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砂糖の白さは天然の色

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最終更新日:2010年12月2日

砂糖の白さは天然の色

2010年12月

精糖工業会 理事 斎藤 祥治

1.はじめに

 巷には、「自然のものの方が健康によい」という“自然信仰”が溢れている。砂糖についても、“白い砂糖は健康にマイナス”で、自然に近い色のついた砂糖の方が健康に良いので、上白糖やグラニュー糖より黒砂糖や三温糖の方が健康に良いと、健康に関心の深いヒトほど、その様に思っている傾向がうかがえる。
 
 何故、色のついた砂糖は健康に良いのか、この意識の問題を解く鍵は、なかなか見いだされないが、少なくとも、ヒトが、自然にある砂糖は色がついており、白い砂糖は化学的な処理で白くしたと思っている事にあると推測される。そこで、この誤った「色信仰」を解くために、砂糖と色の違い、砂糖の色はどのようなモノなのか、あるいは砂糖の色をどの様にして取り除くのか、現在までに解っていること、現在行われている色の除き方について、述べることにする。
 
 

2.砂糖とは

 砂糖は何かというと、『広辞苑』によれば、“蔗糖(サッカロース)の通称。甘味が強く、光合成能力ある植物中に存在し、水に溶け易い白色の結晶。工業的にサトウキビ・サトウダイコンから製し、甘味料として重要”と説明している。この説明によれば、砂糖の正式な名称は、ショ糖で、それは白色の結晶であるとしている。つまり、着色物質とショ糖とは全く別の成分で、純粋な砂糖は、着色のない無色・透明なショ糖の結晶である、ことになる。
 
 

3.砂糖の色とその成分

 多くの有機化合物の結晶には、結晶内部に色素(着色物質)の様な不純物が入り込むのは困難である。それ故、有機化合物の結晶の多くは無色・透明となるはずであるが、多くの結晶は純粋であっても、無色・透明ではなく、見た目には白く見える。
 
 一方、砂糖では、着色物質を多く含む溶液から作ると着色した結晶となり、不純物の少ない砂糖液から造られた結晶は、無色・透明となる。しかし、有機化合物の結晶と同様、純粋な砂糖の結晶は、見た目には白く見える。これは、写真1のように結晶には、亀裂や無数の傷があるために、光を乱反射してそのように見えるのである。
 
 
 
 
 一方、着色物質を多く含む砂糖液から造られた黒砂糖や三温糖は、茶色や褐色に見える。これは結晶の表面に着色物質が付着したり、あるいは結晶の内部に着色物質が収蔵されたりすることによるものである。これらの着色物質には、高分子の物質から低分子物質まで無数存在しているが、多くは研究途上であり、具体的に特定された成分は、非常に少ない。
 
 砂糖の着色物質には原料植物由来のものと、製造工程で生成されるものとに分けられる。甘しゃ糖の着色物質とてん菜糖の着色物質とは、原料由来の着色物質が異なるだけで、製造工程で生成する着色物質はほぼ同じ成分である。
 
 原料糖について、その着色物質を植物由来と工程由来に分類して見ると、全てが明らかになったわけではないが、主に表1のようになる。
 
 
 
 
 甘しゃ由来には、クロロフィル(葉緑素)、カロチン、キサントフィル、フミン酸、フラボノイドなどの低分子量の物質があり、工程由来のもの、すなわち原料糖工場の工程中で生成する着色物質には、メラノイジン、メラニン、カラメル、そしてヘキソースのアルカリ分解物などの高分子物質がある。
 
 一方、てん菜糖では、てん菜由来の物質として、フェノールやフラボノイド系の着色物質が主で、カテコールアミンとその類縁物質、ベタインなどがある。工程由来では、甘しゃ糖と同様にメラニン、メラノイジン、カラメルのような高分子物質がある。
 
 原料植物由来の着色物質と工程由来の着色物質の割合であるが、それは、大体、甘しゃ原料糖の場合では、甘しゃ由来の低分子量のフラボノイドやフェニール系の着色物質などが約30%、残りの約70%が原料糖工場の工程内で生成する高分子のメラニンのようなポリフェノール化合物、メラノイジン、カラメルのような高分子量物質である。
 
