II 取引指導繭価の設定等(平成15事業年度 年報 蚕糸編)
最終更新日:2008年12月2日
1 平成15生糸年度における取引指導繭価の設定等と蚕糸政策
(1)取引指導繭価等
平成6年度に、養蚕、製糸、絹業、流通の4者の合意により、取引指導繭価の仕組みが導入され、以来これまで関係者に定着してきている。養蚕農家は取引指導繭価の基礎の上で安定的に繭生産に取り組み、かつ、繭品質の向上に励むことにより、取引指導繭価を上回る水準での繭代を取得し、経営の維持・安定を図ってきている。
しかし、繭糸価格安定法の一部を改正する法律(平成9年法律第62号)の施行により、10年4月1日以降、従来の安定価格帯制度は廃止され、繭代の算定の上で、基準となる指標がなくなることとなった。そこで農林水産省では、取引指導繭価での農家手取りを確保し、蚕糸業の経営の安定を図ることが引き続き蚕糸行政の基本であるとの観点から、従来の経緯を踏まえつつ、取引指導繭価の仕組みの運用のルール等を明確化した蚕糸業経営安定対策要綱(平成10年1月20日付け10農産第349号農林水産事務次官依命通知)を制定して関係者に通知し、その趣旨を徹底させた。
この蚕糸業経営安定対策要綱に基づき、農林水産大臣により平成15年2月27日付けで平成15生糸年度における取引指導繭価等(取引指導繭価1,518円/生繭kg、基準繭価100円/生繭kg、実需者輸入割当枠の年間割当数量の見込み40,000俵、輸入糸調整金単価の水準330円/生糸kg、下位指標価格3,100円/生糸kg、上位指標価格4,900円/生糸kg)が設定された。
(別掲資料1:蚕糸業経営安定対策要綱の設定について、平成15生糸年度における取引指導繭価の設定等について)
第1表 取引指導繭価等の推移(単位:円)
| 生糸年度 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
| 価格 |
上位指標価格 |
6,000 |
4,900 |
4,900 |
4,900 |
4,900 |
4,900 |
| 下位指標価格 |
4,700 |
3,600 |
3,600 |
3,600 |
3,100 |
3,100 |
| 基準繭価 |
380 |
190 |
190 |
190 |
100 |
100 |
| 取引指導繭価 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
注)
- 生糸の価格は標準生糸(27中3A格)についてのものである。
- 基準繭価は、4生糸年度まで繭格2等で生糸量歩合18.5%、5生糸年度より繭格がA格であって生糸量歩合18.5%の繭についてのものである。
安定帯価格等の推移(参考)(単位:円)
| 生糸年度 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
| |
|
当初 |
期中 |
当初 |
期中 |
当初 |
期中 |
当初 |
期中 |
|
| |
|
|
改定 |
|
改定 |
|
改定 |
|
改定 |
|
| 価格 |
安定上位価格 |
14,800 |
14,800 |
13,800 |
12,400 |
12,400 |
10,600 |
10,600 |
9,200 |
9,200 |
8,700 |
8,700 |
| 安定基準価格 |
10,400 |
10,400 |
10,400 |
8,400 |
8,400 |
7,200 |
7,200 |
6,000 |
6,000 |
5,500 |
5,500 |
| 基準繭価 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,226 |
1,226 |
1,051 |
1,051 |
592 |
592 |
500 |
500 |
| 取引指導繭価 |
− |
− |
− |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
1,518 |
| 事業団買入価格 |
10,300 |
10,300 |
10,300 |
8,300 |
8,300 |
7,100 |
7,100 |
5,900 |
5,900 |
5,400 |
5,400 |
注)
