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てん菜直播栽培における安定生産の阻害要因とその改善に向けて

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最終更新日:2015年12月10日

てん菜直播栽培における安定生産の阻害要因とその改善に向けて
− 十勝A町の調査事例より −

2015年12月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部
十勝農業試験場 研究部 生産システムグループ
研究職員 加藤 弘樹

【要約】

 北海道のてん菜栽培面積のうち、直播栽培面積は拡大傾向にある。しかし、直播栽培は経営間の栽培技術差が大きく、安定生産に向けた検討が必要とされている。直播栽培の安定生産に向けて、ほ場作業技術の違いによる生産性格差の要因を実態調査から抽出し、その要因の改善対策を実践した際の経済効果を数量化T類により明らかにするとともに、連関図を用いて個別で対応すべき事項と外部支援が必要な事項とに仕分けした。

はじめに

 北海道のてん菜栽培面積は平成20年から26年までの間に6万5970ヘクタールから8736ヘクタール縮小し、5万7234ヘクタールとなっている。栽培方法別に見ると、移植栽培の面積が1万2803ヘクタール縮小している一方で、省力技術である直播栽培の面積は4067ヘクタール拡大している。直播栽培は移植栽培に比べて省力的な技術であるが、経営間における栽培技術差が大きく、生産者によっては収量の変動が大きいことから、安定した収入を得ることが難しい。そのため、一層の普及拡大を考えた場合に、安定生産の実現が課題となっている1)。特に近年では、経営規模拡大に伴う作業競合などに起因し、適切なほ場作業が実践されていない事例も見られ、経営間で生産性の格差が顕著であった。そのため直播栽培の生産性格差の要因を解明し、その改善対策と実践に伴う経済効果を踏まえて、直播栽培の安定生産に向けて解決すべき問題を明らかにすることが求められている。

 本稿では、北海道十勝地域のA町を対象とした実態調査により、経営面とほ場作業面に着目して生産性格差の程度と安定生産に係る要因を整理し、それらを踏まえて、安定生産を実現する適切なほ場作業を行った場合の経済性の検討を行い、個別経営で対応可能な事項と外部支援により解決すべき事項の仕分けを行った。

1. 生産性格差の要因の抽出

 生産性格差の要因を整理するために、十勝地域で特に直播栽培の導入が進んでいるA町を対象に聞き取り調査を行った。調査内容は経営面とてん菜播種前年の秋期から翌年春に播種を行うまでのほ場作業内容、作業時期である。調査対象はA町の中から、X地区(単収が高く安定している)、Y地区(X地区と経営規模が同等で単収が低い)、Z地区(作付けが小麦に偏っている)の3地区から8戸を選定した。調査対象とした8経営(1〜8)のてん菜単収水準を、平成21〜23年の3カ年平均の単収が10アール当たり5トンより多い経営を高位、少ない経営を低位とし、3カ年平均の変動係数が10%より低い経営を安定、高い経営を不安定と位置付けた。加えて、同じ地区で比較できるほ場が近隣にある経営を選定して、ほ場の砕土率と土壌含水比の調査を行った。

 調査の結果から抽出された経営面に関する生産性格差の要因を表1に示した。高位安定経営では、農地の利用は自作地のみ、または、20年以上にわたる長期の賃貸借による借地で作付けしていた。てん菜作付けは直播栽培と移植栽培の併用を行う経営があった。労働力の保有状況は基幹労働力が多く、特に、男子の従事者とオペレータを複数確保していた。機械の所有状況はトラクタの台数が多く、最大馬力数および合計馬力数が大きかった。てん菜部門に対する評価はてん菜を安定部門として評価していた。

 これに対して、低位不安定経営では、収入やコスト、手間などのてん菜作に対する問題点を多く指摘していた。

 抽出されたほ場作業面に関する生産性格差の要因を表2に示した。

 高位安定経営では、安定的な堆肥の調達先を確保し、自家労働により散布していた。播種前年のほ場作業は心土破砕などの排水対策を毎年実施していた。播種当年のほ場作業は、プラウを用いた反転耕を実施しない簡易耕を春期に実施する経営も見られた。また、融雪剤を散布する経営が見られ、早期の播種を実現していた。

 これに対し、低位不安定経営では、播種日が5月にずれ込むことがあった。

 また、単収水準別に投入窒素量、肥料費、農薬使用成分回数ならびに農薬費を比べると、単収水準別に有意差が認められなかった。このことから、調査対象経営では、単収水準に違いが見られるものの、肥料・農薬の投入とその費用には差がないことが確認された(データ省略)。
 

2. 安定生産に係る技術の検証

 聞き取り調査の結果、てん菜播種前年秋から播種までのほ場管理作業などに、経営間の格差が見られたことから、各作業の技術的な特徴の検証を行った。

 高位安定経営と低位不安定経営の堆肥散布、すき込み(反転耕)、心土破砕の作業時期を図1〜3に示す。図中の青矢印が高位安定経営、赤矢印が低位不安定経営を示す。

 高位安定経営は堆肥散布を、てん菜播種前年の9月上旬から10月下旬に実施しており、その後、堆肥をほ場へ混和、もしくは、すき込みしていた(図12)。心土破砕はてん菜播種前年に実施している(図3)。翌年の播種は4月下旬までに実施していた。また、直播栽培を行うほ場を排水性が高いほ場のみに限定する経営が見られた。

