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城久(ぐすく)集落受委託部会における集落営農の取り組み(鹿児島県喜界町)

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最終更新日:2013年11月11日

城久(ぐすく)集落受委託部会における集落営農の取り組み(鹿児島県喜界町)

2013年11月

鹿児島事務所 渡邊 陽介

【要約】

 高齢化が進行している鹿児島県大島郡喜界町において、高齢生産者の営農活動をサポートする組織として積極的に集落営農に取り組んでいる城久集落受委託部会に、その取り組みについて聞き取り調査を行った。同部会では、夏植え作業の受託を行っており、高齢生産者にもできるだけ作業に参加してもらい、労賃を支払うことで経済的負担を軽減できるよう取り組んでいる。

はじめに

 公益社団法人鹿児島県糖業振興協会では、毎年度、さとうきびの生産振興のため、増産や生産性向上などにおいて地域の模範となる取り組みを実践している営農組織および生産性向上において優秀な成績を収めている生産者を表彰するとともに、その成果を広く紹介し普及することを目的に、「さとうきび生産改善共励会」を開催している。平成24年度の同共励会の団体の部において、当機構理事長賞を受賞した「城久集落受委託部会」は、集落内の小規模生産者と高齢生産者を担い手生産者がサポートする組織として、機械化による採苗や植え付け作業の受委託の斡旋を行い、さとうきび生産量の確保・拡大に向け、集落営農に取り組んでいる。このたび同部会の役員へ聞き取り調査を行ったので、その取り組みについて紹介する。

1.喜界島の概要

 喜界島は、鹿児島県奄美大島の東に位置する周囲48.6キロメートル、総面積約57平方キロメートル、人口約7,600人の島であり、島内全土が喜界町である。さとうきびを中心に、ゴマ、肉用牛、キクなどの農業が盛んで、総面積の約4割にあたる2,250ヘクタール※1が耕地となっている。なかでも、さとうきびは、1,798ヘクタール※1と全耕地面積の8割を占め、喜界町の農業産出額の約7割※1となっており、喜界町の経済を支える重要な役割を担っている。

 近年、喜界町では、生産者の高齢化がかなり進行しており、全さとうきび生産者664戸のうち60歳以上の生産者が391戸(約70%)※2を占める(図2)。この対策として、集落単位で農作業を共同して行う集落営農や、担い手といわれる次世代の若手生産者の育成の充実などが喫緊の課題として挙げられている。

  ※1:平成24年度奄美群島の概況「島別市町村別農業生産実績」
  ※2:喜界町産業振興課調べ
 

2.城久集落受委託部会について

(1)城久集落の概要

 城久集落は、喜界町のほぼ中央南西部、島の中でも高台に位置しており、平成25年8月現在で、47戸92人が居住する集落である。そのうち19戸がさとうきび生産者であるが、60歳以上の生産者が14戸を占めるなど高齢化が進行している(図3)。

 平成24年産さとうきびの収穫面積は約45ヘクタールであり、その内訳は図4のとおりであるが、夏植えが13ヘクタールと春植えのおよそ2倍にあたる面積を占め、夏植えによる植え付けが盛んに行われている地域である。
 

(2)設立の経緯

 喜界町での集落営農を推進するため、平成22年7月に地域の区長や担い手となりうる生産者を対象とした「集落ぐるみ営農塾」が喜界町で開催され、農村を取り巻く現状と課題、集落営農の必要性についての講演や集落営農の事例紹介などが行われた。同年10月、県や町などの関係機関から城久集落に対して集落営農化の提案があり、城久集落がモデル地区に選出された。

 モデル地区に選ばれた理由の第一は、もともと集落のまとまりが強かったことが挙げられる。さとうきびの集落営農活動の以前から、集落をあげて農業集落排水事業の活用や公園の設置などに取り組んだ実績があった。これらの経験により、集落で合意形成を行うための素地があり、集落営農に向けた検討を円滑に進めることができた。

 第二に、集落内の担い手にさまざまな立場の方が存在したことも挙げられる。町議会議員の生駒弘氏、JAあまみ喜界事業本部長の源久幸一氏(現同事業本部専務理事)、元喜界町役場総務課長の嶺義久氏が中心になり、同氏らに専業農家の習実敏氏、井上敏郎氏、登次雄氏を加えた6名により集落営農に向けた検討を深め、それぞれが役員に就任することで同部会の設立の素地が整った。併せて、集落営農の内容や受託料金などについて、同集落の担い手生産者と関係機関が一体となって検討を進め、集落全体の了承を得て、平成23年7月、集落内の生産者19戸を構成員として、城久集落受委託部会が設立された。

