海外編

 II EU 


1. 一般経済の概況

 EUは2007年1月1日に、新たにブルガリア、ルーマニアの2カ国が加盟し、27カ国へと拡大した。これにより、人口4億9,501万人、実質国内総生産(GDP)12兆3,551億ユーロの国家連合となった。

 EU経済は、2006年以降回復傾向にあったが、金融市場の混乱や、一時産品価格の上昇に伴う商品価格の急騰などにより回復のペースが鈍り、2007年の欧州連合(EU27カ国)のGDPの成長率は前年(3.1%)を下回る2.9%となった。

 2007年のEUの失業率は、引き続き雇用創出が続いていることから、7.1%と前年より1.0ポイント改善された。

 なお、99年1月より導入された単一通貨ユーロは、2007年時点では、EU27カ国のうち13カ国で流通している。2007年のユーロの対円為替相場は1ユーロ=161.25円で、日本との金利格差などを背景に、ユーロ導入後の2000年時点の1ユーロ=99.47円より大幅な円安傾向で推移している。


表1 主要経済指標

欧州連合の加盟国等(2007年12月時点)

2. 農・畜産業の概況

 EUは、加盟国全体で1億8,226万ヘクタール(2007年)の農用地面積を有し、農業経営体数は1,447万9千戸(2005年)、1戸当たりの農用地面積は、11.9ヘクタール(2005年)である。

 2007年におけるGDPのうち、農業生産の占める割合は、1.2%と前年と同じとなった。また、同年の(以下同じ)労働人口に占める農業従事者の割合は5.6%であり、ほかの先進国と同様に、その割合は高くない。農業生産額は3,558億1千万ユーロとなり、前年を8.9%上回った。このうちの約41%に相当する1,415億5千万ユーロを畜産が占めており、EU農業の主要部門となっている。畜産の内訳を見ると、生乳が486億4千ユーロ(農業全体の約14%)、牛肉・子牛肉が293億4千万ユーロ(同約8%)、豚肉が298億5千万ユーロ(同約9%)、卵・家きんが232億6千万ユーロ(同約7%)である。


図1 農業生産額に占める畜産のシェア(2007年)

図2 畜産生産額に占める畜種別のシェア(2007年)

表2 主要農業経済指標

 2007年のEU農業を概観すると、春の熱波や夏の西ヨーロッパを中心とした多雨による、穀物生産の滅産が挙げられる。

 2007年の農業経済を部門別に見ると、畜産部門では、生乳、家きん肉および鶏卵の価格が上昇したが、牛肉、豚肉の価格が下落した結果、生産者価格は前年比0.5%安となった。しかし、牛肉、豚肉および家きん肉の生産量が前年を上回ったことや、生乳、家きん肉および鶏卵の価格の上昇率が大きかったことから、生産額は前年比0.6%増となった。また、耕種作物部門においては、生産量は前年を1.7%下回ったが、供給不足やバイオ燃料原料などの需要増により価格が高騰したことから生産額は前年比7.8%増となった。

 農業者1人当たりの農業所得(実質)は、2007年1月に新たに加盟したルーマニア(前年比16.7%減)、ブルガリア(同8.5%減)を含む8カ国が前年を下回ったものの、リトアニア(同39.3%増)、エストニア(同22.5%増)、チェコ(20.9%増)、スウェーデン(同16.5%増)は前年を大幅に上回り、ほかの加盟国も前年をかなりの程度上回ったことから、EU27カ国全体では前年を5.4%上回ることとなった。


3. 畜産の動向

(1) 酪農・乳業
 2007年のEUの生乳生産量は、全世界(約5億6685万トン:FAO資料)の約26%を占め、これは、単一国としては世界最大である米国の生産量の約1.8倍に相当する。EUは、牛乳・乳製品の自給率が109%の純輸出市場であり、国際乳製品市場に大きな影響力を持っている。2007年のEUが世界の乳製品貿易量に占める割合は、チーズが39%と依然世界最大となったが、バターや脱脂粉乳はユーロ高などの影響による輸出量の減少によりそれぞれ26%、18%となり、バターはニュージーランドに次いで2番目、脱脂粉乳は3番目のシェアとなっている。


