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地域の特色を生かした甘味資源作物生産の効率化

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最終更新日:2014年12月10日

地域の特色を生かした甘味資源作物生産の効率化

2014年12月

札幌事務所 鹿児島事務所 那覇事務所

はじめに

 わが国における甘味資源作物の生産状況を見ると、てん菜については、一戸当たりの作付面積の拡大が進む一方で、他の輪作作物に比べ労力がかかるなどの事情から、作付面積は減少傾向にある(図1)。作付面積減少への対応としては、作業の共同化や外部化による生産の効率化が有効であり、北海道では古くから大型機械の共同利用などを目的とした組織が設立され、作業の共同化が進められている。
 
 一方、さとうきびは、一戸当たりの作付面積は微増傾向にあるものの、収穫面積1ha未満の生産者が生産者全体の約7割を占めており、依然として生産構造は脆弱である(図2)。農業従事者の高齢化や担い手不足が深刻化する中、ハーベスタの導入や、作業受託組織や担い手の育成などにより、効率的な生産体制を確立する必要がある。
 
 このような中、生産現場では地域の実情を踏まえ、甘味資源作物生産の効率化に向けて特色ある取り組みが展開されている。本稿では、北海道、鹿児島県、沖縄県の各地域における甘味資源作物生産の効率化に向けた取り組みを紹介する。

T. 作業の共同化や生産性向上対策により生産を効率化
〜オホーツク網走第20営農集団利用組合〜

1. オホーツク地域の概況

 北海道の北東部に位置するオホーツク地域は、オホーツク海と280kmの海岸線で接しており、総面積は1万690uと全道面積の12.8%を占めている(図3)。

 気候は、冬の寒さは厳しいものの、年間の降水量は800mm前後と少なく、日照時間に恵まれている。このような条件の下、全道の14.4%を占める耕地では、生産量が道内の過半数を占めるたまねぎや、てん菜、ばれいしょ、麦類など、畑作を中心とした大規模な土地利用型農業が展開されている。
 

2. オホーツク網走第20営農集団利用組合の概要

(1) 組織化の経緯
 今年で50周年を迎えるオホーツク網走第20営農集団利用組合(以下「組合」という)は、昭和39年、国の第一次農業構造改善事業の指定を機にトラクターなどの大型機械の共同利用と農作業の共同作業を行うことを目的として10戸の生産者により、設立された。その後合理的な輪作体系と労力配分を考慮した機械化栽培体系の確立を実現し、今日に至っている。
 

(2) 機械の共同利用および共同作業
 トラクターなどの農業機械は、組合が所有し(表1)、機械による播種、移植、収穫などの作業は、料金制のシステムを導入している。

 苗床の管理、ほ場への移植、防除、収穫などの作業については、それぞれ組合員2人程度が専任となり共同で行っている。専任制を採用するのは、栽培技術や農業機械の操作技術に精通することができること、新型の農業機械を導入した場合でも機械に合わせた適切な栽培体系へスムーズに移行できることなど、作業効率が良いためである。

 てん菜の各作業は、適期に行うことが収量の増減に影響する。このため、組合員に対する作業の順番は、公平を期するため、育苗作業の前に定例会を開催して決定しており、移植から防除、収穫に至るまで、その順番を変えないこととしている。

 また、肥料や防除の薬剤などの生産資材は、コスト削減のため、組合で一括購入している。
 

(3)経営概況
 設立当初は、畑作3品(ばれいしょ、麦、てん菜)の輪作を行っていたが、共同作業により労働時間が削減されたことに加え、畑作3品だけでは経営が必ずしも安定しないと判断したことにより、平成元年から本格的に野菜を導入した。品目としては、既存の3品目の作業状況を考慮し、だいこんが選択された。平成26年現在、18名(9戸)の組合員が4年輪作体系(ばれいしょ→麦→だいこん→てん菜)により、農業経営を行っている(表2)。組合では、 1)輪作のローテーションを厳守すること、 2)堆肥や後作緑肥をほ場へ投入し地力維持に努めること、 3)ほ場の防除に努めること、を念頭に置いているという。その結果、単収は、いずれの作物も安定的な実績となっている(表3)。また、オホーツク網走農業協同組合管内の各品目の平均単収を上回っている状況にある。
 

