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南アフリカ砂糖産業の概要

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最終更新日:2010年12月2日

南アフリカ砂糖産業の概要 〜さとうきびの生産、砂糖の需給動向と生産コスト〜

2010年12月

調査情報部 調査課

 
 
【要約】 
 
 南アフリカの砂糖産業は、国家経済への貢献、外貨獲得、雇用創出などにおいて重要な役割を果たしている。同国はさとうきび栽培の南限に近いなど、必ずしも最適とはいえない条件下でのさとうきび栽培を行っているが、砂糖生産量および輸出量ともアフリカ諸国の中で圧倒的に多く、生産量(約240万トン)の約6割を国内で消費し、残りの4割を輸出している。
 
 2004/05年度以降、さとうきび作付面積、さとうきび生産量ともに減少傾向だが、中期的には、さとうきび新品種の開発や土壌の改善等で収益性の向上を図ることなどにより、さとうきび作付面積が拡大するとみられることなどから、2019年までの10年間で生産量は年1.3%、輸出量は年4.0%増加すると予測されている。
 
 南アフリカにおける砂糖生産コストは、世界的に見ても低い水準にあるが、ここ数年コストは上昇しており、我が国への粗糖輸出への影響(価格上昇など)が懸念される。
 
  注:本稿の年度は、断りがない限り南アフリカ砂糖年度(4月〜翌3月)である。

1.はじめに

 我が国は、国内需要の約6割を輸入に頼っており、南アフリカからの粗糖の輸入はタイ、豪州に次いで第3位(10%強のシェア)を占めていることから、南アフリカ砂糖産業の動向に注目する必要がある。
 
 本稿では、英国の調査会社Agra CEAS Consulting社からの報告を基に、さとうきびの生産状況や砂糖の需給動向と砂糖の価格について紹介する。なお、次号では南アフリカ砂糖産業の特徴および主な政策とエタノールの生産動向について報告する。
 
 

2.さとうきびの生産状況

(1)さとうきび生産地域

 南アフリカのさとうきび生産は、3州(クワズール・ナタール州、ムプマランガ州、東ケープ州)にまたがる14地域で行われている。主要生産地域は、東ケープ州のノーザンポンドランドから沿岸部を経てクワズール・ナタール州内陸部であるが、ここ数年、ムプマランガ州の低地草原地帯へと広がっている。
 
 さとうきび生産の約68%は海岸から30キロメートル以内のほ場、17%がクワズール・ナタール州の多雨地域で行われている。残りは、ポンゴラおよびムプマランガ州の低地草原からなる北部のかんがい地域で生産されている。
 
 
 
 

(2)さとうきびの生産状況

 南アフリカのさとうきび生産は、1990年代半ばに数量割当制度が段階的に廃止され、生産に関する規制が緩和された後、拡大傾向で推移したが
(ア)さとうきび生産の収益性低下
(イ)農地取得に対する投資不足
(ウ)宅地への転用に伴う都市化、などにより最近は縮小傾向にある。
 
 作付面積は2004/05年度の43万5000ヘクタールをピークに減少傾向が続き、2009/10年度は39万1000ヘクタール(2004/05年比10%減)まで減少した。また、生産量についても、一時は作付面積の増加と単収の向上により増加し、2000/01年度は2390万トンにまで達したが、作付面積の減少に伴い、2009/10年度は1870万トン(2000/01年比22%減)まで落ち込んだ。
 
 さとうきび生産の制約要因として、水の制約からさとうきび栽培面積の拡大余地が少ないこと、主産地であるクワズール・ナタール州は天水に頼る上、特に傾斜地が多いこと、雇用確保という政治的な観点から収穫作業の機械化を行いにくい環境にあるため、収穫の効率化を通じた規模拡大やコスト削減は難しいこと、主要な砂糖輸入国から地理的に離れているため、海上運賃の上昇による不利益を被りやすいことなどが挙げられる。
 
 
 
 

3.砂糖およびその他の甘味料の需給動向

(1)砂糖の需給状況

 南アフリカの砂糖需給を表2に示した。2005/06年度から2010/11年度における平均をみると、砂糖生産量は平均で約242万トン、国内消費量は約164万トンであり、余剰分として生産量の約37%に当たる約91万トンが輸出された。砂糖生産量は、1990年代の初めに干ばつの影響を受け減少したものの、その後回復し増加基調で推移していたが、2004/05年度以降、さとうきび作付面積の減少により、2005/06年度の271万トンをピークに減少傾向で推移し、2010/11年度は215万トンと予測している。
 
 
 
