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「スマートエコアイランド種子島」の中核的経済活動としてのサトウキビ産業の在り方

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最終更新日:2015年5月11日

「スマートエコアイランド種子島」の中核的経済活動としてのサトウキビ産業の在り方
〜 種子島型サトウキビ産業とその技術的基礎 〜

2015年5月

サトウキビコンサルタント 杉本  明
東京大学「プラチナ社会」総括寄付講座 菊池 康紀
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点 寺島 義文

【要約】

 「自然と共生するスマートエコアイランド種子島」構想が東京大学「プラチナ社会」総括寄付講座を中心として樹立された。その中核的経済活動となる「種子島型サトウキビ産業」の在り方は、 1)砂糖産業からサトウキビ総合産業へ、 2)高糖性サトウキビから多回株出し安定多収性サトウキビへ、 3)サトウキビのための適期管理から生活のための適期管理へ、の変革である。

はじめに

― 島は小さな地球、種子島は世界の課題と希望の最前線 ―
 世界の人口が70億人を超え、90億人に至ると予想される中、平和な生活の基である衣・食・住の充足、その基礎である農業の重要性は高まるばかりである。一方、優良農用地の拡大は、砂漠化の進行、緑地保全の必要性などから難しさを増している。山地、山麓風景に象徴される狭小で繊細な国土と少子高齢化の進行を特徴とするわが国における富の生産と享受、すなわち、狭い舞台での環境の保全を前提とした、省力的で効率性の高い価値創出、農業におけるその実践は容易ではない。

 本稿の舞台である種子島は、農業、産業の振興、生活における高い快適性の実現、そのどれもが、先鋭化した国内外の課題と対応している。狭い土地、少子高齢化と青年層の島外への出郷による労働人口の減少は、後ろを向く車の両輪のように進んでいる。経済活動の今日と明日への閉塞感は耐え難いほどに重い。

 島は小さな地球である。島も地球と同様、半開放系の地理的空間として、系外(島外)から移入されるものと系内(島内)で生産され循環するものとを巧みに制御、管理して人が暮らしている。小さな地球としての種子島、この島から日本を、世界を読み解いて地球的規模の問題を解決することは、産業知、技術知、学術知など、わが国で涵養(かんよう)される多くの知を集めて試みるに不足のない課題である。

 本稿では、食とエネルギーの生産と流通に視線を定め、島における食・富創出の基幹的活動であるサトウキビ産業に焦点を当て、今日と明日の持続的な発展に向けた像を描いてみたい。島における富創出のための英知に満ちた経済活動の実行こそが、世界の今日を明日につなげる架け橋となると思っている。

1. 小さな地球「種子島」

 北緯30度43分、東経130度59分、黒潮の流れの中に緑濃い姿を見せ、南の海上に生物地理的に温帯と亜熱帯を分ける渡瀬線を置く温帯最南部の島、小さな地球、それが種子島である(図1)。手の届く南西に世界自然遺産の屋久島があり、標高およそ2000メートル、冬には雪を頂く山々がその姿をさらしている。種子島は比較的平坦で、最高点でも標高282メートルである。海から見る島は照葉樹に覆われた緑の島であるが、空から見る島は、畑、田、森の中に大小の集落が点在する、長い歴史を通して良く使いこなされた生活の島である。総面積およそ445平方キロメートル、わが国で5番目の面積を有する島である。耕地面積8820ヘクタール(畑地6930ヘクタール、田地1887ヘクタール)、林野面積2万4194ヘクタールであり、島の90%以上が森林である屋久島との違いは大きい。屋久島の人口1万3600人に対し種子島の人口はおよそ3万3000人で、農林水産業、加工業の人口涵養力の高さが分かる。