(1) 主要な政策

ア.生乳生産割当(クオータ)制度
  国別に生産割当枠(クオータ)を定め、クオータ超過に対しては、指標価格の115%の課徴金が課せられる。加盟国間でのクオータの譲渡は認められていないが、農家間では、売却・リースや加盟国によるクオータの買い上げ・再配分などを通じて移動・調整することができる。

 この制度は、2008年11月に合意したCAPの中間検証作業として行った「ヘルスチェック」において、2014/15年度をもって廃止することが決定している。


イ.乳製品の介入買い入れ
  バターや脱脂粉乳の介入買い入れを通じた乳製品の価格支持により、間接的に生乳価格を支持している。この介入価格は、CAP改革により、バターについては、4年間で25%、脱脂粉乳については、3年間で15%段階的に引き下げることとなった。

 バターの市場価格が介入価格(100キログラム当たり246.39ユーロ(2007年7月1日〜2008年6月30日))の90%を下回った場合、加盟国の介入機関により、入札方式による一定規格のバターの介入買い入れが行われる。なお、CAP改革により、バターの介入買入限度数量を新たに設定し、2004年に7万トン、その後毎年1万トンずつ削減し、2008年に3万トンまで削減することとなった。

 また、一定規格の脱脂粉乳については、3月1日〜8月31日の間、加盟国の介入機関が介入価格(100キログラム当たり179.69ユーロ(2007年7月1日〜2008年6月30日))で買い入れる。なお、その年の介入買入数量が10万9千トンを超えた場合、介入買い入れは停止され、入札による買い入れが実施できることとなっている。


ウ.酪農奨励金
  2004年度からバターおよび脱脂粉乳の介入買入価格の引下げが始まったことに伴い、その代償として酪農分野における直接支払いである酪農奨励金が導入されている。これは、2005年から導入されることとなっていたが、2003年のCAP改革で介入価格の引下げが1年早まったことから酪農奨励金の導入も1年前倒した2004年から導入されている。酪農奨励金単価は、生乳出荷量1トン当たり2004年が11.81ユーロ、2005年が23.65ユーロ、2006、2007年が35.5ユーロと定められており、介入価格の引下げを補う形で次第に引き上げられることになっている。

 なお、本奨励金は、CAP改革で導入された生産とリンクしない直接支払い(デカップリング)に移行することが2008年に決定している。


エ.輸出補助金
  EU産乳製品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、チーズ、バター、脱脂粉乳などの輸出に対して輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに販売・輸送コストなどを勘案して設定される。

 2007年は、世界的な乳製品需給のひっ迫を背景に乳製品の国際価格の上昇を受けて、すべての乳製品で輸出補助金がゼロとなった。


オ.域内消費の促進
  脱脂乳、脱脂粉乳の飼料用消費やバターのアイスクリームおよびベーカリー用消費に対する補助のほか、牛乳の学校給食用消費に対する補助などが行われている。


(2) 生乳の生産動向

ア.酪農経営体数
  EUの酪農経営体数は、小規模層を中心に減少傾向にあり、2007年には248万7千戸となった。2005年のEU27カ国ベースの参考データ(282万1千戸)と比較すると、2年間で11.9%減少している。


表3 酪農経営体数、乳用経産牛飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

イ.飼養頭数
  2007年12月現在の乳用経産牛飼養頭数は、前年を0.5%下回る2,418万頭となり、前年に引き続き減少した。クオータ制度の下で生乳生産の増加が抑えられている一方、経産牛1頭当たりの乳量が着実に増加していることが、飼養頭数減少の要因となっている。

