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苫前町てん菜生産組合における省力化・低コスト化への取り組み

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最終更新日:2014年8月11日

苫前町てん菜生産組合における省力化・低コスト化への取り組み

2014年8月

札幌事務所 所長補佐 坂上 大樹
調査情報部         前田 絵梨

【要約】

 平成25年7月、北海道苫前郡苫前町に、町内の全てのてん菜生産者を構成員とする「苫前町てん菜生産組合」が設立された。同生産組合は、平成26年産のてん菜生産から、苗の生産や移植を共同で行っている。生産者は、共通して抱える課題を解決する手段として共同化を選択し、共同作業による省力化のみならず、資材の一括購入などによる低コスト化を実現している。

はじめに

 てん菜は、収入の安定的な確保という面で優れているだけでなく、土壌病害汚染の拡散防止や土壌物理性の改善など、輪作体系を維持する上でも重要な作物である。しかし、他の輪作作物と比べると、作業の労力がかかること、生産コストが高いことに加え、天候不良や近年の温暖化による病害虫の発生などで減産傾向が続き、生産者の作付意欲の低下をまねいている。

 広大な面積を有する北海道は、地域によって気象条件や土地条件などが大きく異なることから、地域ごとに特色のある農業が営まれている。てん菜が輪作体系に組み込まれているのは全道共通だが、生産を取り巻く環境は地域によって異なっている。大規模畑作経営が主体となっている十勝・オホーツク地域では、畑作物(てん菜、ばれいしょ、小麦、豆類)中心に輪作体系がとられているのに対し、苫前(とままえ)郡苫前町では、輪作体系の中に蔬菜類が積極的に導入され、また、稲作と併せた複合経営が行われている。

 苫前町の主な農畜産物の販売額を見ると、米、蔬菜類、生乳がそれぞれ同程度、畑作物(麦類、豆類・雑穀、てん菜)がそれに次ぐ規模となっている(注)

(注)平成21年の主要な農畜産物の販売額(苫前町HPより)。
米   7億1040万円
蔬菜類 6億9566万7000円
生乳  6億5231万3000円
畑作物 2億5771万1000円
    (麦類      3521万4000円
     豆類・雑穀 1億8592万3000円
     てん菜     3657万4000円)
 
 苫前町においても、てん菜は、輪作体系を維持する上で重要な作物であるが、作業労力の面で負担が大きいことに加え、より収益性の高い豆類が輪作作物として選択されることが増えているため、てん菜作付面積は減少傾向で推移している。

 同町は、毎年5メートルを超える降雪量を記録し、雪の多い北海道の中でも特に降雪・積雪が多い地域として、特別豪雪地帯に指定されている。また、日本海から吹き付ける風は、平均風速毎秒7メートルを超えることがあるほど、風が強い地域である。このため、育苗ハウスを建てたままにしておくと、雪の重みで倒壊したり、強風で育苗ハウスごと飛ばされたりする危険があることから、育苗ハウスは毎年解体し、春先には骨組みから建て直すことが必要な地域となっている。

 同町の直近10年間(平成16〜25年産)のてん菜作付面積を見ると、平成18年産の69ヘクタールをピークに減少傾向で推移しており、24・25年産は48ヘクタール台まで落ち込んだ(図2)。また、てん菜生産者数(注)は、16年産の19戸から25年産は6戸まで減少した(図3)。しかし、26年産の作付面積は20年産以来となる60ヘクタール台に回復し、生産者数も8戸に増加した。

 この背景には、「苫前町てん菜生産組合」(以下「生産組合」という)の設立がある。本稿では、生産組合の設立経緯やてん菜生産に関する取り組みを紹介する。

(注)本稿では、北海道てん菜協会「てん菜糖業年鑑」、北海道農政部生産振興局農産振興課の公表データ「栽培農家戸数」を「生産者数」とした。
 

1. 生産組合の設立

 生産組合は、平成25年7月に設立した新しい組織である。まずは、設立一周年を迎える生産組合の生い立ちを紹介する。

 JA苫前町は、農畜産物ごとに生産部会を設置している。てん菜部会(以下「部会」という)は、年に数回会合をもち、てん菜生産に関するさまざまな事柄について意見交換を行っている。