 西之表市の例であるが、第1次産業従事者が28%、建設業などの第2次産業従事者が15%、第3次産業従事者が57%である。気候は、平均最低気温が8.5〜25.4℃、平均最高気温が14.1〜30.6℃と温暖で、降雨量、分布ともに恵まれているため、植物生産力は他の南西諸島に比べて高い。耕種部門の農業生産額ではサトウキビが筆頭で、野菜・花き、サツマイモ、水稲が続く。子牛生産が主流の畜産業全体の生産額は、サトウキビにサツマイモを加えた額より大きい。

 離島故の市場遠隔性が島の自律的、持続的な発展を阻害する要因となっている点は、他の南西諸島の例に漏れない。そのような地でいかに高い生活の快適性を創出、維持するか。そこに「スマートエコアイランド種子島」が登場する。
 

2. スマートエコアイランド種子島

 2014年8月、種子島で、東京大学「プラチナ社会」総括寄付講座が主催するシンポジウム「自然と共生するスマートエコアイランド種子島」が開かれた。趣旨は以下のように理解される。

 (1)サトウキビ、木材など、島の豊かな自然資本を効果的に使って富を創出する。
 (2)現在から未来につながる道を、段階的に、かつ一体的に捉えるシナリオを創出する。
 (3)産業、技術の変革から生まれる発展的な流れを定着させ、教育、医療などの民生と産業のつながり、産業間の連携など、地域の環を熟慮して島内の経済循環を活性化する。
 (4)島内外の知識、知恵、技術を結集する仕組みを作り、島が主役の技術、システム革新の場を作る。

 要するに、島の自然資源(自然資本)を、多分野融合的に結集した知識、知恵、技術によって活用し、現在から将来につながる持続的で豊かな循環型経済活動を創出、活性化すること、少し具体的に言えば、サトウキビや森林資源の活用を通した農業、農産物加工業、エネルギー生産業の新たな展開を軸に、農林業の発展的な拡大を図って雇用を創出し、産業、生活双方における担い手・後継者を確保して経済基盤を整備することを中心としている。その達成に必要な植物資源の生産・変換利用技術、有効活用に向けたエネルギー変換技術などの集積と活用を、島内外の多分野の結集によって実現するという筋書きを持つ。既に、グリーンツーリズム、エネルギー変換による自然資本活用などの検討が始まっている。

3. スマートエコアイランド種子島の中核的経済活動としての種子島型サトウキビ産業

 「スマートエコアイランド種子島」の基本は、自然資本の循環型利用による価値創出を基礎とする第一次産業の基盤強化である。島の中核的経済活動であるサトウキビ・製糖産業がそこで担うべき役割、必要な技術と産業の在り方を以下に述べる。

(1)サトウキビ産業の現在

   ―その達成と不足―
 サトウキビは平成25年度で栽培面積2710ヘクタール、生産農家2260戸、生産額40億円と、面積、生産額、農家戸数ともに島内最大級の基幹的農作物である。製糖産業は島外からの資金流入量、島内での資金循環量が大きい第一の基幹的経済活動(基幹産業)である。ところで、基幹産業とはどんなものであろうか。求められる事項、特性を以下に整理する。

 個人の、家族の暮らしに必要な安定した収入が見込めることが島の発展の基本であることから、地域の基幹産業は従事者に、暮らしに十分な収入とその安定をもたらす義務を負う。言い換えれば、基幹産業には高い労働生産性が必要だということである。

 わが国の人件費は、海外のサトウキビ生産国と比べて高い。これは、わが国の経済活動全体の成果であるが、同時に、高いサトウキビ、高い砂糖の最大の要因でもある。労働生産性の向上には経営規模の拡大が必要であるが、耕地面積の限られた種子島において、経営規模を耕地面積のみで拡大しようとするのは、島の経済を基礎で支える人口の涵養という面では逆効果である。種子島において、個人の生活向上(労働生産性)を地域経済の総体的活性化(地域生産性の向上)との両立において達成するには、平面的拡大だけではなく、立体的拡大、すなわち、サトウキビの単収(土地生産性)向上や営農・産業自体の高付加価値化が必要である。生産農家の生活向上は、基本的には単収の高位安定によってもたらされる。農外勤労者のそれは、製糖関連産業における、サトウキビからの有価物製造の最大化と健全なコスト構造での常勤的雇用の最大限の維持、安定雇用の最大限の確保の成否による。