- 生糸の価格は標準生糸(27中3A格)についてのものである。
- 基準繭価は、4生糸年度まで繭格2等で生糸量歩合18.5%、5生糸年度より繭格がA格であって生糸量歩合18.5%の繭についてのものである。
(2)蚕糸政策
ア.繭生産対策
近年、繭生産は養蚕農家の高齢化等の要因もあり、減少傾向に歯止めが掛からない状況が続いている。しかし、養蚕業は、重要な地域特産品として、また、伝統的産業として技術の継承・育成を含めその振興を図ることが重要である。
この現況を踏まえて次の諸対策を積極的に講じることとした。
- 高品質繭の誘導
高品質繭について一定の加算措置を講じ、高品質な繭への生産誘導を図り、養蚕農家の手取りと生産意欲の向上を図る。
- 養蚕文化継承地域の育成
養蚕文化継承地域(養蚕業の維持・継承を図るため、明確な目標をもって養蚕産地の育成に取り組む地域として、農林水産省生産局長が別に定めるところにより都府県知事が指定する地域をいう。)において、3令まで共同飼育した稚蚕を当該地域の養蚕農家に配蚕することにより養蚕作業の省力化・効率化を推進する。
イ.需要増進対策
近年の厳しい環境下に置かれた蚕糸・絹業の健全な発展を図るため、次の事業を実施することとした。
(ア) 機構助成事業の実施
i シルクに関する広報宣伝資料の作成配布、中央・地方における各種催事等を通じたシルク製品等についての啓蒙普及。
ii ハイブリッドシルク等の新しいシルク素材を利用した製品の研究開発、展示普及
iii 地方の特色を生かした地域ブランドシルク製品の展示普及宣伝及び流通・販路の開拓
iv 生糸・絹の需要増進及び絹業の経営安定に資するための、生糸加工品の開発、需要開拓及び販路拡大活動
v 川上から川下まで一体となった国産シルクの消費促進活動のための「日本の絹」マークの配布及びキャンペーン活動
(イ) 日本絹業協会のジャパンシルクセンター(千代田区有楽町)における絹製品の展示・販売及び絹の宣伝
ウ.輸入対策
15生糸年度の実需者生糸輸入については、生糸の需給バランスを図りつつ、絹業の経営の安定に配慮して年間割当数量の見込みを40,000俵とし、これを基礎として、四半期ごとに需給・価格動向に応じて弾力的に調整(生糸価格が下位指標価格を下回る場合は一定率(20%)を削減し、上位指標価格を上回る場合は一定率(20%)を増加する。)することとした。
エ.繭の輸入
繰糸に適する繭(乾繭)の輸入については、7年4月以降のWTO協定の発効に伴い、従来の事前確認制から関税割当制に移行している。仕組みとしては、需給上必要な量(=関税割当数量)は、無税(8年4月1日より適用)として製糸の操業確保を図る一方、これ以上の量は二次税率(高税率)を適用し、国内生産者を保護することとなった。平成15年度(この場合は4月〜3月の事業年度)の輸入乾繭関税割当数量は、1,995トン(国産繭の引取りに対応して配分)に設定・公表し、通関されることになった。
オ.15生糸年度の繭価算定方式
14生糸年度に引き続き「取引指導繭価1,518円/生繭kg」が設けられた。この取引指導繭価の確保を図るため、輸入糸調整金及び蚕糸業経営安定対策交付金を活用した蚕糸業経営安定対策事業の実施を通じて、養蚕農家及び製糸業者の経営の安定を図ることとした。
2 平成16生糸年度における取引指導繭価の設定等について
10年1月20日付けで制定された「蚕糸業経営安定対策要綱」の規定に基づき、農林水産大臣により16年3月31日付けで平成16生糸年度における取引指導繭価等(取引指導繭価1,518円/生繭kg、基準繭価100円/生繭kg、実需者輸入割当枠の年間割当数量の見込み40,000俵、輸入糸調整金単価の水準330円/生糸kg、下位指標価格3,100円/生糸kg、上位指標価格4,900円/生糸kg)が設定された。
資料1
蚕糸業経営安定対策要綱の制定について
10農産第349号
平成10年1月20日
農林水産事務次官通達
改正 平成12年5月31日12農産第3740号
平成13年5月25日13生産第903号
平成15年10月1日15生産第4177号
蚕糸業の経営安定対策については、取引指導繭価の仕組みが、養蚕、製、絹業、流通の関係者の合意により、平成6年度に導入されて以来今日まで、関係者の間において長く定着してきている。養蚕農家は取引指導繭価の基礎の上で生産に取り組み、更には、品質の向上努力により、これを上回る水準での繭代を取得し、経営の維持・安定を図ってきているところである。