3. 生産性向上に関する取り組み

 組合は、機械の共同利用や共同作業の他にも、生産性の向上に努めている。

(1) ほ場の地力向上
 組合は、ほ場の地力向上についても設立当初から力を注いでいる。この地域の土壌は火山灰性土や泥炭土で肥沃ではなく、地力の向上が長年の課題となっていた。

 このために、麦類の後作に緑肥としてエン麦を作付けし、10a当たり2トン程度を10月までにすきこむこととしている。また、近隣のでん粉工場から発生する副産物(でん粉製造水)の全量をほ場に還元し、地力の向上を図るとともに化学肥料の使用量を減少させ、コスト削減を図っている。

 なお、北海道施肥ガイド2010<平成22年3月改訂>によると、作付体系上の制約からやむを得ず低pHになっているほ場については、pHを作付け時に基準の下限値(pH5.5)以上に矯正することが原則となっているが、でん粉製造水を散布したほ場のpHは6.4と、初期生育障害の回避を可能とする数値となっている。
 

(2)栽植密度(狭畦栽培)
 てん菜は、一般的に、栽植密度が高いと、1個当たりのてん菜重量は軽くなるが、根中糖分は増加する。栽植密度が低いと、てん菜重量は重くなるが根中糖分は低下すると言われている。

 また、同じ栽植密度であっても畦幅が広過ぎると糖分は増加せず、正方形型に植えることが収量・糖分の観点から望ましいと言われている。このため、組合は、一般的な畦幅より11cm程度狭い、55cmの狭畦栽培を長年行っており、他の作物についてもてん菜と同じ畦幅とし、効率的な生産を行っている。

 組合の生産実績は過去3年間、根中糖分、10a当たり産糖量とも、オホーツク網走農業協同組合の平均を上回っている(表4)。
 
 

おわりに

 現在、組合は任意組織として活動しているところである。将来的には農業法人化も視野に入れているが、法人化により所得が法人として計上されるため、組合員の生産意欲が下がることが懸念される。このため、まずは、組合員の収量向上を優先することとしている。

 組合は、畑作4品(ばれいしょ、麦、だいこん、てん菜)の生産の維持・拡大を図るため、大型機械の共同利用や共同作業のほか、緑肥やでん粉の副産物を活用した資源循環型農業を実践するとともに、狭畦栽培も採り入れるなど生産性の向上に取り組んでいる。

 近年、高齢化で離農する生産者が増加している中で、農業生産法人や今回調査した組合のような組織はこれまで以上に増加すると考えられ、組合の取り組みは、道内はもとより、共同化を目指す関係者の参考になると思われる。

(札幌事務所 石井 稔、坂上 大樹)

U. 親子3人でハーベスタを駆使してさとうきび収穫作業の受託を効率化
〜鹿児島県徳之島 西阿木名さとうきび生産組合〜

1. 徳之島の概況

 鹿児島県本土から南に約400kmの海上に連なる奄美群島。その中の一つである徳之島は、周囲約85kmの島で、徳之島町、天城町、伊仙町の3町からなる(図4)。島北部から中央部にかかる山岳地帯の裾野には畑地が広がっており、さとうきび生産を中心とした農業が盛んに行われている。また、ばれいしょ、かぼちゃなどの野菜やマンゴーといった耕種作物と和牛繁殖などとの複合経営が多く見られる。平成24年には、鹿児島県よりばれいしょの「かごしまブランド産地」の指定を受けた。

 徳之島は、さとうきびが栽培されている鹿児島県の島々の中で最大のさとうきび栽培面積を有しており、平成25年産の収穫面積は3201ha、生産者数は3145戸となっている。収穫量は14万3682トンで、10a当たり収量4.5トンの実績であった。
 

2. 徳之島におけるさとうきび生産の概要

 徳之島では近年、営農集団がハーベスタを用いてさとうきびを収穫する作業受委託体制の整備が進んでいる(注1)。表5は鹿児島県内のさとうきび産地におけるハーベスタの稼働状況を示したものであり、徳之島は導入台数が県内で最も多く、収穫面積に占めるハーベスタ収穫面積(収穫率)は94%で、県内で最も高い数値となっている。
 