 これらの着色物質の内、高分子量の物質の多くは、砂糖結晶の内部に比較的多く収蔵されるのに対し、低分子の物質は結晶内部に入り込む事はできず、表面に付着していることが判ってきている。
 
 経験的に、植物由来の着色物質は精糖工場で容易に除去できるが、工場(原糖工場、精糖工場、てん菜糖工場)の工程で生成した高分子量の着色物質は、容易に取り除くことができない、と言われている。
 
 

4.砂糖結晶の着色物質の特徴

 通常、物質の色は、単一な成分であれば、太陽光の様な可視光を当てると、その色の波長の光を反射し、それ以外の光(波長)を透過し、反射した光(波長)がヒトの目に届いて色として認識される。
 
 一方、着色した物質に可視光線を分光(プリズムや回析格子で光を波長の長さ毎に分けること)した光を短波長から長波長にかけて連続的に当て、透過した光の波長を調べると、特定の波長が吸収され、あるいは特定の波長が透過している状態を示す可視吸収スペクトルが得られる。例えば、植物の葉緑素のような単一成分からなる着色物質は、緑色の波長を反射することにより緑色を呈するが、植物の葉緑素の可視光のスペクトルでは、特定の波長が吸収された図1が得られる。
 
 これに対し、甘しゃ由来と工程由来の着色物質を含むオーストラリア産原料糖とタイ産原料糖の可視吸収スペクトルでは、図2(A)及び(B)のように、特定の場所に吸収ピークが見られず、紫外線に近い短波長ほど吸収が大きく、赤外線に近い長波長ほど吸収が小さくなる可視吸収スペクトルが得られる。また、図2(C)のカラメルを使用していない三温糖の可視部吸収スペクトルでも、図2(A)及び(B)の可視吸収スペクトルと同様、形状は殆ど変わらなく、その上、図2(D)の砂糖の加熱着色物質の吸収スペクルも似た形状を示す。
 
 
 
 
 
 
 前述したように、これは、砂糖の結晶の色が多種・多様の着色物質から発する色であるため、可視吸収スペクトルでは、それらの個々の着色物質の吸収波長が重なり合い、合成され、特定波長の吸収ピークが見られなくなったためである。
 
 また、写真2は図2の可視吸収スペクトルを測定した4試料の写真である。見た目の色調は多少異なっており、試料により緑色を帯びたもの、褐色に帯びたものなどの特徴を示す。
 
 
 
 

5.砂糖の色の濃さ(色価)とその測定方法

 多種の物質で構成される砂糖の色の濃さ(色価)を測るには、厄介な点が残る。特定成分の濃度や量を測定するのに用いられている比色法(分光光度法)では、特定成分と試薬が反応して発色する色の濃さを特定波長が吸収するその強さ、すなわち吸光度を測定し、その吸光度から特定の成分の量(濃度)を求めることが行われている。
 
 しかし、砂糖の着色物質には特定な吸収波長が無く、かつ標準とする着色物質も無いため、このような方法で着色物質の量(濃度)を求めることには、無理がある。
 
 そこで、今までは、絶対的な着色物質の量や濃度を求めるのではなく、対照とする色に対してどの程度か、相対的な色の濃さ(色価)を測る方法で行われてきている。
 
 しかし、この方法は、対照の標準標本と試料(砂糖)との比較をヒトの目に頼っているため、主観が入り易く正確さの点で問題が残る。そこで、新たな方法として分光光度計により、色価を測定する技術が開発された。それが「ICUMSA色価」とか、「RBU色価」で値が示される方法である。ICUMSA色価は、砂糖液を波長420nmの吸光度を測定し、その吸光度を1,000倍して得た値である。しかし、前述したように砂糖の着色物質は、特定の吸収波長を持っていないために、測定波長の決定には、困難を伴う。過去には、560nmや470nmの波長を使用した例もあるが、現在では、多くは、波長420nmの吸光度を測定して求めるICUMSA色価が国際的に通用している。
 

6.着色物質の除去の方法

(1)除去方法の考え方

 歴史的に見れば、砂糖の結晶を白く見せるために、多くの先人が色々な方法を試み、苦労の中から、多くの方法をあみ出し、現在に引き継がれて来ているわけである。そして、その方法には、大きく分けて二つある。
 
