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グアテマラ砂糖産業の最近の情勢

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最終更新日:2012年5月10日

グアテマラ砂糖産業の最近の情勢

2012年5月

調査情報部
 

【要約】

・グアテマラは世界有数の砂糖輸出国であり、国内生産の約7割を輸出。主要輸出先は北米およびアジア諸国。
・輸出は粗糖が中心だが、近年はより付加価値の高い精製糖輸出の拡大に注力。
・甘しゃ糖生産コストは世界平均比77%と、高い国際競争力を持つ。
・国内の砂糖卸売市場は、政府指示のもと設立されたCOMETRO(グアテマラ砂糖販売会社)が管理。国内で販売される砂糖はビタミンAの添加が義務付けられている。

1.はじめに

 グアテマラは世界有数の砂糖輸出国(2010/11国際砂糖年度(10月〜翌9月)において世界第6位)であり、粗糖を中心に年間150〜190万トン(粗糖換算)を輸出している。高い国際競争力を背景に輸出は増加傾向にあり、近年はより付加価値の高い精製糖輸出の拡大に注力している。世界の砂糖需給が不安定さを増すなか、主要輸出国として影響力を持つグアテマラの動向は、国内砂糖供給の約6割を輸入に頼る我が国にとっても重要である。

 そこで本稿では、同国における砂糖産業の最近の情勢について、英調査会社LMCと米国農務省(USDA)のレポートをもとに紹介する。なお、本稿の年度は、断りがない限りグアテマラ砂糖年度(11月〜翌10月)である。また、為替レートは、1米ドル=82円(2012年4月16日TTS相場)を使用した。

2.砂糖産業の概要

(1)さとうきび生産

 グアテマラでは、南部の太平洋沿岸地域でさとうきびが栽培されており、製糖工場も同地域に集中している。さとうきび生産の8割は製糖工場が占め、大規模生産による効率化が図られている。残り2割を占めるさとうきび生産者も、経営面積が25ヘクタール以上の大規模生産が一般的とされる。さとうきび収穫面積は増加傾向で推移していたが、2007/08年度に23万ヘクタールに達して以降は、ほぼ横ばいとなっている。これは、同国において適地の開拓余地がなく、さとうきびの作付け拡大がほぼ限界に達したためとされる。近年のさとうきび生産量は2000〜2200万トン程度で推移しており、2011/12年度は2140万トン(前年度比11.4%増)の見通しである。

 さとうきび生産は、新植後、5回株出しをしてから更新する6年サイクルとなっており、毎年、作付地の約15%は植え替えが必要となる。グアテマラで生産されるさとうきびの生育期間は通常12カ月間のため、さとうきび作付地は毎年100%収穫されている。さとうきびの単収は過去5年平均で1ヘクタール当たり88.8トンと、世界の主要なさとうきび生産国の平均(72.1トン)を大きく上回っている。これは、気象条件がさとうきび生産に適していることに加え、さとうきびの約4割がかんがい農地で生産されているためとみられる。

注:生産上位16カ国
 
 
 
 
 さとうきび収穫の約2割が機械化されているが、この比率をさらに高めることは難しいとみられる。この理由として、グアテマラの土壌は火山起源のため非常に石が多いことと、さとうきびの収穫は雇用創出に重要な役割を果たしていることが挙げられる。グアテマラでは、砂糖産業による直接雇用が25万人(このうち、さとうきび収穫の労働者は3万3000人)、間接雇用が35万3000人と推定され、砂糖産業は人口1500万人の同国経済の重要なセクターとなっている。


(2)砂糖生産

 グアテマラには現在13の製糖工場があり、この大半は太平洋岸のPuerto Quetzal港の近郊に位置する。同港と製糖工場間の平均距離は65キロメートルとなっている。表2の通り、グアテマラでは2000/01年度から2010/11年度にかけて製糖工場数が17から13に減少した一方で、1工場当たりの処理能力が増加したため、同期間において製糖工場全体のさとうきび処理能力は1日当たり12万6540トンから13万7050トンに拡大した。年間稼働日数は140〜160日程度となっている。製糖工場はバガス(さとうきびの搾りかす)を利用した発電も行っており、電力供給の面でも重要な役割を果たしている。2010年の電力供給量は310メガワットと、国内電力供給の23%を占めた。
 
 
 
 
(3)砂糖需給の動向

 砂糖生産量は、さとうきびの増産を背景に過去20年間に渡り増加傾向で推移し、近年の生産量は220〜250万トンとなっている。世界的な需要の高まりを背景に輸出も拡大しており、近年の輸出量は150〜190万トンと、国内生産の約7割を輸出している。消費量も製菓業の発展などを背景に増加傾向にある。砂糖消費の7割は直接消費、3割は産業利用であり、産業利用の中でも飲料の割合が最も高く、製菓、製パン、乳製品、製薬がこれに続く。なお、一人当たりの砂糖消費量は年間49.7キログラムと、世界平均(29.7キログラム)を大きく上回っている。