 また、平成23年には、ハーベスタ収穫作業の請負を核として、地域の農家が安心してさとうきび栽培を継続できる環境づくりを目的として、島内の若手生産者が「徳之島さとうきび新ジャンプ会」(以下「新ジャンプ会」という)を組織した。島内のハーベスタ受託組合は、通常40〜60代の生産者が主な構成員であるが、新ジャンプ会の構成員の平均年齢は38歳と若く、ハーベスタ1台当たりの平均収穫量も、新ジャンプ会以外の受託組合と比較して約1.7倍になっている(注2)。平成25年産では、新ジャンプ会の構成員によるハーベスタ請負作業量は、製糖工場(南西糖業梶jへの搬入量の約3割を占めるに至っているという。

(注1)神代英昭(2013)「徳之島のサトウキビ生産における作業受委託の現状」『砂糖類・でん粉情報』(2013年6月号)参照。
(注2)年齢層および平均収穫量については、南西糖業樺イべ。

3. 西阿木名さとうきび生産組合の取り組み

(1)設立の経緯
 島内西部に位置する天城町の南端、伊仙町との町境にある西阿木名集落在住の仲公男さん(58歳)は、新ジャンプ会の構成員である長男の洋志郎さん(30歳)と次男の真太郎さん(28歳)とともに20haのほ場でさとうきび生産に取り組んでいる。同集落はさとうきびを中心に畜産やばれいしょとの複合経営が多い地域であるが、仲さんの経営でも、さとうきび生産のほか、2haのばれいしょ栽培や繁殖雌牛約10頭規模の和牛繁殖などを行っている。
 

 公男さんは進学のために島外に出ていたが、成人後に徳之島へ帰郷。建設機械関係の会社に勤めながら父親のさとうきび生産を手伝い、平成元年からは父親の経営を継ぐ形で専業農家となった。前職の経験で重機などの扱いに慣れていた公男さんは、農業用機械の導入に積極的で、平成11年からリース契約によるハーベスタ利用を開始し、平成13年には「西阿木名さとうきび生産組合」を設立し、国、鹿児島県、天城町補助のさとうきび省力化推進対策事業を活用してハーベスタ1台を導入した。

 この生産組合設立の背景には、集落内生産者の高齢化があった。同集落では、島内の他地域と同様、従来から集落内の生産者がさとうきび生産に係る各種作業を共同で行う結い体制が敷かれていたが、高齢化により作業の担い手が減少し、結い体制の維持が困難な状況となっていた。そこで、公男さんは受託組合による作業受委託によって集落内のさとうきび生産を先導するため、同組合を立ち上げ、ハーベスタによる収穫から管理作業までを一体的に受託できる体制を整備した。その後、集落内に別の受託組合が誕生し、現在は2つの受託組合によって集落内の作業受託が行われている。生産者と組合との受委託関係は、血縁関係や昔からの付き合いといった人間関係に基づく部分もあり、生産者も農地によって委託先を分けるなどしていることから、2組合の住み分けはうまくできていると公男さんは言う。

(2)組合の活動の概要
 同組合は、現在、公男さん親子3人と雇用者1人の計4人で、主に2台のハーベスタで収穫と管理作業を受託している。

 作業受託面積は約60ha規模で推移しており、西阿木名集落外の農地も含まれる(表6)。同組合へ作業委託している生産者は年間30〜40人で、組合設立時から継続して作業委託している者がほとんど。うち3戸は、高齢化によって収穫と管理作業のすべてを委託している。
 

(3)作業効率化の秘訣
 生産者は、自身の農地への愛着が強く、また農地を貸すよりも管理を委託する方が高い収入を得られるなどの理由から、農地の貸借よりも作業委託を選択しがちだという。そのため、島内で活動する受託組合の中には、受託面積のみが増加し、そこに優先的に労働力を割かざるを得ないために自作地の作業が後回しになったり、手が回らなくなったりするという問題が発生しているところもある。しかし、同組合の場合、ハーベスタ複数台の稼働体制である上に、後継者である息子2人もハーベスタ作業に従事することが可能なことから、労働力の配分に融通が利きやすい。JAなどの出荷スケジュールから割り当てられる数量に応じたハーベスタの稼働調整、あるいは繁殖雌牛の管理や2〜3月期のばれいしょ収穫などのさとうきび以外の農作業スケジュールに応じて、効率的な労働力配分が実現できている。

