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てん菜新品種「ゆきまる」「アマホマレ」「パピリカ」「リボルタ」の特性について

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最終更新日:2013年2月12日

てん菜新品種「ゆきまる」「アマホマレ」「パピリカ」「リボルタ」の特性について

2013年2月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部北見農業試験場 
地域技術グループ 研究主査 池谷 聡

 


【はじめに】

 平成21年以降、多収性や高糖分、複合抵抗性等さまざまな特徴を持つてん菜新品種が8種類育成された。このうち今回は「ゆきまる」(平成21年認定)、「アマホマレ」、「パピリカ」、「リボルタ」(平成22年認定)の品種特性を紹介する。

T そう根病抵抗性の「ゆきまる」(旧系統名「KWS5R16」)

1.背景:そう根病は土壌伝染性の重要病害である。化学的防除が困難なため、発生圃場では抵抗性品種の作付けが重要である。

 平成13年に優良品種に認定されたそう根病抵抗性品種として「きたさやか」がある。しかし同品種は抵抗性を持たない一般品種より根中糖分がかなり低く、生産者にとって手取り額の面で、製糖事業者にとっても製糖効率の面で不利であった。そのため、そう根病抵抗性を持ち、根中糖分の高い品種が望まれてきた。

 「ゆきまる」はそう根病抵抗性を持ち、根中糖分も一般品種並で「きたさやか」より高い。そのため、「きたさやか」の一部と置き換えることで、てん菜の安定生産に寄与できると判断された。

2.来歴:ドイツのKWS種子株式会社が育成し、平成16年に日本甜菜製糖株式会社が輸入した。

 平成17年から道立農試、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成21年に北海道の優良品種に認定された。

3.形態特性:地上部の形態は、直立形でやや小振りである。根部の形態は、根周がやや大きく、“やや短円錐”に分類される。

4.収量特性(表1):根重は「きたさやか」対比97%とやや軽く、根中糖分は105%とやや高く、糖量は102%とほぼ同等である。
 
5.耐病性等(表2):そう根病抵抗性は「きたさやか」同様“強”。褐斑病、黒根病抵抗性は「きたさやか」より弱く、それぞれ“やや弱”、“中”。根腐病抵抗性は「きたさやか」並の“弱”。抽苔耐性は “強”。
 
6.適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意は、褐斑病が“やや弱”、根腐病が“弱”なので、適切な防除につとめることが挙げられる。

7.普及状況:特に、上川地方の「きたさやか」に置き換わる形で、栽培面積が増加している。平成23年での栽培面積は4,767haで、上川地方が最も多く2,619ha、十勝地方が1,621haで続いている。

U 高根中糖分の「アマホマレ」(旧系統名「北海98号」)

1.背景:高糖分品種は、生産者にとって手取り額で有利となり、製糖事業者にとっても製糖コスト低減に寄与する他、低糖分圃場では根中糖分向上対策となる。また早期出荷用としても高糖分品種が必要とされてきた。

 「アマホマレ」は糖量が既存の普及品種と遜色がないにもかかわらず、根中糖分が高い。低糖分圃場を中心に普及し早期出荷用としても利用することで、農家所得の向上、製糖コストの低減が期待される。

2.来歴:北海道農業研究センターが、ベルギーのセスバンデルハーベ社との共同研究により育成した。平成19年から北農研センター、道立農試、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成22年に北海道の優良品種に認定された。

3.形態特性:地上部の形態は、中間形でやや小振りである。根部の形態は、根周がやや大きく、“やや短円錐”に分類される。

4.収量特性(表3):「クローナ」と比較して、根重は99%とほぼ同等、根中糖分は103%とやや高く、糖量は102%とほぼ同等。製糖効率を低下させる有害性非糖分の割合である不純物価は低い。「えとぴりか」と比較して、根重は102%とほぼ同等、根中糖分は104%とやや高く、糖量は106%と多い。不純物価はやや低い。「レミエル」と比較して、根重は95%とやや低く、根中糖分は103%とやや高く、糖量は98 %とほぼ同等である。不純物価は低い。
 
5.耐病性等(表4):そう根病抵抗性は“弱”。褐斑病抵抗性は「クローナ」「えとぴりか」「レミエル」より強い“中”。根腐れ病、黒根病抵抗性は「クローナ」「えとぴりか」「レミエル」並の “弱”および“中”。抽苔耐性は “強”。
 
6.適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意は、そう根病抵抗性が“弱”なので発生圃場での栽培は避けること、根腐病抵抗性が“弱”なので適切な防除に努めることが挙げられる。

7.普及状況:現在、試験栽培段階であり、平成25年から実普及の予定である。

V そう根病抵抗性で多収の「パピリカ」(旧系統名「H137」)

1.背景:そう根病は土壌伝染性の重要病害である。化学的防除が困難なため、発生圃場では抵抗性品種の作付けが重要である。

 平成17年に優良品種に認定されたそう根病抵抗性品種として「リゾマックス」があるが、近年の抵抗性を持たない一般品種より根中糖分が低い欠点があった。一方、そう根病抵抗性を持つ「パピリカ」は、近年の一般品種並みに根中糖分が高い。

 また、これまでそう根病抵抗性品種は、抵抗性を持たない一般品種と比較して収量が劣ることが多かったが、「パピリカ」は「レミエル」等の近年導入された一般品種よりも根重が重く糖量が多い。