 
 最近の減少傾向に歯止めをかけるため、南アフリカさとうきび研究所では、さとうきびの品種改善およびさとうきびの新品種の開発などの研究を行っている。研究成果は、さとうきび生産者にとって収益改善に役立つ情報として提供されている。その内容は、土壌の改善、害虫・疾病の発生抑制、最適な植え付け品種・肥料・水・除草剤などについての提案である。
 
 近年、南アフリカの砂糖生産量は減少傾向にあるが、OECDおよびFAOの予測によれば、同国のさとうきび・砂糖産業の持つ高い効率性、コスト競争力を背景に、中期的には、さとうきび作付面積が再び増加傾向に推移するとみられており、2019年までの10年間の生産量は年1.3%、消費量は年0.6%、輸出量は年4.0%のペースで増加すると予測されている。
 
 
 
 

(2)砂糖の販売・消費状況

 南アフリカでは、自国を含む南部アフリカ関税同盟(SACU)*注1)加盟国全体を国内市場として捉えている。SACU内の砂糖需要に対しては、以下の形で供給が行われている。
 
(ア)南アフリカなどSACU加盟国による生産
(イ)SACU加盟国とSACU非加盟国との間の二国間協定に基づく輸入
(ウ)南部アフリカ開発共同体(SADC)*注2)の議定書により、SACU加盟国以外で砂糖の生産量が消費量を上回るSADC加盟国に認められたアクセス枠
 
 
 SACU市場へ供給される南アフリカ産砂糖のうち6割が家庭用、4割が食品産業用として利用されており、近年は食品産業用のシェアが拡大している。産業用砂糖の約6割が飲料生産に用いられており、ほかにパン製造・食品加工とチョコレート製造・製菓用などである。
 
 SACU内の砂糖需要およびSACU市場に対する販売量は、この10年間で着実に伸びた。SACU市場における南アフリカ産砂糖への2009/10年度の総需要量は、過去最高の150万トンに達している。SACU市場で販売される南アフリカ産砂糖の約80%は依然として白糖であるが、最近の需要増加の大部分は、ブラウンシュガーの需要増によるものである。
 
 また、2009/10年度の1人当たり砂糖消費量は、ピークだった前年度の35.8キログラムから34.5キログラムへとわずかに減少した。これは、2008年の世界金融危機に伴う経済的影響によるものと考えられる。
 
*注1)SACU加盟国は、南アフリカ、ボツワナ、レソト、ナミビア、スワジランド
*注2)SACU加盟国およびアンゴラ、コンゴ、マラウイ、モーリシャス、モザンビーク、セイシェル、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ
 
 
 
 

(3)砂糖の貿易状況

 南アフリカは砂糖の純輸出国である。アフリカ、中東、日本および韓国を含むアジア、北米といった多様な輸出先を持っている。2009/10年度はインドネシアと日本の両国だけで粗糖輸出量の50%を占めた。輸出量の約7割を占める粗糖は、平均糖度が99.4度前後と高く、輸出先の製糖業者の間で人気が高い。
 
 また、白糖については、近隣のアフリカ諸国への輸送距離が他の主要生産国に比べて短いという地理的な優位性を活かし、それらのアフリカ諸国に輸出している。
 
 一方、2009/10年度の砂糖輸入量は15万トンであり、消費量の8.5%を占めている。輸入量の65%が白糖であり、輸入先は粗糖および白糖とも90%以上がブラジル産である。なお、SACU加盟国から輸入する砂糖は、WTO上、南アフリカのミニマム・アクセスの一部とみなされている。ただし、SACU加盟国中、南アフリカ以外では唯一の砂糖生産国であるスワジランドからの砂糖は、半加工製品として輸入されるため非関税扱いとなっている。
 
 
 
 
 
 

(4)その他の甘味料の動向

a.高果糖液糖
 
 2008年まで南アフリカで消費される高果糖液糖はすべて輸入品で、主な輸入先は米国、トルコ(とうもろこし由来)およびイスラエル、EU(てん菜由来)であった。2008年以降は、製糖企業である「トンガート・ヒュレット・シュガー」社がダーバンに工場を新設し、さとうきびを原料とした純度90〜95%の液状フラクトース(果糖)を、年間推定3000トンの規模で生産している。
 
 2007年の高果糖液糖輸入量は7800トン(830万米ドル相当)だったものの、高果糖液糖の国内生産開始と景気後退に伴い、2009年には3400トン(350万米ドル相当)まで減少した。業界関係者は、高果糖液糖市場は中期的には年間約1万トンまで成長し、ほぼその水準で安定すると見ている。
 