 同組合は、集落全体のさとうきび増産に向けた活動も積極的に行っている。欠株の補植講習会はその一例で、手間のかかりがちな補植作業の効率的な実施方法について、委託生産者などを含めたメンバーで学習する機会を設けた。天城町糖業振興会が実施する展示ほの設置などにも協力し、その結果を集落内の農地へも反映させている。

 また、南西糖業鰍ヘ島内の各集落に、生育調査や病害虫などの予防や発生時の報告などを行う社外協力員を置き、調査や緊急時に迅速な対応を取ることのできる体制を敷いており、洋志郎さんは西阿木名集落を含めた複数集落の担当を任されている。南西糖業鰍フ業務を引き受けることを通じて、受託農地の状況を把握するとともに、委託者との身近な関係構築にもつながっている。
 

おわりに

 西阿木名集落では生産者の高齢化が進んでいるものの、Uターンなどで島に戻りさとうきび農家を継ぐ若手生産者も見られるという。こうした新規就農者に対して、公男さんらは栽培のアドバイスなどを行うこともあるという。

 公男さんとしては、積極的な受託作業に加え、労働力も豊富であることから自作の栽培面積を一層拡大したい意向はある。しかし、現在、借り受けている農地について、貸主に後継者などの担い手が見つかればいつでも返却するつもりでいる。自身の経営としては規模縮小となってしまうが、集落全体のさとうきび生産の今後を考えての判断だ。

 南西糖業鰍フ担当者も、「仲さんの経営や組合の活動は天城町内にとどまらず島内の経営モデルになるもの。後継者も育っていて、これからも地域全体のさとうきび生産をまとめる中核農家として活躍していってほしい」と期待を寄せる。

 このような集落一体となった営農活動などが評価され、公男さんは、平成24年度に鹿児島県さとうきび生産改善共励会の農家の部で最優秀賞(県知事賞)を受賞した。洋志郎さんは平成18年、真太郎さんは22年の就農で、経験豊富な公男さんの経営手腕や肥培管理技術を日々学習中の身。洋志郎さんは「若手農家の連携で奄美群島一の高単収集落にしたい」と意気込み、真太郎さんも「父親のノウハウをしっかりと習得し、さとうきび生産で今以上に利益を出したい」と希望を膨らませている。そんな2人を温かく見守る公男さん。親子3人による意欲的な取り組みに、今後も注目していきたい。

(鹿児島事務所 篠原 総一郎)

V. 分業化でさとうきび管理作業を効率化
〜沖縄県宮古島市島尻地区〜

1. 宮古島地域の概況

 宮古諸島は沖縄本島の南西約300kmに位置し、宮古本島はじめ大小8つの島から構成され、宮古島市と多良間村からなる(図5)。

 宮古島地域は沖縄県内最大のさとうきびの生産地で、平成25年産の収穫面積は4550haと沖縄県の分みつ糖地域の39.3%を、生産量は30万5200トンと同48.4%を占めている。

 なお、本稿において、宮古島地域は、宮古諸島の分みつ糖地域を指し、データには、含みつ糖地域の多良間島は含まれていない。
 

2. 宮古島地域における最近のさとうきび生産の動向

(1)生産体系の変化
 宮古島地域では、長年、ハリガネムシの影響で株が立ちにくく株出し栽培が困難で、夏植えがほぼ9割を占めていた。しかし、近年、農薬(ベイト剤)の普及により、ハリガネムシを防除できたことから、株出しの面積が年々増加している。平成25年産では、株出しの収穫面積割合が全体の3分の1以上まで伸びてきている(図6)。
 

 また、長年手刈りが主流だった収穫作業は、高齢化に伴う労働力不足から機械化が推進され、ハーベスタ収穫に移行しつつある。ハーベスタの利用率は平成25年産で5割を超えるまでに伸びてきている(図7)。
 

(2)生産体系の変化がもたらす利点と問題点

ア. 株出しの増加
 株出しの利点は、夏植えは収穫が2年に1回であるのに対し、毎年収穫できるようになるため、農家が安定的に収入を得られることである。また、株出しは、苗の植え付けが不要なため、生産コストを削減できることも利点である。

