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〜第38回(平成25/26年期)沖縄県さとうきび競作会 農家の部第1位 山内武光さん〜

高単収を実現するさとうきび栽培技術
〜第38回(平成25/26年期)沖縄県さとうきび競作会 農家の部第1位 山内武光さん〜

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最終更新日:2014年11月10日

高単収を実現するさとうきび栽培技術
〜第38回(平成25/26年期)沖縄県さとうきび競作会 農家の部第1位 山内武光さん〜

2014年11月

那覇事務所 伴 加奈子、石丸 雄一郎

【要約】

 公益社団法人沖縄県糖業振興協会主催の「第38回(平成25/26年期)沖縄県さとうきび競作会」において、農家の部第1位となり農林水産大臣賞を受賞した中頭郡読谷村の山内武光さんは、植え付け前の土づくりや夏場の生育旺盛期におけるかん水作業など、きめ細かい栽培管理により、不作であった平成25/26年期においても高単収を実現している。

はじめに

 近年、沖縄本島地域のさとうきび収穫面積は、高齢化などの影響で年々減少傾向にあり、限られた面積で生産量を確保するため、さらなる単収の向上が求められている(図1)。
 
 しかし、平成25/26年期の沖縄県のさとうきび生産は、夏期の長期にわたる干ばつで多くの地域で生育旺盛期の生長が抑制されたことなどにより、平年(7中5平均)と比べ、生産量(分みつ糖)で12.5%下回る63万1000トン、平均単収で10.5%下回る10アール当たり5.4トンとなった(図2)。
 
 このような中、中頭郡読谷村の山内武光さんは、春植えで単収10アール当たり14.3トン(糖度15.1度)と、県平均の同4.2トンと比べ高単収をあげ、「第38回(平成25/26年期)沖縄県さとうきび競作会(注)」(主催:公益社団法人沖縄県糖業振興協会)において農家の部第1位となり、農林水産大臣賞を受賞した。本稿では山内さんのさとうきび栽培について、単収向上に向けた取り組みを中心に紹介する。

(注)公益社団法人沖縄県糖業振興協会は毎年度、生産技術および経営改善において創意工夫し、高単収、高品質な生産をあげたさとうきび農家を表彰することにより、生産者の生産意欲を喚起して沖縄県の糖業発展につなげることを目的として、「沖縄県さとうきび競作会」を開催している。農家の部は、各地区(北部、中部、南部、宮古、八重山)での調査により推薦された農家において、対象ほ場の刈り取り調査を行い、甘蔗糖重量に、さとうきび作型別生産実績から7中5平均値を元に算出された作型補正係数を用いて、夏植えに対する春植え、株出しの補正を行い、10アール当たり収量の優劣を決定する。

1. 読谷村の概況

 読谷村は、沖縄本島中部の西海岸に位置し、東シナ海に突き出た半島状の形状をなしている(図3)。面積は3517ヘクタール、総人口は4万人強で、平成26年1月1日に日本一人口の多い村となった。
 

 読谷村はもともと水源の乏しい地域であったが、160万トンの容量を持つ沖縄本島最大の農業用ダム「県営長浜ダム」が平成6年に完成し、農業用水の利用環境が大きく改善された。同ダムはさとうきびへの利用はもとより、読谷村の銘柄として定着しているかんしょ(紅いも)やメロン、小菊の産地形成に大きく貢献している。

 耕地面積は793ヘクタールで、作付(栽培)面積はさとうきびが最も多く、次いでかんしょや小菊、メロン、パパイヤなどが上位を占めている。農業産出額でみると、平成4年にさとうきびを抜いて小菊が1位となるなど花きが約5割のシェアを占め、次いで畜産、さとうきびを含む工芸農作物、いも類の順となっている(図4)。農業経営体数(販売目的)は239戸で、そのうちさとうきびを含む工芸農作物が168戸を占めている。
 

2. 山内さんの経営概要

 山内さんのほ場は読谷村北部の宇座地区に位置する。同地区の土壌は島尻マージ(注)で、海岸近くは塩害などの影響を受けることはあるものの、かんがい設備が整っており、農業に適した地区である。また、意欲的な農家も多く、村内でもさとうきび栽培が盛んである。