 以上のことから、「パピリカ」を、「リゾマックス」の全部と「レミエル」等の一般品種の一部に置き換えて普及することにより、てん菜の安定生産に寄与できると判断された。

2.来歴:ベルギーのセスバンデルハーベ社が育成し、平成17年にホクレン農業協同組合連合会が輸入した。平成18年から道立農試、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成22年に北海道の優良品種に認定された。「パピリカ」はアイヌ語で豊作の年を意味する。

3.形態特性:地上部の形態は、直立形でやや小振りである。根部の形態は、根周が中程度で、“やや短円錐”に分類される。

4.収量特性(表5):「リゾマックス」と比較して、根重は102%とやや重く、根中糖分は103%とやや高く、糖量は105%とやや多い。製糖効率を低下させる有害性非糖分の割合である不純物価は同等である。「レミエル」と比較して、根重は108%と重く、根中糖分は同等で、糖量は108%と多い。不純物価は同等である。
 
5.耐病性等(表6):そう根病抵抗性は「リゾマックス」同様“強”。褐斑病抵抗性は「リゾマックス」より弱く「レミエル」よりやや強い“やや弱”。根腐病抵抗性は「リゾマックス」より弱く「レミエル」並の“やや弱”。黒根病抵抗性は「リゾマックス」「レミエル」並の“中”。抽苔耐性は“強”。
 
6.適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意は、褐斑病、根腐病が“やや弱”なので、適切な防除につとめることが挙げられる。

7.普及状況:網走地方で主に栽培されていた「リゾマックス」と置き換わった他、十勝地方ではそう根病抵抗性のない一般品種と置き換わっている。平成23年での栽培面積は2,148haで、網走地方が最も多く1,213ha、十勝地方が757haで続いている。

W 4病害複合抵抗性の「リボルタ」(旧系統名「HT30」)

1.背景:てん菜栽培において、そう根病、褐斑病、根腐病、黒根病は被害の多い重要病害である。このうちそう根病、黒根病については抵抗性品種が最も有効な対策である。また褐斑病、根腐病については薬剤による防除が可能ではあるが、排水性の悪い圃場や短期輪作圃場では多発しやすい。しかし、現在栽培されている品種はこれらの病害に抵抗性がないか、あるいは不十分な場合が多い。

 「リボルタ」は、これまでにない4病害複合抵抗性品種で、病害抵抗性において主力品種の「リッカ」より優れるが、収量性は「クローナ」と同等であり、「リッカ」には及ばない。

 以上のことから、そう根病の発生地帯を中心に、潜在的に病害発生のリスクが大きい圃場に導入することで、てん菜の安定生産に寄与できると判断された。

2.来歴:スウェーデンのシンジェンタ種子会社が育成し、平成18年に北海道糖業株式会社が輸入した。平成19年から道立農試、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成22年に北海道の優良品種に認定された。「リボルタ」はイタリア語で反乱の意味で、病気に打ち勝つ意味を込めている。

3.形態特性:地上部の形態は、直立形でやや小振りである。葉色は普通の品種よりも濃い“濃緑”である。根部の形態は、根周が中程度で、“円錐”に分類される。

4.収量特性(表7):「クローナ」と比較して、根重は102%とやや重く、根中糖分は99%とほぼ同等、糖量は100%と同等。製糖効率を低下させる有害性非糖分の割合である不純物価は低い。「リッカ」と比較して、根重は93%と軽く、根中糖分は同等で、糖量は93%と少ない。不純物価は低い。
 
5.耐病性等(表8):そう根病抵抗性は「リッカ」同様“強”。褐斑病、根腐病抵抗性は「クローナ」「リッカ」より強く“強”。黒根病抵抗性も「クローナ」「リッカ」より強く“やや強”。抽苔耐性は 「クローナ」「リッカ」より弱く“やや強”。以上のように4病害複合抵抗性である。
 
6.適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意として、抽苔抵抗性が“やや強”であるため他の品種より抽苔しやすく、早期播種や、過度の低温による馴化処理は避けることが挙げられる。また各種病害に抵抗性があるが、全く罹病しない訳ではないので、防除は必要である。

7.普及状況:平成23年での栽培面積は5,975haで、十勝地方が最も多く2,316ha、網走地方が1,966haで続いている。


(注)品種検定試験の際に検定を受ける品種と比較される従来の優良品種の種類
 標準品種:優良品種候補の比較対照の基準となる優良品種
 比較品種:優良品種候補の特性を明確にするための優良品種
 対照品種:優良品種候補が置き換わる対象となる優良品種

<主な参考文献>

1.佐藤三佳子、山田誠司、山崎敬之、田中静幸“テンサイ新品種「ゆきまる(KWS5R16)」の特性”北海道立農試集報.95,56-60(2011)

2.岡崎和之、高橋宙之、田口和憲、黒田洋輔、阿部英幸“高糖分なテンサイ新品種「北海98号」の特性とその利用について”てん菜研究会報.51,10-15(2010)

3.佐藤三佳子、山崎敬之、田中静幸“テンサイ新品種「パピリカ」の特性”北海道立農試集報.96,67-71(2012)

4.佐藤三佳子、山崎敬之、田中静幸、根津隆次、柏木浩二“テンサイ新品種「リボルタ」の特性”北海道立農試集報.96,59-65(2012)

5.北海道てん菜協会.“てん菜優良品種の解説”(2012)
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