砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > その他 > 健康な中高齢者へのスクロース負荷と血糖値の変化について

健康な中高齢者へのスクロース負荷と血糖値の変化について

印刷ページ

最終更新日:2013年10月10日

健康な中高齢者へのスクロース負荷と血糖値の変化について

2013年10月

昭和女子大学生活科学部 尾 哲也、小川 睦美、清水 史子、志賀 清悟
NPO法人食と健康プロジェクト 高田 明和

【要約】

 50〜70歳代の投薬などの治療を受けていない、健康な男性を被験者として、50グラムのグルコースもしくはスクロースを投与し、0〜120分の血糖値を測定した。同時にアンケート形式による食事摂取調査を行い、普段の推定エネルギー摂取量および体格を求めた。被験者のBMIは23.7±2.5kg/u、推定エネルギー摂取量は1996.5±259.8kcal/日と標準的であった。グルコースとスクロース摂取による血糖値の変化は、摂取15分後までは同等であったが、30分以降はスクロースが有意に低値を示し、スクロースはグルコースに比べて、血糖値上昇を抑制するとともに低下は速やかであり、低GIであることが示された。

はじめに

 砂糖は甘味を有し、食事や料理ばかりでなく嗜好品や飲料などにおいしさを与える。さらに保水性などの機能により、食品の性質を改良し、時には長期保存を可能にすることで多くの食品を生み出してきた。このように砂糖は生活に彩りを添える重要な食品原材料の一つである。しかし、他の食品原材料と異なり、少量で甘味付与などの効果を発揮し、それ自体は食品中に存在することが一目では分からないにも関わらず、食べた時や製造・調理での効果が大きいことも特徴である。甘味が少ない時代には珍重されたが、近年の飽食の時代にあっては消費量は減少しつつある。これは一般的な甘味離れと同時に、若年女性やメタボリックシンドロームを気にする中高年層が、太ることを気にしてスクロース摂取を避けることも一因であると言われている。2011年の砂糖の一人当りの年間消費量は、日本では17.7キログラムであり、米国33.1キログラム、EU38.2キログラム、韓国24.3キログラム、ブラジル69.7キログラムと諸外国に比べて少ない(SUGAR YEAR BOOK 2012)にも関わらず、肥満や糖尿病などの疾病の原因物質としてやり玉にあげられている。これは前記のような砂糖の特徴に加えて、色が白色であり、近年は天然物を好む日本人の感覚の中で、人工物や工業製品に近い印象を受けやすいためであるとも考えられる。

 本研究では、50〜70歳代の健康な男性に、スクロースとグルコースをそれぞれ50グラム摂取した際の血糖値の変化を経時的に測定した。スクロースやグルコースを人に投与して、血糖値の変化や、グリセミックインデックス(GI)を測定することは既に行われてきており、スクロースはグルコースに比べて、60〜70パーセント程度の変化を血糖値に与えることも報告されている。しかし、これらの報告は、20歳代の若年者を対象とした測定がほとんどであり、中高齢者を対象としたものは少ない。

 そこで、50〜70歳代の健康な男性を被験者として、食事摂取基準状態を含めた検討を行った。

1.方法

(1)被験者
 糖尿病などの疾病を有さない、また投薬などにより治療を受けていない、健康な50〜70歳代の男性を被験者とした。健康状態については、自己申告により確認を行った。なお、本研究は、昭和女子大学倫理委員会の承認を受けて行った。

(2)食事摂取調査
 被験者の食事摂取状態は、思い出しによるアンケート法により行った。FFQ(Food Frequency Questionnaire、食事摂取頻度調査票)は自分が食べた、あるいは家族で食べた食事を、過去1カ月間程度思い出してアンケート表に記入することで、記入者あるいは家族の食事摂取状態を把握する方法である。アンケート記入の時間は約30分程度必要である。この方法は、7日間の食事を使用した材料に分けて計量しながら、全て記入して食事摂取状態を把握する7日間記録法などに比べて、被験者の負担が少ない。得られた結果は7日間記録法と相関することが報告されている。ただし、どの方法にも共通することではあるが、過小や過大な申告による誤差などを防ぐことはできない。しかし、7日間記録法などのように、手間と時間を要する方法では、試験経過日数と共に、被験者の摂食量や種類が減少することも知られており、そのような意図的な摂食量の変化による影響は、思い出し法では少ない。

 今回利用したアンケートの一部を図1に、解析結果の一部を図2に示した。今回はFFQW65を利用して、推定摂取エネルギー量などを解析した。
 
(3)血糖値の測定
 被験者は、前日の21時以降絶食とした。空腹時血糖(0分)を測定後、被験者は水、グルコース溶液、スクロース溶液のいずれかを摂取した。ただし、被験者にはどの液が渡されているかは、事前に知らせていない。水を除き各溶液はおのおの50グラムのグルコースもしくはスクロースを含んでいる。また、溶液量は約300ミリリットルとし、2分以下程度の短時間で摂取した。摂取後、15分、30分、60分、90分、120分に血糖度計を用いて血糖値を測定した。ただし、装置間誤差を避けるため、血糖度計は各被験者専用として使用した。また、血液採取のための穿刺器具も各被験者専用とし、被験者間での相互汚染を防止した。

