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欧州でん粉業界、EUの砂糖・異性化糖の生産割当廃止を控え声明を発表

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最終更新日:2017年6月30日

 欧州のでん粉業界団体であるスターチ・ヨーロッパは6月20日、EUの砂糖・異性化糖の生産割当の9月末の廃止を控え、声明を発表した。

生産割当廃止後も、EU域内の砂糖・異性化糖消費は増加しない見込み

生産割当の廃止を好意的に評価

 EUでは、砂糖はてん菜を原料とし、異性化糖は小麦、トウモロコシを原料としており、異性化糖の果糖含有率20%、30%、42%(それぞれブドウ糖含有率80%、70%、58%)のものが一般的である。
 EUでは、砂糖価格を安定させ、てん菜生産者の所得を確保するため、てん菜糖の生産量を年間1350万トン、異性化糖の生産量を年間約72万トンに制限する生産割当が実施されてきたが、2017年9月末をもって廃止される。
 スターチ・ヨーロッパは、「世界のてん菜糖生産をリードするEUにとって、生産割当の廃止は、望ましいことである。国際砂糖機関(ISO)は、砂糖需要の増加により、2年間(2015/16年度(10月〜翌9月)〜2016/17年度)で、世界全体で500万〜600万トンの砂糖の供給不足が発生すると予想しており、これは、EUの砂糖輸出を促進することになる。」として、生産割当廃止に好意的な反応を示している。
 その一方、EU域内市場への影響については、「砂糖・異性化糖の生産量は増加が見込まれるものの、EU域内市場における急激な消費の拡大は起こりそうもない。砂糖生産量の増加は、従来のEU域外からの輸入(2015/16年度290万トン)を相殺するか、またはEU域外への輸出(2017/18年度に200万〜300万トンの見込み)に仕向けられる。」としている。

異性化糖は、EU域内の砂糖需要の一部を代替する見込み

 次に、スターチ・ヨーロッパは、異性化糖市場について、「固形である砂糖と異なり、液状である異性化糖は、輸送の難しさから、輸出拡大の可能性は限定的であるが、砂糖に比べ、飲料やアイスクリームへの利用には適している。このため、EU域内で食品向けに利用されている砂糖の一部は、生産割当廃止に伴い増産された異性化糖に切り替えられるであろう。」としている。
 今後については、「将来のEUの異性化糖市場は、現在の年間約72万トン(生産割当数量)から200万〜300万トンに増加すると見込まれている。これは、生産割当廃止後に予想されるEUの糖類市場全体の12〜18%に相当する。また、欧州委員会は、異性化糖生産量は、2026年までに年間190万トン(EUの糖類生産量全体の約10%)となると予測しており、この予測にも、おおむね沿うものである。」として、市場拡大を見込んでいる。
 ただし、「市場拡大の実現には、時間を要し、実需者次第でもある。市場の予測は困難であり、原料農産物や砂糖の価格、食品製造企業からの需要などさまざまな要因に左右される。」と条件をつけている。
 その上で、「輸出主導の市場拡大が砂糖市場に便益をもたらし、異性化糖は、輸出に仕向けられた分の砂糖に置き換わる形となる。したがって、砂糖・異性化糖の生産割当廃止は、欧州の砂糖・異性化糖の消費量そのものの増加をもたらすものではない。」と結論付けている。

異性化糖は砂糖と代替可能で、健康との関係は砂糖と同等

異性化糖の機能性の高さを強調

 また、スターチ・ヨーロッパは、砂糖と異性化糖の代替関係について、「砂糖と異性化糖(特に果糖含有率42%〜55%)は、多くの食品用途において、相互に代替が利く。この異性化糖の代替性の高さは、その機能性の高さによるものである。すなわち、異性化糖は、液状であり、一定の食品への使用は砂糖よりも適している上、テクスチャー(歯ごたえや舌触りなど)や色味を向上させ、風味を高める機能も有している。」としている。

異性化糖と健康の関係は砂糖と同等

 その上で、スターチ・ヨーロッパは、異性化糖が健康にもたらす影響や砂糖との比較について、「米国では、HFCS(High Fructose Corn Syrup)と呼ばれる、果糖含有率55%の異性化糖の摂取と肥満の関係が疑われたが、両者に明確な関係はないことが科学的に証明されている。また、カロリー摂取量や健康にもたらす影響は、HFCSも砂糖も同等であること、果糖の摂取方法が自然の果物やハチミツ由来であっても、異性化糖であっても、同等であることも証明されている。」と、でん粉業界としての見解を示している。
 その一方で、市場拡大の可能性については、「EUにおける果糖含有率55%の異性化糖の生産量は、EUの糖類生産量全体の1%にも満たない。今後、生産割当の廃止によって、EUの果糖含有率55%の異性化糖の生産量は増加するものの、米国のような市場シェア(糖類市場全体の36%)を占めるとは見込みがたい。これは、欧州と米国では食習慣が異なり、EUの清涼飲料水の1人当たり消費量は、米国に比べはるかに少ないためである。」として、米国市場とEU市場との相違点を示している。

EUの食品産業では、砂糖・異性化糖使用量は、減少しつつある状況

 さらに、スターチ・ヨーロッパは、「政府の政策や企業の方針により、食品・飲料への糖類使用が削減傾向にあることから、生産割当廃止後も、EU域内の砂糖・異性化糖消費量は、横ばい、あるいは減少する可能性さえある。欧州委員会は、2016年、EU加盟国、産業界とともに、2020年までに、さまざまな食品において、糖類使用割合を10%減少させるための議論を開始した。これにより、食品製造企業が食品中の糖類の割合を見直し、糖類含有率の低い食品の生産を拡大することが検討されている。この他にも、欧州清涼飲料水産業協会が2020年までに関連製品の糖類使用割合を10%減少させると発表している。また、欧州の食品・飲料産業の団体であるフードドリンク・ヨーロッパも、2020年までにEU市民のエネルギー摂取量の10%削減を達成するための活動への協力を呼びかけている。」としている。
 こうした動きを踏まえ、「EUの食品産業が、生産割当廃止後、より多くの砂糖・異性化糖を利用することは考えづらい。欧州のでん粉業界としては、市場のニーズに基づき、食品・飲料製造企業が必要とする異性化糖の生産を進めていくとともに、他の糖類などの代替となる、でん粉原料製品に関する技術革新を続けていく。」として、でん粉業界としての生産割当廃止後の意気込みを示している。


【根本 悠 平成29年6月30日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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