 2007年の1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は10頭で、2005年のEU27カ国ベースの参考データの9頭から増加した。最も飼養規模の大きいデンマークが102頭であるのに対し、2007年に加盟したブルガリア、ルーニアはそれぞれ3頭、2頭となり、加盟国間で差が大きい。


図3 酪農経営体数(2007年)および乳用経産牛飼養頭数(2007年12月)

ウ.経産牛1頭当たり乳量
  2007年の経産牛1頭当たり乳量は、前年比0.7%増の6,139キログラムとなった。ただし、加盟国間での差は大きく、デンマークの8,382キログラム(前年比0.5%増)、スウェーデンの8,165キログラム(同0.3%増)に対し、2007年に加盟したブルガリア、ルーニアはそれぞれ3,713キログラム(同0.1%増)、3,474キログラム(同7.7%増)と2倍以上の開きがある。


エ.生乳生産量

 EUでは、CAPによるクオータ制度により安定的に推移していた生乳生産量が、2003年にクオータ(108万9,324トン)を超過したため、2004年はこれらの国において生乳の生産を削減した結果前年を下回り、2005年、2006年はほぼ前年並みとなった。2007年の生乳生産量も、前年比0.3%増の1億4,858万トンとほぼ前年並みとなった。国別では、ドイツ、フランスで2千万トン以上、英国、ポーランド、オランダ、イタリアで1千万トンを超えており、これらの合計はEU全体の生産量の約7割を占める。


図4 生乳生産量(2007年)および経産牛1頭当たり乳量(2007年)

(3) 牛乳・乳製品の需給動向

ア.飲用乳

 2007年の飲用乳生産量(販売量)は3,373万トンとなり、国別の1人当たりの飲用乳(乳飲料、ヨーグルトなどを含む)消費量は、スウェーデンの141.4キログラムからブルガリアの21.8キログラムまで、加盟国間でかなりの差がある。近年の飲用乳消費は、全脂肪乳の割合が3割に減少する一方、低脂肪乳の割合が増加する傾向となっている。また、発酵乳などの消費は引き続き増加している。


表4 1人当たり飲用乳消費量の推移
表5 バター需給の推移

イ.バター

 2007年のバター生産量は、世界の主要生産国の生産量(約742万トン:USDA資料)の約3割を占める。EUはインドに次ぐ世界第2位のバター生産地域である。

 2007年のバター生産量(バターオイルを含む)は、206万5千トンで前年を1.1%上回った。これは、乳製品の好調な国際需要を受け在庫の減少が顕著だったため、チーズに仕向けられる生乳の一部が脱脂粉乳/バターに仕向けられたことによるものである。

 2007年のEU域外への輸出量は、21万1千トンであった。主な輸出先は、ロシアやエジプト、日本などである。一方、域外からの輸入量は8万5千トンであった。

 1人当たりのバター消費量は、消費者の嗜好の変化により90年代から減少傾向で推移しており、2007年は前年比4.8%減の4.0キログラムとなった。国別では、フランス(7.9キログラム)、ドイツ(6.4キログラム)での消費が多いが、マーガリンやデイリースプレッドの消費が多いデンマーク(1.7キログラム)などの北欧の国や、オリーブ油など植物油脂の消費が多いイタリア(2.2キログラム)など南欧の国では少ない。


図5 バターの国別生産量(2007年)
表6 1人当たりバター消費量の推移

ウ.脱脂粉乳
 2007年の脱脂粉乳生産量は、世界の主要生産国の生産量(約325万トン:USDA資料)の約3割を占める。

 2007年の生産量(バターミルクパウダーなどを含む)は109万トンで、前年を5.2%上回った。これは、乳製品の好調な国際需要により需給がひっ迫したことから、チーズに仕向けられる生乳の一部が脱脂粉乳/バターに仕向けられたことによるものである。

 2007年のEU域外への輸出量は、19万6千トンとなった。主な輸出先は、アルジェリアやナイジェリアなどのアフリカや、インドネシアやタイなどの東南アジアなどである。