 2011/12年度の砂糖需給については、生産量250万トン(粗糖換算、前年度比11.7%増)、輸出量170万トン(粗糖換算、同15.9%増)、消費量70万トン(粗糖換算、同2.9%増)といずれも前年度から増加の見通しである。
 
 
(4)その他の甘味料の動向

 グアテマラでは、異性化糖、人口甘味料とも生産されていない。これらの消費量はごくわずかであり、国内供給は輸入に頼っている。ブドウ糖果糖液糖の消費量は増加しているものの、2010年時点で400トンと、砂糖消費量のわずか0.1%である。

 サッカリンやチクロなど人口甘味料の消費量も過去10年間において増加しているものの、砂糖消費量と比べるとごくわずかとなっている。
 
 
(5)砂糖価格の推移

 図2は、近年のグアテマラにおける砂糖価格および国際砂糖価格(ロンドン白糖市場価格)の推移を示している。国内砂糖価格は、世界的な砂糖価格の上昇を背景に上昇傾向で推移しており、2010/11年度の工場出荷価格はトン当たり573米ドル(約4万6986円)、卸売価格は同661米ドル(約5万4202円)、小売価格は同728米ドル(約5万9696円)となった。
 
 
 グアテマラでは、国境を接するメキシコへの砂糖の不正輸出が後を絶たず、月2000トン程度が同国に流出しているとされる。不正輸出の背景には、メキシコと同国の主要輸出先である米国の砂糖価格がグアテマラを上回っていることがある。USDAによれば、2010年における砂糖の平均小売価格は、米国で1ポンド当たり0.55セント、メキシコで同0.41セント、グアテマラで同0.33セントと、砂糖価格は米国>メキシコ>グアテマラの順となっている。米国で輸入需要が高まると、メキシコの砂糖業者は自国よりも価格が高い米国向けに国内で生産された砂糖を供給し、国内向けには、より価格の安いグアテマラなどから調達した砂糖を供給する傾向がある。北米自由貿易協定(NAFTA)のもと、2008年1月以降メキシコと米国間の甘味料貿易が完全自由化されたことも、この傾向を強める一因になっているとみられる。


(6)砂糖の貿易動向

 グアテマラは世界有数の砂糖輸出国であり、2010/11年度の輸出量は150万トン(粗糖換算)、輸出額は7億2500万米ドル(約595億円)となった。同国にとって、砂糖輸出はコーヒーと並ぶ外貨獲得源となっている。輸出の中心は粗糖であるが、近年は輸出に占める精製糖の割合も高まっている(図3)。粗糖の主要輸出先は米国、カナダなどの北米や、韓国、台湾などのアジア諸国となっている。一方、精製糖の主要輸出先はメキシコ、チリ、ペルー、ベネズエラなどの近隣諸国となっている。グアテマラの砂糖産業は、より付加価値の高い精製糖の輸出拡大に取り組んでおり、2010年には、Puerto Quetzal港に精製糖用の倉庫を新設した。

 Puerto Quetzal港の倉庫保管能力は粗糖36万5000トン(バルク)、精製糖6万6000トン(50キログラム袋詰め)、船積み能力は1時間当たり2200トンとなっており、ブラジル、豪州など世界の主要な砂糖輸出国と同程度の港湾能力を有している。現在、より大きな船舶の受け入れを可能にする港湾の改修も行われており、輸出競争力のさらなる向上が期待されている。
 
 
 
 
 
 

3.グアテマラ砂糖産業の生産性

 グアテマラの甘しゃ糖生産コストは、過去3年間平均でトン当たり287米ドル(約2万3534円)となった。このうち、原料コストは甘しゃ糖1トン当たり190米ドル(約1万5580円)、製糖コストは同97米ドル(約7954円)となっている。

 図4は、グアテマラにおける甘しゃ糖生産コストの推移を、1991/92年度の生産コストを100とした場合の指数で示している。過去20年間に渡り生産コストは上昇傾向で推移しており、なかでも原料コストは2005/06年度以降急激に上昇している。原料コストの上昇は、燃料費、肥料費および鋼材価格の上昇にともなう機械購入費の増加が主な要因とみられる。一方、製糖コストは2005/06年度以降、ほぼ横ばいとなっている。

 甘しゃ糖の生産コストについて国際競争力を比較したところ、2010/11年度において原料コストは世界平均比79%、製糖コストは同74%といずれも世界平均より低く、総生産コストは同77%となったことから、グアテマラの甘しゃ糖生産は国際競争力が高いといえる。なお、グアテマラの甘しゃ糖生産コストは上昇傾向にあるが、生産コストの上昇は世界的なものであるため、世界平均比ではほぼ横ばいとなっている。グアテマラの国際競争力が高い要因として、さとうきびの単収および糖度が世界平均と比べて高いこと、製糖工場の規模が大きく、稼働率も高いことが挙げられる。また、労働賃金も世界平均を大きく下回っている。USDAによれば、2010年におけるさとうきび収穫労働者の平均月収は379.75〜434.56米ドル(約3万1139円〜3万5633円)となった。これは、同国の最低賃金を4〜6割上回る水準である。