 平成25年3月の会合では、生産者の一人から、「今後も生産を続けたいが、毎年の育苗ハウスの建て直しは重労働で、いつまで続けられるか心配である」との意見が寄せられた。

 苫前町は、風が強く、降雪・積雪が多いため、毎年、育苗ハウスを建て直すことが必要な地域である。一人の生産者の発言をきかっけに、他の生産者からも同様の声が上がり、育苗ハウスの建て直しは、多くの生産者にとって大きな負担となっており、共通の悩みであったことが分かった。これを機に、部会では、現状の改善を目指し、検討を重ねることになった。

 議論を重ねる中で、次第に、一人一人ができることを考えて実行するのではなく、部会全体で連携して取り組む機運が高まっていった。そして、共通の課題の解決策として「共同で利用できる常設の育苗ハウスを設置すること」が提案された。また、「個別に行っていた作業を共同で行うこと」などの計画がまとまり、平成25年7月に生産組合が設立され、設立翌年の26年産から生産活動を開始した。

2. 生産組合におけるてん菜生産

(1)生産組合の概要
 生産組合は、苫前町内のてん菜生産者全員(個人7、農業生産法人1)と、過去にてん菜を生産していた農業者1戸の計9戸(部会の全構成員)で構成されている。8戸のてん菜生産者はいずれも、畑作の他、かぼちゃなどを中心とした蔬菜類の生産や稲作の複合経営を行っている。

 同町では、製糖工場への搬入の都合上、部会によって、数名のグループごとに収穫日が決められており、これに基づき収穫作業が行われている。このため、生産組合として共同で取り組むのは、収穫を除く作業および種子や肥料などの資材の購入としている。
 
(2)育苗ハウスと機械の導入
 生産組合が使用する育苗ハウスや機械については、JA苫前町からの協力を得たり、国の支援を利用するなどした。

 まず、育苗ハウスについては、JA苫前町が整備した育苗ハウスを、生産組合が借り受けて使用することになった。なお、それだけでは、全ての生産者の苗を賄うことはできないため、生産組合の構成員である農業生産法人が、育苗ハウスを生産組合に貸与している。

 また、共同で作業を行うための機械についても、JA苫前町が導入した全自動移植機およびトラクターを、生産組合が借り受けて使用することになった。

 この他、生産組合は、スプレーヤや耕うん機(プラウ、ロータリー)などの機械について、国の「大豆・麦等生産体制緊急整備事業」などを活用してリースにより導入した。
 
(3)作業の共同化
 生産組合として共同で行う作業は、主に、育苗ハウス周辺の除雪、育苗用の土づくり、は種、移植ほ場の耕起や整地、移植であり、基本的に8名の構成員で行われる。生産組合は作業日誌を設けており、生産者は、作業の開始・終了時刻、作業内容、作業面積などを記していく。

 は種に向けて、まず育苗ハウス周辺の除雪作業およびハウス内の整備を行う。その後、ペーパーポット用の土づくりとは種を並行して行う。なお、は種後の育苗(苗の管理など)は、構成員である農業生産法人が、労働力を確保できるため、生産組合からの依頼を受けて行うことになった。

 設立後1年目の26年産の移植については、開始前に、ほ場の耕起や整地を行うプラウ、ロータリーのオペレータ、移植機のオペレータ、苗取り担当、プランター担当とそれぞれ担当を決めた。基本的に、作業は生産組合の組合長などが中心となって指揮するが、細かな作業上の取り決めは無く、担当の自己判断で進めることとした。なお、移植は、熟練したオペレータの判断に基づき、作業適期にあるほ場から順に行われた。

