2005年は全粉乳が前年比28.6%減の6万5千トン、脱脂粉乳が同29.5%減の4万3千トンとなった。輸入国はニュージーランド(NZ)、豪州、米国などであるが、NZ、豪州の2国で全体の約9割を占めている。輸入乳製品は、品質面で国産より優位であること、また、国内で生産されないチーズなどの品目もあるため、北京、上海、広州などの大都市での需要が高くなっている。


表6 全粉乳需給の推移
表7 脱脂粉乳需給の推移



(2)肉牛・牛肉産業

 中国の肉牛生産の歴史は新しく、90年代に入りそれまでの役畜の飼養から本格的な牛肉生産への取り組みが始められた。FAOによると2005年の中国の牛肉生産量は713万7千トンで、米国(1,131万7千トン)、ブラジル(779万6千トン)に次ぐ世界第3位であり、そのシェアは、全世界の1割強を占めている。しかし、北京、四川、上海、広東の4大系統の中国料理においてその食材として牛肉が利用されることはあまりなく、肉類の消費の中で牛肉は最も低い水準にあった。また、従前は、牛肉のほとんどが役畜の老廃牛由来のものであったが、近年の肉牛改良に伴う肉質向上や所得向上により、生産、消費とも増加している。しかし、牛肉の消費量は世界的にみれば依然として非常に低い水準となっている。



(1)牛の飼養動向

 2005年の牛飼養頭数(乳牛を除く)は、1億2,941万頭と前年を2.1%上回った。牛のうち約1億頭が黄牛(水牛およびヤクを除く在来種)と呼ばれる役肉兼用型で、全国の約4分の3を占めている。純粋種が少なく交雑種がほとんどであるため、改良面での制約が大きく、枝肉重量も小さいのが現状である。USDAによると、2005年の平均枝肉重量は、134.6キログラムであった。黄牛のうち秦川牛、南陽牛、魯西牛、晋南牛が代表的な肉用品種とされており、これらは、主に中央平原地帯で飼養されている。

 牛の飼養頭数を地域別に見ると、伝統的な放牧地帯である西部地帯(内蒙古自治区、甘粛省、新彊ウイグル自治区、青海省、チベット自治区)に加え、中央平原地帯(河南省、河北省、山東省、安徽省など)、北東地帯(黒龍江省、吉林省、遼寧省)が主な飼養地帯となっている。

 なお、中国では野草地などの放牧地が不足しているため、過放牧となり土壌流出などの環境問題も発生しており、牛飼養頭数の大幅な拡大を阻害する要因となっている。こうした背景もあり、中国では99年から、過剰に開墾された傾斜耕地を林地または牧草地に戻す「退耕還林制度」が実施されている。


図3 肉牛飼養頭数と牛肉生産量の推移
表8 肉用牛飼養頭数の推移


(2)牛肉の需要動向

 2005年の牛肉生産量は、前年を5.3%上回る711万5千トンとなった。主要な生産地区の生産量をみると、河南省100万8千トン(全国シェア14.2%)、河北省86万9千トン(同12.2%)、山東省80万7千トン(同11.3%)、吉林省51万トン(同7.2%)、遼寧省42万3千トン(同5.9%)、新彊ウイグル自治区34万2千トン(同4.8%)、安徽省33万トン(同4.6%)などとなっている。

 1人当たり牛肉消費量は、経済成長による需要の伸びから2001年と2005年を比較すると、4.3キログラムから5.4キログラムと増加し、5年間の年平均伸び率は5.8%となった。

 2002年の牛肉輸入量は、WTO加盟に伴う関税率の引き下げから1万6千トンと前年の2.7倍となったものの、2003年以降減少が続き、2005年は2千トンと前年を60.0%下回った。主な輸入先は豪州、NZとなっており、輸入牛肉は、国産と比較して高品質なため、主に大都市の高級ホテル用に供給されている。

 2005年の牛肉輸出量は、9万1千トンと前年を49.2%上回った。主な輸出先は香港、ロシア、中近東などである。

表9 牛肉需給の推移



(3)養豚・豚肉産業

 豚肉は、食肉全体の消費量の3分の2を占めており、歴史的にも最も好まれている食肉である。FAOによると2005年の中国の豚肉生産量は5,120万1千トンと世界第1位であり、そのシェアは、全世界の約半分を占めている。しかし、年間と畜頭数と飼養頭数との比を見ると、欧米諸国では1.5倍以上となっているのに対し、1.31倍と近年生産性は向上しているものの、依然として欧米水準には達していない。また、生活水準の向上に伴う、国民の赤肉志向により、脂肪の多い中国在来種と赤肉の多い外来種との交雑による肉質改善が取り組まれている。