 集落営農の内容については、“できるところから集落営農に”をキーワードに検討した結果、設立から当面の間は、夏植え作業を行うこととした。

 作業内容の検討段階では、収穫作業と春植え作業の受委託についても検討したが、収穫作業と春植え作業の時期が重なる上に、春先は天候が不安定なことが多く、作業計画を立てることが難しいため、これらの作業の受託は当面行わないこととした。
 

(3)取り組み内容

 城久集落受委託部会は、高齢生産者にとって重労働となる夏場の採苗、調苗、定植に関する受託作業を行っている。採苗とは、苗となるさとうきびを刈り取る作業であり、調苗とは、刈り取った苗から良質な苗を選別する作業である。

 採苗は、集落内の生産組合や個人が所有するハーベスタ(収穫機)3台を使用して、部会内の決められた作業者が行っている。ハーベスタによる採苗は、全茎のさとうきびを機械的に切断してしまうため、苗の芽を傷めやすいが、同部会では、作業時間を短縮する方がより効率的であると判断し、ハーベスタによる採苗を行っているという。

 調苗は、苗の良し悪しを人の目で判断するため、機械化はできず、人手を必要とする作業である。このため、「自分でできる作業は自分で行おう」と呼び掛け、可能な限り高齢生産者にも調苗作業に参加してもらうよう取り組んでいる。調苗作業に参加した構成員には、労賃が支給され、取り組みに応じた受託料金の減額が可能であり、構成員の生産意欲向上にも繋がっている。

 定植は、プランター(植え付け機)により行われている。ハーベスタで採苗を行うため、苗の芽が痛みやすく発芽率が悪くなる傾向があるが、苗を二本ずつ植え付けて、欠株を減少させる工夫をしている。苗を二本ずつ植え付けるため、通常の植え付け方法よりも苗を多く必要とするが、機械化することで、手刈りで採苗する場合に比べ、採苗作業にかかる負担を軽減し、作業時間を短縮していることで、適期に集落内の全ほ場を一斉に植え付けができるという点がメリットである。

 取り組みを始めた当初は、担い手生産者も他作物や他産業に従事していることから、人員の確保に苦労したというが、平成24年産では集落内の全生産者が作業に参加し、1週間程度で植え付け作業をすべて完了することができている。

 また、平成25年3月には補助事業を活用して、ブームスプレイヤー(防除機)を担い手生産者5戸で共同導入し、平成25年産からは防除作業の受託を始めており、集落営農組織としての役割を一層高めたところである。
 
 作業の受託料金について具体的にみると、夏植え作業を採苗から定植まで一貫して委託した場合、10アール当たり3万8000円と設定されている。これは喜界町内の一般的な夏植え作業の受託料金より2,000円安く設定されている。さらに、構成員が調苗作業に参加することで、時給800円の労賃が支払われるため、労賃に応じ金銭的な負担を軽減している。また、苗を構成員本人の畑から採苗する場合には、苗代分を受託料金から差し引くことが可能であり、作業をすべて同部会に依頼した場合、10アール当たり2万円の受託料金と設定されている。平成24年産では、集落内のすべての構成員が自ら作業に取り組み、受託料金の軽減を達成している。同部会の担い手生産者の集落の手助けをするという強い思いが、集落ぐるみでの営農活動に結び付いているといえよう。

(4)今後の展望と課題

 同部会としては、今後、作業面積を拡大したい意向であるという。平成23年産および24年産の夏植え作業面積はいずれも297アールであり、構成員の評判も良好であった。そこで、平成25年産は、作業面積の拡大を目指し、373アールの作業を実施したところである。また、今年からは、新たに導入したブームスプレイヤーを活用して、防除作業についても、要望があれば積極的に取り組んでいく意向である。作業面積の拡大と併せ、高齢生産者の負担額の軽減が検討されており、高齢生産者が行う作業を確保することを第一に考え、労賃を支給することで、実質負担額の軽減をより一層図っていきたいと考えている。

 今後取り組むべき課題として、農業機械の修理代の負担をどこに求めるかという問題がある。現在、個人で所有するハーベスタにかかるメンテナンス代や修理代については、所有者個人が負担している。今後、所有者の負担軽減のため、会員からの一部徴収や部会からの補助についても検討したいとしている。

 また、同部会で作業を請け負っている担い手生産者も60歳前後となっており、将来を見据えて、次世代の若い担い手生産者の育成も今後の課題であるとのことである。

おわりに

 生産者の高齢化は、喜界町に限らず、さとうきび生産の各地で進行しており、今後、ますます深刻になる問題である。高齢化の進行は、離農による生産者や耕地面積の減少を招き、さとうきびの生産性や経済性の低下が懸念されるところである。そのような中、高齢者の作業負担を軽減すべく、集落ぐるみで協力して農業に取り組んでいる城久集落について本稿により紹介した。今後、高齢生産者が安心して農業に従事でき、担い手と呼ばれる次世代の生産者を育成する場として、集落営農の取り組みが広がっていくことを期待したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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