 世界的に需要が好調に推移したことから2007年期末在庫量は前年に引き続きゼロとなった。


表7 脱脂粉乳需給の推移
図6 脱脂粉乳の国別生産量(2007年)

エ.チーズ
  EUは、チーズの生産量では世界の主要生産国(約1414万トン:USDA資料)の約5割のシェアを占める世界最大の生産地域である。

 チーズ生産量は、2001年には、BSE問題の再燃による代替需要に対する生産の拡大により大きな伸びを見せ、その後引き続き増加傾向で推移し、2007年も堅調な域内需要に加え、世界的な需要増加により前年比3.3%増の897万8千トンとなった。このうち主に牛乳を原料として乳業工場で製造されるものは821万7千トンとなっている。


表8 チーズ需給の推移
図7 チーズの国別生産量(2007年)

 2007年のEU域外への輸出量は59万4千トンであった。世界的に好調な需要を受けて、着実に増加している。主な輸出先はロシア(15万7千トン)、米国(11万9千トン)、日本(4万5千トン)である。

 一方、EU域外からの輸入量は、9万4千トンであった。主な輸入先は、スイス(4万4千トン)、ニュージーランド(2万8千トン)、豪州(1万1千トン)である。


 2007年のチーズ消費量は872万3千トンで、1人当たりの消費量は17.7キログラムであった。国別に見ると、加盟国間でかなりの差があり、ギリシャ(29.2キログラム)、フランス(24.3キログラム)、ドイツ(22.2キログラム)などで多く、アイルランド(6.1キログラム)、スペイン(7.3キログラム)などで少なくなっている。

図8 チーズの輸出先国(2007年)
表9 1人当たりチーズ消費量の推移

(4) 生乳および牛乳・乳製品の価格動向

ア.生乳生産者価格
  2007年の国別生乳生産者価格(農家渡し、脂肪分3.7%)は、世界的に好調な乳製品需要を受けて、EU25カ国ベースのデータで前年を15.1%上回る100キログラム当たり31.20ユーロとなった。国別で見ても25カ国すべての国で前年を上回った。

表10 生乳生産者価格
チーズ消費の多い欧州では種類も豊富にある

イ.牛乳小売価格
  ドイツの2007年の全脂乳(回収ビン)の小売価格は、1リットル当たり0.94ユーロと前年比9.3%高であった。

表11 ドイツにおける牛乳小売価格の推移

ウ.バター卸売価格
  2007年のEU各国のバター卸売価格(工場渡しまたは倉庫渡し)は、世界的に好調な乳製品需要を受けて、主要国では前年を大幅に上回った(ドイツ:前年比35.0%高、フランス:同30.5%高)。

表12 主要国のバター卸売価格

エ.脱脂粉乳卸売価格
  2007年のEU各国の脱脂粉乳卸売価格(工場渡し)は、世界的に好調な乳製品需要を受けて、主要国では前年を大幅に上回った(フランス:前年比54.5%高、オランダ:同49.5%高)。

表13 主要国の脱脂粉乳卸売価格

オ.チーズ卸売価格
  2007年のEU各国のチーズ卸売価格(工場渡し)は、世界的に好調な需要を受け、フランスのエメンタールは、スイスなどのほかの生産国との競合などから1.6%低下している。


表14 主要国のチーズ卸売価格

(2) 肉牛・牛肉産業
 2007年のEUの牛肉生産量は、FAOによると、世界の牛肉生産量(約5985万トン)の約14%を占めている。多様な気候・地理・歴史的条件の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や生産する牛のタイプ(子牛、経産牛、去勢牛、雄牛など)は、国によってかなり異なっている。このような中、EUにおける牛肉自給率は2001年までは100%を超えていたが、2000年末のBSE問題の再燃によって低下した消費が回復し、消費量が生産量を上回ったことから、2003年以降、牛肉の純輸入地域となっている。