 その一つは、
 
(ア)結晶を造るための砂糖液に存在する着色物質自体を無色の成分に変えることである。そうすれば、たとえ無色となった成分が結晶に収蔵・付着したとしても、結晶は、無色・透明となる。代表的な例として、過去に世界的に普及した技術である「亜硫酸法」による脱色法がある。この方法は、開発途上の国々では耕地白糖の製造に現在も使われているが、食品の安全という面から徐々に少なくなってきている。日本やEU、米国などの先進国では、「亜硫酸法」による砂糖の製造は行われていない。
 
 もう一つの方法は、
 
(イ)結晶を造るための砂糖液から着色物質を取り除くことである。そうすれば、砂糖液中には着色物質が含まれていないので、その砂糖液から造られた結晶には、着色物質が 収蔵・付着しないので、当然、無色・透明となる。
 
 

(2)着色物質を除去する方法

 現在、白糖の製造には、前述(1)−(イ)の方法が世界的に一般的である。方法としては色々あるが、ここでは、日本の精糖工場で一般的に行われている方法について記述することにしたい。
 
 日本の精糖工場の多くは、図3に示すような工程を持っている。この中で、着色物質を除去する工程としては、洗糖操作、炭酸飽充、骨炭濾過、脱色用イオン交換樹脂への通液、煎糖操作である。通常、骨炭濾過と脱色用イオン交換樹脂への通液の工程は、脱色工程と呼ばれている。そこで、順次、各工程での着色物質の消長の要点を記述することとする。
 
 
 
 
(ア)洗糖操作
 最初に、結晶表面に付着した着色物質を取り除く操作を行う。これが洗糖操作である。同操作は、原料糖に75〜80Bx(固形分濃度;重量/重量%)のシラップを原料糖当たり20〜50%加えて良く混合する。この時、シラップ中の砂糖濃度が高いために、結晶の溶解は、最小限に抑えられ、結晶表面に付着した着色物質などが溶解してシラップに移行する。
 
 これで、結晶表面に付着した着色物質を取り除くことができる。得られた結晶とシラップの混合物は、マグマと呼ばれ、遠心力を利用した洗糖分離機で分蜜され、洗糖と洗糖蜜に分けられる。洗糖蜜の一部は再び洗糖工程に戻される。図4のように、本操作により4,300〜4,500程度のICUMSA色価を持つ原料糖がICUMSA色価1,700程度の洗糖となる。
 
 
 
 
(イ)炭酸飽充
 洗糖の着色物質の殆どは、結晶内部に収蔵されており、これらの着色物質を除去するためには、溶解して、砂糖の分子と着色物質の分子に離さなければならない。そこで、洗糖をメルターで70〜80℃の温水で溶解して60〜70Bxにする。この溶液、メルトリカー(ローリカー)を飽充槽に送り、炭酸飽充処理を行う。
 
 炭酸飽充では、メルトリカーに糖液ホィールで石灰乳を原料糖当たり0.6〜0.8%加えて混合した後、複数の連結した飽充槽に順次送り、槽内に二酸化炭素を飽充する。そうすると、石灰乳中の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が二酸化炭素(CO2)と反応して不溶性の炭酸カルシウム(CaCO3)を生じ、リカー中の着色物質を含む不純物を取り込んで沈殿物を形成する。この沈殿物を含むリカー(飽充リカー)を濾過して、ブラウンリカーを得る。
 
 炭酸飽充工程では、浮遊物やコロイド性の物質を効率的に除去できるが、着色物質も効率よく、除去できる。ICUMSA色価で1,500〜1,700程度のメルトリカーを本工程で処理し、濾過すると、図4のようにブラウンリカーのICUMSA色価は、600〜900程度まで減少する。ただし、本工程は、一時的に飽充リカーが強アルカリとなるのでリカー中に含まれる還元糖が多いと分解が進み、着色物質を生成する。
 
 
(ウ)脱色操作−骨炭濾過
 更に着色物質を除去するために骨炭、粒状炭、脱色用イオン交換樹脂などを充填した塔にブラウンリカーを通液する。日本の多くの工場は、脱色工程として“(炭酸飽充)→骨炭濾過→脱色用イオン交換樹脂”の順で処理を行っている。そこで、ここでは骨炭濾過での脱色について示す。
 
