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久米島における春植え栽培新植時のフィプロニルベイト剤処理がサトウキビの生育および収量に与える影響

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最終更新日:2015年5月11日

久米島における春植え栽培新植時のフィプロニルベイト剤処理がサトウキビの生育および収量に与える影響

2015年5月

鹿児島大学大学院連合農学研究科 博士課程3年 河崎俊一郎
琉球大学農学部 教授 上野 正実
琉球大学農学部 教授 川満 芳信

【要約】

 2006年に農薬登録された新規薬剤「フィプロニルベイト剤」の処理が、サトウキビの生育および収量に与える影響について久米島で調査を行った。その結果、春植え栽培新植時の処理では、生育および収量が増加することが明らかとなった。一方、株出し栽培時までは、効果は持続しておらず、再度の処理が必要であることが示唆された。

はじめに

 サトウキビは沖縄の基幹作物であり、近年では生産量の減少が続いているが、その重要性は依然として沖縄の農業のみならず、離島経済においても欠くことのできない産業である。サトウキビの生産量減少にはさまざまな影響が関わっているが、その一つに生育および収量に甚大な被害を与える病虫害がある。ハリガネムシ(オキナワカンシャコメツキの幼虫)は、サトウキビ苗の芽子、茎、根を食害し不発芽や不萌芽をもたらし、サトウキビの収量に甚大な被害を与える。特に、南大東島や宮古島のような大規模なサトウキビ生産地では、その被害に悩まされてきた歴史がある。

 これまで、ハリガネムシ防除に対し多くの対策がなされてきた。近年では、フェロモンチューブを用いた交信撹乱法による防除が成果を上げており、今後も被害の低減が期待されている。一方、苗植え付け時に処理する化学的防除では、その効果が十分とは言えない状況にあった。そのような状況の中、2006年に農薬登録された新規薬剤「フィプロニルベイト剤(プリンス®ベイト、BASFアグロ(株))」が使用され、各生産地で生育および収量の増加が報告され始めた。著者らも、2008年に南大東島で調査を行い、フィプロニルベイト剤処理区では、従来使用されてきたハリガネムシに対する忌避剤を処理した慣行薬剤処理区に比べ、生育が増加する現象を確認し(図1、2)、国際サトウキビ技術者会議(ISSCT)メキシコ大会で報告を行った(Kawasaki et al.,2010)。

 フィプロニルベイト剤の殺虫効果については既に報告があり、土壌中ハリガネムシ密度の低下に寄与していることが確認されている(太郎良ら、2007)。一方で、サトウキビの生育や収量に与える影響についての詳細な報告はなかった。また、南大東島で確認されたような生育の増加が、果たして薬剤の処理効果のみで起こるものなのか、また他の生産地での効果はどのようなものなのかなどの疑問があった。そこで、著者らは2009、2010年に久米島においてハリガネムシ防除薬の比較調査を行い、各種薬剤が春植えおよび株出し栽培サトウキビの生育および収量に与える影響に着目し、調査を行った。

 なお、本研究は2014年12月に学会誌「Tropical Agriculture and Development 58(4):135-139」に掲載された内容の和文である。
 

1. 久米島試験地の概要と試験方法

 久米島は沖縄本島の西方約100キロメートルに位置し、総面積6343ヘクタールである。他の多くの離島と同様にサトウキビが最大の産業であり、生産量は3万9436トン、単位収量は10アール当たり約4.2トンと低下傾向にある(平成24/25年期)。

 久米島では、2009年に全島域の春植え栽培ほ場を対象としたフィプロニルベイト剤の処理が行われた。そこで、著者らは久米島製糖(株)の全面協力の下、同社が所有するほ場(21.03アール)を対象に、フィプロニルベイト剤区、慣行薬剤区、無処理区の比較試験地を設けた。栽培品種は久米島で一般的な農林21号(Saccharum spp. cv. Ni21)、土壌は暗赤色土(島尻マージ、pH6.5)であった。春植え植え付け時に、フィプロニルベイト剤および慣行薬剤を、植え溝に10アール当たり6キログラム処理した。翌年の株出し栽培時には新たな処理は行わず、春植え栽培植え付け時のみの処理による影響を調査した。

 春植え栽培の生育調査は、2009年8月(7月31日〜8月2日)、11月(10月31日〜11月1日)に行い、1.2×8.3メートル(0.1アール)内の生育茎数(各処理区12カ所ずつ)、1.2×3.0メートル内の茎の仮茎長(各処理区6カ所ずつ)を測定した。

 また、虫害調査を2009年8月(7月31日〜8月2日)に行い、1.2×8.3メートル(0.1アール)内の芯枯れ茎数(各処理区12カ所ずつ)、1.2×2.0メートル内の株の掘り取り(各処理区3カ所ずつ)により植え付け芽子数、発芽数、不発芽数、食害芽子数を調査した。収量調査は2010年2月(2月17〜19日)に坪刈り(1.2×3.0メートル、各処理区4カ所ずつ)を行い、仮茎長、茎長、1茎重、茎径、Brix、ショ糖含有率を調査した。