(1) 主な政策
ア.介入買い入れ
  域内の牛肉価格が下落した場合、加盟国の介入機関を通じ、一定基準を満たす牛肉を買い入れ、市場から隔離することにより、価格を一定以上に維持している。買い入れは、枝肉のEU平均市場価格が、2週間にわたって1,560ユーロ/トンを下回る場合に実施される。


イ.民間在庫補助
  EU市場で格付等級R3とされた雄牛の枝肉基本価格を100キログラム当たり222.4ユーロと定め、EU平均市場価格が基本価格の103%を下回り、それが継続する可能性がある場合に、一定量の牛肉を一定期間、自己負担により在庫する業者に対し助成が行われる。


ウ.直接支払い
  2000年度からの介入価格の引き下げにより減少した農業所得を補償するため、繁殖雌牛奨励金などの奨励金について、単価が引き上げられたほか、2000年には新たにと畜奨励金が新設された。

 なお、2003年のCAP改革により、これらの生産にリンクした直接支払いは、原則、生産とはリンクしない直接支払い(デカップリング)へと統合された。ただし、加盟国は、これらの生産と結びついた直接支払いについてもデカップリングと併せて継続することが可能となっている。


(ア) 繁殖雌牛奨励金(Suckler cow premium)
  繁殖雌牛を飼養する肉用牛生産者(生乳出荷量がゼロまたは生乳生産枠(クオータ)が120トン以下の生産者)に対し、1頭当たり200ユーロの奨励金が交付される。


(イ) 特別奨励金(Beef special premium)
  雄牛や去勢牛を飼養する生産者に対し、肉牛の生存中に2回(10カ月齢および22カ月齢(雄牛は1回のみ))まで、各農家90頭を限度として、去勢牛1頭当たり150ユーロ、雄牛1頭当たり210ユーロの奨励金が交付される。


(ウ) と畜奨励金
  牛を一定期間飼養後、と畜または域外に輸出した生産者に対し、8カ月齢以上の牛1頭当たり80ユーロ、1カ月齢超7カ月齢未満の子牛1頭当たり50ユーロの奨励金が交付される。


エ.輸出補助金
  EU産牛肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。


オ.BSE関連対策
  動物性たんぱく質の飼料利用全面禁止、食肉に供される牛からの特定危険部位の除去などのBSE撲滅対策、講じられる対策の有効性を検証するための30カ月齢超の食用向けの健康な牛に対するBSEモニタリング検査などが実施されている。


(2) 肉牛の生産動向

ア.牛飼養経営体数
  2007年の牛飼養経営体数(乳牛飼養を含む)は333万4千戸で、2005年のEU27カ国ベースの参考データ(375万7千戸)に比べ11.3%減となっている。

 牛飼養経営体数は、2007年のEU全農業経営体数(1,447万9千戸)の23%を占めていることから、EU全農業経営体の約4分の1は何らかの形で牛を飼養していることになる。牛飼養経営体数の多い国は、ルーマニア(106万8千戸)、ポーランド(71万8千戸)、フランス(22万戸)、ドイツ(17万戸)、イタリア(14万7千戸)の順となっている。


表15 牛(乳牛を含む)飼養経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

イ.飼養頭数
  2007年12月現在の牛飼養頭数は8,903万7千頭(乳用経産牛を含む)で、前年同月比0.6%増となった。

 2007年の1戸当たりの飼養頭数は26.7頭で、2005年のEU27カ国ベースの参考データと比較して1.7頭増加している。1戸当たりの飼養頭数の多い国は、ルクセンブルク(129.7頭)、オランダ(106.7頭)、チェコ(101.6頭)、デンマーク(100.3頭)の順となっている。一方、飼養頭数の少ない国では、リトアニアの5.9頭、ポーランドの8.2頭となっており、加盟国間で差が大きい。

図9 国別牛飼養頭数(2007年12月)