 それに対して、低位不安定経営は堆肥散布をてん菜播種前年の11月上旬から下旬に実施している事例が見られ、散布後の反転耕や心土破砕は、秋期の降水量が多くなることで作業できない場合には翌年春期に作業を延期していた。また、心土破砕により下層から粘土が上昇することを防ぐため、作業深をプラウの耕起深より浅くしている経営が見られた。春期に心土破砕や反転耕を行った場合、耕うん整地作業の工程が最大7工程になる経営が見られた。播種については4月下旬までに実施できず、5月にずれ込む経営が見られた。
 
 これらのほ場作業の違いが、土壌物理性に及ぼす影響を検討した。直播栽培は、播種時の土壌の砕土率(土塊径20ミリメートル以下の割合)が90%未満になると出芽率85%以上を確保できなくなり、安定した収量を得ることが難しくなる2)。異なる経営間の砕土率の違いを明らかにするために、X地区とY地区で粗砕土時と播種前に砕土率の調査を行った。

 単収水準の異なる経営間の粗砕土時と播種直前の砕土率の推移を図4に示す。

 高位安定経営(農家3、農家6)は、春期の粗砕土時(1回目)の砕土率がほぼ90%と低位不安定経営に比べて高かった。播種前では、調査対象経営すべてで播種時の目安である90%を超えていた。播種前までの耕うん作業工程を聞き取ると、X地区では、ともにスタブルカルチとロータリハロー2回がけを施工していたが、砕土率は高位安定経営の農家3の方が高かった。一方、Y地区では、播種前に各経営とも同程度の高い砕土率を確保していたが、低位不安定経営では粗砕土時(1回目)の砕土率が低く、高い砕土率を確保するために、高位安定経営より工程数を多く要していた。
 
 続いて、土壌含水比の調査結果を図5に示す。平成24年は播種直後、26年は播種前の4月18日にほ場表面から5〜15センチメートルの深さで調査を行った。

 深さ5〜15センチメートルの土壌含水比を見ると、24、26年ともに心土破砕をてん菜播種前年に実施している高位安定経営の方が、土壌含水比が低くなっており、高位安定経営は低位不安定経営よりも乾燥した条件で播種できていることがうかがえる。
 
 また、調査事例が1事例のみではあるが、秋期に心土破砕を施工した農家5のほ場と、春期に施工した農家4のほ場の土壌含水比の推移を表3に示す。

 十勝A町では4月24日から最高気温が20度を超え始めたことから、土壌凍結が抜け始めたと考えられ、秋期に心土破砕を施工したほ場では、この時点からの土壌含水比の減少率が大きいことが確認できた。
 
 さらに、秋期に心土破砕を行っている高位安定経営と行っていない低位不安定経営で表3のような傾向があるか、衛星画像を利用して確認を行った。図6は平成26年のX地区で、ほぼ隣接した高位安定経営と低位不安定経営のほ場の土壌水分を示した衛星画像である。土壌水分量は凡例に示した通り、図中の青色が濃い部分は水分が多く、赤色になるにつれて水分が少なくなっていく。4月8日時点では土壌凍結の影響もあり、両ほ場とも土壌水分が高かったが、4月26日では、前年に心土破砕を実施した高位安定経営のほ場が乾いている一方で、低位不安定経営のほ場は土壌の水分がまだ多い箇所があった。

 てん菜の収量を増やすためには、生育期間を延ばす必要がある。しかし、てん菜は収穫時期が決まっているため、直播栽培で生育期間を延ばすためには播種日を前倒しする早期播種が重要となる。早期播種を行うためには、春先早期に播種に適した条件を整えることが必要となるが、融雪の状況や春先の天候不順の影響で作業できる時期が限られるのが現状である。

 ほ場作業の調査の結果、高位安定経営は、心土破砕や反転耕などの作業を秋期に終わらせており、春先のほ場の乾きが早く、播種までの作業工程も低位不安定経営に比べて少ない傾向にあり、早期播種が実現可能な状況であった。
 

3. 適切なほ場作業の実践による経済効果

 以上で確認された事項について適切にほ場作業を行った場合の経済効果の確認を行った。

 経営面とほ場作業面で検証された要因が単収と粗収益に及ぼす影響について、数量化T類(注)を用いて評価を行った結果を図7に示す。検証された要因として、経営面では影響が大きかった移植栽培の併用や地区について、ほ場作業面では堆肥利用、心土破砕(播種前年)および播種日の早晩について評価を行った。