 株出し栽培の生育調査は、2010年7月(7月9〜11日)、10月(10月23〜25日)、収量調査は2011年1月(1月10日)に春植え栽培調査と同様に行った。虫害調査も2010年7月に春植え栽培調査同様に行ったが、掘り取りの調査項目は芽子数、萌芽数、不萌芽数とした。

2. フィプロニルベイト剤処理が生育および収量に与える影響

(1)春植え調査
 生育茎数はいずれの調査においても、フィプロニルベイト剤区が無処理区に比べ有意に多く、収量調査時には慣行薬剤区と比較しても有意に多くなった(図3)。仮茎長はいずれの調査においてもフィプロニルベイト剤区が無処理区に比べ有意に長かった。



 虫害調査では、フィプロニルベイト剤区と慣行薬剤区の食害芽子数が無処理区に比べ有意に低く、フィプロニルベイト剤区と無処理区の芯枯れ茎数が慣行薬剤区に比べ有意に少なかった(表1)。収量調査では、フィプロニルベイト剤区の単収が無処理区に比べ有意に高くなっていた(表2)。一方で、ショ糖含有率はフィプロニルベイト剤区が無処理区に比べ有意に低い値を示した。
 
(2)株出し調査
 生育茎数は2010年7月調査においてフィプロニルベイト剤区のみが有意に少なくなっていたが、その後の生育調査および収量調査では3区間に有意差は認められなかった(図3)。仮茎長は10月調査ではフィプロニルベイト剤区が慣行薬剤区に比べ有意に低かったが、7月、1月調査では有意差は認められなかった。虫害調査では芯枯れ茎数に差は認められず、不萌芽数ではフィプロニルベイト剤区、慣行薬剤区が無処理区に比べ有意に少ない値を示した(表3)。収量調査ではいずれの項目においても有意差は認められなかった(表4)。
 

3. 久米島におけるフィプロニルベイト剤の処理効果

 本調査から、春植え栽培時のフィプロニルベイト剤処理により、収量は無処理区に比べ有意に高く、有意差は認められなかったが慣行薬剤区に比べ高くなる傾向が認められた。この要因として、茎数の維持が考えられる。つまり、虫害調査の結果からもみられるように、フィプロニルベイト剤はサトウキビ生育初期の虫害を低減させていたといえる。この効果に関しては、太郎良ら(2007)もその防除効果を報告している。生育初期の茎数を多く保つことにより、収穫時まで健全に生育する茎数が増加し、結果として収量の増加につながったと推察される。また、フィプロニルベイト剤区のショ糖含有率が無処理区に比べて低くなったが、いずれの処理区も平均的なショ糖含有率(18〜20%)を満たしていることから、品質は劣化していなかったと考えられる。

 一方、株出し栽培時には収量の増加は確認されず、茎数にも差は認められなかった。また、芯枯れ茎数においても慣行薬剤区や無処理区と同程度に発生していることが明らかとなった。株出し栽培時には当然薬剤の効果は切れていることから、虫害の発生、それに伴う茎数の低下、収量の低下が生じたと考えられる。

おわりに

 本調査により、植え付け時のフィプロニルベイト剤処理は収量の増加に貢献する可能性が示唆された。しかしながら、その増加は2008年に南大東島などで確認されたような驚くほどの増加ではなかった。2008年に生育および収量の増加が確認された要因として、虫害の低下および地域的要因が考えられる。南大東島や宮古島は、そもそもハリガネムシの生育密度が高い地域として知られているため、新規薬剤の処理効果が明確に現れた可能性が考えられる。一方、これらの離島と比較して久米島ではハリガネムシによる害は少ないため、他の島ほど顕著な効果がみられなかったのかもしれない。

 また、株出し栽培時にはいずれの処理区でも多くの芯枯れ害が確認された。芯枯れ害は、「メイチュウ」と呼ばれるカンシャシンクイハマキやイネヨトウムシの幼虫によって主に引き起こされることが知られており、これらの害虫に対してもフィプロニルベイト剤は農薬登録が採られている。メイチュウ類はハリガネムシとは異なり、年に5〜6世代発生し、成虫がほ場間を飛来し被害を拡大させる。株出し栽培時に芯枯れの被害が再発していることから、他のほ場から害虫の飛来があったと考えられるため、再度の薬剤を処理する必要があろう。

引用文献
Kawasaki S.,Fukuzawa Y.,Tominaga J.,Ueno M.,Kawamitu Y.(2010)「Effects of fipronil bait on sugarcane yield in Okinawa,Japan.」 Proc.Int.Soc.Sugar Cane Technol.,Vol.27.834−841.
太郎良和彦・新垣則雄・上原数見・伊志嶺正人・小林彩・永山敦士(2007)「Fipronilベイト剤を用いたサトウキビ害虫ハリガネムシの防除」 応動昆 51(2):129−133.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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