図10 国別タイプ別牛飼養割合

(3) 牛肉の需給動向

ア.牛と畜頭数および牛肉生産量
  2007年の牛と畜頭数は、2,887万頭となった。国別のと畜頭数を見ると、フランス(508万頭)、イタリア(400万頭)、ドイツ(371万頭)、イギリス(266万頭)、スペイン(248万頭)の順で、これら5カ国でEUの全と畜頭数の約6割を占めている。

 また、2007年の牛肉生産量は824万5千トン(枝肉換算)となった。

 1頭当たりの平均枝肉重量は、成牛で320.8キログラム、子牛は143.6キログラムであった。


表16 牛肉需給の推移(枝肉換算)

ベルギー南部のオーガニック用肉牛(リムジン種)の放牧風景
表17 成牛1頭当たり平均枝肉重量

イ.輸入および輸出
  輸入については、ガット・ウルグアイラウンド合意に基づき、さまざまな関税割当や近隣国に対する特恵制度が設けられている。2007年のEU域外からの輸入量は54万1千トン(枝肉換算)となった。主な輸入先は、ブラジル、アルゼンチンなどである。

 輸出については、従来からアフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。しかし、2001年秋以降のBSE問題の再燃や2002年2月の口蹄疫(FMD)の発生により、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が講じられている一方、域内の牛肉生産量が減少したことから、2007年のEU域外への輸出量は11万3千トン(枝肉換算)と大きく減少している。


ウ.消費
  2000年10月のフランスでのBSE感染牛の販売疑惑や同年11月にドイツ、スペインでBSEの初発例が発見されたことなどにより、牛肉の安全性に対する疑念がEUの消費者に広がったことから、2001年の消費量はやや落ち込んだ。しかし、2002年以降回復し、2003年より99年(749万9千トン)の水準を超えて推移しており、2007年の消費量は863万1千トンであった。

 1人当たりの牛肉消費量も同様に2001年は落ち込んだが、2003年には2001年レベルから1.9キログラム増加し、20.2キログラムと回復している。しかし、2004年に新たに加盟した国での牛肉消費量は多くなかったことから、2004年のEU25カ国の1人当たりの消費量(18.0キログラム)と2003年のEU15カ国(20.2キログラム)と比べて減少し、それ以降ほぼ横ばいとなった、これはEU27カ国になっても大きな変動はなく、2007年の1人当たりの牛肉消費量は17.6キログラムとなっている。


エ.介入在庫
  96、97年にBSE問題の影響による価格下落に伴い、介入買い入れが実施されたことにより急激に増加した介入在庫も、98年末の50万4千トンをピークに減少し、2000年末にはわずか2千トンにまで減少した。しかし、2000年末のBSE問題の再燃により、牛肉価格が落ち込んだため、通常介入だけでなくセーフティーネット介入も実施された。また、従来、介入買い上げの対象となっていなかった経産牛を買上対象とした特別買い上げも実施された結果、2001年末の介入在庫量は22万2千トンに達していた。その後消費の回復により、在庫は減少し、2004年以降ゼロとなっている。


(4) 肉牛・牛肉の価格動向

ア.枝肉卸売価格
  2007年の枝肉卸売価格は、輸入量が主要輸入国のブラジルで発生した口蹄疫などの影響で減少し、かつ生産量が減少したことにより供給量が不足したことから牛肉価格が高騰した2006年と比較して全体的に下回ったが2005年並みの水準となっている。

イ.小売価格
 2007年の小売価格は、主要量販店が牛乳などの食料品の価格の値上げを受け、牛肉についても値上げしたことから、イギリスでは生産者価格は低下したものの前年を上回った。

表18 牛枝肉卸売価格の推移


表19 牛肉小売価格の推移


(3) 養豚・豚肉産業
 2007年のEUの豚肉生産量は、世界の豚肉生産量(約9921万トン:FAO資料)の約23%を占めている。EUは豚肉自給率106.9%の純輸出地域である。特に、デンマークの輸出量はEU全体の輸出量の約3割を占め、域内輸出を含めると米国の輸出量の約1.8倍に相当する。EUでは、加盟国間で差が大きいものの、食肉消費量に占める割合は豚肉が最も大きい。