2.結果および考察

(1)被験者
 本研究では、23名の被験者が試験を行った。被験者のうち、50歳代は9名、60歳代は7名、70歳代は7名で、平均年齢は63.4±10.0歳であった。

 被験者のBMIは全被験者で23.7±2.5kg/u、50歳代の被験者で23.2±1.3kg/u、60歳代の被験者で25.1±1.3kg/u、70歳代の被験者で23.1±4.0kg/uであった。また、最大BMIは30.1kg/u、最小は18.9kg/uで、それぞれ70歳代の被験者であった。被験者のうち1名は肥満であり、60歳代は肥満傾向が認められたが、全体としては標準的な体格であった。

 被験者の推定エネルギー摂取量は、全被験者で1996.5±259.8kcal/日、50歳代で1864.4±152.1kcal/日、60歳代で2053.6±356.6kcal/日、70歳代で2109.1±211.6kcal/日であり、成人男性の軽度運動量のエネルギー摂取量である、2,000kcal/日にほぼ相当し、エネルギー摂取量は不足もしくは過多の状態ではなかった。また、50代から70代にむけてエネルギー摂取量が増大しているように見受けられたが、統計的に有意な差はなかった。

 被験者の空腹時血糖は、被験者全体で101.4±11.1mg/dl、50歳代で108.8±10.8mg/dl、60歳代で103.3±8.6mg/dl、70歳代で99.0±14.7mg/dlであり、平成22年国民健康・栄養調査の結果とほぼ同等であった。また、各年齢の血糖値の間に、統計的に有意な差は無かった。

 これらのことから、今回の被験者は、50〜70歳代中高齢者の標準的な被験者であると考えられた。

(2)血糖値の変化
 グルコースとスクロースを摂取した場合の血糖値の経時的変化の全被験者、および水摂取の平均値の結果を図3に示した。50歳以上の中高齢者では、血糖値の変化は個人差が大きかった。グルコースを摂取した場合、最大の血糖値を示したのは、226mg/dlで摂取後30分であった。これに対し、スクロースの摂取では、208mg/dlで30分後であった。

 水、グルコース、スクロースを摂取した場合の血糖値の変化の平均を図4に示した。空腹時血糖は全ての試料群で100mg/dl程度であり、水、グルコース、スクロースの間で有意な差は無かった。水を摂取した場合、0〜120分の間で大きな変動はなく、平均100mg/dl程度で推移した。グルコースでは、摂取後15分で153.7±20.3mg/dlとなり、摂取後90分まで上昇し、187.3±34.5mg/dlとなった。120分後では103.1±22.9mg/dlと摂取前とほぼ同等まで低下した。スクロースを摂取した被験者では、15分後にはグルコースと同様に146.6±16.6mg/dlまで上昇したが、その後は30分では163.0±26.5mg/dl、60分では140.9±19.7mg/dlとなり、グルコースに比べて有意に低い値を示した。さらに90分後には110.9±22.0mg/dlとなり、水を摂取した被験者と統計的な差は無くなった。以上のように、スクロースは50歳以上の中高齢者においても、同一エネルギー摂取量の場合、グルコースに比べて血糖値上昇を抑制し、血糖値の低下も速いことが示された。
 
 平均血糖値の変化から算出したグリセミックインデックス(GI)は、血糖値の変化と同様に49.5と低値を示し、全粒粉や白パン、白米、コーンフレークなどと比べ低い結果となった。また、ジェンキンスらの報告によるスクロースのGIである59に比べても低い値であった。栄養素の吸収効率は加齢により変化することが知られていることから、中高齢者のGIについては、再考する必要性を示しているとも考えられる。以上のようなことは、食品を製造する上で、同一摂取エネルギー量及び炭水化物量の場合、スクロースを添加して製品とすることは、甘味や保湿性を付与するばかりでなく、血糖の上昇が少なく、GIのコントロールに寄与するであろうことを示している。

 これとは別に、近年、高齢者や糖尿病患者では唾液分泌量が減少し、ドライマウス様の症状を呈する人が増加することも知られている。このような中で、甘味や旨味が唾液腺制御血管系の血流量を増加させたり、小唾液腺を含めた唾液分泌を促進することが明らかにされている。唾液分泌の刺激は酸味によるものも知られているが、ドライマウスなどにより口腔が乾燥している人には刺激が強すぎ不快感を与える。また、糖尿病患者では、食への、なかでも甘味への欲求が強くなることも知られている。

 これらのことは、食品を製造する際に摂取エネルギー量が同一であれば、スクロースにより積極的に甘味を付与することは、味の構成や食品の性質向上のみではなく、高齢者のQOL(Quality Of Life、生活の質)の向上に寄与できる可能性を示していると考えられる。

謝辞
 本研究にご協力頂きました、被験者の皆様に深く感謝致します。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713