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フィリピンにおける最近の砂糖需給動向

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最終更新日:2010年4月27日

フィリピンにおける最近の砂糖需給動向
〜需給ひっ迫により輸入増加の見通し〜

2010年5月

調査情報部

 フィリピンは、1990年代における生産低迷からの回復後、基本的に砂糖自給国であり、一部を特恵的なアクセスを持つ米国に輸出してきた。しかし、2008/09年度(10〜翌9月)以降、生産量が消費量を下回る状況となり、2009/10年度においては輸入の増加が予測される。フィリピンが輸入する砂糖は主として白糖であり、その輸入先はタイや韓国である(ISO統計より)。さらに、フィリピンへの供給元である韓国は原料として使用する粗糖を主に豪州、タイから輸入していることから、フィリピンの輸入増加はアジア域内の需給に影響を与えるとみられる。本レポートでは、フィリピン農政省の公表資料などをもとに同国における最近の砂糖需給動向について報告する。
 

2008/09年度以降、生産が低迷

 1990年代、フィリピンの砂糖生産は、代替作物との競合、都市部の拡大によるさとうきび作付面積の減少、定期的な干ばつや病虫害の発生により低迷したが、2000年代に入ると、高単収品種の普及と砂糖産業の近代化により増加傾向で推移し、2003/04年度からは余剰分をアジア諸国へ輸出してきた。また、同国は関税割当制度により米国市場への特恵アクセスが認められていることから、生産量の多寡にかかわらず、毎年14万トン〜18万トン程度の砂糖を米国へ輸出している。しかし、原油価格や肥料価格の高騰による生産コストの増加、悪天候による歩留まり低下の影響を受け、2008/09年度の生産量は消費量を下回る209万トンとなった。2009/10年度についても、2009年9月に発生した台風や、エルニーニョ現象が原因とみられる干ばつの被害により、212万トンにとどまるとみられる。一方、消費量は人口増加や経済発展に伴う食品加工業の需要増加を受け、ここ数年、増加傾向にある。多くの島から成るフィリピンでは統計に表れない密輸入が問題となっているが、世界価格が上昇すると密輸は減少する傾向にあることから、2009/10年度における同国の砂糖需給はさらにひっ迫するとみられる。

 
 

国内砂糖価格の上昇

 フィリピンの国内砂糖価格は政府によって管理されている。政府は、国内市場の流通を管理すると同時に、輸入関税を課すことで砂糖の国内卸売価格を高水準に維持しており、このことは、同国における密輸の原因ともなっている。

 過去5年間、精製糖小売価格は高くても1キログラム当たり39ペソ(86円:1ペソ=2.2円)程度であったが、2009/10年度に入ってから上昇を続け、2010年2月には同53.4ペソ(117円)にまで達した。農政省所管の砂糖統制委員会(SRA:the Sugar Regulatory Administration) は、その原因として生産コストの増加と国際価格の高騰を挙げている。しかし、2008/09年度以降、生産量が消費量を下回っており、在庫量も落ち込んでいることから、作柄の悪化による供給量の減少も原因であるとみられる。

 このような状況に対し、農政省と貿易産業省は、推奨小売価格(SRP:the suggested retail price、1月下旬以降のSRPは精製糖1キログラム当たり52ペソとされる。) を上回る価格で販売する業者に対する店舗閉鎖命令や罰金の徴収を通じ、小売価格の監視を強化している。また、農政省長官は業者に秩序ある取引を求める新たな規則を定めるよう、SRAに指示した。国際価格の高騰を受け、国内の砂糖が不法に輸出されることを懸念したためである。国家食糧庁は同庁認可の小売業者IBSP (the Institutionalized Bigasan sa Palengke)に政府在庫の精製糖を1キログラム当たり48ペソ(106円)で売り渡したが、その数量は消費者一人当たり1キログラムしか行き渡らない程度であったことから、効果は限定的であった。

 一方、国内砂糖業界は政府が砂糖価格を抑制することに反発している。国内生産者は過去2年間、原油価格や肥料価格の高騰による生産コストの増加に苦しんでおり、現在の砂糖価格高騰は、生産者にとって過去の損失を取り戻す機会であると主張している。
 
 

7月末までに15万トンを輸入へ

 農政省、SRA、国家食糧庁、フィリピン製糖業者組合(PSMA:Philippines Sugar Millers Association)は1月下旬、国内価格の安定化と在庫積み増しのため、砂糖15万トンの輸入割当枠を発効することで合意した。これにより、割当を受けた輸入業者もしくは需要者は、国家食糧庁の関税経費補助金(TES:tax expenditure subsidy)を活用し、無税で砂糖を輸入できることとなった。これを受け、国家食糧庁とSRAは2月中旬に当該割当枠についてのガイドラインを発表し、2月23日に第一回目の入札が実施された。しかし、この入札は不調に終わり、6万トンの割当枠に対し、応札数量は1万4900トンにとどまった。この原因は、砂糖の国際価格が29年ぶりの高値から下落したとはいえ、2月は依然高い水準にあったことから、輸入業者が輸入用の砂糖を手当てすることができなかったためとみられる。政府は、残り4万5100トンの割当枠について、4月20日に再度入札を行うとしている。2月に応札された砂糖は6月15日までに輸入し、残りは7月末までに輸入する予定である。

2009/10年度は輸入増加の見通し

 前述のように、2009/10年度の砂糖生産量は前年度より微増するものの、212万トンにとどまるとみられる。一方、消費量は232万トンと、2年連続で消費量が生産量を上回るとみられる。このため、24万トン程度の輸入が見込まれ、過去の実績から輸入先はタイ、韓国、シンガポールといったアジア諸国になるとみられる。フィリピンの国内価格は3月中旬以降、国際市況の下落を受け低下傾向で推移しているが、依然ここ数年の平均水準をはるかに上回っており、干ばつの影響も2010年半ばまで続くと懸念されることから、同国の輸入動向については引き続き注視する必要がある。

資料:フィリピン農政省HP “News Features” ISO “SUGAR YEAR BOOK 2009”
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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