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畑作生産者と製糖事業者が一体となって取り組むてん菜生産

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最終更新日:2013年12月10日

畑作生産者と製糖事業者が一体となって取り組むてん菜生産

2013年12月

札幌事務所 所長 寺西 徹能
調査情報部 前田 絵梨

【要約】

 北海道の主要な畑作地帯である十勝に、地域の畑作生産者と北海道糖業株式会社による出資で設立された有限会社南十勝興農がある。南十勝興農は、耕作地を所有していない。出資者でもある畑作生産者にてん菜生産に係る作業を委託し、南十勝興農が借り受けた酪農家の草地や離農地で、てん菜生産を行っている。設立以来、南十勝興農のてん菜作付面積は拡大を続け、地域のてん菜生産の維持・拡大を担う農業生産法人の一つとなっている。

はじめに

 北海道の畑作地域では、小麦、豆類、てん菜、ばれいしょによる輪作作付けが中心である。「輪作作物」であるこれら4作物は、北海道の畑作にとって欠くことができない作物である。十勝と網走は北海道の畑作2大産地であり、十勝は4作物、網走は3作物で輪作が行われている。過去5年の4作物の作付面積の推移を見ると、小麦および豆類は緩やかではあるものの増加傾向で推移しており、ばれいしょも平成24年産は前年水準を上回ったものの、てん菜のみ減少が続いている(図1)。

 厳しい寒さに見舞われる北海道にとって、冷害にも強いてん菜は、収入の確保という面で重要な作物である。しかしながら、他の輪作作物と比べると、労力がかかること、生産コストが高いことに加え、天候不良による減産や近年の温暖化による低糖分などにより、作付意欲の低下が続いている。
図1

1.北海道のてん菜生産の概要

 北海道のてん菜作付面積は減少傾向で推移しており、平成24年産の作付面積は5万9300ヘクタールとなった。作付面積の維持・拡大のため、関係者により、低糖分対策や施肥技術向上に関する研究が行われている他、生産に係る作業受委託の推進や機械の改良などによる省力化、生産コストの低減などが図られている。

 このような中、地域の畑作生産者と共に製糖事業者が農業生産法人を設立してん菜生産を行ったり、製糖事業者の子会社が、新たにてん菜生産に乗り出す動きもある。本稿では、畑作生産者が製糖事業者と共にてん菜生産に取り組む事例を紹介したい。

2.有限会社南十勝興農の設立

 北海道の畑作中心地である十勝は、道内一のてん菜作付面積を誇る。しかしながら、北海道のてん菜作付面積同様、十勝の作付面積も減少傾向にある(図2)。生産技術の向上により単収が増加したものの、作付面積の減少に伴い、てん菜生産量も減少傾向となっている。てん菜作付面積の維持・拡大は、輪作体系の維持や地域経済を守る上で、十勝でも重要な課題になっている。
図2
 この地に、地域の畑作生産者と製糖事業者である北海道糖業株式会社(以下「北海道糖業」という。)が一体となり、農業生産法人を設立し、てん菜生産に取り組んでいる事例がある。平成13年に生産者と北海道糖業による出資で設立された、有限会社南十勝興農(以下「南十勝興農」という。)である(図3)。
図3
 南十勝興農のベースとなっているのは、生産者の集まりである。南十勝興農設立前から、何名かの畑作生産者が集まり、離農地や耕作放棄地を中心に土地を借り受け、てん菜の生産および共同出荷をしていた。一方、北海道糖業(本別製糖所)は、広尾郡大樹町や広尾町などから原料を受け入れているが、てん菜の作付面積が減少していく中、原料であるてん菜の安定確保のためには、生産者との連携が必須であり、地域に根差した農業生産法人を設立することが重要だと考えていた。そこで、てん菜生産のノウハウを有する生産者の集まりに、経営のノウハウを有する北海道糖業が加わる形で農業生産法人を設立し、てん菜生産の基盤固めをすることとなった。

3.南十勝興農の概要

 北海道広尾郡大樹町に事務所を構える南十勝興農は、平成13年3月に設立された。現在の出資金は、地域の生産者など7名が9割、北海道糖業が1割を負担している。南十勝興農は、てん菜生産を中心に、てん菜生産に係る作業の受託も行っている。設立以降、生産規模は拡大傾向にあり、設立当初の平成13年産のてん菜作付面積は90ヘクタールであったが、平成25年産は3倍近くまで増加し、242ヘクタールとなっている(図4)。
図4、写真1

(1)てん菜生産のための農地の確保

 南十勝興農は広尾郡大樹町および広尾町で生産を行っているが、耕作地は所有していない。全て借地を利用し生産している。土地の所有者は、酪農家や離農者、畑作生産者であり、面積ベースでみると、おおよそ、酪農家が6〜7割、離農者が3割、畑作生産者が1割となっている。