(1)豚の飼養動向

 2005年の豚飼養頭数は、5億335万頭と前年を4.5%上回った。従来から農家の副業として2〜5頭程度の豚を飼養し、有機肥料としてのたい肥利用が行われている。近年は大規模な専業経営の養豚農場も都市近郊を中心に増加しているものの、このような副業経営が出荷頭数に占めるシェアは4分の3と、依然として豚肉生産において重要な地位を占めている。


図4 豚飼養頭数と豚肉生産量の推移
表10 豚飼養頭数の推移


(2)豚肉の需給動向

 2005年の豚肉生産量は、前年を6.6%上回る5,010万6千トンとなった。生産量は、90年から95年にかけて58%増加したが、近年は安定的に推移している。2005年の豚の飼養頭数を地域別に見ると、中央平原地帯である四川省5,744万8千頭(全国シェア11.4%)、河南省4,439万頭(同8.8%)、湖南省4,435万頭(同8.8%)、山東省3,238万7千頭(同6.4%)、河北省3,064万4千頭(同6.1%)、広西チワン族自治区3,015万頭(同6.0%)などどなっており、6省で全体の47.5%を占めている。

 1人当たり豚肉消費量は、経済成長による需要の伸びから2001年と2005年を比較すると、33.0キログラムから38.0キログラムと増加し、5年間の年平均伸び率は3.6%となった。

表11 豚肉需給の推移

 2005年の豚肉輸入量は、4万8千トンと前年を47.8%下回った。主な輸入先は米国、カナダ、デンマークなどとなっており、主として大都市の高級ホテル、レストランなどに供給されている。

 2005年の豚肉輸出量は、50万2千トンと前年を31.1%上回った。主な輸出先はロシア、香港、シンガポール、北朝鮮、韓国など近隣諸国が中心となっている。また、香港向けを主体として、2005年は約176万9千頭の生体輸出も行われている。




(4)鶏肉産業

 中国の養鶏は、70年末の農政改革を契機として大きく発展し、豚肉に次ぐ食肉として消費されるとともに、輸出産業としても位置付けられるようになった。FAOによると2005年の中国の鶏肉生産量は1,023万3千トンと米国に次いで世界第2位であり、そのシェアは、全世界の2割弱を占めている。これには、国内のみならず、海外資本を導入したインテグレーションによる契約生産に基づき、海外の優良品種や生産技術の導入などを行った結果、生産性が向上したことが大きく寄与している。

表12 鶏飼養羽数、出荷羽数の推移


(1)鶏肉の生産動向

 2005年の鶏飼養羽数は、53億3千万羽と前年を3.3%上回った。養鶏産業はインテグレーションによる急成長から、98年以降供給過剰に陥り、価格が低迷したため、輸入鶏(ブロイラー)から、国内需要が高く中国人の好みに合う風味や歯ごたえのある在来鶏、いわゆる地鶏への生産転換が国内向けに行われている。在来鶏と輸入鶏との交配による品種改良も盛んに行われており、鶏肉生産の約半分がこの改良種により行われている。

 2005年の鶏肉生産量は、前年比2.0%増の1,020万トンとなり、近年一貫して増加傾向で推移している。

表13 鶏肉需給の推移


(2)鶏肉の需給動向

 鶏肉輸出は、2001年後半以降、家畜衛生や飼養管理という困難な問題に直面している。すなわち、鳥インフルエンザ、ニューカッスル病の発生に加え、抗生物質の残留問題などにより、EUや日本において中国産鶏肉などの輸入一時停止措置が講じられた。このため、鶏肉輸出量は2002年以降減少を続けていたが、特に上半期を中心に香港などへの輸出が回復基調となったことなどから、2005年は前年を37.3%上回る33万1千トンとなった。

 なお、鶏肉の輸出量は、生産量の約3%を占めるに過ぎない。



(3)鶏肉の価格動向

 2005年の鶏肉の生体卸売価格は、第3四半期までは、前年の鳥インフルエンザ後の消費の回復などで上昇したが、10月以降の鳥インフルエンザの全国的な拡大の影響により第4四半期には急落し、通年では前年比1.2%高の1キログラム当たり9.51人民元となった。また、鶏肉の2005年のと体小売価格は、前年を3.9%上回る1キログラム当たり10.78人民元となった。


