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サトウキビわい化病と健全種苗の重要性

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最終更新日:2013年5月10日

サトウキビわい化病と健全種苗の重要性

2013年5月

沖縄県農業研究センター 作物班 班長 出花 幸之介
沖縄県農業研究センター石垣支所 研究員 与那覇 至
 


【要約】

 サトウキビわい化病はわい化病菌が全身感染し、維管束の導管を閉塞することでサトウキビの収量が大幅に減少する重要病害である。その対策として種苗管理センターから健全種苗が配布されてきた。しかし依然としてサトウキビの栽培現場におけるわい化病の罹病率が高い可能性がある。その原因としてわい化病など種苗伝染性の病害に対する認識の不足や、健全種苗の配布体系の形骸化などが挙げられる。わい化病に罹病したサトウキビを外観から見分けることは困難であるので、種苗対策の効果を確認する上でも、定期的にわい化病のモニタリングをすることが望ましい。人為的な感染以外の自然感染はまれなので、原種圃や採種圃などにおいてカマなどの農機具を簡易に消毒するだけで、わい化病の健全種苗への感染を防止できる可能性があり今後の検討が必要である。

1.サトウキビわい化病と健全種苗

 サトウキビわい化病は、サトウキビわい化病菌Leifsonia xyli subsp. xyliを病原とし、経済的な被害の最も大きいサトウキビの重要病害である。主として罹病した種苗や、収穫・調苗作業中の刃物による人為的な汁液の接触によってわい化病が感染する。わい化病菌によりサトウキビの導管が閉塞され、水ストレスが引き起こされて症状が現れる(図1)。発病すると健全なものに比べ茎が少なく、細く短くなって収量が低下し、特に株出し栽培や干ばつ条件下で大きく減収すると言われている。
 
 サトウキビわい化病の外観からの診断はきわめて難しい。肉眼検定の目安として茎節の断面の維管束の褐変化が挙げられるが、正確な判定は困難である。 (図2)
 
 根本的なわい化病対策は抵抗性品種の育成であるが、多くの国や地域で、温湯や熱風によりサトウキビ種苗を無病化することが行われている。国内には1960年代に熱風処理装置が導入されたが、品種や種苗の条件によって殺菌効果や種苗の発芽が不安定になりやすいことが問題となった。そのため1965年に種苗管理センター鹿児島農場が、1978年に種苗管理センター沖縄農場が開設された。サトウキビ奨励品種については同農場で全て無菌化し、健全無病苗を増殖して原種圃や採種圃を通して農家へ配布されるようになり、現在に至っている。

2.わい化病に罹病した種苗と健全種苗との収量の比較

 わい化病による減収程度は品種により異なるとされている。国内では宮良らや橋口らによるNCo310についての1960年代〜70年代の報告がある。わい化病に罹病した種苗に比べて、健全種苗は10〜30%も増収し、株出しほど増収効果が高いと報告されている。しかし、その後多くの品種が育成されたが、これらの品種ではわい化病に罹病した種苗と健全種苗の収量に関する報告は無く、一般にわい化病の被害や健全種苗の重要性に関する認識が希薄になってしまった。関係者の注意を喚起するためにも、最近の品種を用いてわい化病による収量への影響を調べ、健全種苗の効果を確認することは重要である。そこでNi21とNiH25の春植え栽培と株出し栽培において、わい化病の種苗への感染が収量に及ぼす影響を調べた。(表1)

 NiH25の健全種苗は春植え栽培と株出し栽培の茎長、茎径、節数、一茎重などが、わい化病に罹病した種苗に比べて増加する傾向があり、一茎重と茎数の増加により収量が大幅に増加した。Ni21では両作型ともに処理区間の茎長や茎径、節数、一茎重の差は小さく特に春植え栽培では有意差は検出されなかった。しかし株出し栽培では健全種苗の茎数が増加し、その結果収量も有意に増加した。

 本試験の設計条件では作型と栽培年の効果が分離できないため、春植え栽培よりも株出し栽培でより多く減収するとは必ずしも言えない。しかしわい化病による減収程度は品種により異なり、また株出し栽培や土壌の乾燥、低温など環境条件が厳しいと大きく減収するといわれている。

 Ni21は接種試験の結果ではわい化病に罹病しやすく(与那覇ら2009)、NiH25も育種試験におけるわい化病の罹病率が高い品種である(牛尾2009、出花2013)。しかし罹病した場合の減収の程度はNiH25はNi21に比べてかなり大きい。NiH25のようにわい化病の罹病による減収率が比較的大きな品種では、健全種苗による大幅な増収が期待できる。この様にわい化病に罹病しやすく減収の程度も大きな品種では健全種苗がより重要であるので、種苗の管理をより厳密に行う必要がある。また近年では多くの品種が栽培されるようになったので、全ての品種で試験し、健全種苗の効果とわい化病の被害程度を確認する必要がある。
 