 土地の貸借は、各町の農業委員会を通じて行っている。標準小作料制度廃止に伴い、『農地法等の一部を改正する法律(平成21年法律第57号)』が施行されてからは、農地賃借料が自由に設定できるようになった。大樹町および広尾町の農業委員会では、農地賃借料を決定する際の判断材料として、過去の農地賃借料情報を公開しており、南十勝興農も、これを参考に農地賃借料を設定している。

 土地を借り受ける期間は、短期の場合と長期の場合がある。短期の場合は、1)酪農家から、草地更新のタイミング 2)畑作生産者から、輪作体系の中でてん菜を作付けるタイミング−で1〜2年間借り受け、長期の場合は、離農者などから5〜10年間借り受けるというパターンがある(図5)。なお、平成25年については、酪農家(18戸)、離農者(13戸)、畑作農家(3戸)の計34戸から土地を借り受けている。
 図5
ア.酪農家の草地を借り受ける場合
(図5 (1)ア 所有者が酪農家の場合)

 酪農が盛んで、てん菜の産地である北海道では、草地更新の際にてん菜を作付けることがある。

 一般的に、牧草の収量は、草地更新後、2年目、3年目と増加するが、その後徐々に低下していくことから、収量低下の対策として草地更新が推奨されている。草地更新には、草地を全面反転耕起し、施肥・播種する完全更新と 、全面反転耕起せず、草地の表層部分を撹拌するなどして施肥・播種を行う簡易更新の2通りの方法がある。完全更新は、雑草などの全植生を完全に抑制することから推奨されるものの、工期が長く、費用も掛かることから、簡易更新が選ばれるケースが多い。しかし、簡易更新では、更新時の土壌の物理性、化学性の改善がわずかであるため、更新後の草地の維持管理が大切とされている。

 草地更新時のてん菜の作付けは、完全更新に代わるものである。草地の土壌栄養分や土壌物性は、てん菜を生産するには十分ではないことから、まず、除草剤を散布し、酪農家から提供される堆肥を撒いて耕起する。加えて、ライムケーキや石灰などを利用し、土壌pHや土壌成分を調整した後、てん菜を作付ける。

 酪農家にとっては、南十勝興農にてん菜の生産を依頼することにより、自身で草地を簡易更新することと比較して、1)草地更新の費用や労働(除草、耕起作業)をかけずに、草地の完全更新ができる 2)土壌環境が改善された状態で牧草を生産できる 3)堆肥を処理できる−などのメリットがある。もちろん、南十勝興農にとっても、1)作付面積を確保できる 2)無償で堆肥を利用できる−というメリットがある。また、てん菜を作付けたことのない土地で生産すると、てん菜の品質・収量が良いという。

 この様に酪農家にとっては、南十勝興農にてん菜の作付けを依頼することの利点が大きいことから、面積ベースでみても酪農家が6〜7割と最も多くを占めているのだと考えられる。
写真2,3
イ 畑作生産者の畑を借り受ける場合
(図5(1)イ 所有者が畑作生産者の場合)

 てん菜生産は、他の輪作作物とは異なり、播種・育苗に関する労力が発生し、播種(3月)から収穫(11月)までの期間も長いことから、1年を通して生産作業に従事することになる。また、移植作業は重労働であるため、生産者の高齢化や規模拡大による労働力不足などから、他の輪作作物と比べると作付面積を減らされる傾向がある。

 このため、てん菜の作付けを南十勝興農が代行することにより、上記課題が解消され、土壌を最良の状態に保つための輪作体系が維持できることは、畑作経営にとって利点が大きい。

ウ 土地を長期間借り受ける場合(図5(2))
 高齢化や後継者不足により離農した酪農家や畑作生産者から、10年間という長期で土地を借り受ける場合もある。ただし、長期間借り受けたとしても、てん菜を連作することはできない。このため南十勝興農は、輪作作物として、酪農家からの需要が高いデントコーンも生産している。借り受けた土地では、1)デントコーン 2)てん菜 3)他の畑作物―を輪作することになる。しかしながら、南十勝興農は、てん菜およびデントコーンに特化し生産を行っているため、他の畑作物については、別の畑作生産者に生産を依頼し、その代わりに、その生産者の農地でてん菜を生産している。得意分野の作物の生産を担当するという、双方にとってメリットのある形で生産が行われている。

(2)てん菜生産

 てん菜生産は、主に、南十勝興農の従業員1名と、南十勝興農から作業委託を受けた者(以下「受託者」という。)3名の、計4名で行われている(図6)。なお、受託者3名は、いずれも、南十勝興農の出資者である。この様に、南十勝興農のてん菜生産は、現在も、設立前に行われていた畑作生産者による生産・共同出荷体制が基盤となっている。

 南十勝興農は、受託者と毎年契約を取り交わし、育苗から収穫まで、てん菜生産に係る作業を委託している。なお、南十勝興農もトラクタなどの作業機械を所有しているが、多くの作業は、受託者所有の機械により行われる。南十勝興農は、農協の作業料金・機械料金を参考に、作業ごとに作業料金を定め、作業内容・作業面積に応じた委託料を支払っている。