 26年産の移植については、天候に恵まれたこともあるが、作業の共同化で作業効率が向上したことにより、移植に要した日数は平年より1週間程度短縮できた。
 
(4)利用料金の徴収と賃料などの支払い
 生産組合は、機械の賃料などの経費を生産者からの利用料で賄っており、組合費は徴収していない。

 具体的には、育苗ハウスの利用料は作付面積に応じて、機械の利用料は利用実績に応じて生産者から徴収し、これを原資に、育苗ハウスや機械の賃料・リース料や、作業料を支払う。なお、作業料は、作業日誌に記載された作業実績に基づき生産者に支払われる(図4)。

 生産組合が導入した育苗ハウスや機械の多くは、生産者が先に資金を手当てする必要がない賃貸借で導入したものである。生産組合の設立が円滑かつ円満に進み、設立と同時に生産活動を始めることができた背景の1つに、少ない初期投資で、従来に比べ格段に省力化できる方法を選択した点が挙げられる。
 
(5)資材などの一括購入
 生産組合では、育苗ハウスの共同利用や作業の共同化の他、コストの低減を図るため、肥料などの資材の一括購入を行うことにした。生産者は、育苗用の土づくりなど共同で使用するものについては、作付面積に応じて、また、個別に使用するものについては、使用量に応じて費用を支払う。

 また、苗については、生産組合が種子を一括して製糖工場から購入して育苗し、生産者は、作付けする分の苗を生産組合から購入する仕組みである(図5)。なお、実際の育苗は、生産組合から依頼を受けた農業生産法人が行っており、生産組合は、受け取った苗代を原資に、育苗代を農業生産法人に支払う。
 

3. 生産組合の活動による省力化と低コスト化の実現

 生産組合の活動は、共同作業による省力化、肥料など資材の一括購入による低コスト化などさまざまな利点を生み出している。

(1)共同作業による省力化
 作業を共同で行うことの最大の利点は、労力の軽減であるという。常設の育苗ハウスを整備したことにより育苗ハウスの建て直しが不要になったことはもちろん、共同で作業を行うことから、これまで夫婦2名で行っていた作業は、どちらか一方が生産組合に出役するという形で従事するだけでよくなり、かなり省力化が図られることとなった。

 春先(3〜4月)は、てん菜生産にかかる作業の他にも、稲苗づくりや春小麦の畑づくりなどさまざまな農作業が立て込む時期でもある。生産組合の共同作業により、他の農作業にかかる労力を確保することが可能になり、他の農作物の作業適期を逃すリスクが小さくなるなど、農業経営全体の所得や生産性の向上が期待できるという。

(2)機械の共同利用による作業効率の向上
 資金面や作業面などから生産者個人では導入が難しい機械を、生産組合として導入することにより、作業効率を向上することができた。

 その一つが、大型の全自動移植機である。共同で作業を行うことに加え、より作業能力が高い機械を導入し、共同利用することで、個別の作業では1日当たり2ヘクタール程度しか移植できなかったが、その5倍、10ヘクタールまで移植することができるようになった。さらに、移植に従事する日数は、生産者ごとに見ると半分程度まで縮小することができるなど、作業効率が飛躍的に向上した。

(3)資材の一括購入などによる低コスト化
 肥料などの資材については、生産組合が一括して購入することで、個々に調達するよりも安価になった。

 価格を抑えることができたのは、2つの理由が考えられる。「生産組合が大量に購入するため資材メーカーとの価格交渉力が高まったこと」「配送料が大幅に節減されたこと」である。これまでは、生産者ごとに小袋で配送していたため、配送ごとに配送料がかかっていたが、生産組合の育苗ハウス一カ所に一括して配送することになった。さらに、大口需要者へのサービスとして、資材メーカーによる土壌診断を無償で受けることもできるようになった。