 価値創出機能が高くても、持続性、安定性に信頼が持てなければ、製糖産業の成長は期待できない。持続性の要点は、製品の高い社会的必要性、経済活動自身の社会的必要性、そして原料生産の安定的発展性の向上である。製品については、食料の基本である砂糖、燃料としてのエタノール・電力、さらに、木質・紙素材など、どれも社会的必要性の高いものばかりである。経済活動自体の社会的必要性は、「産業総体における雇用の水準」「他経済活動への貢献の高さ」「他作物生産」で評価される。「製糖工場自体の稼働率向上と営業規模の拡大」「島内他産業への有用機能の供給による貢献」「他作物との輪作システムの存在」などがこれに該当する。このように、基幹産業には、地域の最大富創出への高い貢献が求められるが、自然環境保全への配慮はその前提としてあると思う。

 これらの観点で現状を評価してみよう。種子島のサトウキビ生産はわが国では最良級にあるが、不足は明らかである。

 その第一は、わが国では最高水準であるとはいえ、10アール当たり約7トンと低い単収であり、株出し栽培の継続回数が少ないことである。世界的には5年5作から6年6作、ブラジルなどでは7年7作、8年8作もまれでない中、種子島は3年3作である。このことは、頻繁な作付けの更新、すなわち、種苗の栽培・収穫・調製、耕起・砕土・均平、作溝・植え付けなどの作業の頻繁な繰り返しを営農者に強いることを意味し、投下する経営コストが高く、労働時間自体が長く、収入の道が狭く細いことを示している。土砂流出の起きやすいほ場の体質改善がしにくいということも意味している。金銭的にも、労働時間的にも、環境保全上の観点からも、いずれから見ても不十分であろう。

 製糖産業の商品の大部分は砂糖である。このことも、サトウキビ産業の商業規模を低水準に抑え、市場の選択性を狭めることを通して、産業の安定性を低位に抑える要因の一つである。生産規模、労賃や機械の普及率を除けばわが国と似たタイでは、「粗糖」「精製糖」「バガス発電による電力」「3番糖蜜によるエタノール」、この4製品が製糖工場の重要な収入源である。世界第一の規模を持つK社の工場ではバガスを原料とした紙、また別のK社の工場ではフィルターケーキ、エタノール蒸留残さなどを主成分とした肥料の販売もしている。「何が良いのか」ではないが、でき得る限りの高度利用を視野に入れておくことが基本であろう。

 雇用の安定、経済活動の自在な展開の面ではどうであろう。12月から4月までの4〜5カ月という収穫・操業期間は、安定した雇用ときめ細かな価値創出には短すぎると思う。これでは、生産規模の小さいわが国のサトウキビ産業の将来は拓けない。すなわち、スマートエコアイランド種子島で描こうとする持続的な島の発展が困難であることを意味する。

(2)種子島型サトウキビ産業の要点

 スマートエコアイランド種子島の中核的経済活動としてのサトウキビ産業の在り方とその技術的基礎を以下に述べる。具体的には、以下の諸事項を満足するサトウキビ生産、製糖工場の姿である。

ア. 地域の食料生産と移出、エネルギー生産の拠点としての製糖工場
 製糖工場の主要な活動を、現在の砂糖の製造と販売に加え、 1)未利用部分(還元糖、繊維分)やサトウキビ以外の木質、草本系資源を用いたエタノール、電力などの生産と販売、 2)排熱を用いた熱資源の生産と販売、 3)余剰有機物からの飼料、木質系資源などの生産と販売、 4)製糖、エタノール、電力生産残さを用いた肥料などの製造と販売、を加えたいと思う。要するに「製糖産業」から「サトウキビ総合産業」への転換である。