3.現在の栽培地域におけるサトウキビわい化病の罹病率

 1963年にサトウキビわい化病の調査が行われ、沖縄本島南部の罹病率が85.6%と非常に高いことが報告された(野原ら1965)。1966年の沖縄本島全域と先島地域の調査では平均54.0%の罹病率であったが(照屋ら1966)、1980年の石垣島の調査では43.0%であった(大津1981)。これらは、当時の主要品種NCo310の下部節の維管束の断面を肉眼検定した結果である。

 沼口ら(1988)は鹿児島県でサトウキビを栽培する6島について1982〜1983年に、維管束液の光学顕微鏡(600倍、位相差、闇視野装置)で病原菌の有無を判定した。その結果、6島におけるわい化病の罹病率の平均が39.7%であった。この中では種子島の罹病率が21.1%と最も低く、徳之島が55.3%と最も高かった。各島の過去5年間の新植面積に対する原原種由来苗の配布面積の比率(配布率)は種子島が168%と最も高く、徳之島が39%と最も低かった。健全種苗の配布率が高い島ほどわい化病の罹病率が低いと報告している。(表2)
 
 その後、一般圃場におけるわい化病のモニタリングはほとんど行われてこなかった。しかし、牛尾ら(2009)が沖縄県下の10工場に搬入されたトラック積み荷のコアサンプルを各社100個、全体で1000個についてPCR検定によるわい化病菌の実態調査を行った。その結果、全体の検出率が40%であり、高い工場では70%程度もある地域もあった。この調査法では圃場における罹病率が直接反映されないが、現在でも依然として沖縄県内全域のサトウキビ原料の多くがわい化病菌に罹病していることが疑われる結果である。今後は、定期的に農家圃場などのわい化病のモニタリングを行い、わい化病の被害を最小限に抑えるよう組織的、計画的な種苗対策を進める必要がある。

 依然としてわい化病の罹病率が高いかもしれない原因としては、健全種苗の配布体系の形骸化が疑われる。地域によっては生産組合や工場の農場などに原苗圃が設置され、健全種苗がきちんと増殖配布されているようであるが、地域によっては組織的・計画的な健全種苗の配布に問題がある可能性もある。

 優良種苗による更新がなされていないF177でわい化病の罹病率が高いとの報告がある(沼口ら1988)。また育種試験中の品種や系統のわい化病罹病率はかなり高い(牛尾ら2008、出花ら2013)が、かつて海外から導入された種苗がサトウキビわい化病に罹病していたためだと思われる。サトウキビ遺伝資源など育種試験中の膨大な品種や系統をすぐに全て健全化するのは大変困難である。当面は現状のように罹病している可能性のあるものを用いて試験を行い、その中で優秀性が認められた系統については奨励品種として普及する際に種苗管理センターで健全化された種苗を配布する次善の策を取らざるを得ない。

 しかし一部地域では試験中に増殖された種苗や導入品種が健全化されることなく、そのまま直接農家に出回るケースが散見された。このような場合、わい化病で汚染された種苗がそのまま普及することになる。地域におけるわい化病の拡大を防ぐためにも、種苗管理センター経由の正規のルート(鈴木2012)の種苗を用いることは重要である。

4.わい化病の人為感染を防止するだけで健全性を維持できる

 わい化病の感染のしやすさは品種によって大きく異なり、手刈りやハーベスタなどの収穫法や種苗の取り扱い方によっても感染頻度が異なる。抵抗性の品種では原料圃のハーベスタ収穫による多回株出しでもほとんど感染しない場合もあるが、罹病性の品種では隣接する株からオノやカマなどによる汁液感染が頻発するとされている。

 出花ら(2013)は宮古島で春植えと株出しにおけるわい化病の栽培試験を行った。健全区と罹病区が隣接し、春植え栽培と株出し栽培において数度の台風の影響を受けながら、互いの葉や茎がふれあう試験環境であった。しかしオノやカマなどを簡易に消毒し、人為的な汁液伝染を防止すると罹病区から健全区への感染は全く観察されなかった。

 種苗管理センターから出る原原種苗は全て健全であることが確認されている。しかし、原種圃や採種圃における防疫管理についてのマニュアルが無く、わい化病のモニタリングも行われていないので、原種圃や採種圃における感染が懸念される。種苗対策の効果を確認するためにも、原種圃〜原料圃におけるわい化病のモニタリングが必要である。

 オノやカマ、ハーベスタの刃の部分の消毒により感染を防止することができ、消毒薬としては中性クレゾール溶液、逆性石けん(塩化ベンザルコニウム、塩化ジデシルディメチルアンモニウム)など複数の低濃度の消毒法が報告され、海外では実用化されている。サトウキビ原種圃や採種圃の防疫管理を円滑に行えば、原種圃や採取圃の株出し栽培からの健全種苗の採苗が可能になるなど、健全種苗の配布体系をより効率化するためにも今後の検討が必要である。

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