 また、苗については、共同で確保することで、予備苗の育苗本数を減らすことができ、育苗にかかるコストを低減することができるようになった。

(4)てん菜生産現場の変化
 冒頭で紹介したように、26年産の苫前町のてん菜作付面積は20年産以来となる60ヘクタール台に回復し、生産者数も増加に転じた。このことからも明らかなように、てん菜生産現場には変化が表れつつある。

 例えば、生産組合の設立により、かつてのてん菜生産者やてん菜を生産したことがない畑作生産者、酪農家がてん菜生産に興味を示すようになったという。また、育苗などの負担が大きいことからやむを得ず直播を行っていた生産者が、生産組合として共同で作業を行うのならば負担も軽減されるとして、移植に転向するという動きもあった。

4. 作業の共同化が成功した要因

 生産組合で作業の共同化が成功したのには、いくつかの要因が考えられる。

 最も大きな要因は、生産者が共通して抱える課題を解決する手段として共同化を選択した点である。課題の解決が目的であったため、早い段階で、育苗ハウスの共同利用と共同利用するための生産組合の設立について、全ての生産者の賛同を得ることができた。

 また、もともとてん菜生産者が結束していたという点も挙げられる。全ての生産者が部会の構成員であり、互いによく知った間柄であったため、利用料・作業料・出役の頻度の決定や、消耗品などの資材の持ち寄りについて、同意を得やすい素地があった。

 作業分担の方法も、円滑に作業を行うことができた要因の一つである。作業にかかる前に、作業分担については担当を決めておくが、作業そのものは、担当者の裁量に委ねるなど柔軟に対応できる形で行われている。

 他の地域で作業の共同化が進まない要因の一つに、他人に作業を任せることへの不安がある。JA苫前町担当者によると、24年産については、苫前町が産糖量ベースで全道一であったという。つまり、生産者それぞれの技術水準が高く、どの生産者が作業を行ってもお互いに不満が生じないことも共同化が成功した要因の一つだと言える。

5. 生産組合の課題と今後の展望

 26年産の作業は、生産組合設立後、初めての取り組みであったため、共同で行う作業量の把握が難しく、作業に従事する時間や育苗ハウスに出入りする頻度が増えてしまったという。しかし、これは共同作業に慣れることで、解消できるものと考えられる。

 生産組合としては、まず、現在の作業体系を軌道にのせ、いずれは共同作業を移植後の中間管理(防除など)にも広げていきたいと考えている。

 今後は、遊休地の利用、畑作生産者によるてん菜生産への参入、酪農家の更新時の草地への作付けなどにより、作付面積を拡大していきたいと考えている。さらに2棟の育苗ハウスを新たに導入し、58ヘクタールに相当する育苗を賄えるようにする計画を立てている。共同化によって春先の労働負担の軽減が証明できたことから、てん菜の生産者が増えることを期待しており、将来的には、70ヘクタール分の育苗を行えるようにする予定である。
 

おわりに

 JA苫前町の生産部会の中で、全ての生産者による作業の共同化はてん菜が初めてである。数人が集団化し共同で作業を行う事例はあるものの、町内の全てのてん菜生産者が共同で作業を行うのは、全道でも初めての事例かもしれない。

 組合長は、「他の地域でのてん菜生産共同化の動きにつながることを期待したい」とし、「せっかく生産組合を設立したのだから、朝から晩まで従事するのではなく、生産効率をさらに向上させ、生産者の労力を軽減していきたい」と展望を語った。今後の生産組合の取り組みが注目される。

 農業生産の現場では、生産者の高齢化などから人手不足に悩まされているケースも多い中、本稿で紹介した生産組合の立ち上げによる作業の共同化の取り組みは、さまざまな生産現場の参考になるのではないだろうか。

 最後に、取材に対し、お忙しい中ご協力いただいた苫前町てん菜生産組合ならびにJA苫前町の皆さまに深く感謝いたします。

参考文献
小松知未、座間冨美彦、松原勇太、三宅真人 (2010.1)「留萌地域・苫前町における地域類型別の農業構造と地域課題」北海道大学
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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