海外編

 V 南米【ブラジル】 




1. 一般経済の概況


 ブラジル地理統計院(IBGE)によると、2006年の国内総生産成長率(GDP)は前年の2.9%を上回る3.7%となり、経済活動の回復を示す兆しを見せた。部門別では農畜産業部門 4.1%、工業部門 2.8%、サービス部門 3.7%となっており、昨年天候不順による穀類生産の減少で、前年はわずか 1%の成長率にとどまった農畜産業部門が回復し、全体を支える形となった。この間消費者物価指数は過去5年間最低の2.8%にとどまり、過去3年間続いた下降傾向が確認され、インフレ懸念は遠ざかった。

 また、2006年は年間を通じてレアル高ドル安が進んだ(2005年末のレート1ドル=2.34レアルに対し、2006年末は2.14レアル)にかかわらず、輸出は前年比16.2%増の1,375億ドルと過去最高を記録し、貿易黒字も461億ドルと最大の記録となった。貿易黒字の増加や外国投資の増加などを主要因として、2006年末の外貨準備高は850億ドルに達した。

表1 主要経済指標

 労働市場では、6大都市の失業率が前年同率の10.0%であったが、国内景気の指標となる家計消費はGDPの成長率を上回る4.3%であった。この安定した情勢の前に中央銀行は、基本金利を前年末の年利 18%から13.25%へと5%近く引下げ、経済活動の活性化を図る政策をとった。




2. 農・畜産業の概況


 2006年に10年ぶりに行われた農牧センサスによると、全国の農業経営戸数は前回に比べ7.1%増の520万4千戸、農業経営所有土地面積は同3.5%増の3億5,480万ヘクタールとなった。このうち7,670万ヘクタールが農耕用地で同83.5%増となったのに対し、牧草地面積は1億7,230万ヘクタールと同3.0%減となった。

 また、農業人口は同0,9%減の1,640万人となった。2006年は年間を通じて輸出に不利な為替レートや、過去2年の危機で生じた農家債務の問題などに直面したにかかわらず、ブラジルの農産物(農牧林業および水産物)輸出は海外からの需要に支えられて増加し、前年比13%増の494億2千万ドルとなった。一方、小麦を中心とする農産物輸入はドル安を反映して増加し、同31%増の66億9千万ドルとなり、427億3千万ドルの貿易黒字となった。

2006年の農産物輸出市場は212カ国に及び、中でも米国、オランダ、中国、ロシアが主要市場であった。また、品目別では大豆および副産物、砂糖およびアルコール、オレンジジュース、木材製品および食肉が主要輸出品となっている。

表2 農場面積と農場数の推移



3. 畜産の動向

(1)肉牛・牛肉産業

 ブラジルの肉牛生産は約1億7千万ヘクタールの広大な草地を利用した放牧肥育が中心で、耐暑性に優れたインド原産のゼブーに属するネローレ種を主体に飼養されている。牛肉生産の約8割が国内消費向けである。

 2005年末にマットグロッソドスル州とパラナ州に発生した口蹄疫を理由に、輸入を停止したロシア、イスラエル、チリ、中東諸国などが段階的、部分的に輸入を再開した。牛および水牛の個体識別制度(SISBOV)については、2006年7月に発令されたブラジル農務省訓令第17号により、SISBOVへの加入は生産者の任意とし、SISBOVに加入する生産者は農務省に農場を登録し、所有するすべての牛について識別を行わねばならないことを決定した。制度に加入しない農場の牛は個体識別を義務付けているEUおよびチリへの輸出を行うことはできないこととなった。



(1)牛の飼養動向

  2006年の牛飼養頭数(水牛、乳牛を含む)は、2億589万頭となっている。牛の飼養頭数を州別に見ると、中西部のマットグロッソ州(シェア12.7%)、マットグロッソドスル州(同11.5%)、南東部のミナスジェライス州(同10.8%)、中西部のゴイアス州(同10.0%)の順となり、これら4州で全国の牛飼養頭数の45.0%を占める。また、国際獣疫事務局(OIE)が認めた口蹄疫ワクチン接種清浄地域(15州および連邦区)の飼養頭数は1億7,179万頭で全体の82.9%となる。


図1 牛飼養頭数(2006年)
図2 州別牛飼養頭数


(2)牛肉の需要動向

ア.生産動向
 2006年のと畜頭数は前年比9.7%増の1,444万7千頭となった。と畜頭数の増加により、2006年の牛肉生産量(枝肉ベース)は、同15.0%増の992万8千トンとなった。(USDAはブラジルの牛肉生産量を902万トンと推定しており、米国に次ぎEU、中国を上回る世界2位の生産国と位置づけている。)