 14〜16%の高繊維多収品種を9月上旬から5月末のおよそ9カ月間を収穫・操業期間として栽培し、現状以上の砂糖生産量を確保した上で、 1)高繊維故に多量に発生するバガスを利用した電力生産など、 2)多収化に伴って増加する還元糖によるエタノール生産、 3)排熱による産業用熱の生産(化学的熱変換技術を用いる)、 4)製糖残さ、エタノール製造残さ、ボイラー灰を用いた有機質肥料の生産、を本業とし、島の余剰木質資源を用いた発電などを副業としたい(図2)。梢頭部、枯葉などを用いた飼料生産、それによる畜産の振興と畜産系有機物の土壌表面への還元によって費用追加のない地力改良技術を開発することも製糖工場の主導で実施したい。

 もちろん、規模の限界があり、技術、システムの開発のみでは経済性の満足は困難であろう。しかし、地域の自立性は格段に向上する。そこは胸を張って公的な支援を受けたい。一定の経済的合理性を備え、種子島、南西諸島、日本、世界への貢献度の高い経済活動を実現するのである。労賃が高く地代が高いのはサトウキビ産業以外の経済活動が主因であり、サトウキビ産業が専ら負担する必要のない事項である。「エネルギー収支における高い剰余出力」「社会的有用性を担保する産業実践」、当面はこれで十分であると思う。
 
イ. 技術開発の勘所(かんどころ)とサトウキビ生産
 目標達成の鍵は技術開発である。今までできなかったことをできるようにする、それが技術開発であり、必要なことができるようになって初めて産業は発展する。これが富創出の基本である。

 できるようにならなければならないことの第一は、単収の大幅向上と株出し回数の増加である。5年5作、10アール当たり10トン程度への向上を、省力的な方法で実現したいと思う。単位面積当たりの砂糖生産量、繊維生産量が多いことが肝要であり、繊維分は高い方が良いし、糖度、純糖率は現在より幾分低くても良い。加工から見た短所の克服は加工側の技術開発に期待したい。

 第二は、収穫期間、操業期間の大幅拡張、そして、植え付け、施肥・培土などの肥培管理、収穫を含む作業実施時期の通年化である。減少する担い手で高付加価値型の営農を実施するには生産者から見た適期管理が必要である。これまではサトウキビの特性を優先し、生活者である生産者に、サトウキビのための適期管理を求めてきた。それは「生業(なりわい)としての作物生産」という観点からは本末転倒である。地域の、生活者の、経済活動の快適性とその持続性向上を主目的として、それに作物の生育特性を合わせることが必要である。

 製糖工場の操業期間長期化の実現には、サトウキビから高価値製品を必要分取り出せる期間の長期化が前提である。現在の高価値製品は砂糖である。砂糖生産量の維持、増加を前提にした収穫期間の飛躍的な長期化、その前提は、ほ場では、砂糖生産量が多い時期を大幅に拡張し得る技術を作ること、工場では、さまざまな特性を持つサトウキビから効果的に砂糖を抽出する技術、システムを開発することである。ほ場における技術の基本は、登熟時期の異なる品種の開発と利用、そして施肥時期、肥料成分の工夫である。工場では、ショ糖以外の成分が多量に含まれる蔗汁からショ糖を効率的に回収する技術の開発である。具体的な方法を以下に述べる。
(ア)多回株出し多糖性サトウキビと高温期登熟型サトウキビ
 多回株出し多糖性サトウキビには新用途向け試作用に登録されたKY01−2044のような多回株出し多糖性品種がある。単収は5年5作、年平均で10アール当たり10トンを目標としたい。高温期登熟型サトウキビには、黒海道など、10月でも甘蔗糖度13%近くに達する極早期型高糖性を備える品種・系統がある。肥培管理技術の開発と加工側の技術開発に期待し、当面9月上旬を収穫開始の目標とし、収穫、操業の終わりは、台風被害の最小化に向けた措置に期待して5月末日としたい。