 骨炭とは、動物の骨(脚など硬い骨の部分)を800℃以上の温度で蒸し焼きにして、完全に有機物を炭化し、炭素が炭として残った多孔質の粒状の黒色の物質である。主成分はリン酸石灰で、その表面は炭素で覆われている。このため、骨炭は一種の天然のイオン交換体であり、脱色能と脱灰能(灰分のようなイオン性の物質を吸着する能力)を合わせ持っている。骨炭の体積当たりの脱色能力は、粒状活性炭(石炭などを原料にした粒状の活性炭。骨炭より脱色力が強いが脱灰力はない)などに比べて劣るため、精糖工場では20〜50トンの骨炭を詰めた縦型の濾過器を原料糖の処理量に応じて、数本から十数本設置している。この濾過器にブラウンリカーを通液して、着色物質を吸着・除去する。通液前のブラウンリカーのICUMSA色価が600〜900であっても、骨炭濾過器を通すと、色価は数ICUMSA色価まで減少する。この時、着色物質は骨炭の微孔に捕獲され、リカーから除去される。
 
 
(エ)脱色操作−脱色用イオン交換樹脂
 骨炭で処理した液にも一定量の着色物質が残っている。一部の着色物質は酸性基を持っていると考えられるので、強塩基性陰イオン交換樹脂である脱色用イオン交換樹脂で、この着色物質を除去することになる。しかし、強塩基性陰イオン交換樹脂の交換基が水酸(ーOH)基であると強アルカリとなり、砂糖を分解し、着色物質を生成するので、中性を保つために食塩(NaCl)で再生してクロル(Cl)型として使用することになる。
 
  日本の精糖工場で多く用いられている多孔質のAmberlite IRA401のような強塩基性陰イオン交換樹脂は、スチレン系の樹脂で、物理的強度が優れ、強酸・強塩基・酸化剤に対しても安定である。骨炭濾過後の数ICUMSA色価のリカーをCl型の強塩基性陰イオン交換樹脂に通液すると、通液後の処理液は、図4のように4ICUMSA色価程度となる。リカー中の着色物質は、一部は樹脂の多孔質の細孔に吸着され、一部はイオン交換されて除去されることになる。脱色用イオン交換樹脂を通過した後のリカーは、ファインリカーと呼ばれ、ほとんど無色・透明である。
 
 
(オ)煎糖操作(結晶化操作)
 結晶化(晶析)は、ある意味では究極の脱色法である。物質分子が結晶になる時、分子がある対称に従って特定の方向に配列する。これが結晶で、物質により特定の形、多面体となる。同時に、結晶が成長する時には、不純物を排除しながら、同一の物質分子だけから、特定の方向に配列して結晶となる。
 
 砂糖も同様で、不純物の少ない砂糖液であるとショ糖分子だけで結晶を造ろうとする。それ故、無色・透明であるファインリカーで晶析すると、不純物のない結晶を造ることができる。炭酸飽充やその外の脱色工程が実用化されていないころには、“結晶化→溶解→結晶化”を繰り返し行い、着色物質をはじめとする不純物を排除し、白色の砂糖を造っていた。
 
  この様に結晶化は、純粋な砂糖の結晶を得るには、最善の方法である。ただし、共存成分がショ糖の分子量と同程度で、化学構造が似ていると、ショ糖の結晶格子に共存成分が配列しまうこと、及び結晶の成長時に共存成分を含んだ微量の砂糖液が結晶中に包含されてしまうこと、などにより着色物質が結晶に収蔵される事になる。
 

7.終わりに

 砂糖の色について、色々と話してきたが、砂糖の色と砂糖とは、別物であり、色のついた砂糖は、着色物質が砂糖の結晶に残っているだけである。これが、結論である。
 
 ヒトが砂糖を食して以来、長期の保存に耐え、かつ安全に食べられるように、甘しゃから得られる甘味物質について、沢山の研究が行われてきた。その上、多くのヒトの願いをかなえるために、先人達は、“白い砂糖”を造るため、たゆまざる研究と数えることのできないほどの失敗を重ね、やっとの事で“真っ白い砂糖”を造ることに成功した。それが究極的には、現代の精糖技術なのである。
 
 現在の精糖工場には、ショ糖を純粋な形で取り出すために、農芸化学、工業化学、機械工学、電気・電子工学などを結集して得られた技術が使われているが、これは多くの人々の願いを満たした結果なのである。砂糖の白さは、まさに安全・安心の象徴である。
 
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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