海外編

 III オセアニア【ニュージーランド】 




1. 一般経済の概況

 ニュージーランド(NZ)経済は、2000年に入り、記録的なNZドル安により食肉や酪農製品など第一次産品を中心とした輸出が好調に推移し、国内需要も堅調であったことから経済が上昇に転じた。この結果、NZは最も高い成長率を達成している国の一つとなっている。また、その後の高い政策金利や米ドルに対してNZドル高で推移する為替相場によって2006/07年度(4月〜3月)の実質国内総生産(GDP)の成長率は2.3%を記録し、内需主導の経済活動が見られている。また、失業率も前年度の3.9%から3.7%に低下するなど雇用情勢も順調に推移している。

 一方、貿易収支については、NZドル高で推移する為替動向や堅調な国内需要などにより、2006/2007年度(7月〜6月)は、62億3千万NZドルの赤字を計上し、5年連続での記録的な赤字となった。

表1 主要経済指標



2. 農・畜産業の概況

 NZの農業(林業、水産業を除く)は、GDPや就業人口に占める割合がそれぞれ1割にも満たない。しかし、総産品輸出額(FOB)に占める農産物の割合は、近年の工業製品の増加により低下傾向にあるとはいえ、依然、過半数を占めており、外貨獲得上、農業は豪州以上に重要な地位を占めている。

 中でも畜産分野は、農産物輸出額の8割強、農業粗生産額では7割を占めており、農業の中で最も重要な役割を果たしている。農業粗生産額に占める畜産の割合を項目別に見ると、酪農が最大で33.7%、次いで牛肉13.0%、羊肉9.9%、羊毛3.5%の順になっている。

 1984年以降続けられている経済改革の過程で、農業分野では各種補助金がすべて廃止されたこともあり、NZの農業は、輸出市場志向が強く、また、製品の多様化や付加価値化を積極的に進めている。これに関する畜産分野での成功例の一つとしてシカ肉産業が挙げられ、現在、世界のシカ肉貿易の半数近くがNZから供給される規模まで成長した。

図1 農業粗生産額(2006/07年度)

 2006/07年度の農業粗生産額をみると、2001年10月に国内生乳生産量の約95%を処理・加工・販売する巨大酪農企業フォンテラが誕生した酪農部門では、世界的な乳製品需給の高まりを背景に乳製品の国際価格が高水準で推移したことなどから、前年度より8.2%増の61億8千万NZドルを記録した。また、牛肉部門も、主要輸出国での需要増などによる価格上昇を背景に、前年度比12.8%増の23億8千万NZドルと同じく増加した。この結果、畜産部門全体としては、同8.2%増の126億8千万NZドルとなっている。




3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

 NZの酪農は、温暖で雨量に恵まれた自然条件を生かし、草地を最大限に利用した放牧中心の飼養形態である。このため、年間の生乳生産は、牧草の育成状況と密接に連携しており、初春となる8月から搾(さく)乳を開始し、10〜12月の初夏をピークにその後次第に減少、5月頃にはシーズンを終えるという明確な季節型生産体系を示している。生乳生産の中心となる9〜2月の6カ月間で、年間の約8割の生乳を生産する。

NZでは、粗飼料(放牧)に依存した生産体系により、生乳生産のコストは世界的に見て最も低い水準にある国の一つといえる。生産量の約95%が輸出に振り向けられる乳製品は、NZの全産品輸出額の約2割を占めており、酪農・乳業部門はNZの基幹産業として位置付けられている。

 NZの酪農は、生乳生産の規模で見れば全世界の生産量の3%程度を占めるにすぎないが、乳製品の国際貿易における供給国としてのシェアは28%(2005年:生乳ベース)を占め、EU(34%)に次ぐ乳製品輸出国となっている。このため、国内市場の規模が小さい分、生乳生産者価格、乳製品価格は、いずれも国際市場の影響を強く受けざるを得ない状況にある。

図2 生乳の処理状況の推移(具体例)


(1)主要な政策

 農業分野で各種補助金が廃止されたNZでは、酪農・乳業に対する国内の価格支持政策も存在しなかったが、一方で、2001年9月までニュージーランド・デイリーボード(NZDB)が乳製品の一元輸出機能を持っていた。しかし、同年10月、二大酪農協とNZDBの販売機能を取り込んだ巨大酪農協(乳業メーカー)フォンテラが誕生し、酪農産業の再編が達成された。

 今後、NZ政府は、NZDBの機能を引き継いだフォンテラが有する、いわゆる乳製品の独占輸出権(乳製品の輸入割り当てを実施している国への輸出権)について、当初予定の2010年から前倒しして廃止する考えを示している。



(2)生乳の生産動向

 生乳生産は、90年代に入り好調な輸出を反映して拡大基調となり、1990/91年度から1997/98年度までの間、処理量ベースで年率4.6%と拡大し、また、経産牛の飼養頭数も同4.0%の増加となった。その後、経産牛頭数はいったん減少したものの、国際的な乳製品相場の好転などから近年はおおむね増加基調で推移している。2006/07年度の経産牛飼養頭数は、前年度に比べ2.2%増の約391万7千頭となった。近年の生乳生産量は、乳用経産牛1頭当たり搾乳量の増加から右肩上がりで推移しており、2006/07年度は、乳製品国際価格の上昇により生産者乳価が引き上げられたことで、酪農家の生産意欲が高まったことなどから、前年度比2.9%増の1,513万4千トンと過去最高を記録した。