(イ)省力的栽培技術
 繰り返すが、現在は担い手が不足する時代である。適切な管理を可能にするには作業分散と省力的栽培が必要である。植え付け、株出しなどの作業を周年化するには、冬季、低温下での発芽、萌芽、初期生育の確保が必要である。特に種子島は温帯にあり、冬には霜の降りるほ場も多い。低温萌芽性、成長性に優れる品種の開発とともに、現在主流のマルチ栽培に代わる省力・省資源を前提とした肥培管理技術の開発が求められる。極低温期・地域などではマルチに代表される保温技術が必要であるが、大部分の時期・地域をマルチ設置、撤収の労役から解放したい。NiTn18(農林18号)のように、無マルチでもNiF8(農林8号)のマルチ栽培より多収が得られる品種も開発されている。育苗施設を用いた移植苗栽培技術もほ場利用の高度化に通ずる有用な技術である。

 また、全茎苗を利用した機械植え付け、作溝機能を向上させたプランタの利用を進めたいと思う。5年5作、4年4作でも同様であるが、連年で継続する株出し栽培で多収を続けるには、高い株再生(萌芽と茎伸長の維持;株上がりの抑制)が必要である。深溝浅覆土(植え溝を深くV字型とし覆土を浅くする)、それを省力的に実施するのが今日から明日の栽培技術である。そのような機械を世界中が求めていると思う。

(ウ)砂糖の効果的・効率的な製造技術、システム
 前述の多収で再生力が高いサトウキビ原料、そのようなサトウキビは繊維分と還元糖分が高く、ショ糖含有率(純糖率)が低いことが多い。現在の製糖用品種でも、収穫期間を拡張する場合、時として十分な登熟を遂げられない場合がある。台風による生葉の損傷、曇天による日照不足などの場合も同様なことが起こる。このようなサトウキビは、現在の「圧搾―清浄化―濃縮―結晶化」と進む一連の工程では十分な量の砂糖製造が困難であるとされる。高い繊維分が搾糖を、高濃度の還元糖がショ糖の結晶化を阻害するからである。現在の砂糖製造法に固執していたのでは、収穫、操業期間の拡張も台風被害の軽減も、新しい省力的多糖栽培も、その実現は覚束ない。

 そこに登場するのがアサヒグループホールディングス株式会社によって開発された、選択的エタノール発酵を取り入れた砂糖生産技術「逆転生産プロセスの導入による砂糖・エタノール・電力・有機質資源複合生産技術・システム」である(図3)。逆転生産プロセスとはサトウキビに含まれ、サトウキビの生長には有用であるが製糖過程では結晶化の阻害物質である還元糖のみを、結晶化工程の前にエタノールに変換すること、すなわち、結晶阻害物質でもある還元糖をエタノール発酵によって蔗汁から除去し、結晶化材料としての品質(純糖率)を向上させ、低純糖率原料からのショ糖回収を可能に、あるいは効率化しようとするものである。従来の方法とは、結晶化工程と発酵工程の順序が逆になっていることから逆転生産プロセスと呼ばれている。エタノールを生産することによって砂糖の生産性を向上する、すなわち、エネルギーを生産することによって食料生産の効率を上げるという、思考の転換により生み出された技術であり、未来を切り拓く技術として世界のサトウキビ、製糖産業から注目を集めている。

 そもそも、多回株出し多糖性サトウキビの開発自体が、ショ糖以外の炭化水素としての繊維分の多収生産、還元糖の多収生産によって面積当たりの砂糖生産力を高めようとする、これも転換された思考の産物である。ほ場における思考転換、工場における思考転換、この出会いと持続的な連携によってサトウキビ、砂糖生産がサトウキビ・砂糖・エタノール・電力・有機質資源複合生産として生まれ変わろうとしている。
 