 山内さんは4.7ヘクタールの農地を借り受け、さとうきび2.6ヘクタール、かんしょ(紅いも) 2.1ヘクタールを栽培している(平成25年)。平成25/26年期さとうきび生産量は120.7トン、収穫面積は1.3ヘクタール、単収は10アール当たり9.4トン(全作型平均)と、地域平均よりも高い収量となっている(図5)。

(注)沖縄県各地に広く分布し、母岩は石灰岩で、土層が一般的に浅く、腐植が少なく、水はけが良い。
 
 
 山内さんはもともと県外で畜産業を営んでいたが、平成18年に沖縄県に戻り、2年間、宜野座村堆肥センターで、発酵堆肥の商品化などに携わった後、専業農家として本格的にさとうきび、かんしょの栽培を始めた。

 農業で生計を立てるのは難しいという周囲の声もあったというが、山内さんは「どうしたら農業で生計を立てることができるか」という考えのもと、さとうきびとかんしょの複合経営を行うことにしたという。読谷村には、紅いも菓子などに使用するかんしょのペースト工場があったことから、他の地域よりも輸送コスト面で有利であると考え、かんしょ栽培を決意した。さらに、かんしょの連作障害を防ぐため、輪作作物としてさとうきびを選択した。さとうきびとかんしょは管理作業で使用する機械に共通するものが多く、効率的であると考えたことも理由の一つであった。

 輪作体系については、さとうきび(春植えまたは夏植え)→さとうきび(株出し1回)→かんしょ(2年)と、約2年ごとに交互に作付けしている。このため、さとうきびの作型割合は年によって大きく異なるが、平成25/26年期については、栽培面積で春植え30%、新植夏植え50%、株出し20%の割合とのことである。

 さとうきび栽培に関しては、山内さんと2年前に沖縄に戻った弟さんが中心に行い、収穫作業やかんしょの管理作業などについては奥さんも一緒に作業を行っている。作業機械については、生産規模に応じて投資をしていくという考えのもと、35馬力の中古のトラクターから始まり、生産量の拡大に応じてローダー(堆肥の積み込みなどに使用)、耕運機、動力噴霧器、搬出機などを自己資金で調達した。収穫作業は手刈りで行っているが、今後は収穫面積の拡大に対応するため、ハーベスタの利用を検討しているとのことである。
 

3. さとうきびの単収向上に向けた取り組み

 ここからは、山内さんのさとうきび栽培について、単収向上に向けた取り組みを中心に紹介していきたい。

(1)土づくり・整地
〜堆肥の施用・深耕〜

 沖縄県農林水産部が作成している「さとうきび栽培指針」(平成26年3月発行)によると、さとうきびほ場への堆肥の施用量は夏植えで10アール当たり4.5トン、春植えで同3.0トンと示されている。一方、山内さんは新植の際に同約10トンと、2倍以上の堆肥を施用している。山内さんはご自身で堆肥を作っているため、多くの堆肥を施用することが可能である。前述のとおり堆肥センターで発酵堆肥の商品化に携わった経験を生かし、さとうきびの葉柄、製糖工場から出るフィルターケーキなどを原料とし、空いた時間に切り返しなどを行い発酵させている。堆肥は植え付け前に、ローダーを用いて畑の数カ所に下ろした後に散布し、その後プラウを用いて50〜60センチメートルの深さまで天地返しを行う。堆肥施用のタイミングは、さとうきびの新植時の一度のみで、株出し・かんしょの植え付け前には行っていないが、それでも土壌窒素分が高く、さとうきび収穫後にかんしょを栽培した場合には、かんしょにつるぼけ(つるや葉ばかりが繁茂し、いもが肥大しないこと)などの影響が出ることがあるため、今後は施用量を少しずつ減らしていくことも検討している。

(2)調苗・植え付け
〜発芽率を上げる〜

 種苗は農林8号、25号、27号を中心として自家採苗を行っている。調苗には特に気を配っており、8号については徳之島からメリクローン苗を購入し、株分けして利用している。メリクローン苗は、ウイルスなどに罹病していない茎頂の生長点を無菌的に培養・増殖し、育苗したものである。従来の種苗よりも高価であるものの、かんしょでのメリクローン苗の栽培経験から、徳之島でさとうきびのメリクローン苗が生産されていることを知り、すぐに購入を決めたとのことで、実際に分げつ力が旺盛で、生育も良好とのことである。