 調査対象経営の単収の平均値は、10アール当たり4748キログラムであった。ほ場作業別に単収差をもたらしている要因と単収の関係を整理すると、最も単収に差をもたらしていたのは、播種日の早晩であり、平年で4月中に播種を実施するか5月4日以降に実施するかによって同1151キログラムの差をもたらしていた。続いて、堆肥の満足度は同541キログラム、地区は同532キログラム、心土破砕(秋期)の有無は同495キログラム、移植栽培との併用は同225キログラムの単収差をもたらしていた。単収の平均値から粗収益の平均値を試算すると、調査対象経営の粗収益の平均値は同8万5749円となり、予測された単収を基に粗収益に換算すると、播種日の早晩については同2万787円の差をもたらすことが明らかとなった。

(注)「数量化T類」は、多変量解析手法の一種で、「はい」「いいえ」といった質的データが単収などの数値データにどのように影響しているかを解析することができる。
 

4. 安定生産に向けて求められる課題の仕分け −問題と要因−

(1)「連関図」の作成
 実態調査を踏まえて明らかとなった、てん菜直播栽培の安定生産に至らない問題に関して、A町における農業関係機関のてん菜生産振興に従事する職員との検討会を踏まえ、「播種日が遅い」「堆肥に関する満足度が低い」「播種前年に心土破砕ができない」「移植栽培と併用していない」といった直播栽培の安定生産に係る要因を選定して、図8のような連関図(注)を作成した。

 作成した連関図から、これらの問題とその要因が以下のように整理された。

 「播種日が遅い」という問題は、融雪剤散布を実施していないことや、直播栽培に適したほ場を選定して利用していないことが要因となっており、背景として経営面では適正な労働力の保有がなく、機械装備が不足しているといったことが指摘できた。「堆肥に関する満足度が低い」という問題は、十分な量と良質な堆肥が確保されていないことが要因となっており、安定的な供給体制の構築と入手先のあっせんについて外部支援が必要となると判断された。「播種前年に心土破砕ができない」という問題は、秋期に作業の余裕がないことに加えて秋期のほ場条件が悪いことが要因となっており、適正な輪作体系を構築することにより、作業競合の発生を防ぎ、適期作業を可能にするといった個別経営内での改善が必要となると判断された。また、「移植栽培と併用していない」という問題は、遠隔地にほ場を所有する、ほ場枚数が多い、ならびに基盤整備が不十分であるといった要因が整理され、安定的な農地賃貸借の仕組みを構築して解消につなげるべきとの観点から、行政的な支援も含めた外部支援が必要になると判断された。

 このように、今まで漠然と指摘されていた問題点を、個別経営で対応する問題と行政も含めた外部の支援が必要な問題に明確に区分することが可能となった。

(注)「連関図」は、言語データから情報を得ることができるQC手法の一つで、問題に対する複雑な要因の関係を明らかにし、問題構造を明確化することができる手法である。
 
(2)「連関図」の評価
 作成した連関図の評価を確認するため、A町における調査対象経営および農業関係機関(JA、農業改良普及センター)に対して報告と意見交換を行った。

 高位群の経営では、適切なほ場作業の重要性を再認識し、適切なほ場作業の継続に対する意向を示すとともに、低位群の経営に対する周知が求められるとの回答が得られた。一方、低位群の経営では、経済効果が示されることにより、適切なほ場作業の重要性の認識強化につながるとともに、その実施に向けて、経営全体の作付け構成やほ場作業面での問題の見直しを行いたいといった回答が得られた。

 また、農業関係機関では、今まで生産者へ提示してきた技術項目について、関連する事項を踏まえた指導が可能になり、特に、ほ場作業面での問題解決の重要性の認識を向上させることに貢献できるとの評価が得られた。さらに、個別経営では対応が難しい堆肥の確保について、地域内での耕種と畜産経営の連携を模索したり、堆肥センターの設置を検討するといった対策が行われることになった。

まとめ

 てん菜直播栽培は全道に導入されており、安定生産に向けた取り組みなどが整理されている。しかし、安定生産を阻害する要因とその背景は各地域によって異なるため、地域に合わせた問題点の整理が必要となる。本稿で紹介した経済効果や整理された課題は、他地域にそのまま適応できるわけではないが、地域の実態を踏まえて数量化T類や連関図といった手法を用いることで、各地域の課題を特定できる。本稿で行った一連の解析手法については、北海道農政部が発行している「平成27年普及奨励ならびに指導参考事項」3)にとりまとめられているため、そちらをご参照いただきたい。

【参考文献】
1)山田洋文「てんさい直播栽培における安定生産の取組と経済効果−ほ場管理技術に着目して−」『高品質てん菜づくり講習会テキスト』. 一般社団法人北海道てん菜協会. 2015年
2)「適切な砕土と鎮圧で出芽率向上」『てん菜直播栽培マニュアル2004』. 社団法人北海道てん菜協会. 2004年
3)「直播てんさいにおける安定生産の阻害要因と改善指導法」『平成27年普及奨励ならびに指導参考事項』、北海道農政部. 2015年
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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