 一方、酪農家戸数は、酪農地価の上昇などから新規参入が難しく、また、他の畜産との競合などから減少を続けている。しかし、規模の拡大により1戸当たりの経産牛飼養頭数は一貫して増加となっている。2006/07年度の1戸当たり飼養頭数は337頭となり、このうち300頭以上を飼養する経営は全戸数の45.0%(前年度比3.5ポイント増)、500頭以上を飼養する経営は17.1%(同2.0ポイント増)と拡大傾向が続いている。

 NZの生乳生産は北島を中心としたものであるが、近年は南島での拡大が目立っている(経産牛頭数:北島276万頭(前年度比0.9%増)、南島116万頭(同5.5%増)、2006/07年度)。これは、酪農の適地である北島の土地価格高騰に加え、フォンテラ設立に当たりNZDBが行っていた南島への移入制限措置を撤廃したことから、南島での酪農の新規参入が増加していることによる。


図3 乳用経産牛頭数と生乳処理量の推移
表2 地域別の飼養戸数・頭数・規模の推移

図4 酪農家戸数と飼養規模の推移


(3)牛乳・乳製品の需給動向

 NZの乳製品生産は、かつて、法律に基づき輸出を一元管理するNZDBの市場戦略に基づき調整されていたが、フォンテラの設立に際し、どの乳業メーカーでも輸出が自由に行えるようになった。しかしながら、フォンテラの同国における乳製品生産のシェアが95%を占めることから、事実上、同社の一元管理状態となっている。

 近年は、バターや脱脂粉乳など原材料としての性格が強い、いわゆるバルク商品からの脱却を狙い、製品の付加価値化や多様化を図るとともに、世界的な脂肪過剰を見越して、生乳をそのまま利用できる全粉乳やチーズの生産拡充が推し進められている。また、輸出相手国は、フォンテラの企業戦略と相まって、北米、EU地域、アジアや南米など世界140カ国となっている。また、フォンテラは、2002年に世界的な大手食品メーカー「ネスレSA」と合弁企業を設立し、2003年1月から中南米の市場での乳製品製造・販売会社の運営、また、2006年には、中国の大手乳業メーカー「石家庄三鹿社(Shijiazhuang San Lu Group Ltd)」への資本参加、農場の設立など国際市場への積極的な進出を図っている。

表3 生乳生産量および乳製品輸出量の推移

 世界経済の回復傾向に伴い乳製品需要が高まる中で、2006/07年度の乳製品輸出は、全体的に増加基調となった。バターは前年度比1.6%増、チーズは同22.5%増、全粉乳は同5.7%増、脱脂粉乳は同26.7%増となった。



(4)乳価の動向

 生乳価格は、乳製品の国際需給に大きく影響されることから、国際価格やNZドルの為替相場の動向などに左右される。 2006/07年度は、国際的な乳製品需要の高まりを受けて乳製品の国際価格が高水準となったことなどから、乳固形分キログラム当たりの価格は前年度比8.8%高の4.46NZドルとなった。

図5 生産コストと平均支払乳価の推移
(乳固形分ベース)



(2)肉牛・牛肉産業

 NZの肉牛生産は、豪州以上に草地に依存した生産体系となっており、放牧肥育がそのほとんどを占め、穀物肥育は例外的といえる。 年間の牛肉生産(と畜)の傾向は、生乳生産と同様に牧草の発育ステージと密接に連携しており、生乳生産が終了を向える5月にピークを迎える。その後は春先にかけて大きく減少という季節型を示している。このため、最低となる8〜9月のと畜頭数は、ピーク時である5月の3分の1程度にまで減少する。

 豪州の牛肉生産は、そのほとんどが肉専用種によるものであるが、NZでは、肉用牛として飼育される3分の1程度の牛が、乳用種または乳用種・肉用種の交雑種によるものとなっている。

図6 月別と畜頭数の推移(成牛)

 酪農部門から供給される乳用種の雄牛は、子牛肉として出荷されるものが多いが、残りは去勢しないまま飼養され、乳用経産牛と同様に加工原料用牛肉(ひき材用途)に加工し、米国を中心とした北米市場に輸出されている。このことから、酪農部門は、肉牛供給という面からも牛肉生産にとって重要な役割を担っている。

 NZの牛肉生産は、酪農部門と同様に、国内の市場規模が小さいことから産業として輸出依存度が高く、原皮などを含むすべての肉牛関連生産物のうち、金額ベースで約8割が輸出に向けられる。このため、肉牛生産もまた、価格面などで国際市場の影響を強く受けているといえる。