 苗は1本ずつ押切で調苗し、芽の状態が良いものだけを選抜した後、1〜2晩浸水して畦幅120センチメートルで植え付けている。発芽不良を苗数や補植によりカバーするのではなく、調苗・植え付けを丁寧に行うことにより発芽率を上げることを心掛けている。これにより補植の手間が省けることから、忙しい時でもここだけは手を抜かずに作業しているとのことである。

(3)中耕・培土
〜適期管理で分げつを促進〜

 管理作業では植え付け後、中耕・平均培土・高培土を実施している。中耕により畦間の除草を行い、平均培土時に除草剤を散布し、株間の除草を行っている。平均培土は早い時期に行った場合、覆土により分げつが抑制されることから、分げつを促すために培土のタイミングが早くならないよう心掛けている。なお、病害虫防除に関しては、防除期間にメイチュウ類、ガイダーの防除を行うほか、メイチュウ類に関しては発生した都度農薬を散布している。

(4)かん水
〜かんがい施設を生かし、適期かん水を実施〜

 沖縄県においては、6〜9月のさとうきび生育旺盛期に干ばつとなる年が多いことから、この時期に十分な土壌水分を確保することが収量を左右する大きな要因となる。前述のとおり、読谷村は、長浜ダムを水源としてかんがい施設の整備が進み、現在の受益面積は耕地面積の5割に及んでいる。山内さんもほ場面積の約8割強にスプリンクラーを備え、平成25年夏期の干ばつ時にも長浜ダムは枯渇することがなく、晴天が続いた際に、7〜10日おきに10アール当たり10トン以上のかん水を行うことができた。上記のきめ細かい栽培管理に加え、整備されたかんがい施設を生かしたこまめな散水を行ったことが、高単収を実現できた要因であったと言えるだろう。また、山内さんのほ場は沿岸地域に位置するため台風通過後の塩害によるダメージを受けやすいが、スプリンクラーによる散水で早期の回復も可能となる。

(5)作業の工夫
〜事前の段取りを大切に〜

 さとうきびに加え、かんしょの栽培、堆肥の生産など作業は多岐にわたっている。多くの作業をどのように管理しているのか伺ったところ、「前日に翌日の作業の段取りを考え、作業の合間に、堆肥の切り返しを行うなどできる限り歩く距離を少なく、無駄な作業をしないように計画している」とのことである。事前の段取りを大事にすることが、山内さんの経営全体の生産性の向上につながっているのだと感じた。

(6)情報収集
〜情報は自ら検証する〜

 栽培に関する情報については、講習会・実演会などで得た知識を自ら検証し、納得して実践することを大切にしている。栽植密度は一般的に手刈り収穫であれば、畦幅120センチメートルが目安とされているが、山内さんはかつて100センチメートルで栽培を試みたことがある。結果としては1本茎重が軽く120センチメートルの方が単収は高くなり、「栽植密度が高すぎると肥料を入れても収量は上がらない」と実感したそうだ。現在もかんしょの栽植密度を5センチメートルごとに変えて生育試験をしている。山内さんは、一般的な栽培指針について把握しながらも、作物は品種・土地によって異なる反応を見せることがあるので、それぞれの条件に合った栽培方法を、自分で確かめることが重要だと考えている。

おわりに

 競作会において高単収が評価されたことについて山内さんは、「特に競作会を目標としているわけではなく、日常的な管理をしっかり行うことが重要である」と語った。山内さんの経営では基本的な栽培管理をしっかりと行うことに加え、堆肥センターでの勤務経験、かんしょ栽培で得た知識などをさとうきび栽培にも柔軟に取り入れて、単収向上に向けた工夫がなされていた。また、過去のかんしょブランド品種の再生・復活にも取り組むなど、ご自身だけでなく、地域全体の栽培技術・意欲の向上にも努めている。栽培技術などについて他の生産者から問われることも多く、取材中にも、電話がかかってくるたびに丁寧にアドバイスする姿が印象的であった。本稿で紹介した山内さんのさとうきび栽培技術が、単収向上に取り組まれるさとうきび生産者の皆さまの参考となれば幸いである。

 最後に、本取材に当たりご協力いただいた山内さんをはじめ、関係機関の皆さまに心より厚くお礼申し上げます。

参考資料
沖縄県農林水産部「さとうきびおよび甘しゃ糖生産実績」
沖縄県農林水産部「さとうきび栽培指針」
農林水産省統計情報「わがマチ・わがムラ」
読谷村ホームページ(2014/9/25)
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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