 一方、問題点としては、株出し管理作業は、さとうきびの収穫直後に行う必要があり、株出しの管理作業が遅れると、ほ場で萌芽不良が発生するなど、生産量の低下を招く恐れがあることである。

 単純に考えると、夏植えで10a当たりの収量が10トンであれば、株出しで同5トンを超えれば株出しに移行するメリットがあることになる。

 図8に、宮古島地域における作型別の10a当たりの収量を示す。これを見ると、株出しの平均収量は、夏植えの半分を超えており、株出しを行うメリットは十分にあると考えられる。ただ、収量そのものがまだまだ低いことが課題である。
 

イ. ハーベスタ収穫の増加
 ハーベスタ収穫の利点は、収穫作業の負担が軽減することや、収穫作業時間の削減により、株出し管理や春植えの準備といった他の作業を行う時間が得られることである。

 一方で、ハーベスタは、降雨によりほ場がぬかるむと作業ができないため、収穫が天候に左右される面がある。また、ハーベスタの重さにより土壌が固められる可能性があり、深耕を行うなどの管理を行わないと生産量が落ちる可能性がある。

3. 宮古島市島尻地区における集落営農の取り組み

 ここでは、これらの作型の変化やハーベスタ収穫の利点を生かし、さらなる生産量拡大のために、機械化作業の分業化による適期管理を推進している、宮古島市島尻地区の集落営農の取り組みを紹介する。

(1)島尻地区のさとうきび生産
 島尻地区は、宮古本島の北部に位置し、世帯数約145戸、人口約340名の集落であり、さとうきび生産農家は現在約70戸である。湿地帯であった同地区は、かつて稲作も盛んであったが、環境的に恵まれず、旧平良市の産業共進会でも最下位が続く地域であった。しかし、約30年前に宮古島で最初に土地改良を実施したことをきっかけに、稲作から畑作へと大きく生産体系が変わった。

 今回は、島尻地区でさとうきび生産の中心的な役割を担っている農事生産組合豊農産(以下「豊農産」という)の辺土名忠志さんを取材した。

 豊農産は、平成13年に忠志さんの父である豊一さんを中心に5名の農家を構成員に結成され、さとうきびの農作業受託を行ってきた。

 豊一さんは、島尻地区の土地改良の必要性を訴えた一人であり、当時から機械化による一貫作業の重要性を見越し、いち早くハーベスタなどの機械の導入を進めてきた。豊農産のモットーは、「小作をしない」ということであり、農家から土地を借りるのではなく、「一緒にさとうきびを生産する」という信念を持っている。高齢となった農家から土地を借り上げて、農家の仕事を無くしてしまうのではなく、自分でできる作業は自分で行ってもらい、さとうきび生産に携わることで生活の中に生きがいを見いだして欲しいという思いからである。そのため、豊農産では、さとうきびの植え付けから収穫までのさまざまな作業の受託メニューを用意し、農家の実情に合わせて作業を受託している。豊農産が早い段階から機械化を進めたのも、島尻地区で集落営農を実現するという強い気持ちの表れである。

 忠志さんは、豊一さんの意思を引き継ぎ、共に豊農産の経営を行うことはもちろん、土地改良による優位性を生かし、高収益が得られるマンゴーの栽培にも力を入れている。また、島尻さとうきび生産組合を立ち上げ、集落営農を根付かせるための仕組み作りや、10a当たりの収量15トンを目指し勉強会を行うなどの活動を行っている。
 

(2)島尻地区における分業化の取り組み
 収穫期間中に行う受託作業は、ハーベスタによる収穫、手刈りで収穫されたさとうきびを道路脇まで運ぶ搬出、収穫後の株出し管理、春植えのための深耕、ロータリー、苗の準備、植え付けなど多岐にわたる。豊農産では、年々受託面積が増えており、現在約20haの受託を行っている。以前は、受託した作業の全てを行っていたが、これだけ多岐にわたる作業を受託すると、時間もかかり、適切な時期に作業を実施できない場面が増えてきた。

 そこで、作業を委託する農家が望んでいる時期を逃すことなく作業を行うため、豊農産では機械作業の分業化による適期管理を推進することにした。島尻地区には、さとうきびの農作業を受託している者が豊農産をはじめ13名おり、それぞれが担当を決めて分業して作業を行っている。現在は、生産者から委託を受けた者が、該当する作業担当者へ連絡し、それぞれの作業を行う仕組みであるが、将来的には受託窓口を一本化し、より効率的な仕組み作りを目指している(図9)。