繭糸価格安定法の一部を改正する法律(平成9年法律第62号。以下「改正法」という。)の施行により、平成10年4月1日以降、安定価格帯制度は廃止されることとなるが、取引指導繭価での農家手取りを確保し、蚕糸業の経営の安定を図ることは引き続き蚕糸行政の基本であり、改正法の施行後においても、生糸の輸入に係る調整等に関する法律(昭和26年法律第310号)及び農畜産業振興事業団法(平成8年法律第53号)の運用などを通じて、取引指導繭価の実現を図る必要がある。
このため、従来の経緯を踏まえつつ、取引指導繭価の仕組みの運用のルール等を明確化することとし、別紙のとおり、蚕糸業経営安定対策要綱が定められたので、御了知の上、今後の蚕糸業経営安定対策の推進に当たり遺憾のないようにされたい。
以上、命により通達する。
別紙
蚕糸業経営安定対策要綱
第一 趣旨
この要綱は、取引指導繭価の実現に関し必要な事項を定めることにより、蚕糸業の経営の安定に資することを目的とする。
第二 定義
- 一
- この要綱において「実需者輸入割当枠」とは、生糸の輸入に係る調整等に関する法律(昭和26年法律第310号)第11条第1項の認定についての農林水産大臣への認定申請限度数量をいう。
- 二
- この要綱において「輸入糸調整金単価」とは、生糸の輸入に係る調整等に関する法律第10条第2項の農林水産大臣が定める額をいう。
第三 取引指導繭価の設定等
- 一
- 農林水産大臣は、毎生糸年度(毎年6月1日から翌年の5月31日までの期間をいう。)、当該年度の開始前の3月31日までに、実需者輸入割当枠の年間割当数量の見込み及び輸入糸調整金単価の水準を定めるとともに、これと併せて、次の価格(以下「取引指導繭価等」という。)を定めるものとする。
ア 取引指導繭価
イ 下位指標価格及び上位指標価格
ウ 基準繭価
- 二
- 取引指導繭価は、養蚕農家の手取り繭価について、繭の生産条件及び需給事情その他の経済事情を考慮して、定めるものとする。
- 三
- 下位指標価格及び上位指標価格は、実需者輸入割当枠を調整するための指標として、生糸価格について、定めるものとする。
- 四
- 基準繭価は、製糸業者の支払い繭価について、下位指標価格並びに製糸業者の製造及び販売に要する経費を勘案して、定めるものとする。
- 五
- 農林水産大臣は、取引指導繭価等を定めたときは、遅滞なく、これを関係者に通知するものとする。
第四 生糸の輸入調整措置
生糸の実需者輸入割当枠については、年間割当数量の見込みをもとに四半期ごとに枠を設定するものとし、四半期ごとの枠の設定に当たっては、その時点における需給・価格の動向に応じ、その安定を図ることを旨として調整を行うものとする。
この場合には、下位指標価格及び上位指標価格をその増減調整の指標とするものとする。
なお、予期せざる需給変動等の事態が生じた場合において特に必要があるときは、増減の調整量等について所要の調整を行うことができるものとする。
第五 蚕糸業経営安定対策事業の実施
国は、第四の生糸の輸入調整措置を講ずることにより、基準繭価以上での繭代支払いを図るとともに、独立行政法人農畜産業振興機構と連携して、取引指導繭価の実現を図るものとする。
附則
この通知による本要綱の改正は、平成15年10月1日から施行する。
資料2
14生産第9498号
平成15年2月27日
農畜産業振興事業団理事長 山本 徹 殿
農林水産事務次官
平成15生糸年度における取引指導繭価等の設定について
蚕糸業経営安定対策要綱(平成10年1月20日付け10農産第349号農林水産事務次官依命通知)第3に基づき、別紙のとおり平成15生糸年度における取引指導繭価等が設定されたので、通知する。
以上、命により通知する。
別紙
平成15生糸年度における取引指導繭価の設定等について
1. 取引指導繭価
1,518円/生繭kg
2. 基準繭価
100円/生繭kg
3. 下位指標価格及び上位指標価格
下位指標価格:3,100円/生糸kg
上位指標価格:4,900円/生糸kg
4 実需者輸入割当枠の年間割当数量の見込み
40,000俵
5. 輸入糸調整金単価の水準
330円/生糸kg