(1) 主な政策

ア.民間在庫補助
  域内の豚肉価格が下落した場合、特定の豚肉を一定期間在庫する者に対し補助金が交付される。


イ.輸出補助金
  EU産豚肉および加工品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。


(2) 肉豚の生産動向

ア.養豚経営体数
  2007年の養豚経営体数は、2005年のEU27カ国ベースの参考データ(388万2千戸)に比べ7.9%減の352万戸で、減少が続いている。

 2007年のEU全農業経営体数(1,447万9千戸)に占める豚飼養経営体数の割合は約24%である。国別では、ルーマニア(169万8千戸)、ポーランド(66万4千戸)、ハンガリー(28万3千戸)、ブルガリア(15万4千戸)、スペイン(10万8千戸)が上位となっている。



イ.飼養頭数
  2007年12月現在の豚飼養頭数は1億6,004万6千頭で、2005年のEU27カ国ベースの参考データと比較して1.2%減少した。

 2007年の1戸当たりの飼養頭数は45.5頭と、2005年のEU27カ国ベースの1戸当たりの飼養頭数(40.5頭)と比較して5.0頭増となった。国別では、規模が大きいアイルランドの2,007.0頭やデンマークの1,903.4頭からルーマニアの3.9頭まで加盟国間で大きな差が見られる。また、新規加盟国では小規模の経営体が多い。

イベリコ豚の放牧風景(スペイン)牛と一緒の放牧は珍しい風景だ

表20 養豚経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

図11 国別豚飼養頭数(2007年12月)

(3) 豚肉の需給動向

ア.と畜頭数と豚肉生産量
  2007年の豚と畜頭数は2億5,797万頭となり、前年比3.4%増となった。また、豚肉生産量は2,236万4千トン(枝肉換算)となっている。

 2007年の1頭当たりの平均枝肉重量は88.6キログラムであった。


イ.輸入および輸出
  2007年のEU域外からの豚肉(生体豚、調製品を含む)の輸入量は3万トンとなった。

 一方、2007年のEU域外への輸出量(生体豚、調製品を含む)は、138万4千トンとなった。主な輸出先は、ロシア(63万7千トン)、香港(24万トン)、日本(23万2千トン)などである。

ウ.消費
  2007年の消費量は、2,140万7千トンであった。また、1人当たりの豚肉消費量は、43.5キログラムであった。

表22 豚1頭当たり平均枝肉重量
表21 豚肉需給の推移(枝肉換算)

(4) 肥育豚、豚肉の価格動向

ア.豚肉の市場参考価格
  豚枝肉市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における豚枝肉の加重平均価格をベースとして算出される。

図12 豚肉の輸出相手国(2007年)

表23 豚枝肉参考価格の推移

表24 豚肉小売価格の推移

 2000年末に発生したBSE問題の再燃により参考価格は上昇したものの、その沈静化により下落に転じた。この下落は、2003年に下げ止まり、2004年には、日本の米国産牛肉輸入停止による代替需要でのEU産豚肉の需要の増加、ドイツでの供給不足、年初の価格の低迷に対する民間在庫補助や輸出補助金の導入などにより上昇した。2007年の参考価格は、新規加盟国の価格高により100キログラム当たり153.24ユーロとなったが、主要生産国の生産量の増加に伴う供給量の超過や、ユーロ高による輸出経費の増加により輸出量が減少したことから、ほとんど国で前年を下回っている。

イ.小売価格
  2007年の豚肉の小売価格は、イギリスのカタはわずかに上昇したものの、ロインやアイルランドのヒレは前年とほぼ同水準となった。


日本でも人気のあるイベリコ生ハムの製造風景