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てん菜糖副産物の有効利用

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最終更新日:2013年3月11日

てん菜糖副産物の有効利用〜ライムケーキの特性と建材への活用〜

2013年3月

国立大学法人北見工業大学 マテリアル工学科 准教授 伊藤 英信
 


【要約】

 てん菜糖副産物であるライムケーキの物理化学的性質を詳細に調べた。乾燥ライムケーキは多孔性で比較的高い比表面積を有し、自律型調湿機能を有することがわかった。また、シックハウス症候群の原因物質の一つであるホルムアルデヒドの吸着能力も高い。ライムケーキを機能性建材として活用するため、一つの試みとして固化助剤として水酸化カルシウム、および貝殻粉末を加えて成型し、水蒸気−炭酸ガス雰囲気中で処理する方法を検討した結果、20MPa以上の圧縮強度をもつ固化体を得ることができた。

はじめに

 甜菜製糖工場から発生するライムケーキは、ホタテ貝殻とともに北海道オホーツク地域における代表的な産業廃棄物である。平成23年度には道内全体で年間16万5000トンほど排出されている。このうち農地還元などに15万トン程度が再利用され、約1万トン余りが埋め立て処分されている。その有効利用のためさまざまな再利用法が検討され、いくつか実践もされている。再利用に向けた検討の経過等については詳しい資料がHPで公開1)されているので参照されたい。

 本稿は糖蜜の中という特殊な環境下(純粋な水よりはるかに高濃度で石灰が溶解する)で形成される炭酸カルシウムの物性についての興味から始まった「ライムケーキの物理化学的性質の検討」結果と、「機能性建材作製の試み」について紹介する。

1.ライムケーキの特性と機能性

1.1 自律型調湿機能

 ライムケーキの主成分は石灰石やホタテ貝殻と同じ、比較的結晶性の高いカルサイト(注1)構造の炭酸カルシウムである。また、その性状はきわめて微細な粉末で、レーザー回折散乱法によって測定した粒度は概ね0.5〜60μmであり、分布(体積基準)の中間値は9.69μmであった。このことは乾燥ライムケーキを走査型電子顕微鏡で直接観察した結果(図1-a)ともよく一致する。しかし、さらに拡大して観察する(図1-b)と、それはさらに細かい超微粒子から構成されていることがわかる。

(注1)カルサイト:炭酸カルシウムの結晶形の一つ。この他にアラゴナイト、バテライトなどがある。
 
 一方、BET法(注2)で算出した粉末の比表面積(注3)は32m2/gであった。この値をもとに概算される一次粒子の粒径は69nm程度(1nmは10−9m)になる2)。この極めて細かい一次粒子の間隙は細孔を形成する。細孔径の分布を調べた結果(図2)、半径2nm付近に鋭いピークをもつ分布曲線が得られた。ライムケーキがメソポア領域(注4)の細孔をもつ多孔体であることを示している。この領域の細孔は自律型調湿機能を持つことが知られている。すなわち、高湿度の環境下では毛細管凝縮により水蒸気を大量に吸収し、低湿度環境になると再び水蒸気として放出する働きがある。快適な住環境の相対湿度40〜70%で毛細管凝縮が起こる細孔直径は3.2〜7.4nm(半径では1.6〜3.7nm)である3)ことを考えると、ライムケーキは自律型調湿材料として最適な細孔特性を有しているといえる。

(注2)BET法:粉体粒子表面に大きさの分かっている分子を吸着させて、その量から試料の比表面積を測定する方法。
(注3)比表面積:単位質量当たりの表面積。
(注4)メソポア領域:直径2〜50nmの領域。
 
 図3は造粒したライムケーキを相対湿度11.3%と84.3%の恒湿度容器に交互に24時間サイクルで放置した時の水蒸気吸収・放出挙動を示している。数回のサイクルを繰り返すとライムケーキ試料の水蒸気吸収・放出量は安定し、1.3mass%の水蒸気を再現性よく吸放出することがわかる。この実験で用いたライムケーキで畳1枚、厚さ8mmの内装用調湿建材を製造したとすると、その水蒸気吸収・放出量は

 180[cm]×90[cm]×0.8[cm]×1.66[密度g/cm3]×0.013[調湿係数]=280[g]

となり、およそ牛乳瓶1本以上の調湿能力を持つことになる。
 
1.2 シックハウス原因揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)の吸着特性

 ライムケーキは比較的比表面積が大きく、また主成分である炭酸カルシウムは塩基性であることから、酸性ガスの吸着剤として有効であると考えられる。そこで、シックハウス症候群の原因物質の一つとされるホルムアルデヒドの吸着能力を調べた。

 図4は乾燥空気で希釈した初期濃度5.5ppmのホルムアルデヒドガス5Lを28gの造粒ライムケーキに循環接触させたときのガスの濃度変化を示している。ガスの濃度は循環開始35分後には高感度検知管(測定下限は0.05ppm)に検出されない濃度にまで減少することがわかった。このときの循環ガス体積に対するライムケーキの量は6畳間の空間の天井部分に厚さ8mmのライムケーキ内装建材を施工した場合に相当する。ホルムアルデヒドの室内濃度指針は0.08ppm以下であることを考えるとライムケーキのホルムアルデヒド吸着除去能力は十分実用に耐えうるものであると評価できる。
 