イ.輸出入動向
 2006年の牛肉輸出は重量において前年比13.3%増の217万8千トン(枝肉重量ベース)、金額は同28.7%増の37億8,860万ドルであった。ABIEC(ブラジル牛肉輸出業協会)によると、これまで輸出重量において世界をリードしてきたブラジルの牛肉輸出は、金額面でも2006年に豪州を抜き、重量、金額ともに世界第1位となった。2005年末にマットグロッソドスル州とパラナ州に発生した口蹄疫を理由に、多くの輸入国が発生地域、その隣接州、またはブラジル全土からの牛肉輸入を停止した中で輸出が増加した理由は、@食肉パッカーによる制限地域外への輸出拠点の移動A国際市場における価格の上昇Bサウジアラビアなど中東諸国向けなど輸出先市場の多様化−などに基づくものであった。

 生鮮牛肉の輸出先市場はロシアが全体の26.0%を占めて最も大きく、エジプトの16.2%と合わせ全体の42%を占める。この他にイギリス、ブルガリア、イタリアが続いている。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの牛肉消費量は2000年以降、35キログラム前後で推移してきたが、2006年は前年比1.9%増の35.9キログラムとなった。


表3 牛肉需給の推移
図3 生鮮肉(冷蔵、冷凍)の輸出相手国(2006年)


(3)牛肉の価格動向

 ブラジルでは生体取引が主体であるが、生産者販売価格は、枝肉15キログラム単位で示されることが多い。2006年の生産者販売価格(サンパウロ州)は、前年比3.7%安の枝肉15キログラム当たり52.99レアルとなった。また、牛肉の卸売価格は、同1.5%高の枝肉1キログラム当たり4.07レアルとなった。

図4 肉牛価格の推移(サンパウロ州)



(2)養鶏・鶏肉産業

 2006年のブラジルの鶏肉生産量は、米国と中国に次ぐ世界第3位、輸出量は2005年以降、世界第1位の地位を保っている。2006年は、特に欧州における鳥インフルエンザの発生による鶏肉需要の減退を反映し、輸出の減少、国内の生産調整などを余儀なくされたが、鳥インフルエンザのない数少ない供給国としての立場を維持している。



(1)ブロイラーのふ化羽数動向

 2006年のひなふ化数は上半期中に行われた生産調整の影響で、前年比2.5%減の45億7,100万羽であった。



(2)ブロイラーの需給動向

ア.生産動向
 ひなふ化羽数の減少により、2006年のブロイラー生産量はほぼ前年並みの935万4千トンであった。このうち、3割弱が輸出に向けられた。

イ.ブロイラーの輸出動向
 2006年の鶏肉(骨付ベース)輸出量は前年比6,4%減の25万8,600トンとなり、7年ぶりに減少した。加工品を含む鶏肉製品全体の輸出額も同8.7%減の32億ドルであった。輸出の減少は、上半期において鳥インフルエンザによるアジアやヨーロッパの鶏肉消費が減少したことで、これら市場から輸入需要が大幅に減少したことが主要因である。形態別に見ると、パーツが全体の63.3%、丸どりが36.7%で、パーツの割合が前年に続いて増加しており、加工品の輸出増加とともに高付加価値製品の輸出増加が見られた。国別では、丸どり主体のサウジアラビア、パーツ主体の日本、香港が全体の37%を占めた。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの消費量は、前年比4.0%増の36.5キログラムとなった。ただし2006年の場合、上半期中に輸出の減少による国内市場への供給過剰の時期があり、これが1人当たりの消費量を増加させたともみられる。


表4 鶏肉需給の推移
図5 鶏肉の輸出相手(2006年)


(3)ブロイラーの価格動向

ア.ブロイラー生産者販売価格
  2006年のブロイラ−の生産者販売価格は、海外需要の減退を反映した輸出の減少による国内供給の過剰を反映し、前年比14.0%安のキログラム当たり1.17レアルとなった。

イ.卸売価格
 ブロイラーの丸どり卸売価格は、前年比12.0%安のキログラム当たり1.75レアルとなった。

図6 ブロイラ−価格の推移(サンパウロ州)