 分業化により、一人の受託者に作業が集中することなく、作業が分散され、適期管理が可能になり、収穫直後に株出し管理が行える。また、機械のアタッチメントの交換などが不要となり、作業の効率化が図られる。

 株出し管理を適期に実施することにより、株出しの萌芽が良好になることに加え、十分な生育期間が確保されるため、株出しの収量の増加が期待できる。
 

4. 宮古島地域における理想の生産体系に関する一考察

 前述のとおり、宮古島地域では、夏植えから株出しを行う体系に移行しつつある。しかし、株出しは、夏植え後よりも春植え後に行う方が収量が良いと言われており、宮古島地域においても、春植えの割合を増やせば株出しの収量も上がると考えられる。ただ、春植えや株出しは、夏植えに比べ早い時期に襲来する台風に弱いという欠点もある。

 春植えは、収穫後、早めにほ場にロータリーをかけたり、深耕を行うなどの土壌管理が重要である。島尻地区の取り組みのように、収穫期間中の機械作業を分業化し、効率的に行うことによって、収穫直後に春植えが可能となる。実際、島尻地区においては春植えを早期に植え付け始めており、早いほ場では2月に実施している。そこで今回、豊農産が2月と4月に春植えを行ったほ場を調査した。
 

 2枚の写真を比べると、茎長や葉の茂り具合など生育の差が大きいことが分かる。梅雨前までにある程度成長すると、台風が襲来してもそう簡単には折損しないと言われており、春植えは早く植え付けを行うことが重要であることがうかがえる。

 これらを踏まえ、宮古島地域における理想の生産体系のモデルケースを考察した(図10)。
 

 収穫は、まず次年度に春植えを行うほ場を最優先に行い、収穫後、土づくり、植え付けを行う。次に次年度に株出しを行うほ場を収穫し、直後に管理作業を実施する。次年度に夏植えを行うほ場に関しては、時間的な余裕があることから収穫が遅くなっても大きな問題はない。生産量が増えている宮古島においては、年内の収穫も視野に入れながら、より早めの管理を行える体系が理想的ではないだろうか。

 甘味資源作物交付金は、糖度によって単価が異なり、生産者としては、糖度が上昇する2月や3月にさとうきびを出荷したいという心理が働きがちであるが、近年のさとうきび品種は早期高糖性品種も多く、12月ごろでもある程度の糖度がある。
 

 図11に示すとおり、平成25年産では製糖開始時の12月に既に平均糖度が基準糖度帯に入っており、順調に登熟が進めば、12月でも十分な糖度があることが分かる。収穫初期と後期で糖度の差はおよそ2.5度あるが、表7のケースのように糖度が2.5度低くても10a当たりの収量が1トン上がれば交付金が多くなるケースもあり、単収を上げることも重要と考えられる。
 

 単収を上げるためには、先に示してきたように、早期管理が極めて重要である。早めに収穫を行い、生育期間を十分に確保すること、また、収穫後の管理を徹底することで次年度の単収が上がり、好循環が生まれると考えられる(図12)。
 

おわりに

 高齢化の進展から、さとうきび栽培は今後ますます機械化が進んでいくだろう。機械化の利点を最大限生かすために、島尻地区のような受託組織づくりは、極めて重要である。今回の事例が他の地域の参考になり、さとうきび栽培がますます活性化されることを期待したい。

 宮古島市島尻地区では、豊農産が中心となって、受託面積の増加に対応するため、機械作業を分業化して、さとうきびの適期管理を心掛けている。このように、必要な対策が何かを見極め、スピード感を持って対策を講じていくことが重要であると思う。

 今回は、分業化で管理作業の効率化を目指す取り組みを紹介したが、地域によって作型の違いや抱える問題点は異なってくる。まずは、それぞれの地域の現状を見つめ、どのような方向にさとうきび生産を導いていくか考えていくことが大切ではないだろうか。

(那覇事務所 井 悠輔、青木 敬太)


 3件の取材に当たって、ご協力いただいた関係者の皆さまには、改めて心よりお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713