 一方、ホルムアルデヒド吸着後、室温で真空排気処理(<10−3mmHg)したときに残存するホルムアルデヒドの吸着量を調べた結果、シリカゲルでは大部分(89%)の吸着ホルムアルデヒドが脱離してしまうのに対して、ライムケーキや珪藻土(市販品)ではそれぞれ35%、62%の脱離にとどまった。

 図5はホルムアルデヒド吸着後、一定速度(10℃/min)で昇温して、その脱離量を測定した結果である。ライムケーキに吸着したホルムアルデヒドは50℃付近から脱離し始め、106℃でピークに達した。一方、珪藻土に吸着したホルムアルデヒドの脱離ピークは128℃で、やや高い。このことは、ライムケーキのホルムアルデヒド吸着能力(吸着強度)は珪藻土よりも弱いが、室温程度の温度ではそれを放出しないことを示している。有害なホルムアルデヒドは新築時の建材や塗料から発生するとされているが、建物が耐用年数を越え、解体されるまでそれをしっかり吸着、固定することによってシックハウスを予防できると期待される。
 

2.建材への応用−ライムケーキ固化の試み−

 自律型調湿機能や優れたVOC吸着能を有するライムケーキは機能性内装建材への応用に期待できるが、主成分の炭酸カルシウムは高温で加熱すると分解するために、容易に固めることができない。そこで、気硬性(注5)を有し、古くから漆喰(しっくい)としてつかわれている水酸化カルシウムを固化促進の助材として添加し、炭酸ガスー水蒸気雰囲気で処理することによって実用に耐えうる強度をもつ固化材料の作製を試みた。その際、炭酸ガスや水蒸気がライムケーキ圧縮成形体の内部にまで容易に入り込むための気孔を形成するために貝殻粉末を加え、その効果も検討した。200メッシュ(注6)以下に粉砕したホタテ貝殻粉末添加量と固化体強度の関係を検討した結果(図略)、貝殻粉末を添加することによって固化体強度は明らかに向上し、貝殻粉末/ライムケーキ重量比が1のとき最大になることがわかった2)

 図6に水酸化カルシウム添加量に対する固化体(10mmφx10mm)の圧縮強度を示した(処理温度は300℃)。10mass%(注7)の添加によって強度は無添加の場合の3倍以上に増加することがわかる。添加した水酸化カルシウムは炭酸化によって体積が増加し(理論密度から計算した増加量は11.8%)、ライムケーキ成型体の隙間を埋めると同時に飽和水蒸気で濡れた表面が炭酸によって一部溶解〜再析出して、粒子同士の結合を促進したものと考えられる。一方、水蒸気‐炭酸ガス処理温度の圧縮強度に及ぼす影響を調べた結果(図略)、100℃まで下げても得られる固化体の強度は大きく影響を受けないが、400℃以上では強度は顕著に減少することがわかった2)。高温の処理で試料は灰色に着色することから、ライムケーキおよび貝殻粉末に含まれる有機物が熱分解し、不活性なコークが生成したためと思われる。

(注5)気硬性:水中では硬化せず空気中においてのみ完全に硬化する性質。
(注6)メッシュ:“ふるい”の目の大きさを表す単位。200メッシュは0.074mm。
(注7)mass%:重量パーセント。

3.おわりに

 乾燥ライムケーキは有機質の不純物を9%程度含み1)、特有の臭気がある。しかし、150℃程度で前述の固化処理を行った試料は臭気もなく、また湿度53%の恒湿度容器に1年間放置しても変色やカビなどの発生は認められなかった。

 「炭酸カルシウム」は素材としてごくありふれたものであるが、本稿で述べたように特殊なプロセスを経て形成されたライムケーキはいくつかの特徴的な性質をもつ。それらを活用した新しい再利用法が見出されることを願っている。

参考文献

1) 北海道循環資源利用促進協議会農業資材部会 ライムケーキ再生利用検討ワーキンググループ, “ライムケーキ有効利用検討報告書”, 平成16年4月. http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/jss/grp/07/limecake-houkokusho15.pdf

2) 伊藤, 外山, 畦田, 二俣, 高橋, 岸, ”ライムケーキの低温固化と調湿機能の評価”, 廃棄物学会論文誌, Vol.16, No.4, pp.280-286(2005).

3) S.Tomura, M.Maeda, K.Inukai, F.Ohashi, M.Suzuki, Y.Shibasaki and S.Suzuki: “Water Vapor Adsorption Property of Various Clays and Related Materials for Application to Humidity Self-Control Materials”, Clay Science, Vol.10, pp.195-203 (1997).

4) 特許第4001204号, ”建築物の内装材及びその製造方法”, 平成19年8月.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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