4. 飼料穀物


 世界のトウモロコシ生産の約5〜7%を占めるブラジルでは、養鶏、養豚などの畜産業を中心とした大消費国内市場が形成されていることから、輸出余力は少なく、国内供給が過剰となる場合や国際価格が高騰する場合に輸出が行われる。このため、年による変動が大きい。また、飼料基盤のぜいじゃくな北東部の養鶏生産者は、国産よりも割安のパラグアイ産やアルゼンチン産トウモロコシに依存している。

 一方、大豆は米国に次ぐ世界第2位の生産国かつ輸出国として、世界の大豆市場に大きな影響力を持つ立場にあり、また、最大の輸出品目として2005年には56億ドルの外貨を獲得している。トウモロコシと大豆は作付けが同時期となり競合するため、価格関係が作付面積に反映する。最近は価格の高い大豆が優先され、トウモロコシの生産は2003/04年度(2月〜1月)を境に下降を続けている。



(1)主要な政策

 2006/07年度に対する政府の農業融資計画としては、農務省が管轄する一般農業部門に対し、前年比13%増の500億レアル、農地開発省管下の家族農業強化プログラム(PRONAF)に対し、同11%増の100億レアル計600億レアルを投下することが発表された。一般農業部門に対する融資資金のうち、生産と販売のための融資は同25%増の416億レアルとし、農業投資プログラムに86億レアルが向けられた。また、生産融資資金の内、政府の管理下におかれる301億レアルについては、前年に引き続き年利8,75%の利息が適用され、1農家当たり融資額が増加した。融資枠増加の一例として、大豆の場合には従来地域により15-20万レアルであったものが、全国一律に30万レアルに改定された。



(2)穀物の需給動向

 2005/06年度トウモロコシ生産量は前年比21.0%増の4,250万トンとなり、前年度の降雨不足の影響で大幅に減少した生産量が回復した。このうち、400万トンが輸出され3,700万トンが国内市場に供給された。一方、大豆の生産量は同5.2%増の5,500万トンに達し、大豆(豆)として2,495万トン、大豆かすとして1,233万トン、大豆油として242万トンが輸出された。


表5 トウモロコシの需給表
表6 大豆の需給表


(3)穀物の価格動向

 2006年のトウモロコシの生産者販売価格(サンパウロ州)は、年平均で前年比11.4%安の14.06レアルとなった。これは、上半期において2005/06年の生産回復による国内の供給過剰を反映した価格低下の影響が大きい。しかし下半期に入ると、米国のエタノール向けのトウモロコシ需要の増加を要因として、シカゴ市場におけるトウモロコシの国際価格が9月より上昇を始め、これを反映したブラジルの国内価格も年末にかけて20レアル近くに上昇した。

表7 トウモロコシ価格の推移(サンパウロ州)



ブラジルの穀物流通
 トウモロコシは、鶏肉の主要生産地である南部および南東部で多く生産されている。また中西部は今後大幅な増産を期待することができる地域である。 しかしながら、輸出港から遠く離れた中西部での増産は、輸送インフラ整備という大きな課題を抱えている。

 トウモロコシの多くは、南部のパラナグア港(パラナ州)、サンフランシスコドスル港(サンタカタリナ州)、南東部のサントス港(サンパウロ州)から輸出されている。中西部からのこれらの港への輸送経路は@〜Bのようになる。

@ 国道BR364号線でサンパウロ州に入り南東部へ通じるルート
A マットグロッソ州アルトタクアリ市まで道路輸送、ここから鉄道を利用して南東部へ通じるルート
B 国道BR163号線と他の道路と結んで南部へ通じるルート

 上述したように中西部からの輸送は道路輸送が主体であるが、輸送コストを軽減するために、アマゾン地帯の水路を利用した輸送も行われている。
@ 国道BR364号線でロンドニア州ポルトベリョ港、同港よりマデイラ川を約1,000キロメートル下りアマゾン川本流にあるイタコアティアラ港、同港から海外へ輸出するルート
A 国道BR163号線でアマゾン川本流にあるサンタレン港、同港から海外へ輸出するルート図 ブラジル中西部を起点とする穀物の輸送経路

 このように輸送の効率化のためには、アマゾン地帯の水路を利用した複合輸送が不可欠であり、例えば、クイアバ市からサンタレン市までの約1,800キロメートルの舗装道路を完成させる計画などが策定されている。しかしながら、このようなアマゾン地帯を縦断する舗装道路の完成は、環境に悪影響をもたらすのではないかという懸念もしばしば聞かれる。