(エ)環境改良型高付加価値産業技術
 世界の優良農用地の開発に限界が見える中、食とエネルギーを求める人口は増加を続けている。需給の均衡の崩壊、その対策をどこに求めたらよいのであろうか。食とエネルギーのもとである農産物の増産は優良農地の拡大と単収の向上、すなわち、土地利用の高度化で実現する。荒廃地を農地に、低生産力農地を高生産力農地に改良すること、すなわち、地力の改良はその基盤を作る第一の方法である。それを経済的合理性の高い方法で実現する、それが「環境改良型産業技術」としての農業技術、作物生産で言えば「地力改良型作物生産技術」である。サトウキビを栽培することによって土壌表層の地力を改良し、地域総体としての農業的価値創出力を高めようとする技術、システムである。種子島はわが国のサトウキビ生産地域としては地力が高く、気象条件も食糧作物の生産に適している。不良環境からの脱皮と比べて、一段恵まれた条件下で、より高い農業生産力をほ場に与えようとする技術である。

 一方、奄美大島以南の南西諸島は低地力で干ばつが常発し少収が常態化しており、地力改良は不良な農業環境からの脱出を意味する。南西諸島のほとんどの島で営まれている子牛生産業、種子島もその例外ではない。サトウキビは比較的痩せ地に強い作物である。他の作物と比べて根も深い。そのような特性を備えるサトウキビの多収生産を実現し、茎は製糖原料として工場へ運び、梢頭部を飼料として畜舎に運び、その糞尿をほ場に還元して土壌表層の地力を改良しようとする試みである。未利用部分の飼料としての畜産側への販売、畜産側からの廃棄有機物の地力改良資材としての受領、その商業的循環を通し、地域のほ場の地力を改良しようとする試み、それが「地力改良型作物生産技術」「環境改良型農業技術」である。

(オ)周年収穫多段階利用技術
 日本のサトウキビ生産量は、世界の主要生産地と比べれば、図にならないくらいに小さい。そんな中で人口涵養力の高い産業を創出することがサトウキビ産業の基幹産業としての任務である。その実践上の要点は、既に述べた土地の高度利用に加えた作物の高度利用である。当面は砂糖・エタノール・電力・有機質資源複合生産の実現を要点とするが、その先の産業の姿、それには前述の姿では不十分である。

 サトウキビには多様な価値の素材が含まれている。葉鞘や茎皮表面に付着する白色の粉、ワックスが高価であることが知られており、既に消臭剤なども作られている。本誌2013年6月号で述べたが、高価なものから低価なものまで順番に直列的に製造し、サトウキビを使い尽くして最大価値化しようというのが多段階利用である。高価値のものから直列的に製造し商品化すること、対象とする物質の抽出と加工、その工程が複雑さを伴うことは想像に難くない。このような場合、現在主流の圧搾法や滲出(しんしゅつ)法など、短時間に大量の処理をする方法では実施が困難であると思われる。サトウキビの一歩先の高価値化、それが多段階利用であるとして、それを可能にするには、必要な成分(品質)を備えるサトウキビを少ない一日当たり処理量で処理し、島の基本的富と呼ぶに足る量の生産をすることが必要である。一日当たり少ない処理量で大きな富を創出する方法とは?答えは簡単で、できる限り多い日数をそれに充てる、それが正解である。周年収穫多段階利用、多段階利用には周年に近い収穫・操業期間が必要である。周年操業になれば、雇用はほぼ常勤雇用となる。周年にわたる発電も可能である。安定性の高い生活設計が可能になる。

