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EUにおける家きん肉製品の輸入管理制度について

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手ごろな価格のタイ産焼鳥

 当地ブリュッセルでは日本食材は手に入るものの、日本国内での販売価格と比較すると当然のことながら割高である。輸送費や在庫のリスクなどを考慮すればやむを得ないといえよう。その一方で、タイで加工された焼鳥は手ごろな値段で販売されている。そこで本稿では、なぜタイ産鶏肉加工品がEU市場で価格競争力を有しているのかについて、EUにおける家きん肉製品の輸入管理制度に絡めて報告することとする。

EUにおける家きん肉製品の輸入管理制度

 EU域外からの家きん肉製品の輸入管理については、公衆衛生、食品安全性および家畜衛生において域内と同一の基準を確保することを目的として制度化されている。従って、EUへ家きん肉の輸出を希望する第三国の家畜衛生当局は、自国内の食品チェーン全体について検査および管理を行う能力があることをEU側に示す必要がある。
 家きんの生体および家きん肉製品に関するEUの法令は次の通りとなっている。

(1)理事会指令90/539EEC: 家きんおよび種卵に係る域内貿易および域外からの輸入における家畜衛生条件を規定(地域主義の概念を含む。)
(2)理事会指令2022/99/EC: 生鮮肉の生産、加工、流通に係る家畜衛生上の条件を規定
(3)委員会規則798/2008: 家きんおよび家きん肉製品を域内へ輸出可能な第三国または地域のリストおよび家畜衛生証明書の様式を規定(いわゆる第三国リスト)
(4)理事会規則(EC)580/2007: 加塩家きん肉、七面鳥調製品および鶏肉調製品に係るブラジル、タイ両国とEU間の関税割当および税率を規定

 これらの中で特に注目されるのは、(4)のブラジルおよびタイに特別に設けられている低関税枠であるが、実はこの規則は、EUがWTO(世界貿易機関)パネルにおいて両国に敗訴したことによる代償措置として設けられたものである。そこで次項ではこのWTOパネルの経緯について紹介する。

ブラジルおよびタイ産の加塩家きん肉に対するEUの禁輸措置に関するWTOパネル

 ブラジルおよびタイからEUへ輸入される加塩家きん肉は、1996年にはわずか3,000トンにすぎなかったが、2001年には約400,000トンと急増したため、EUの家きん産業にとって脅威となった。このためEUは、委員会規則(EC)1223/2002、委員会決定2003/97/ECを2002年、03年にそれぞれ定め、両国から輸入される加塩家きん肉については、従価税率15.4%の関税分類「0210:加塩家きん肉」ではなく、より税負担の重い重量税1トン当たり1,024ユーロ(約128,000円:1ユーロ=125円)が適用される関税分類「0207:生鮮、冷蔵および冷凍家きん肉」を適用することとした。EU側の主張は、両国から輸入される加塩家きん肉が加塩処理が施された後も冷凍保存が必要であることから「0207」が適用されるというものであったが、ブラジルおよびタイはこの措置を不服としてWTOに提訴を行った。結果はEU側の敗訴に終わり、EUは下表のとおり両国に特別な関税割当を配分する旨の規則を定めることとなった。
表
 当地関係者によれば、2010年に入りブラジルおよびタイ関係者は、両国に対する関税割当のさらなる拡大について欧州委員会に働きかけているもようである。下図にあるとおり鶏肉生産に要するコストについては、ブラジル、タイなどとEU加盟国との間では歴然とした差が存在している。さらに、EUではブロイラーに対するアニマルウェルフェアやサルモネラに関する規制が強化される方向にあり、当面はこの差は縮小する方向には働かないとみられる。EUでは、域外産家きん肉との差別化を図るため、アニマルウェルフェアに関する表示のあり方についても検討されているところであるが、EUが域内産家きん肉産業保護のため、どのような施策を講じていくのか今後とも注目したい。
グラフ
【前間聡 平成22年4月19日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:井上)
Tel:03-3583-9535