 なお、農薬散布や施肥などの作業を委託する場合は、南十勝興農が農薬、肥料を一括購入し、受託者に提供している。

 南十勝興農の平成25年産の作付けは、約8割が移植、約2割が直播によるものである。移植のための苗については、南十勝興農が、大樹町の播種プラントで生産される播種済みのペーパーポットを購入し、受託者に提供している。

 また、前述の3名の受託者の他に、1)てん菜の移植作業のみ 2)デントコーンの播種とてん菜の直播作業のみ―など、必要に応じ、一部の作業を他の生産者に委託している(図6)。

 作付けに向けて耕起を始める4月ごろから、定植(移植・直播作業)が終わる5月ごろまでは、耕起、施肥、移植、直播と作業が立て込み、計19台のトラクタが稼働する一年で最も忙しいシーズンだという。
図6
写真4

(3)てん菜の種苗販売とてん菜生産に係る作業の受託

 南十勝興農では、自社生産分の他、育苗した苗の販売も行っている。なお、苗の販売については、育苗の手間を省くためなど、一般生産者からの注文に対応したものであり、販売用としては注文を受けた冊数()のみ育苗する。

 また、南十勝興農は、てん菜生産に係る作業の受託もしている(図6)。高齢化などで最も重労働である移植作業を地域のコントラクター組織などに頼る畑作生産者は少なくなく、受託作業の中心は、移植作業と除草剤散布作業となっている。

(注)冊数
 ペーパーポットの単位

4.南十勝興農の今後の展望

 設立当初、南十勝興農の取り組みは、周辺の酪農家や畑作生産者には知られておらず、主に借り受けていたのは、生産性が低いため作付けが行われなくなった土地だったという。設立から10年余り経過し、南十勝興農に対する周囲の認知度も上がってきた。土地を所有している酪農家からは、「南十勝興農がてん菜を生産した後の草地では、良質な牧草ができる」と言われることも多くなり、口コミにより、酪農家から草地更新の際にてん菜の作付けを依頼されることも増えてきたという。また、近隣の農協からも、てん菜の作付けを希望している酪農家を紹介されるようになった。草地の状態が良くなり、質の良い牧草が生産されることは、結果、乳質の向上や濃厚飼料の低減につながるのだという。農業委員会をはじめ各関係者の協力と、積み重ねてきた地道な生産活動が、ここ数年の作付面積拡大につながったのではないかとのことである。輪作体系におけるてん菜生産の維持に加え、草地更新や離農地での作付けによるてん菜生産の拡大は、酪農家などのニーズに溶け込んでおり、地域に根付いた活動といえよう。

 図7は、平成24年産の大樹町および広尾町のてん菜作付面積の内訳である。南十勝興農の作付面積は、両町の作付面積の34パーセントを占めており、受託面積(移植作業)は8パーセントとなっている(図7)。このことから、南十勝興農が、てん菜生産の維持・拡大を担う農業生産法人の一つになっていることが推察される。

 今後、離農地が増えていくことが予想されるため、作業人員を確保することができれば、生産を拡大する意向があるとのことである。
図7

5.北海道糖業の動き

 現在、北海道糖業は、南十勝興農を含め4つの農業生産法人の設立に携わり、てん菜生産のサポートを行っている(図8)。
図8
 北海道糖業のてん菜生産への参入のベースにあるのは、地域の取り組みだという。いずれの法人においても、地域のてん菜生産に携わる形で参入している。

 4農業生産法人のてん菜生産実績を見ると、10年余りで3倍以上増加している。これは、てん菜の作付面積が減少する中、安定的な原料確保のために、製糖事業者にできることを模索し、元々生産者が主体的に行っていたてん菜生産の取り組みに、製糖事業者のもつ経営ノウハウを提供することで、生産基盤を固めることができると考えた北海道糖業のビジョンが地域のニーズに合った取り組みだったことがうかがえる。

 なお、北海道糖業では、今後も、北見地区などを拠点とした農業生産法人の設立を検討しているという。

おわりに

 生産者の収益確保のためにも、てん菜を組み込んだ輪作体系の維持は重要である。また、製糖事業者にとっても、安定的な原料確保が課題となっている。

 今回の取材を通して、てん菜生産の維持・拡大のためには、生産技術の向上や省力化・生産の低コスト化の他にも、さまざまなアプローチが可能であることがわかった。本稿で取り上げた、酪農家を巻き込むなど地域の特色を生かした取り組みの他にも、てん菜生産に係る作業受託を行う運送業者が、新たに農業生産法人を設立し、てん菜生産に参入するなど、各地でさまざまな取り組みが産まれている。この様な地域に合った取り組みが各地で行われるとともに、てん菜生産現場の労力不足の解消が図られ、安定的なてん菜生産につながることを期待したい。

 最後に、取材に対し、お忙しい中ご協力いただいた有限会社南十勝興農ならびに北海道糖業株式会社の皆さまに深く感謝いたします。

参考文献
全国飼料増産協議会「草地更新のすゝめ」
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713