4. 種子島から奄美、沖縄、そして世界へ

 種子島は、生活利便性の低さ、就労機会の不足による若年層の島離れ、市場遠隔性に起因する生産費用の高さなど、離島故の不利を持つ島の一つである。産業の中心がサトウキビや畜産業などで他に大きなものはなく、より高度な土地と作物の利用を必要としている点も他の島々と同様である。スマートエコアイランドとしての自立性の高い発展を、南西諸島の中では農業的活性の高い種子島で実践的に実現し、それを奄美、沖縄地域の島々へと広げたいと思う。世界各地への広がりについても然りである。

 タイはサトウキビを見る限り、自然的な環境も社会的な環境も南西諸島に良く似ている。今のところ面積拡張に高い意欲を見せているが、厳しい乾季故の低い生産性、発展途上国から先進国に移行しようとする社会環境など、かつての南西諸島を今に映すようである。サトウキビ生産地域へのゴム園などの進出も目立つようになった。やがては急速な面積減少として立ち現われるに違いない。自然的環境、社会の発展と生活者としての担い手の生活向上への欲求、この両面で厳しい局面を迎えることが必至である。その時に、一足早く来た面積減少、産業規模の縮小と、それに対する新たな生産、利用技術に基づく地域産業の展開、種子島におけるサトウキビ・製糖産業の持続的発展への試みが克服のヒントになると思う。それは、「省力的な多回株出し多収栽培」「収穫・操業期間の飛躍的長期化」「周年実施型のほ場作業技術・システム」「砂糖・エタノール・電力・有機質資源複合生産」「環境改良型サトウキビ農業」「多産業融合型の施設利用(西之表市のかつての長期振興計画、産業間連携による経済の振興)」の展開である。

おわりに

―農工融合型思考による技術開発の有用性と必要性―
 種子島型サトウキビ産業の実現、すなわち、ほ場でのサトウキビ生産から多機能化した製糖工場における商品製造、それを相互に支え合うための制度設計、地域と国、地域と世界全体を最適で結び付けるための制度設計、いずれも大きな困難を伴うことばかりである。しかし、先に述べたが、富は技術革新のみから生まれる。この場合の技術とは、自然科学から社会科学、国や自治体の制度、地域の習慣にまで及ぶ広範な事項である。

 これまで、種子島では、世界的にも厳しい低温下で育てられたサトウキビからの効率的砂糖回収、狭小なほ場で雨天でも収穫ができるハーベスタ、マルチ栽培などの技術を開発してきた。全て先達の努力の果実である。しかし、時代の歩みはより速い。今日は、新たな構想で実業の第二幕の始まりを告げる日である。新たな、より高度な技術・システム開発を求める日である。飛躍的な多収性や不良環境への適応性の高い品種は、繊維分や還元糖分が高く、現在の製糖技術では商業的利用は困難であるし、操業期間の大幅な拡張はサトウキビの低い糖度・純糖率に阻まれて経済的な実用化が困難に見える。しかし、アサヒグループホールディングス株式会社と独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターの共同研究で切り拓かれた道(逆転生産プロセス)、そしてスマートエコアイランド種子島に集まる知の活動に見られること、すなわち、技術開発の当初から農と工そして多分野が融合的に連携し、同じ目的に向かってキャッチボールを繰り返す技術開発システム、すなわち、農工融合型(多分野融合型)の思考と実践によって、短所であった高繊維・高還元糖が長所に変わり、サトウキビ総合産業の外せない原料となった。無為に排出される余剰熱は化学的変換技術によってなくてはならない産業用熱になろうとしている。食料・エネルギー同時的増産技術は多回株出し多糖性サトウキビの開発によって環境改良型産業技術として実用化への道が拓かれようとしている。多分野融合型技術開発、これによって、日本型サトウキビ産業技術が、水準の高い、世界的規模の実用が望める技術になろうとしている。

 70〜90億人に至ろうとする人口下での食料とエネルギーの同時的増産技術、そこにつながる種子島での実践、そんな産業を肩の凝らない自在な議論によって創り上げられたらと思う。諸兄のご批判を乞いたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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