 
 
b.高甘味度甘味料
 
 南アフリカでは高甘味度甘味料は生産されていない。このためアスパルテーム、アセスルファム−K、サッカリンなどの国内需要はすべて輸入によって賄われている。
 
 また、カーギル(Cargill)社が、トランスバール地方に生育するマナティンに含まれる天然の高濃度甘味成分を食卓用の新たな甘味料として特許を出願したことに留意すべきである。さらに、将来的には、ステビアベースの甘味料の利用も増加するとみられる。
 
 
 

4.南アフリカ砂糖産業の構造

(1)さとうきび生産者

 さとうきび生産者は全般的に減少傾向で推移しており、1994/95年度の5万1075戸から2008/09年度には3万5336戸へ、このうち、小規模生産者は4万9257戸から3万3742戸へ、共に31%減と大幅に減少した(表8)。
 
 また、大規模生産者についても、1995/96年度の1818戸から2008/09年度には1577戸に減少し、シェアも4%にすぎない。しかし、大規模生産者はさとうきび生産量の92%(2008/09年度)を担い、このうち、Illovo Sugar Limited、Tongaat-Hulett Sugar Limited、Tsb Sugar RSA Limitedの3社が保有する17カ所のほ場が6.5%を占めている。
 
 なお、経済の発展と、アパルトヘイト(人種隔離政策)の廃止により、さとうきびを生産する黒人農家の比率は増加している。
 
 
 

(2)製造業者

 南アフリカの砂糖は、6社が保有する14カ所の製糖工場および1カ所の精製糖工場(Huletts refinery)で製造されており、これらの工場はすべて、さとうきび生産地域に立地している。製糖工場のうち3カ所(Noodsberg製糖工場、Malelane製糖工場、Pongola製糖工場)については、精製施設を併設している「ホワイトエンド製糖工場」と呼ばれている。
 
 Tsb Sugar RSA Limitedが生産する粗糖の一部は隣国モザンビークのマプト港の砂糖ターミナルを経由して輸出されている。それ以外の製糖所で生産される粗糖はダーバンにあるTongaat-Hulett Sugar Limitedの中央精製糖工場で精製、又は砂糖協会の砂糖ターミナルで輸出用に保管される。
 
 Huletts refineryを保有しているTongaat-Hulett Sugar Limited社の白糖は、ほとんどすべてが「Huletts」というブランド名により、南アフリカを含むSACU市場で販売されている。また、ホワイトエンド製糖工場で生産される白糖は、SADC市場、SADC外市場の両方に販売されている。
 
 
 
 
 
 

(3)雇用機会の創出

 南アフリカの砂糖産業は、国家経済への貢献、外貨獲得、雇用創出などにおいて重要な役割を果たしている。
 
 特に経済の発展と、アパルトヘイト(人種隔離政策)の廃止により、さとうきびを生産する黒人農家の比率は増加しており、同国の雇用機会の創出に大きく貢献している。これに加え、主産地のクワズール・ナタール、ムプマランガ、東ケープの各州では、肥料・燃料・化学・輸送・食品・サービスといった多くの関連産業における間接雇用も創出している。
 
 同国の砂糖産業における直接雇用は約7万7000人、間接雇用は約35万人、さとうきび生産者は約3万5000戸である。南アフリカの人口の2%以上に相当する約100万人が、砂糖産業に関連しているとする試算もある。
 

(4)生産コスト

 南アフリカにおける砂糖生産コスト(工場渡し価格)は、世界的に見ても低い水準にあるが、過去10年間で上昇しており、仮に輸出用の粗糖価格が上昇した場合、我が国への粗糖輸出に影響が及ぶ可能性もある。
 
 クワズール・ナタール州の非かんがい地域では、ポンゴラおよびムプマランガ州に広がる北部地域のかんがい地域よりも若干高くなる。前者は、総じて、肥料・電力・水・輸送コストなどが低い一方、農薬・人件費・燃料費・機械保守費などが高くなる。また、この地域の製糖所は小規模であり、処理能力が低い上、さとうきび収穫期後の操業期間も短いため、かんがい地域に比べて割高になる。
 
 地域的な格差やさとうきび生産方法にかかわらず生産コストは上昇しているが、ほ場と工場ではコスト上昇の要因が異なる。ほ場では、ここ数年世界的な原油価格の高騰により肥料・燃料等のコストが増加し長期的なインフレの結果、コストが増加した。一方、工場では、さとうきび生産の減少やさとうきび品質の劣化等に伴い砂糖生産量が減少したことによる。
 
 
 
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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