注:甘しゃ糖生産62カ国における加重平均生産コスト
 
 
 
 

4.砂糖関連制度

(1)さとうきび価格の決定方式

 さとうきび価格は、砂糖産業の収益(砂糖およびその副産物の糖みつから得た収益)に基づき決定される。さとうきび生産者と製糖工場間の収益分配率は54:46となっている。この分配率は、さとうきび生産者と製糖工場の協議のもと決定されたものである。なお、精製によるプレミアム分は全て製糖工場が受け取ることになっている。

 さとうきび価格は、製糖工場が構成するグアテマラ砂糖産業協会(ASAZGUA)が決定する。ASAZGUAは、年度開始前に当該年度における砂糖産業の収益を予測してさとうきびの暫定価格を決定し、年度終了後、実際の収益に基づき、最終的なさとうきび価格を決定する。さとうきび代金は3回に分けて生産者に支払われ、このうち最初の2回はさとうきびの暫定価格に基づき年度内に支払われる。1回目の支払額はさとうきび価格の55%、2回目の支払額は15%となっている。3回目の支払いは年度終了後に行われ、ここでさとうきびの暫定価格と最終的な価格の調整が行われる。なお、さとうきび価格はトン当たりの回収糖分量について87.5キログラムを基準としており、これを上回るものについては価格が上乗せされる。

 さとうきび価格は、世界的な砂糖価格の上昇を背景に近年急激に上昇しており、2010/11年度はトン当たり38米ドル(約3116円)となった。
 
 
 
 
(2)国内流通

 国内砂糖価格は、経済省、製糖工場、さとうきび生産者が構成するグアテマラ砂糖委員会によって決定される。国内流通については、1997年に政府の指示のもと設立されたCOMETRO(グアテマラ砂糖販売会社)が管理している。COMETROは、生産量に基づき各製糖工場に国内市場向け割当を配分し、製糖工場は、COMETROが国内38カ所で運営する卸売店を通して砂糖を国内市場に販売する。すなわち、国内卸売市場はCOMETROの管理下にあり、基本的に製糖工場から砂糖を直接購入することはできない。一方、小売市場での販売は自由となっている。

 グアテマラでは、国内で販売される砂糖にビタミンAを添加することが法律で義務付けられている。ビタミンAの添加に伴うコストは砂糖産業の負担となっており、年間コストは350万米ドル(約2億8700万円)とみられる。ビタミンAの添加は、子供の健康増進や呼吸器官および目の疾病の予防に効果があるとされる。グアテマラに輸出される砂糖もビタミンAの添加が義務付けられており、輸出側の負担となる。なお、グアテマラは粗糖および精製糖の輸入に対して関税を課しており、関税率はいずれも20%となっている。


(3)貿易協定

 2010/11年度における米国のグアテマラに対する輸入割当は5万546トン(粗糖換算)であった。米国への輸入割当による輸出は、他国向けよりも高い価格で輸出できるため魅力的であり、製糖工場はできるだけ多くの割当が配分されることを望んでいる。割当の配分は、グアテマラ砂糖委員会が行っている。なお、その他の国向け輸出はASAZGUAの管理下にある。ASAZGUAは、Puerto Quetzal港にある砂糖輸出ターミナルの運営も行っている。 

 グアテマラを含む中米6カ国とEUは、2010年5月に中米EU連携協定の最終合意に達した。この協定により、EUは中米6カ国に対し合計15万トンの砂糖および砂糖調製品の無税輸入枠を割り当てる見込みである。この割当枠は、毎年4500トンずつ引き上げられることとなっている。同協定は現在、欧州議会の承認待ちの状態であり、2013年に発効の見通しとなっている。

5.おわりに

 グアテマラの砂糖産業は、高い国際競争力を背景に生産と輸出の増加を図ってきた。ただ、同国ではさとうきびの作付拡大が限界に達しているとされ、さらなる生産・輸出の拡大については不透明となっている。一方で、最近ではパーム油の原料となるアブラヤシのプランテーションが南東部から北東部、東部に移動しつつあるともされ、プランテーションの跡地でさとうきび生産が拡大する可能性もある。

 また、グアテマラではエタノール生産が拡大しており、今後エタノール生産によるさとうきび需要が高まれば、同国の砂糖生産と輸出余力に影響を及ぼす可能性もある。グアテマラでは現在、5つの製糖工場が糖みつを原料にエタノール生産を行っており、2011年の生産量は20万3000キロリットルと推定されている。

 砂糖輸出にも変化が生じている。2000年頃まで、グアテマラの砂糖輸出は大半が粗糖であったが、近年、同国の砂糖産業はより付加価値の高い精製糖輸出の拡大に力を入れている。この傾向が続けば、従来グアテマラから粗糖を輸入している米国、カナダ、韓国などは他国から粗糖を手当てする必要が生じ、少なからず世界の砂糖需給に影響を及ぼす可能性があるとみられる。

資料:LMC “The Guatemalan Sugar Industry”
    USDA “GAIN Report, Guatemala, Sugar Annual 2011”
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713