表14 鶏肉価格の推移
図5 鶏肉需給と卸売価格の推移




鳥インフルエンザが中国全土に拡大

2005年5月、10カ月ぶりに鳥インフルエンザが発生

 2005年5月4日、青海省政府は、同省海北蔵族自治州剛察県で渡り鳥が大量死していることを中国農業部に通報した。そして、同月21日、農業部は、国家禽流感参考実験室において、その原因がH5N1型の高病原性鳥インフルエンザ(HighlyPathogenic Avian Influenza)であることが確認されたと発表した。公式発表によると、2004年7月の安徽省での発生以来、中国では10カ月ぶりの発生となった。

 中国では、2004年1月23日に広西チワン自治区隆安県で発生したアヒルの大量死の原因が、本土では初となるAIと確認されて以降、同年7月3日の安徽省巣湖市居巣区での鶏における発生を最後に、しばらくAIが確認されていなかった。このため、2005年1月には、農業部の賈幼陵獣医局長・国家首席獣医師が、再発予防に対し高度の警戒を維持するよう呼び掛けるほか、同年2月には、国家質量監督検験検疫総局が、タイやベトナムなどでAIが頻発していることを背景に、各地の検疫部門に対して国内への進入阻止に全力を尽くすよう通達していたところだった。

 なお、2005年5月27日の国務院記者会見の席上、賈獣医局長は、既に公表されていた青海省のAIおよび山東省・江蘇省の口蹄疫に加え、新彊ウイグル自治区、北京市および河北省において、牛の口蹄疫が確認されたことを併せて発表した。


10月以降は全国に感染が拡大

 青海省での発生以降、2005年6月8日および22日には新彊ウイグル自治区で、さらに8月1日には、チベット自治区でもAI発生が確認された。その後は一時、発生が報告されていなかったが、10月14日に内蒙古自治区の首府・呼和浩特市でAIの発生が確認されて以降、安徽省、湖南省、遼寧省、湖北省、新彊ウイグル自治区、山西省、内蒙古自治区、寧夏省、雲南省、江西省へと全国各地に拡大し、湖南省、安徽省、広西チワン族自治区、遼寧省、江西省では人への感染も確認され、死者も報告された。

 こうした状況に対し、国務院は同年11月2日、AIについて、予防中心の対策堅持、動物防疫法など関係法令の厳守などを強調するとともに、感染状況の監視強化や緊急マニュアルの策定とそれに則した迅速な対応など12項目からなる対策を発表した。さらに、同月18日には、高病原性AIなど発症率や死亡率が高く、伝播性の強い重大な動物感染症が発生した場合に、関係者や関係部局がとるべき応急措置や報告の内容・システム、発生地域における感染動物のとうたや緊急予防接種・予防的処分、発生期間中における社会秩序・市場秩序を乱すような風評の流布および関連商品価格のつり上げ行為の禁止と違反者に対する罰則などを盛り込んだ「重大動物疫情応急条例」を公布、即日施行するなど、数々の対策を打ち出した。


ワクチンや治療薬の開発加速、AI保険も登場

 鳥インフルエンザの拡大により、各地で家きんやひな、家きん肉および卵などの販売や消費、価格、輸出などが落ち込み、家きん業界は大打撃を受けた。また、販路の縮小に危機感を抱いた多くの家きん農場や貿易商が家きん肉の投げ売りを行ったため、国内の重要な食肉の1つである豚肉の消費が抑えられ、AIの余波は養豚業の経営問題にまで及ぶこととなった。

 このような中、2005年2月には、中国農業科学院ハルピン獣医研究所によってH5N1型ウイルスを主たる対象としたAI混合ワクチンおよびAI・鶏痘混合ワクチンが開発されたほか、12月には同研究所によって世界初とされるAI・ニューカッスル病混合ワクチンが開発された。

 さらに、11月7日には、北京の保険会社である民生人寿保険公司が、国内では初となるAIの人体感染を補償対象とする生命保険の販売を発表し、話題となった。

 しかし、ワクチンや治療薬の開発に加え、政府の度重なる防疫対策にもかかわらず、AIは2006年に入ってからも四川省、貴州省、山西省などをはじめ各地に拡大し、人への感染症例も相次ぎ、中国だけでなく、世界各地に感染が広がる様相を見せている。