(1)肉用牛の生産動向

 肉用牛の飼養頭数は、収益悪化による経営規模の縮小や、肉用牛から酪農、養鹿、林業など収益性の高い部門への転換などが背景となり、1995年6月期の518万頭をピークに減少を続けていた。また、1997/98年度および1998/99年度と2年連続で発生した東部を中心とする干ばつにより、早期出荷や繁殖牛のとう汰も進んだ。その後も、他の畜種への転換などで飼養頭数は大きく回復せず、2007年6月期の肉用牛飼養頭数は、前年同の443万2千頭となった。

表4 牛飼養頭数の推移


(2)牛肉の需給動向

 牛肉の生産量は、1996/97年度を境に減少傾向にあったが、干ばつから回復したことで、2000/01年度には増加に転じている。2006/07年度の生産量は、乳製品価格の上昇を受けて経産牛を中心に肉牛部門に回される牛の頭数が減少したことから、前年度比3.1%減の60万トンとなった。

 2006/07年度の輸出量も、牛肉生産量が減少する中、前年度を5.6%下回る35万トンとなった。輸出相手先では、最大の輸出先である北米市場向けが輸出量全体の58%(前年度比2ポイント減)を占め、次いで北アジア向けは28%(前年度同)となっている。

表5 牛肉需給の推移


(3)肉牛・牛肉の価格動向

  北米向け輸出の多くを占める経産牛の価格は、輸出の不振を極めた1995/96年度を底に回復傾向にあったものの、2002/03年度は、最大の輸出市場である米国での乳用牛のと畜頭数の増加などによる需給緩和により落ち込みを見せた。その後、米国経済が好調に推移したことや2003年5月にカナダで発生したBSEによる米国への食肉供給がストップしたことなどから価格は上向きに転じたが、2006/07年度は、前年度比12.6%安のキログラム当たり217.3NZセントと再び下落した。





フォンテラ、好業績の中、長期的な乳製品国際需要の増加を予測

 ニュージーランド(NZ)最大手乳業会社であるフォンテラは2007年4月、国際乳製品市場における長期的な需給見込みを公表した。これによると、今後の国際乳製品市場は、強い需要を背景として需要量の増加が生産量の増加を上回って推移することから、NZ乳業にとっては好ましい状況になると見込んでいる。世界の乳製品の需要量は、これまでの10年間で年2.0%増加したのに対し、今後10年間は年2.7%ずつ増加する。一方、供給量は今後10年間で年2.0%増加の増加にとどまるため、需要が供給を上回る状況が続くと予測している。

 今後、乳製品需要の増加が見込まれるのは、中国が最も大きく世界全体の増加量の約30%を占める。ただし、中国における乳製品需要の増加は、牛乳・乳製品消費に対する政府支援、高所得層の増加および都市化に伴う食生活の変化などの状況による。このほか、インド、ブラジル、米国や中東、北アフリカといった原油輸出国において乳製品需要増が見込まれ、特に米国およびインドでは人口の増加や経済の発展によるところが大きいとしている。ただし、これらの国では、需要の増加に応じて牛乳・乳製品の国内生産量が増加するため、世界の乳製品流通量は年1.2%程度の増加にとどまるとみている。

 一方、乳製品輸出については、今後、EUからの輸出が減少し、NZと豪州が乳製品の二大輸出国となる。ただし、今後、NZが乳製品主要輸出国としての地位を維持するためには、十分な乳製品供給数量の確保および低コスト生産の維持が重要であるとしている。NZにおける生乳生産コストは、土地価格の高騰に伴い上昇しており、コスト面での有利性を維持できない場合には、今後、ブラジル、アルゼンチン、ウクライナおよびロシアといった低コスト生産国との競合が激しくなると予想している。


 こういった状況の中、フォンテラは2006/07年度(2006年6月〜2007年5月)の最終生産者乳価を乳固形分1キログラム当たり4.46NZドルとした。これは、前年度の生産者乳価である4.10NZドルを8.8%上回った。この結果、2006/07年度における同社が酪農家(1万1,600戸)に支払う乳代の総額は56億NZドルとなり、一戸当たり平均48万3千NZドルに増加した。生乳を供給している酪農家にとっては、肥料費や光熱費といった生産コストの上昇がみられたものの、当初の予想を上回る最終生産者乳価におおむね満足できる結果となった。

 また、2006/07年度の同社の売上高は、前年度比6.8%増の138億8,200NZドルとなった。生乳集荷量が同2.1%増の1,434万キロリットルとなったことや国際乳製品価格が前年度を上回って推移したためである。

 2006/07年度の国際乳製品市場は、豪州での干ばつ、EU、米国など主要乳製品輸出国における生乳生産の低迷により市場供給量が減少する一方、原油産出国や発展途上国などを中心に乳製品への需要が強かったことから需給がひっ迫状況となった。こうした需給状況を反映して、乳製品国際価格は2006年10月前後からNZの主力輸出品目である粉乳類を中心に上昇傾向が顕著となり、この傾向は2006/07年度末まで傾向が続いた。この結果、同社の業績は、為替相場がNZドル高という逆風にもかかわらず、前年度を上回る好結果につながった。